通 史 昭和51年(1976) 日薬−県薬−市薬
九州薬事新報 昭和51年(1976) 8月5日号

 福岡県 第34回臨時代議員会 50年度歳入・歳出決算認定

 福岡県薬剤師会(白木太四郎会長)は六月二八日(月)午後一時より第三四回臨時代議員会並びに総会を福岡県薬会館会議室で開催した。今回の代議員会は昭和五〇年度歳入歳出決算認定のためのものであるがそのおもな内容は次のようである。

 神谷専務理事の司会により、安部副会長は開会の辞を述べ、そのなかで「本日は五〇年度歳入出決算認定のための代議員会であるが分業問題等についても検討していただき実のある会であるように願いたい」と挨拶した。

 ▽会長演述=白木会長
業界の現況について詳細な報告が行われ、その中で分業問題に関しては@六月八日〜一一日実施の調剤研修会は成功裡に実施されたことA七月二四日に行われる日薬の地方連絡協議会席上において武見日医会長の医薬分業に関する講演が行われる予定B福岡県内科医会では、六月一九日に知花県医師会理事(前原町で分業実施)の分業に関する講演が行われ、質疑応答のために県薬から藤田胖、荒巻善之助両氏が出席、県医師会内において分業賛同指向が高まりつつある現況であること−等が述べられた。

 ▽来賓祝辞=大塚県薬務課課長補佐
県薬務課事務取扱要領の発行について多大の協力を願い感謝に堪えない。過日実施の調剤研修会は多数の受講者があり盛会であったことは分業意欲の積極的な現われと喜しく受け止めている。

 ▽議決事項
議案…昭和五〇年度福岡県薬剤師会歳入歳出決算認定の件=冨永常務理事
歳入、歳出いずれも三千八百四十五万六千円。承認可決。

 ▽その他
1、提案事項=井上代議員
風致地区に、病院・診療所の設置は許可されるが、薬局(調剤薬局)は医療機関でないとの解釈で開設出来ない。(本件については神谷専務より次のように説明が行われた。@従来も日薬で中央交渉により実現を進めているが未だ実現をみてないA六月末、石館日薬会長が藤楓会全国大会で福岡へ来たので、報告し善処方を協力に依頼した)

 2、報告事項=藤田常務理事
六月一九日開かれた県内科医会(権藤会長)において、「処方箋発行について」と題し、桑原先生が座長となり知花先生の講演あり(権藤、桑原、知花三先生ともに処方箋発行医)。(内容は本紙前号既報)

 福岡県医師会内科医会 処方箋発行に関するアンケート調査

 福岡県医師会内科医会(権藤祐一会長)が会員を対象にこのほど実施した「処方箋発行に関するアンケート調査」は、発送数一、四三八通に対し、回答数九八九通で六八・八%の回答率であったが、一八一軒(一八・三%)の内科医が処方箋を一〇〇%(原則的)または一部発行しているほか現在処方箋を発行していない内科医の一六%が処方箋発行を考慮中であるという結果が出ている。

 処方箋を発行している内科医院一八一軒のうち原則として一〇〇%発行医が一七軒(一・七%)、一部発行医が一六四軒(一六・六%)であり、また一〇〇%発行医院は病院一、診療所(入院有)三、診療所(入院無)一三で、地域別では福岡八、久留米二、大牟田二、粕屋、糸島、田川、大川、柳川が各一である。

 また、対象薬局については、主として特定の単一薬局に処方箋が流れているいわゆるマンツーマンタイプが八五軒、概ね特定の複数薬局に流れているいわゆるマンツーグループタイプが三二軒、対象薬局がきまっていない不特定多数の薬局に流れているのが六一軒。

 処方箋一〇〇%発行医院一七軒のうち、主として特定の単一薬局に流れているのが一四軒、概ね特定の複数薬局に流れている二軒、不特定に流れている一軒。現在処方箋発行せず八〇五のうち発行を考慮検討中は一三〇(一六・一%)でこれのうち市部が七一、郡部は五九である。

 処方箋を発行していない立場の意見としては
・受入れ薬局がない、または整備された薬局がない=市部九、郡部八、計一七
・薬局への不信、批判=市部七、郡部九、計一六
・患者が不便である=市部八、郡部五、計一三
・時期尚早、いろいろ問題がある=市部七、郡部三、計一〇
・希望する患者がない=市部二、郡部六、計八
・分業すべきではない=市部一、郡部一、計二
・肯定的な立場としては将来実施すべきだと思う=市部九、郡部一、計一〇
・将来は分業になると思う=市部五、郡部二、計七
(表中市部とは北九州市、福岡市、久留米市、大牟田市の各内科医会で郡部とはそれ以外の群市内科医会)

