通 史 昭和51年(1976) 日薬−県薬−市薬
九州薬事新報 昭和51年(1976) 7月5日号

 第九回 福薬連役員会

 新加入1で12団体となる卸メーカーに分業協力要請

 福岡県薬業団体連合会(白木太四郎会長)は六月一七日(木)午後三時より、県薬剤師会会議室で第九回役員会を開催した。当日は、同連合会構成団体の役員ならびに県薬務課より岩橋課長、内藤課長補佐、松雪生産指導係長、大庭監視係長、古賀技官が出席し、神谷専務理事の司会により開会。白木会長挨拶ののち、議事に入ったが、その主な内容は左記のようである。

 ▽経過報告=神谷専務理事
1、薬務課関係事務取扱要領の配布について
県薬務課作成の事務取扱要領一〇〇〇部は全部処理できた。県では追加印刷を行っている状態である。
2、第九回日本薬局方改正について
今回施行された第九回日本薬局方改正について、その説明会を五月一四日、九大薬学部講堂において、県薬とメーカーとの共催で開いた。受講者約一五〇名。

 ▽新規加入団体について
福岡県家庭配置薬協会が薬務課を介して当連合会へ入会の希望があり、このほど白木会長へ正式入会の申し入れがあった。これに関して、会長より全員に可否を諮った結果、異議なく新規加入を可決承認した。これにより、加入団体は一二となった。

 ▽各界の理事確認について
加入各団体において役員改選、人事異動等による当連合会理事を確認す。近く名簿作成を行う。

 ▽各界の状況報告
・薬事協会
六月二五日に県総会を開く。資質向上のために研修会も同時に行う。県薬、商組その他の参加も得て盛大に挙行したい、前向きの姿勢について理解を賜りたい。
・商組
明一八日に初の理事会を開く、新理事長に本松氏が就任した。当日、事業方針が決定されるが、組織の強化等が考えられるのでよろしく援助を願いたい。
・医薬品卸
五月二四日に九州卸総会を開き、六月二日に常任理事会を開催した。日本卸連では会長名で、流通番号(記号)を抹消改ざんした医薬品の流通の排除についての文書を製薬団体、厚生省日医、日薬等の関係先へ提示した。これ等に関し県卸としても前向きに取り組んでいる、役員とその業務分担は次のとおり。
・会長=木瀬克巳
・副会長=大黒清治(総務)、佐藤幹夫(病専)、松井博(薬専)、大石忠雄(医専)、富田浩三(会計)
・監事=坂上悠三

 ◆薬剤師会
医薬分業の進度は比較的順調に経過しているが、五月度で一〇万七千枚、全額で一億六千八百万円となった。調剤研修会は本年より厚生省予算で、日薬主催で開くこととなった。本年度は年間七〇時間を実施するが、六月八日から一一日、その第一部集中講義を行ったが四〇〇余名が受講し、県内における処方箋応需への指向意欲は良好である。

 @ 薬剤師会として、処方箋発行をする医師の情報を卸業の方々に提供願いたいA薬価基準等の変更についての情報の速かな提供を、メーカーに願いたい−との希望がなされた。なお、筑後地区で発生した不当行為(筑後市立病院の医薬品納入をめぐる汚職事件)は新聞記者、大衆に及ぼす影響が大きく、医薬品に対する不信を受けることとなる。不信は不振にもつながることでもあるので、業界のため時局の深刻さを再認識すべきことが強調された。なおメーカー・卸に対し保険薬局の処方箋調剤について、左記の要望が行われた。
ア:医師の使用する薬品で、薬価基準との差にネックがある場合には処方箋発行をされてはと助言してほしいイ:分業の意志のある医師があれば県薬へ通知してほしいウ:保険薬局は医師とのインホメーションがないのでメーカープロパーは○○薬剤を宣伝し、その採用が見込まれるなど、周辺の保険薬局に知らせてほしいエ:処方箋に書きそうな約束が出来た時には、小量のサンプルを戴きたいオ:メーカーでは現在、医家向と薬局向プロパーがはっきり区別されていて、薬局で購入した医家向医薬品は医家向プロパーの成績にならない。これが分業のデメリットでもあるので考慮願いたいカ:保険薬局としては、納入薬価について安価を基本的に求めるものではない‐など。

