医薬分業元年とは およびそこまでの道程

 昭和49年2月に処方箋料が6点から10点に引き上げられ、同年の10月の改定においては、医薬分業の推進を図るべく処方箋料が50点まで大幅に引き上げられ、それまで年間数百万枚に過ぎなかった処方箋発行枚数は、同改定を機に漸次増加するようになりました。昭和49年を「医薬分業元年と称する所以はここにあります。以上は日本薬剤師会雑誌からの引用です。

 日薬誌には簡単にしか書いてありませんが、ここに至るまでには長い道程がありました。また、この後も医薬分業の進展は容易ではありませでした。参考までに書いておきますが、私(藤原)は昭和38年から46年まで製薬メーカーのプロパー(当時の呼称)をしていました。当時のプロパーの仕事は、いかに多くの医薬品をを売り込むかが主体でした。開業医に医薬品を購入してもらえれば100%添付する。病院の医師には使用量に応じてリベートを渡す。

 さらについでながら言えば、ヒートシールの耳(薬品名記載の部分)を切って患者に渡していましたので、患者は何の薬を飲まされているのか分からなかったのです。その裏には、同一成分の薬は薬価の安いものを買い、保険請求は薬価の高いものでするということまで横行していました。これが当時の実態です。つまり薬を使えば使うほど医師は儲かっていたのです。これでは医薬分業が進展するはずがありません。

 昭和53年の一週間分業の項を参照して頂きたいと思いますが、この時代でも医師会および多くの医師が医薬分業には反対だったのです。

昭和41年の状況 九州薬事新報より

 医家向け過当競争は完全医薬分業を阻害 福岡県薬はメーカー・卸に対し要望

 全国薬剤師八十年来の悲願である完全医薬分業制実施移行への状態は、今や国民階層の理解と認識とにより遅々であるが一歩一歩その気運が醸成されており、剤界としても充分なる研究、対策と、全般の受入態勢の整備、強化を急ぎつつあるが、自由主義経済、資本主義経済体制下とはいえ近時医薬品メーカー間の過当競争は目に余るものがあり、殊に医家向け薬価基準収載医療用医薬品について、割増し、添付等が30%〜50%、甚だしきは100%増等がなされている確証が挙げられ、又報道されつつある模様で、斯る状態は、こと国民の健康、生命に連なる医薬品、特に医師投薬の原材である薬価基準収載医薬品の納入が、現状の儘推移実施されるならば、国民各階層及び関係当局よりの指弾、批判、攻撃の激化は必至と思われ、製薬企業の危機を招来することなきやを、国民の医療に関与し、又薬事同臭の剤界としては憂慮に堪えない処であると共にこれが、剤界最大目標である完全医薬分業制推移前進に対して意外な障碍をもたらす素因となる惧れがあり、現に分業阻止の潜在力の一つと考え得ないこともないのである。

 大体医師向け医薬品納入の過当競争より来る、排除すべき点又弊害と理由は次の様なものであろう。
 @薬価基準収載医療用医薬品の極端なる割増し、添付等は薬価基準の有する性格、目的等に違背するものである。
 A国民皆保険制度下、前記の観点より、被保険者、患者たる国民を愚弄するものである。
 B国民の医療に専念すべき医師、歯科医師をして、その重要な使命遂行を阻止し、邪道に馳せしめ、医師、歯科医師の不幸はもとより国民全体の不幸である。
 C国の至高の方針たる医薬分業制推進の大きなブレーキとなり、剤界の最重要事業の推進、遂行を妨害するものである。
 D調剤及び医薬品の供給(販売、授与等)の専門職たる薬局(薬剤師)を無視したる行為であり、法制上も実際上も亦社会通念上も常軌を逸し、且つ薬業界現下の最重要課題たる薬業の安定に逆行する。

 以上の様な理由に依つて福岡県薬剤師会では思いを此処に致し各医薬品メーカー並に医薬品卸業者に対し旧臘八日付左記過当競争排除についての要望書を発送した。会員は勿論全国全薬剤師はこの件については能く能く深慮すべきことである。

 医師向け薬価基準収載医療用医薬品の納入過当競争排除について(要望)

 年末を控え、貴社愈々ご盛展のことと存じます。平素本会の運営につきましては格別のご配慮を戴き厚くお礼申上げます。ご承知の様に、政府の社会保障施策の拡充、国民の保健医療に対する認識の向上と保険者の保険財政健全化等により、医薬分業制は再認識される様になりました。

 国民総医療費の40%は、医薬品によるものといわれています。此時に当り、薬剤師(薬局)の在方は申すに及ばず、医薬品についての国民の関心は日一日と高まっています。全国薬剤師80年来の悲願である完全分業に突進する絶好期は、今を於てないのであります。

 本会は、医薬分業推進を最高点事業として全員一致対処致しており、其成果は逐次発揚されつつありますが、医家向け医薬品の納入過当競争のため医師に、投薬による不当利潤を与えるため投薬に熱中し、医療技術研修の意慾と時間を喪失させている。

 為政者には、この過当競争の現況により、医薬品実勢調査を行ない、薬価基準の引き下げを行なわせている。又国民には、医薬品製造、販売に当る者は勿論、医薬品に対する著じるしい不信感を抱かせている。

 薬局には、仕入価格が、薬価基準価格より遙かに高いものができたため、経済的問題より分業推進に大きな阻害となり、調剤意欲を減退させている。

 これ等のことは、国民医療、医薬分業制の将来、薬剤師・薬局の存在意義、薬局の経済等を誤まらしめるものでありますから、薬業界の将来のため是非、医家向け医薬品の不当な納入競争を停止されると共に、薬局に対しても、薬価基準の価格以下で仕入れ得る様格別のお計らいをお願い致します。