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 ▼投書欄「声」
医師の良心で「医薬分業」を=熊本市、会社員…健康保険の膨大な赤字の内部の醜悪さを知ったら、それが身近な問題であるだけに国民の受けるショックは到底ロッキード事件の比ではないと思う。そうしてその醜悪さを改善する道は医薬分業をおいて他にないのであるが、この医薬分業が医者の厚い壁によってがんとして閉ざされている。今の保険医療における医者と薬メーカーとのつながりは、想像を絶するものがあり正し医療とその発展の大きな癌となっている。医薬分業が実施されれば、医者の治療に対する真剣さは全く異質なものにまで向上するだろうしその恩恵を一番受けるのはわれわれ国民である医療費も半減されるのでないかといわれている。分業を論ずるに当たり「医者で診察、薬局で薬など面倒」といった論じ方をする人もあるが、分業はもちろんそんな低次元で論ぜられるべき問題ではない。またこれは社会的慣れの問題であり過渡期にはそれなりの理解が必要であろう。しかしまたこの医薬分業の実現にいかに良策があるとしても最後は医者の良心にまつ以外に方法はないのである。
(朝日新聞7月13日)

 ▼投書欄「声」
「医薬分業」に反論=福岡市、内科医…「健康保険の膨大な赤字の内部の醜悪さ」を改善する道は、医薬分業をおいてほかにない。そしてその分業が医師の厚い壁によって閉ざされている−というのが十三日付、小野氏の所論であるが、短絡に過ぎて本筋を見落とされていると思う。この意見は現行健保制度のわく内からの発想と思われるが、私たちは「醜悪さ」の根源は現行制度そのものにある、と考える。
日本の保健制度はその創設の時期に多分に富国強兵主義や、お救い精神があったことは否めないが、その後の社会の変革に対応した抜本的改革は全く行われていない。医療費増大を防ぐために患者負担を手直ししたり、いわゆる乱投薬を減少させる手段として分業を考えるなどは、ほんの表面を取り繕うに過ぎない。福祉社会における健保制度のあり方に目を向けていただきたいのである。

 福岡県内科医会(会員千五百人)の本年四月の調査では、完全分業実施二%弱、部分的分業一七%、分業を前向きに検討中一六%という結果が出ている。処方せんを発行していない人の大多数は保険調剤薬局の未整備に対する不安を第一に取り上げ、次いで処方せん発行による患者負担増と薬を受け取る側の二度手間を心配しているのであって、「良心に目をつぶって」分業の道を閉ざしているのではないことを銘記していただきたい。なお、私自身は昭和四十七年から分業を実施し、その長所と短所さらには医薬分業の周辺にある諸問題を十分に心得ていることを申し添える。
(朝日新聞7月18日)

 ▼投書欄「声」
法律を改正し医薬分業図れ=熊本県、薬剤師…医薬分業について十三日付の小野さん、十八日付の権藤先生とお二人の意見を読み一薬剤師として考えを述べます。健康保険の赤字は分業で解消されるほどそんなに単純なものでもないでしょうが医療の質的向上のための一つの手段であることは否定できないことだと思います。文明国と呼ばれる国々の中で分業を実施していない国は日本ぐらいのものです。このことから推しても分業が優れている証拠だと思います。

 分業になれば医師以外に患者、薬剤師の二者で処方箋内容が確認され、自分でも薬の内容を知ることができます。この点が医薬分業の最大のメリットだと思います。患者の負担増と、二度手間で不便だというのはあまりにも甘え過ぎではないでしょうか。自分の生命に関することです。そのくらいのことはやむを得ないことだと思います。それから、医師の処方せんを発行しないのは保険薬局の未整備に対する不安が第一とのことですが、薬局としても処方箋発行の保証がない限り、多額の資金を投入することができるでしょうか。その保証さえあれば保険薬局の整備はできるものと思います。現行法では処方せん発行は全く医師の手に委ねられています。

 そこで私はこれまでのような任意分業ではなく、段階的強制分業を提唱します。まず@国立病院A六大都市B各県県庁所在地C最後の段階として一定の距離内に保険薬局があれば処方せん発行を義務づける。これと並行して薬剤師会は積極的に保険薬局の質の向上をはかる。このように法律を改正し医師の処方せん発行を法律で義務づけない限り、完全な医薬分業の実施はできないと思います。 (朝日新聞7月26日)

