通 史 昭和51年(1976) 日薬−県薬−市薬
九州薬事新報 昭和51年(1976) 2月5日号

 福岡市薬 保険請求事務審査を強化 歯科標準処方を近く印刷配布

 福岡市薬剤師会(斉田和夫会長)は一月一四日(水)午後二時より第四八回理事会を福岡県薬剤師会会議室で開催した。当日は、荒巻専務理事の司会で開会、まず斉田会長の年頭初の理事会に当っての挨拶が述べられてのち、議事に入り@森下泰後援会A保険調剤請求事務B会の事業運営−などについて報告・協議が行われたが、その主なものは次のようである。

 ▽森下後援会並びに特別会費について
森下後援会費と特別会費(衆議院関係)の納入状況報告あり、早急に完納方を部会に要請することを決めた。なお、これ等の後援会費に関し、五一年度は個々の徴収をやめ、会費に加算徴収することを検討した。次年度(五一年)の予算の中にはっきり部門として組入れる、名称は職能対策費(仮称)とすることに了承成立をみた。

 ▽保険調剤請求事務について
一二月の保険請求は県が一億三千万円超、福岡市が五千八百万円超となった。請求事務の増加にともない審査時の指導を強化する必要あり。現在一〇名の審査委員に頼っているが、新年度からは指導方法並びに増員について検討したい。その人選は会長に一任と決定。

 ▽県理事会報告
前日(一三日)開かれた県薬理事会の報告が斉田会長より詳細に行われた。

 ▽会の事業運営について

 @ 厚生省の分業指導者協議会について
県理事会で各ブロックより一名宛追加参加し、県の研修会強化を図ることと決定した。荒巻専務理事の出席が内定。

 A休日急患センター対策について
成沢哲夫先生に理事就任を要請、全理事これを了承す。特に同センターの担当を願うこととなった。

 B歯科標準処方について
昨年一〇月に市歯科医師会と話し合い標準処方が出来た。近く歯科医・保険薬局に配布する。なお同処方について河野理事(九大歯学部附属病院薬剤部長)の解説が附記されたものが出来ている。これは市薬の解説プリントとして使用する

 薬局閉店時に対する「声」

 本紙の読みましたか≠フ欄にあげたが、薬局の休店時に対する一般の声がよく表現されている。見落された方のために、全文を左記して参考に供します。

 ▽薬局は正月三が日でも交代で開店を
元日にわが家で急病人が出た。病院に行くほどでもなさそうなので売薬を一服させ一応、症状はおさまったが、予備の分がなくなったので市内の薬局を見て回ったがどこも閉店。二日も三日も閉店である。しかし病気は予期せぬ時にやって来るから薬を用意する暇はないかも知れない。だから薬がないばかりに、売薬で症状がおさまりそうな人も休日診療所の門をたたくことになる。そうなると、重症で早急に医者を必要とする人も相当待たされる結果になるのではなるまいか。重症の人は待つだけでもしんどいものである。常時、売薬を備えるに越したことはないが、三が日を一地区にせめて一軒くらい交代で開店して欲しかった、と痛切に思った。

 ▽仏の薬局見ならえ
十三日付の「正月でも薬局は開店を」(前記)を読んで、昨年の九月から十月にかけてヨーロッパに行きフランスで聞いたことを思い出しました。ご存じのようにヨーロッパの各国は土曜日の午後から日曜日にかけて一斉に閉店します。法律で規制されているそうです。フランスでも同様でした。ところがたまたま日曜日に開店している薬局に出くわしたので通訳の方に尋ねました。それによると、フランスの薬局は日曜日でも開店しており、もし閉店する際にはその薬局に一番近い薬局の名前と地図を店頭に明示する義務があるそうです。それに合わせて近くの医師の名前なども同様に明示するそうです。また薬局には遠くからでもわかるように、高いところに十字の看板があり、それには夜間はグリーンのネオンサインがつくようになっていました。もちろんフランスでは医薬分業だそうです。
私は、こういった人間を大事にする細かい配慮に何度か出くわしました。

 今年も 財産は目減りする 藤原良春

 五十一年は、どんな年であろうか。ずばり言って、インフレの年となろう。その結果、薬の小売は、更に疲弊することになる。今年に限らず今後、小売の薬の売り上げが、飛躍的に伸びることはあり得ない。
医薬品の生産高で、医療用医薬品の伸び率が著しく低いのは、周知の事実。これは、福祉政策の推進、薬害問題の広がり等が原因であるが、それだけではない。もっと大きい原因がある。それは、大衆薬の価格が、物価上昇に、大きく遅れを取ったということだ。数量的より、単価の伸びが低すぎた。

 かって、ビタミン剤は、花形商品であり、小売の屋台を支える大きな柱であった。今では、その柱も小さくすり減ってしまい、これに代わる商品はない。ビタミン剤の販売に関する、諸々の批判は、ともかくとして、今もって、小売の大きな財産に違いはない。