 ◆メーカー
薬剤師会よりの要望に対し次のように述べた。
Aについて…ルールを確立して善処したい。
ア〜カについて…そのような方向に変化をもつことは当然と思う、我々として連絡のとれるのは二八社である。

 ▽薬務課からの連絡事項
・岩橋課長
薬務課において、このほど新任された松雪生産指導係長、大庭監視係長の紹介があって後、本年度薬事審議会が新メンバー(後掲)にて発足したことが報告された。
・古賀技師
@筑後市立病院の問題(近く、これに関する文書を出す)A医薬品の開封等の不公正流通の問題B全国ブロック課長会議(フリートーキング式で、ア:配置販売業者イ:流通問題ウ:健康食品問題等を検討)エ:要指示薬の取扱い‐など。

 ▽次回開催日
八月二四日(火)午後二時より。

 福岡県商組理事会 組織強化の基本的施策 事業方針の三主柱確立

 福岡県医薬品小売商業組合(本松茂晴理事長)は、先きの同商組総代会において行われた役員改選後の初の理事会を、六月一八日(金)午後二時より福岡県薬会館会議室で開催した。当日は、山手理事の司会で開会し、本松会長は「商組の諸問題の解決には皆様の支援のもとに、一つ一つ勉強し努力をして、一人一人の組合員に喜んでもらえるような仕事をしていきたい。苦労の多い大変な事ですが、皆様にはよろしくご指導ご支援を願います」と挨拶した。次いで議事に入ったが、その内容の主なものは左記のとおり。

 ▽新役員名と業務分担
・理事長=本松茂晴
・副理事長=須原勇助、大島猛夫、高橋亀千代、河野広登
・専務理事=山手陽一
・常務理事=斉田和夫、藤野義彦、戸田連城(会計担当)、庄野泰道、坂田家一郎、一木昌弘、倉富進、徳永勇吉、大和幹男、岩橋雅夫、井上浩一、石松茂治
・理事=石井源吾、高瀬正考、西元寺清継、桑野郁夫、大坪外洋夫、岩崎寿、芳野直行、倉石久。
・監事=大隈次郎、陣内三郎、石田達雄、渋田守夫(顧問に、長野義夫、鶴田喜代次、白木太四郎、吉松正記の四氏を新たに追加決定)

 ▽組織強化と運営
各地区より現況報告あり協議検討の結果、左記方針を決めた。なお、各地区三者協議に小売業者側の委員を増員し、理事、支部長(県薬)級の方は是非参加するよう要望することを決定した。
1、各ブロックに連絡所(事務局)を設置し、今後の業務連絡等は事務局より末端組合員等へ連絡を行う。(七月九日までに本部へ連絡所を通知すること)
2、事業方針(三本の柱)
@業権の確立
A団体交渉の確立
A 宣伝広告、販売姿勢の秩序の確立

 福岡県薬社保委員会委 員長に三根孫一氏

 福岡県薬剤師会の社会保険委員会は本年初の委員会を六月二二日(火)午後一時半から、福岡県薬会館会議室で開催した。当日は県薬の社保担当理事中村里実、藤田胖両氏が参会し、藤田氏座長となって@委員長、副委員長の選出A県薬の社保関係業務の検討B調剤請求業務指導員の研修−などを検討・審議したが、そのおもな内容は次のようである。

 ▽正副委員長選出
・委員長=三根孫一
・副委員長=倉田憲治

 ▽県薬の社保関係業務
これまで、県の社保委員会の担当業務は「社会保険及び医薬分業制度に関する事項」となっているが、現在、分業推進特別委員会が設置されていることにより、今後の業務を左記のように変更することを決めた。
・保険薬局が処方箋を受け付けた以後の調剤及び請求業務の実施並びに研究を主体とする(対内的、対外的)