 薬界短信 福岡市薬勤務部会 新役員決定

 福岡市薬剤師会勤務部会(堀岡正義会長)は、第二六回総会を六月二六日(土)午後二時より武田薬品福岡支店会議室において開催し会長に堀岡正義氏(九大病院薬剤部長)と監事二名を選出した。その後、堀岡会長により新役員が選考され、総会後九大病院薬剤部会議室で七月八日(土)開かれた本年度第一回役員会において、新役員の業務分担などを決めた。なお、同部会の学術委員長には九大歯学部病院薬剤部長の河野義明氏が指命され、学術委員もそれぞれ左記のように決定された。

 ▽新役員
・会長=堀岡正義
・副会長=白勢栄治、山村定雄。
・理事=大庭久光、金枝正巳、金山一彦、河野義明(学術)、木村浩三(庶務)、熊本光恵、立山数義、谷積、豊福利治、野仲範子(学術)、羽崎和敏、松尾良一(会計)、山鹿平十郎、山下泰弘、吉本喜四郎。
・監事=田代茂、三谷清二

 ▽学術委員
・委員長=河野義明
・委員=仲尾次広子、飯野常高、大隈章平、森川俊一、野仲範子、比田勝悌子、白石健二郎、千阪善弘、吉川学

九州薬事新報 昭和51年(1976) 8月15日号

 福岡県薬理事会 分業推進で意見交換 会館取得は慎重論へ

 福岡県薬剤師会(白木太四郎会長)は第二四九回理事会を七月一五日(木)午後一時半より、福岡県薬会館で開催した。当日は、神谷専務理事の司会で開会し@会長会議報告A会館問題B分業問題−などについて報告、検討が行われたが、その主な内容は次のようである。

 ▽会長会議=白木会長
六月二九日開かれた日本薬剤師連盟臨時総会では、@次期参議院議員についてA役員人事(副会長以下の)が検討された。当日は自民党より鈴木善行氏、斉藤邦吉氏等も出席し、来る参院選には、薬事法改正のこともあるので是非とも専門的な薬剤師の出馬を要請された。森下泰氏が大阪地方区で出ることとなったので、全国区には是非薬剤師を立ててもらいたいと強く要望されている。初め石館氏を決定したが高齢等の理由で辞退されたので望月正作氏が最適任者として日本薬剤師会が後援することで推薦されることになった。日薬を中核にして三〇万票を見込み足りない分は他の団体に働きかけ全票六〇余万票の獲得をしなければならない。斉藤邦吉前厚生大臣よりは特に全国薬剤師の発奮が強く要請された−と報告。これに対し種々意見交換が行われたが、七月二四日に開かれる日薬の地方連絡協議会において、具体的な問題について確認のうえ、県下特に各支部によく徹底する方途を講ずることとなった。

 ▽分業問題
1、分業状況報告=神谷専務
@県内の六月度保険調剤は一億七千六百八十九万円となり、分業普及率は三・八%弱で比較的良好な推移であるが、取扱い薬局数は五月度五〇一に対し、六月度四六五と減少傾向を示し、この点に問題がある。
A福岡市天神町に医師サイドによる保険薬局が開設された。薬務課、保険課、県薬との三者の連帯が増々必要である。医師会に対しては、医師会サイドでも注意を要望している。
B大牟田支部内で、保険薬剤師の指定を受けてないものが処方箋調剤をした事例が発生。
C今回実施した調剤研修会には三五〇余名が受講し、成果をあげた(日薬の指示人員を消化できなかった県が全国に可也りあると聞いている)。長時間の病院実地研修はむずかしいので、調剤薬局での研修も推進する必要がある。
D分業についての推進積極化については、中村副会長を中心にして班組織の強化を実施する(具体的推進を九月に、分業推進特別委にも十分意見を聞いたうえで実施)。

 2、白木会長より、分業推進についての積極化が更に要請された。

 3、藤田常務理事より、六月二二日に開かれた社保委員会について、@委員長=三根孫一氏、副委員長=倉田憲治氏。A委員会業務を「保険薬局が処方箋を受け付けた以後の調剤及び請求業務の実施並びに研究を主体とする−対内的、対外的−」と決定。特に対内的には請求明細書の誤りについて請求事務の正確を期することなど。B調剤請求業務指導員については、各地区で処方箋を受け入れの多い者を指名することとし、この線にそって再選考を行うことを確認した。この方々を通じて会員の調剤請求業務の強力な指導を行う。具体的には九月目標に研修を実施(神谷専務理事と諒承点に達した)する−などが報告された。

 次いで県内科医会総会当日に行われた「医薬分業」に関する講演(講師=知花医師)の報告(夏期特集号で既報につき省略)と、医師側の提言で内科医有志と薬剤師の有志で研究会(仮称)を設け、談笑の内に医薬協業の研究をしたいとの意向があることが伝えられた。

 4、女子薬剤師の掘りおこしとパート推進の問題、複数薬剤師の問題について、種々熱心な意見交換が行われた。これらに関しては安部副会長より、分業推進特別委の検討問題であるのでこれらの意見を参考にし、保険薬局の問題も含めて近く具体的な研究・検討を実施するとの発言がなされた。

 ▽薬と健康週間
@日薬作成のポスター(一枚六〇円)の「ママ!!このクスリはだいじょうぶ」の文句はいけない。考え過ぎで逆効果も考えられるとして、県薬としては辞退し使用しないことと決定。同週間の実施具体策は執行部で検討することを確認した。

 ▽九州山口薬学大会
大会出席についての推進と、各部会への演題・講演者等を検討。なお表彰の件は、正・副会長にて決定することとなった。

 ▽県病薬よりの要望
北九州薬科大学設立について、県病薬としては現施設の卒業生の就職状況等より増設することは反対との理事会決定が報告された。これに関し、今後県病薬と県薬との間で詳細な話し合い検討をすることを確認した。

 福岡市薬 理事会・部会連絡協議会 不在薬剤師問題を検討

 部会再編成骨子を決定

 福岡市薬剤師会(斉田和夫会長)は七月一六日(金)午後一時半から第五二回理事会を、午後三時より第三一回部会連絡協議会を福岡県薬会館会議室で開催した。

 部会連絡協議会は、荒巻専務理事の司会で開会し、斉田会長挨拶ののち、来賓として出席の白木県薬会長の挨拶があり、次いで議事に入り@不在薬剤師の件A市薬会館建設推移に関する件B部会再編成、などについて報告・検討が行われたが、そのおもな内容は次のようである。

 ▽不在薬剤師の件
藤野副会長より、保険薬剤師の資格のない者が調剤を行った事例が発生、なお保険薬剤師本人が出張・会議等により不在の場合の対策として女子薬と提携してパート女子薬剤師の斡旋を早急実現したい−との報告と説明が行われた。今後の会議等は賛成者大多数で夜間を利用することを申し合せた。

 ▽市薬会館建設推移に関する件
斉田会長より、前回市薬会館建設に着手の段階になった旨を申し述べたが、事情急変により計画変更の止むなき次第を説明あり、その結果、左記の計画案が提示された。
@九階建の場合…払下げの条件に違反、又対税上の問題もあり。
A六階建の駐車場付ビル建設…建設費用とリース料との問題あり。
B六階建ビル建設(開発銀行融資の見通しあり)
C分割して独自に会館建設
これに関し検討の結果、@とAは取りあげない、BCについて推進し有効安全にもって行く、会館建設委員会とも十分連絡して推進することを確認した。

 ▽部会再編成について
国武副会長より、六月一五日の区制委員会の決定事項の報告、なお荒巻専務より補足説明が行われた。
@名称=福岡市薬剤師会××区会長。
A位置づけ=@市薬の執行に関しては関与しないA資格については会員であること以外は限定しない(市薬役員、部会長でもよい)。
B目的=@市医師会の組織に対応して分業推進に関する円滑化を図る。
C部会再編成について=@二区以上にわたる部会の再編成A作業に当っては関係部会長と委員によって協議する。
なお、荒巻専務より内科医会の会合の内容報告があり、今後は更に医師会対策を活発化することが述べられた。

 ▽会費納入について=竹尾会計理事
現在、五部会が完納。報償金交付の有利性もあるので早急納入要望。

 ▽組合関係報告=山手商組理事
チラシ問題についての報告が行われ、これに関しては常に薬務課と連絡をしていること等を説明。乱売問題についても情報連絡を密にするよう要望あり。

 ▽福岡市長選
告示=8月5日
投票日=8月29日

 告知板 薬剤師国試 10月23・24日

 厚生省はこのほど五一年秋の薬剤師国家試験を一〇月二三日、二四日の両日にわたって実施することを決めた。書類出願は九月六日から一八日まで。提出先は厚生省薬務局企画課試験免許係(東京都千代田区霞ガ関一の二の二)。
▽試験施行地=東京都、大阪府
▽学説試験科目=薬物学、衛生化学、公衆衛生学、薬剤学、薬事関係法規、日本薬局方
▽実地試験科目=薬剤学、日本薬局方