 ▽調剤請求業務指導員
各地区で、処方箋受け入れ枚数の多い者を指導員として指名することとし、この線にそって再選考を行うことを確認した。

九州薬事新報 昭和51年(1976) 7月25日号

 所感 日本薬剤師会 会長 石館守三

 私は青森で生まれ、仙台で高等学校に学び、以後、大学時代とそれに引き続く研究に費やした長い年月のほとんどを東京で送った。わが国に西洋医学、化学が渡来した地長崎をはじめ九州には、憧れを抱いてはきたが、短い旅行の機会が幾度かあっただけで、住んだことはない。しかし九州と青森は、わが国の西南と東北の両端に位置し、土地は離れていても、双方に共通して日本の古い良いものが残されている、と親しみを感じている。

 かつて特急列車「ふじ」「さくら」が十数時間を要した東京−福岡間も今は新幹線「ひかり」が六時間程で走り抜ける。飛行機を使わずとも東京−九州の日帰りができるまでに、科学技術の進歩は著しいものがある。しかしながら、便利な新幹線といえども、無条件ですべての人々に受け入れられているわけではない。振動、騒音など、沿線住民の間には新たな問題が生まれてきている。そうした問題は、薬学の分野においても全く無縁ではない。

 第二次大戦後のおびただしい新薬の開発に見られるように、薬学の進歩は医療の向上に大きく貢献している。しかし、新しいものを作り出す努力の他方では、その安全性の確認が大きな課題となってきた。社会は、国民に関係あるすべての化学物質の安全性の確認を求めている。多くの化学物質が用いられ、国民と密接な関係を持つ中で、専門的な知識と技術を持つ者が負う役割は大きい。全国的に地域分布の良い薬剤師がその担当部分の役割を受け持つのは至当のことと言えよう。地域レベルでも国のレベルでも、薬剤師が積極的に発言し、問題に取り組むことは、実際的であり、当然のなすべきことである。

 薬剤師は、特殊技能を持ちながら、社会性が小さく、閉鎖的な体質に安んじてきたきらいがないとは言えない。しかし、そうした殻は打ち破り、薬剤師が、ただ薬剤師としての立場に限定することなく、専門を基礎として、公正な広い意見を持って、住民の信頼を得、地域に貢献することが、まことに望ましいであろう。私が、日本薬剤師会会長であるとともに、食品薬品安全センターの設立と運営に努力を重ねているのも、この社会的要請に対する薬学人の義務と考えるからである。

 九州は、かつて高野一夫氏が政治家として活躍される基盤を作り上げた伝統がある。現在も、長崎の谷口是巨氏、鹿児島の長野佑也氏をはじめ多数の方々が活発に活動され、地元の信頼を得ておられる。また東京でも伊藤昌弘氏が大いに活躍している。薬剤師の政治的関心、意識は次第に上昇しつつあると思う。日本薬剤師連盟は来年行なわれる参院選全国区候補として望月正作日本薬剤師会副会長を推せんすることを決めた。私は、薬剤師の社会的責任の一端をこうした活動で果たすことに全国的に賛成するとともに、九州の同志に心からなる声援を送るものである。

 処方箋応需を第一の柱に 福岡県薬剤師会 会長 白木太四郎

 本年二月開催された第三九回日薬代議員会において石館日薬会長は、医薬分業の進展状況について、ある地区では急速な進展をしているが、全体としては停滞状況である。このままの状態では五年後五〇%は困難である、万難を排して受入れ体制の確立と、薬剤師職能の実力の涵養が必要である。分業推進は単に法令や強制力をもって遂行するものでなく、薬剤師の努力と医師との共同作業のもとで実現すべきもので、マンツーマン、マンツーマングループ方式で分業を推進すべきである。将来の問題として、これ以上どうにもならないという段階で、或は強制力を発動してもらう即ち法による強制分業もあり得る。
それは分業が進展し、ある程度定着した時点に於てのみ考えられることである。

 薬局の教育問題については、今日の医療技術と、供給の革新等に対応して、臨床薬理、薬物相互作用の知識を修得した薬剤師が求められている。日薬の薬学教育案を五一年度から実施する方針で、卒後教育、情報活動の充実強化を計ることを演述されております。