 薬界短信 福岡市薬 勤務部会例会

 福岡市薬剤師会勤務部会(堀岡正義会長)は七月二〇日(火)午後六時より、福岡市第一勧銀ビル七階三鷹ホールにおいて第二三九回例会を開いたが、当日の例会内容は次のとおり。
1、学術映画「新しい制癌剤フトラフール」提供・大鵬薬品
2、学術研究会「癌と化学療法」=九州大学医学部第二外科貝原信明

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 ▽投書欄「声」
まず処方せん発行=大野城市、無職。
七月十九日付で権藤医師は、処方せんを発行しない理由として第一に保険調剤薬局の未整備をあげられているがこれは本末転倒ではあるまいか、理由は簡単である。医師が処方せんを発行しないからである。次に処方せん発行による患者の負担増をいわれるが、これも額面通り受け取る訳にはいくまい。なぜなれば、処方せんの発行によって必ずや処方内容は改善されると思われるからである。一部に見られるあの膨大な抱き合わせ投薬はなくなるであろう。患者側の二度手間もご懸念無用であろう。

 医師はまず処方せんを発行されよ。水の低きに流れるごとく保険薬局はたちまちにしてあなた方の周辺に現れること必定である。医薬分業が徹底しない根本原因は医師側にあって薬局側の責任ではあるまい。また健保制度の抜本改革も、あなた方よりも私たちこそより切実なる願望とするところである。私は診療を受ける国民の立場から、現在の健保制度の抜本的改革に深い関心を有するものである。
(朝日新聞8月3日)

九州薬事新報 昭和51年(1976) 8月25日号

 処方箋
 福岡県の現況と考察 福岡県薬剤師会専務理事 神谷武信
 分業進歩率三・八% 請求薬局は五〇%強

 福岡県の医療機関は、七月一日現在で医科三五九〇、歯科一五九三、薬局九七五であるが、それぞれ若干の幽霊(廃業届が衛生部のみに提出され、医療機関の指定、取消しに当る民生部への未処理)があるので、概ね九〇〇の保険薬局で五〇〇〇の医療機関に対応していることになる。

 そこで六月の実績を見ると一三の公立病院、三一〇の診療所、六五五の歯科医より一一万三二〇六枚の処方せんが発行され、四六六軒の保険薬局が受付け、その請求金額は一億七九三三万五四四八円といままでの最高に達した。

 前記医療機関が、外来患者に対し全面的に処方発行した場合、日薬方式で試算すると概ね月三〇〇万枚と予想されるので、本県における分業の進歩状況は三・八%ということになり、全国平均をかなり上回ることになる。但しこれはあくまで数字の上のことであり、県薬としての悩みは既存の薬局があまねくその恩恵を受けていない点である。

 因みにここ三ヵ月コンスタントに月八〇〇枚(請求金額で一〇〇万円)以上受付けている薬局の数は五二軒になったが、その内訳は昭和四十九年十月以前より開業している薬局は一四軒で、残り三八軒というのが、処方せん料五〇点以降に、医師の要請によりできた薬局である。その三八軒を更に分析してみると、いわゆる第二薬局的なものは一〜二軒しかないが、縁戚など医師サイドのもの二〜三軒を除くと、病院、メーカーなどを退職した薬剤師による開業と、既存会員を中心とした法人薬局並びに支部単位の会営薬局が肩を並べている。ただ一軒だけ既存薬局が医師の要望で近くに移転した例がある。

 ◆既存薬局に処方箋回らず
なぜ既存の薬局に処方せんが回らないか、原因はいろいろあると思うが、第一にあげられるものは病院立地と薬局立地が異なっていることである。都心部では特に大きなビルの中にあるクリニックに対応する保険薬局の進出が見受けられるが、いわゆる医師部落には意外と薬局が少なく、アピールも十分でないと思われる。その間隙をねらって処方せん応需の経験者を中心とした法人薬局ないし会営薬局が開設され成績をあげている。

 第二には開局者の老令化と消極さにあると思われる。これを埋めているのが、メーカーその他の退職薬剤師による保険薬局への進出であり、特にプロパ経験者の医師へのアプローチは、その若さと経験に基づく行動力は極めて意欲的であり、現在福岡、佐賀両県にわたりかなりの実績を示している。

 第三に古い開局者には余りにも強制分業の意識が強く浸み込んでいることと思う。日医、日薬で確認されている任意分業は、その理念においてお互いに立場を尊重し、その崇高な倫理のもと、公衆の福祉衛生に寄与しようとするものだが、これはあくまで建前であり、すべての医師が経済問題抜きで、建前通りに行動するとは考えられない。経済分業といわれるゆえんもここにあるわけで、理想と現実との隔たりにハギシリしても致し方ない。その時点における医師の本音との接点を何処に求めるか考えるべきと思う。徒に経済問題にとらわれるよりも、医薬品の安全性と有効性に対する情報提供など、薬剤師職能で補いもつくはずであるし、そのうちに技術料の評価、薬価の改正、税法の改正などにより、その溝も埋まってくるものと思う。某薬業評論家が、老薬剤師は少なくとも分業の邪魔をしないで欲しいと述べている(中外薬報)のも、そのようなことを意味していると思う。

 ◆県薬としての今後の対策は
このような現況にあって、県薬として今後の対策であるが、日薬がいまごろになって班組織の確立を促しているが、本県としては既にそれに似た活動方針が支部ごとにとられ、活動の度合いが濃い支部など成績が上っているのをみてもわかるように、五〇%分業を指向するからには必要な措置であると思う。その組織を通じ末端会員の処方せん応需の意識昂揚が必要である。

 薬務行政は煎じつめると、医薬品の安全対策に尽きるといわれるが、再評価、GMP、要指示薬の拡大、販売姿勢への指導などいずれをみてもOTCがいま以上大きく伸びるとは考えられない。OTCのみでいくからにはアメリカ式ドラッグストア化を辿るであろうが脱薬剤師的な考えがない限りは、大多数の薬剤師には何らかの抵抗があるだろう。また考えようでは分業も医薬品の安全対策でもあるわけで、厚生省の五年を目途というのも、そういった意味で大衆の了解が得られるだろうし、究極のところ今後の行政は分業指向型と考えるべきである。

 一方、薬局経営上からみて、OTCの伸びがなければ、代るものとして処方せん応需を考えるのは当然のことで、この四月の僅か四%なにがしの調剤技術料のアップでさえ、処方せんを受けている薬局にとっては大きなプラスであり、実績のない薬局にはまさに猫に小判的評価でしかない。このようなアピールを機会あるごとになし、意識の革新を促しているが、成績は徐々にしか上っていないし、毎月の保険薬局の指定には必ず一〜二軒の問題がある。

 先輩薬剤師一〇〇年の努力にも拘らず実現をみなかった分業だから、漸く曙光の見えた現在、必ずしも薬剤師の望む理想的な姿ばかりではなく、意に沿わぬものもあるが、どのような保険薬局も一応薬剤師会に入り、足並みはそろえていただくよう保険課の指導を願っている。

 開局薬剤師は薬務行政には甘え勝ちであり、少々のミスは始末書でもと軽い気持があるが、保険請求にはいささかの誤ちも許されないのは、代金が公金でもって支払われるからである。さりとて県薬が野放図に保険薬局の開設を認めているわけではない。会員感情として許し難いことだし、医師サイド、卸屋サイドの申請には十分気を配っている。建前論からいけば当然のことだが、経済的にみると、メーカー、卸とも薬品の選択と流通が変ることであり、これは大変な関心事だと思う。

 処方せん発行の情報はおそらくドクターに接する機会の多い卸のセールス、あるいはメーカーのプロパが一番早いことと思うが、県薬としてはその情報を一刻も早く入手するようお願いしている。その代り医薬品の流れについては、卸の立場を尊重し、従来のパイプを変えないよう紳士的な取扱いを薬局側に要望している。納入価の医家向けと薬局向けの差はいずれ時が解決してくれるものと思う。

 県薬として処方せん応需で最も考慮しているのは、保険薬局の量とその保険薬局に携わる保険薬剤師の質の問題である。厚生省のいう五〇%分業に完全に応需するには、すべての保険薬局が一日平均六〇枚消化したとしても、本県の場合二〇〇〇軒の保険薬局を必要とするわけで、現在数の二倍以上ないことには応じきれない。

 その意味で保険薬局の新規開設に、前記のような幅広い考え方を打出しているわけで、更にそれに従事する保険薬剤師の確保には、特に女子薬にお願いし、潜在女子薬剤師の掘り起しに努め、セカンド薬剤師としての実務に携わっていただている。日勤不能な方は午前、午後のパートでもと、いずれ時間的余裕ができれば日勤、更に意欲があれば、保険薬局としての独立といった構想である。