 田中厚相は去る五月一一日、参議院社労委員会に於て厚生行政に関する所信を表明されました。@年金医療等、社会補償の充実を強調され次にA制度の充実に見合った、国民の適正な負担を求める姿勢を明らかにされました。B消費者の安全確保の面では?食品添加物の安全性の再評価を推進?医薬品、家庭用品の安全性を確保する対策の強化。医薬分業については、その円滑かつ適切な実施を図ることを表明されました。

 このような重大な時期に当面して、福岡県薬は、衆知を結集し、非常な決意のもとに前進を図りたいと思うのであります。ご承知のように、県薬剤師会の事業面については、先きの代議員会で事業計画案が提案されており、その線に沿っていきたいと思います。当然、日本薬剤師会の企図される運営方針に従いまして、それを強力に推し進めてまいるのが第一であります。

 事業計画のうちで何を主眼としてやるべきかでありますが、分業は全国的には二%しか進んでいない。福岡県の昭和四九年九月の処方箋請求は二四〇〇万円、本年六月では一億七九〇〇万円で、一年九ヶ月に七・五倍に伸びており、全国的には一・九%のものが県内では三・四%まで進んでおります。本年四月から分業第二年度を迎え、一〇%の目標達成に、あらゆる努力を重ねて参りたいと存じます。現在保険薬局で、処方箋の一ヶ月取扱数量が四一五〇〜二三三八枚が一〇店、二〇〇〇枚以上一五店、六〇〇枚以上が五二店に上っております。

 分業推進を、県薬の事業推進の第一の柱として、積極的にマンツーマン方式により、これの推進を図りたいと考えております。現在処方箋応需を実施されているところはスムーズにいっているが、近隣の医者に接触して色々お願いしているけれども、どうも旨くいかない。また相談に行くことを躊躇される。遠慮される会員もあるわけで、そのような会員は医者と対等の場で話しをする時に、処方調剤に対する医薬品の知識・医薬品の備蓄、或いは設備構造等の点で、なんだか自分でひけ目を感じておられるのではないかと思われる。

 これらの事について県薬としては幸い堀岡先生はじめ病院関係の先生方のご指導により、保険薬局の薬剤師研修には非常なご努力を頂いております。その他の点につきましては更に分業担当の理事或いはまた、エキスパートを集めた委員会を作りまして、分業がなぜ進まないのか、これについてのあらゆる原因を研究していただき、それを示唆して積極的にマンツーマンを獲得する方法を推進したいと考えているのであります。

 分業の推進にともない、県薬剤師会としては、当然の問題として検査センターを作らねばならない。熊本県ではすでに二、三年前に設立し、最近では健全な経営内容と聞いています。検査センターと併せて、備蓄センター調剤センターについても、将来は必ず実現するという前提のもとに、構造設備等それに対する資金の手当、経済的に果して成り立っていくものかどうか等々の調査を致しております。

 第二番目に柱とするのは県薬会館の建設であります。現在、この会館は県所有で建物も県より借りているのですが、医師会にしても歯科医師会にしても、立派な鉄筋の自分達の会館を持っている。薬剤師会としてここに将来立派な建物を作る前提で、この建物の払い下げを県に申請する機会もあるのではないかと思うのであります。それには資金手当等々の事を考えてやらねばなりませんが、これの払い下げを受け、自分の立派な会館を持っているという会員の誇りを完遂さしていただいたらという事を第二の柱に考えている。

 第三の柱はOTCの基盤安定への努力であります。医薬分業はやっているものの、全国的な実績は約二%ではないか、大部分の薬局の生活の糧は、OTCプラス自家製剤であるのが現実である。この現実を踏まえて薬剤師会としてもよく考えるべきとの意見が、代議員会においても提案された。