 また複数薬剤師も月ごとに増え、一年余りの経験をもとに独立され、他のマンツーマンの中に割り込んだトラブルも出現している。本県は公私立三つの薬科大学をかかえているので恵まれた方だが、隣の佐賀県では既に薬剤師確保に追われており、おそらく三年くらい先には全国的な薬剤師不足を来たすだろう。

 ◆薬剤師の質と調剤実習・実務
次に薬剤師の質の問題であるが、長年調剤実務に縁のうすかった開局者には急速になじめない面がある。自家製剤に力を入れていた方はまあまあとして、それでも六局、八局時代の薬とは大変な変りようで、臨床薬理学的研修が必要である。かつては県内統一してやった時代もあったが、現在は支部単位で行なわれている。また調剤実務については副会長であり日薬の理事でもある堀岡先生の親身も及ばぬお世話で、既に六年連続開催されている。本年日薬で実施しているそのテキストも、本県で昨年使用した分の焼き直しで、ある意味では本県会員から不評を買っている。そのため特に日薬の許可を得、その実施計画の中に先発している前記五二薬局(秋には七〇薬局になる見通し)にての実習と請求実務を十一月以降、一〜二日ぐらい織り込むことにしている。

 開局者になじめないのが健康保険のしくみであるが、実際保険処方せんの処理を経験することにより、意外とスムースに取り組め、なおかつ経済的妙味も理解願え、ひいてはやる気を起していただけなのではないかと思う。昨年国から県に至るまで、あらゆる福祉医療の保険者名の八ケタコード番号一覧表を作成したところ、医師会に大好評で保険医ニュースに掲載されたが、これからの開局者は健保制度に精通することも処方せん応需に欠かせないことと確信している。

 医師会とはタイミングよく四十九年五月以来、この問題の折衝に当ったが「趣旨は了解した。無理のゆかぬ方法で、できる地区から実施する」との合意がなり、月を追って増加しているが、耳鼻科、眼科、皮膚科の順を経て、現在内科、小児科に増発傾向がみられる。

 六月十九日、県内科医会総会(会員数一五〇〇)に本会より二名の理事を派遣し、受入れ側薬局の立場から質疑に応答したが、内科医会が実施したアンケートにも現われているように、処方発行問題は内科医にとり大きな関心事であったと聞いている。それによると既に処方発行されている一八・三%のドクターのほかに、更に発行を考えている医師が一三・一%あるということで、いままで見聞した医師サイドのアンケートに比べ、分業指向であると感じられた。

 処方せん発行が進行すると県薬の事務量は激増する。請求の問合せから各法請求用紙の準備、配送と請求書の受付、集計、関係機関への取次ぎと、年間一人くらいの増員が必要でないかと考えられる。特に本県では全保険薬局が県薬を通じ請求書を提出する仕組みになっているため、毎月八日まではその処理に忙殺される。そのため将来を考慮し、また厚生省、日薬の望む試験センター構想と合せ、請求手数料の賦課に踏み切った。いままで各支部ごとに徴集していたものを、一応支部で一枚一〇円以上の手数料を取り、そのうち二円を県薬に積んでいくということで、牛歩の感がないでもないが、一つの目的のために共同歩調で進むことへの確認を得たと思っている。

 県薬としては処方調剤請求を組織活動の基盤とする考えでいる。国民皆保険になって既に久しい。三師の中でその恩恵を受けなかったのは薬剤師だけである。歯科医師会が政治的にも実力をつけてきたのは、昭和三十年以降であり健保の拡大と一致する。われわれ薬剤師会も処方せん応需が進み、せめて日薬のいう五〇%分業がなし遂げられたころになると、職能的にも経済的にも政治活動に対する協力が得やすくなると思うし、いまの段階ではただ分業を進めることが先決だと考えている。

 ◆法人薬局と税法上の問題
また税法上法人薬局が医療機関として認められない事実は納得し難く、何としても早く解決して欲しい。毎年の確定申告で個人薬局は保健調剤分の収益が、事業税非課税の対象となり免除されるが、法人薬局にはそれがない。商法に基づく法人という解釈らしいが、何とも承服できない。また風致地区で法人薬局変え開設の許可が出なかった例が出ている。

 反面、法人はその請求金額に対する源泉税がかからないが、個人には昨年来問題になかった10%の源泉税が、毎月その請求金額から差し引かれる(基金のみ)。年末調整で返還されるけれども、事例の少ない現在では税務当局とトラブルも予想されるので、全般的視野にたって日薬は交渉していただきたい。