 四九年度の医薬品の生産高は一兆七千億で医療用医薬品は一兆三八一八億(八一・四%)で、一般用医薬品(OTC)三一六二億(一八・四%)で、その内配置売薬が一九四億(一・一%)を占めております。薬局、薬店で取扱うOTCが約三、〇〇〇億(一七・六%)で、その内訳は一般品一三一二億(四四%)チェーン品八八六億(三〇%)制度品七八一億(二六%)で、全国四万の小売店で一店当り、年一五〇〇万円、平均一日A価四万円の売上を示しております。しかしながら、日本大衆薬懇の委員、中央大学藤野教授は大衆薬の将来は明るくない。むしろ危機的状況に直面するといわれております。

 大衆薬の明るい見方として@世界的なセルフメディケーションに対する関心即ち自分の病気を自分で治す権利があるA保険財政面からの軽症者の診療抑制が明るい面B機械や道具類は国民の知的レベルの向上により高度なもの取扱いの難しいものも家庭に持ち込まれるが、消費者の医薬品知識が向上しても、抗生物質等の要指示薬や毒劇薬や麻薬、覚せい剤はフリー販売にはならない。知識が高まる程安全性の問題が重視されて専門家の分野に移されるC大型大衆薬が輩出する条件は、皆無である。

 保険制度や分業の進展によって商品としての付加価値医療の一端としての付加価値は高まる要素はあろう。副作用の問題で薬局、薬店の大衆薬は三分の一が副作用がある(東京都衛生局モニターによる調査)
臨床薬理、医薬品の相互作用の進展により糖尿病薬とアスピリン(配合禁忌)。

 ◆再販について

 @アメリカの再販は五一年三月一二日、一八種大衆薬が上院で三州を除き廃止となった。我国への影響について対策を考えたい A西ドイツでは四八年に再販が廃止されたが薬局価格の安定で再販復活の態勢にあり、本年一〇月中旬に最終的結論を見る予定である。 Bイギリスでは四七年に再販は廃止されたが医薬品乱売の場合は国民が不幸との理由で経済裁判所で再販が残された。

 公取は医薬品の再販価格の値上げについて原価計算を出せといわれておりますが一般物価一八〇の値上がりに対し、医薬品は全般的に一一〇に押えられていたが、今回やっと一四〇くらいの適正価格に値上げを承認された。OTCの問題については最近中央において森下参議院議員がOTCの懇談会を設けてその拡充に努力されておられますが、県薬としても、商業組合とも緊密な連絡をとって、その維持、拡充にも努めたいと考えるわけであります。

 最後に私は過去一〇一年間、我々の先輩の方々が骨身を削り、血の出る思いで分業推進をやって参りましたが、時に利あらず今日に及んでいますが、現在漸くその前途が開かれ、薬剤師職能を活かした分業の制度を、我々の時期にこれを無にして過すことになっては恐るべき責任であると思うのであります。この意味に於て、この二年間は、先輩が我々のために努力されたと同様な、否、より以上の努力を後輩のため、業界のためにも果したいと考えておりますので、何卒よろしくご協力を願います。

 医薬協業に卸業者の協力を 堀岡正義

 ◆武見会長の特別講演

 日本薬剤師会は七月二四日に地方連絡協議会を開催して、日薬最大の課題である「医薬分業の推進拡大」について協議を行ないます。これは五月に開いた全国の医薬分業担当者の会議で医師と薬剤師の間のコミュニケーションの不足が問題として指摘されたので、その解決を計るために、改めて協議を行なうことになったものです。

 この会議には日本医師会の武見会長が「医療の周辺と医薬分業」のテーマで特別講演を行なうことになっています。日医の会長が日薬の地方連絡協議会で講演するのは初めてのことであり、各地区で進展のきざしをみせている医薬分業に、さらに「はずみ」をつけるものとして大きな話題を呼ぶこととなりそうです。この原稿を紙上で読まれる頃には、その内容が業界紙にも報道されることでしょう。

 さて筆者はかねてより医薬分業(表題に記したように「医薬協業」の意味なのですが、従来からのしきたりでここでは「医薬分業」という言葉を使うことにします)における卸業者の果たす役割に関心を寄せており、昨年より第一製薬の卸向けPR誌である「第一ニュース」に「卸とくすり」というテーマで連載をしているのですが、今年になって二回にわたり「卸と医薬分業」というテーマで原稿を書きました。
そこでは医薬分業の現況と分業実施の問題点を記しさらに分業と卸の営業、分業と卸のあり方について述べ、卸の開局者への協力による医薬分業を提唱しました。ここでは同誌の原稿の要旨を第一製薬のご好意により再録し、皆様のご意見をうけたまわりたいと考えています。

 ◆分業と卸の営業

 医薬分業について卸や製薬会社が心配していることの一つは、分業になると売上げが低下するのではないかということです。卸にとっては営業成績が何よりも大事ですから、このように考えるのは至極当然といえます。筆者は経済には素人なので認識が十分でないかもしれませんが、わたくしは医薬分業になっても売上げはほとんど低下しないと考えており、かつ卸の利益は向上し、かつ現在の異常なまでの価格競争がかなり是正されると考えています。若干の数字によって説明してみますと、現在医薬品生産額のうち二〇%は一般用医薬品、八〇%は医療用医薬品です。このうち二〇%が注射薬、約一〇%が消毒薬、検査薬などで、残りの約五〇%が調剤用の医薬品ではないかと思います。このうち病院が約二〇%、約四割で、開業医が三〇%と仮定します。

 医薬分業と医薬品販売額

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 医薬分業になると投薬日数の低下が予想されますので、処方せん一枚あたりの薬価は約二〇%下がることが予想される。

 この計算では30%×0.2=6%の売上げ低下が予想されるのですが、医薬分業進行の現実と医療機関の偏在などを含めて、日薬では五〇%分業が完全分業であるといっています。本年の分業目標は一〇%です。これは先に予測した六%の売上低下の一〇分の一、わずか〇・六%にしかなりません。来年度の目標二〇%分業に対しては一・二%です。毎年の医薬品の生産増が数%〜二〇%の現在、まさにネグレジブルの数字でしかありません。

 〇・六%でも卸にとって大事な数字であるかもしれません。しかしこの数字の大部分の投薬は、実は過剰日数の投薬のため患者が服用せず捨てていた分に相当するとも考えられるのです。先日シチコリンを(銘柄は何でもいいから)薬価基準の一〇分の一の価格で納入するようにある病院からいわれ、卸の管理薬剤師がアッケにとられかつ困惑したという話を聞きました。開局者が処方調剤のため医薬品を購入する場合、そのような法外な価格を要求することはあり得ないでしょう。適正価格で購入するというのは、分業に臨む日薬の基本姿勢でもあります。これによって卸の利益は十分確保され、かつ日薬と日医の協定によって調剤は処方せん記載の商品名に忠実に行なうことになっておりますので、ゾロゾロ品の間の価格競争も防止されるはずです。

 このように考えますと分業による卸の営業低下は微々たるものであり、毎年の営業成績の増加のなかに埋没してしまう程度のものと考えられます。かつ販売による利益は現在よりも大幅に上昇することが予想され総体的にみて卸の経営に寄与することが予測されます。

 分業と卸のあり方

 医薬分業の現実には、次に記すようにいろいろのパターンがあります。
@開業医と開局薬剤師の直接協議による場合
A病院または開業医の第二薬局的なもの
B 開業医と調剤薬局の間に卸その他の関係者が介在する場合
C 以上のようにいろいろな形式のものがありますが、筆者は分業の推進について卸の果たす役割は非常に大きなものがあると信じており、それだけに卸の方々にこの問題についてのご理解とご協力を得たいと考えています。

 さて第一の開業医と開局薬剤師の間で合意して行う処方せん発行と調剤ですがこれにはマンツーマン、マンツーグループ方式、会営薬局などいろいろの種類があります。いずれも薬剤師本来の医療人としての活動が基本となっており、これはまさに「技術分業」の先頭を行くものといえます。