 個人事業税の免除についてはまだ手を打っていない県も多いようだが、早目の各県財務部との交渉が必要である。本県では昭和三十七年来、医科の二八%に見合う資料を提出し了解を得ている。

 日薬並びに厚生省のいう五年間五0%分業のタイムリーまであと三年九ヶ月。その間二度の薬価改正と二度の医療費改訂が予想され、処方せん発行の条件が整ってくることは間違いない。その対応策を誤ると所によっては大混乱を来たすだろう。本県最近の伸びをもってしても年度内一0%の目標到達は至難と思われるが、徐々に拡大していく日薬の指標に少しでも近づくためにキメ細かな努力が更に必要であろう。

 思えば昭和三十二年であったと思う。当時の高野日薬会長が来福され「日歯の佐藤会長と処方せん発行の合意に達した」との報告に力を得、まずは歯科より始め営々十九年間、毎月欠かさずに請求を続けた私には、今日の日を確かめ得ずして他界なさった先輩をしのび、いまの実績を考えるとただただ感無量である。「思うことなしおえずして今日も又惜しむひかげはうたぶねにけり(明治天皇)」

 福岡県薬 薬局委員会 委員長に荒巻氏を再選

 福岡県薬剤師会(白木太四郎会長)は七月二六日午後一時半より、県薬会館会議室で本年度初の薬局委員会を開催した。当日は県薬から同委担当理事の藤野常務理事が出席し、挨拶を述べてのち議事に入ったが、その主な内容は次のようである。

 ▽委員長選出
藤野担当理事より選出方法について各委員に諮った結果、執行部一任との意見あって荒巻善之助氏の委員長推薦が行われ全委員異議なく承認となる。

 ▽荒巻委員長挨拶(要旨)
過去二年間の実績も十分なものがなく、適任とは思っていないが皆様におかれて意義がなければお引受けする。当委員会の事業のメインは、対医師会が分業特別委、分業に関する内部的のことは社保委で行うのでこの中間的なものとなると考える。委員会は三か月に一回程度開催したい。

 ▽保険薬局の管理体制
@不在薬剤師の件
福岡県内科医会より保険薬局での調剤について薬剤師が出張・不在時にはどうするのか、との質問あり。また保険課から保険薬剤師でないものが処方箋調剤をした事実が摘発された。
Aパート薬剤師の件
前@項に関しての解決方法としては、?処方箋を受け付けない?パート薬剤師を置く−の二方法がある。福岡市内では急速にパート薬剤師を置く方法を始める方針であるが、県内実施も早急に実施する必要を確認した。
B濃厚相談薬局
過度の相談薬局については、医師側からの見解のことも考慮し、医師サイドを否定したものであってはならないし、大筋を誤ってはいけない。OTCと分業に関しては、今後の課題とし十分な検討を行うことを確認。

 ▽薬と健康の週間
今年度は薬務課から効率的な方法はないかとの提言あり、これを踏えて種々意見を交換。

 ▽九州山口大会の発表事項
発表の演題と講師を左記のように決定。
@処方箋と薬局経営=神谷武信。
Aパート保険薬剤師に関するアンケート調査=江口春子。

 ▽委員名
・委員長=荒巻善之助。
・委員=古賀隆、田村照夫、花田春策、石田達男、倉石久、脇園茂、久保嘉祐、安永雄介、久保英一、竹尾啓二、山田博美。

 薬界短信

 ◆福岡市学薬夏季林間学校環境調査
福岡市学校薬剤師会(馬場正守会長)は、本年も市内小学校二〇校が夏休みを利用して粕屋郡篠栗町荒田高原で林間学校を開催するので、林間学校開校前の七月二十日午前十一時より、理事、監事者が集合し、六旅館の児童の受入れ態勢、安全管理、浴場、室内環境、寝具の清潔状況、水質の検査、便所、調理場、食器、救急箱等の点検を行い、各旅館側に指導と助言を行った。

 飲料水については残留塩素不足が二旅館あった他は満足すべき状況であった。更に午後から第三回理事、監事会を開催し、九州地区学校保健研究大会出席者の件、夏休み開放プール、県学校保健功労者被表彰者推せん等を行い、緑深き高原をあとに夕刻下山した。尚今年の調査には福岡市教育委員会より、仲原学校保健課長他二名の同行があり、学薬活動の一層の認識を深めたようであった。