 日薬分業対策特別委員会(水野睦郎委員長)はこのほど「医薬分業推進具体策」をまとめ、石館会長に答申しました。ここでは分業推進策を日薬、県薬・市(地区)薬、グループ、個々の薬局の四段階に分けて方法論を示しています。また薬局は、処方せん発行医と周辺薬局との協調による処方せん受入れ(いわゆるマンツーグループ方式)を推進するため、班組織の強化を地方薬剤師会に指示しています。

 長年薬剤師本来の技術を生かすことができず医薬品販売業に低迷していた薬剤師にとって、医薬分業は生活革命であり、医療人として医師との間に信頼関係を確立するためには、それこそ大きな努力と困難がありますが、今こそ開局者各位の奮起を期待したいものです。

 第二の第二薬局方式は、一物三価の診療報酬制度の矛盾をついた方法であり、本来の医薬分業とは異質のものであることは申すまでもありません。

 第三の開業医と調剤薬局との間に、卸その他の関係者が介在する場合ですが、このケースも意外に多いようです。何といっても卸にとって開業医が処方せんを発行することによって、これまでの取引が全くゼロになることほどショックなことはありません。そこで開業医と協議のうえ、卸関係者が近隣に調剤薬局を開設し、管理薬剤師に調剤を担当させるというケースがあります。たしかに医薬分業の一つの方法であり、卸の納入は確保されますが、厳密にいうならばこの場合は「経済分業」が「技術分業」に優先しているともいえましょう。またこの場合、調剤薬局が使用する医薬品の購入ルートについて、好ましからざる方法(具体的には記しかねますが)がとられることがあるとも聞いております。分業について卸が最も恐れている納入卸の変更、これがあるために上記のようなケースが生まれ、またときには分業の意思のある医師に処方せん発行をセーブする働きかけがなされているといいます。

 卸と開局者の強力

 それでは卸の営業を擁護し、かつ「技術分業」の立場を守る分業を進めるにはどうすればいのか、それにはつぎの二つの方法が考えられましょう。

 第一は近接した開業医と開局薬剤師が同一の問屋と取り引きをしている、そういう組み合わせを探すことです。卸のセールスの方は開業医の分業の意思を身近かな情報としてつかみ、受入れの薬局を紹介し、薬局に情報を流すのに最も適した立場にあります。

 福岡県薬剤師会が本年四月一三日に県内の卸業者に「処方せん発行の情報提供について」協力を依頼したのですが、県薬としても個々の開局者に対して処方せん発行の意向がある医師の情報を、卸のセールスに問いかけるよう指導しつつあります。ある大手の卸の社長さんにこの話をしたところ「そんなミミチィことを考えんでいいですよ。開局者は開業医と取引きのある問屋と新たに取引きを開始すればよいし、分業による取引き先のパターンの変化は、卸にとって失うところがある一方、新たな顧客もできるのだから、総体的にはプラスマイナスですよ」と豪快にいわれました。すべての卸の方々が、このように大局的にお考えいただくと嬉しいのですが。いずれにしても分業の正道が、卸の利潤にどうはねかえるか、このことを販売額、マージン、そして来たるべき銘柄別収載とも合わせて研究して欲しいものです。

 第二は技術分業を推進するため卸と開局者の資本協力、資本投下を積極的にやってほしいことです。
これまで卸の分業対策、資本投下は開業医の方を向いていました。これまでの大切なお客であり、資本も豊かな開業医と協力して、分業をやってもこれまでの利潤を確保し、さらに利益を上げるというように動いてきました。しかし本来の分業が進んだとき、薬の納入先は当然開局者ということになります。資金に乏しい開局者は分業の意志があっても、店舗の改装、医薬品の購入資金に苦しんでいます。また分業ともなって新たな需要が加わると、取引問屋同志のはげしい競争も展開されることとなります。この際分業をやらんとしている開局者に協力して、資金的な援助をしていただけるならば(それには前記の薬局の改装の他、新たな調剤薬局の開設もありましょう)、開局者の分業がスムーズに進むとともに、卸にとっては安定した得意先を確保することともなりましょう。

 以上、医薬協業に対する卸業者の協力について記したのですが、医薬分業第二年目の今年は一〇%の分業を達成するという厚い壁にいどんでおり、それだけに開局者の一段の努力と、それに対する卸業者のご協力を特にお願いしたいと考えています。
(九州大学病院薬剤部長、日本薬剤師会理事、日本病院薬剤師会理事)

 ごあいさつ 九州大学薬学部 部長 浜名 政和

 この四月から川崎敏男前学部長の後任を仰せつかりましたので、一言御挨拶申し上げます。薬学部は御承知の如く教授は十三人、あらゆる役を誰れもが少くとも一回は引き受けなければならないのが実情で、学部長もその一つです。いわば当番が廻って来たようなもの、それに今までにも結構学部や大学全体のいろいろな仕事を引き受けさせられたこともあって、決して多寡をくくっていたわけではありませんが、それ程のこともあるまいと考えていました。ところが思ったより多種多様な用務が次から次にと出てくるし、可成りストレスもかかってくることを悟ったと云うのが現在の正直な感想です。目下の所は刑事コロンボの如くメモ用紙を頼りに毎日を送っています。

 高校時代漠然と応用化学方面に進もうかと考えていましたが、父から薬学では基礎、応用の何れの研究も出来ると云うこと、朝比奈泰彦教授という大有機化学者がおられることをきき、また薬化学教室で特別実習に従事中の中学と高校の先輩を訪ね何がしかの知識を得、自分なりに一応の意識を持って東大の薬学科に進んだ次第です。三年になって故落合英二教授の薬化学教室には入り、卒業後も副手、助手として教室に残っていましたが、九大医学部に薬学科が新設された昭和二十五年夏、塚元久雄教授の助教授として博多に移って来ました。

 大学入学は第二次大戦のはじまった昭和十六年、卒業が十八年九月で、クラスの仲間は殆んど卒業と同時に陸軍か海軍に移って行きました。私は第三乙種で、多分赤紙で引張り出されるだろうと思っていましたがその時はその時のことと、短期現役もうけませんでしたが、とうとう召集されずずっと研究生活を続けることが出来ました。川崎教授は教室は別ですが、この点は全く同じで、助手になったのも殆んど同時、九大に来る時も二人で一日話し合い、新天地を求めると云うような気持で行動を共にした次第です。

 私の先生はアルカロイドの研究からスタートされ、多方面で輝かしい業績を挙げられていますが、その中で芳香族アミンオキシドに関するものは皆様御承知の如く日本が世界に誇り得る立派な業績の一つです。東大時代私は必ずしもアミンオキシドの本流の仕事にたずさわっていたわけではありませんが、規那塩基の研究中当時一つの大きな隘路だったアミンオキシドの一般的な脱オキシ反応を偶然見付けたこと、また昭和三十一年秋から津田恭介教授の後任として薬化学教室を担当することとなり、とにもかくにも報告を作らねばと、前に手掛けたアミンオキシドの反応に手をつけたこと等から、今だにアミンオキシドの研究を主なテーマとしています。不省の弟子ですが、この仕事だけはなんとか最後までやり通したいと思っています。

 右のような経歴に加え、私達が学んだ薬学は専ら有機化学が中心で、薬学プロパーな課目としては生薬学と衛生試験法くらいのもの。その上月足らずで卒業させられた関係もあって薬剤学は数時間しか習わなかったと云う事情もあり、私は薬知らずの専門馬鹿そのものと云わざるを得ません。従っていろいろの分野における薬剤師の方々や、薬事界、薬業界が抱えておられる諸問題については、自分なりに理解しているつもりでいますが、いわば素人の如きものと自認しています。

 まことに頼りない奴が学部長になったものと思われるでしょうが、なんと云っても薬学出身、私は私なりに理解を出来るだけ深めるよう努力する所存です。学部長就任に際し、勝手な自己紹介をおゆるしいただき皆様の温き御厚誼と御鞭撻を心からお願い申し上げる次第です。大学自体の問題、薬学の教育と研究の方向と方法等については、またの機会に出来れば所信を披露申し上げ、御批判をいただきたいと考えています。