 タバコの値上げ問題で、大平大蔵大臣は、胸を張って言った。「タバコは、七年間も値上げしていない、五割の値上げは、当然である」そして、これは実現された。厚生大臣は、知っているであろうか。アリナミンが何年値げしていないか。リポビタンは、コーヒー一杯五〇円の時一〇〇円であった。今両者の差は。インフレ下においては、それに見合う値上げをしなければ、財産の目減りになる。これは、大衆薬全般について言えることである。又、このことが、他業種との格差につながっている。

 薬の小売が、その逃げ道を雑貨品、化粧品、健康食品に求めて行くのも、当然の結果と言える。化粧品との価格水準の差は、開くばかり、又、薬でもない健康食品が、高貴薬のように扱われるのは、その価格差のためではないか。逆に言えば、健康食品の価格が正常であり、薬の価格が、低すぎるということである。

 薬の小売は、他業種にない種々の規制を受けているが、今後も分業を指向し、行政当局からの規制は、強まる一方、日薬も、自主規制策を次々に打ち出している。規制を強調するからには、何らかの補償策を、示さなければならない。薬の一部に、再販が適用されている。薬の特殊性、又、規制に対する補償とすれば、あまりにも不十分、再販価格の上方硬直性は、今や、弊害である。

 メーカーが、値上げを申請した時、公取に押えられ厚生省にも押えられる。その理由は物価、大衆薬の値上げが物価にどれほどの影響があるというのだろう。厚生省の点数かせぎにすぎないではないか。その時、日薬は、なぜ黙っているのか、政府に、マスコミに、一般大衆に、アッピールすべきである。

 医師会は、それを支える開業医の経済問題を、第一義としている。日薬も、これを支える小売、しかも、大多数が零細小売であることを考え、その生活を守ることを、第一義とすべきであろう。日薬の目ざす分業も結局は、資金的、人的に経済力の問題に帰結する。

 ところで、価格改正という言葉は、値上げのことであるが、薬価基準改正とは値下げのことだ。今年もこの値下げが行われる。そして、それを理由に、大衆薬の値上げが抑制される。厚生省に、医療用薬品と、大衆薬の価格とは、切り離して処理させるのが、日薬の仕事である。日薬が、薬価基準を論議しているのは、医療機関としてのもので、別問題。零細小売が望むのは、利益団体としての日薬である。それには政治力。五十一年は選挙の年である。小売の声の代表者が生まれることを期待しよう。
(開局薬剤師)

九州薬事新報 昭和51年(1976) 2月15日号

 九州ブロック 日薬代議員打合会 質問事項など検討 代表質問者に磯田氏

 二月二一日、二二日に東京渋谷の薬学会館で開かれる日薬通常代議員会について打合せのため、九州ブロック日薬代議員会は二月六日午後一時より福岡県薬剤師会館会議室で開催された。当日は九州各県の日薬代議員代表のほか、特に福岡県薬より長野会長など幹部が参加し、安部氏の司会により@各委員会割り当てA質問案件B代表質問者C副会長候補D日薬賞。日薬功労賞推薦候補‐などを協議検討したが、その主な内容は次のとおり。

 ▽ブロック会出席者
○日薬代議員関係
安部、芳野、藤野、磯田、西元寺(福岡)、高祖(佐賀)、松尾(長崎)、下田(熊本)、益田(大分)、山村(鹿児島)、宮平(沖縄)。

 ○福岡県薬関係
長野(会長)、白木、中村(副会長)、神谷(専務理事)。

 ▽協議事項
(1)各委員会への割り当て
@選考委員会(二名)
山村(鹿児島)、安部(福岡)。
A第一委員会(七名)
松尾(長崎)、益田(大分)、下田(熊本)、宮平(沖縄)、矢田部(宮崎)、磯田、藤野(福岡)。
B第二委員会(五名)
小笠原(佐賀)、戸田(熊本)、新垣(沖縄)、西元寺、芳野(福岡)。

 (2)質問事項(案)
@日薬は厚生省、議会(政治)に対する交渉態度が弱い。新役員の強化と相俟って積極的になってもらいたい。厚生大臣とも頻繁に接触してもらいたい。医薬分業実現の為めのPRを強化せよ。
A医薬品流通問題に対し日薬は冷淡である。薬業団体に対するイニシャチーブを積極的にしてもらいたい。
B医薬品の再評価の結果発表が大衆に誤解なく周知する方法を講じること。
B 健康食品の規制を強化すべきである。
C 医薬品(医療用)の適正なる流通のため、リベート添付の廃止に対し努力しているか。
E保険調剤に対する税制適正化。

 (3)ブロック代表質問者
磯田(福岡)。

 (4)日薬副会長候補
日薬副会長が五名に増員の予定につき、杉原理事(大分)を副会長推薦候補と決定。

 (5)日薬賞、日薬功労賞候補
@日薬賞
杉原剛(大分)、隈治人(長崎)。
A日薬功労賞
安部寿(福岡)、斉田和夫(福岡)、清水谷至(熊本)、山下利春(鹿児島)

 田中厚相演述 医薬分業の円滑な実施 医薬品等の安全性確保

 全国衛生局長会議で

 全国衛生主管部局長会議は一月二八日、厚生省で開催された。席上、田中厚生大臣はその挨拶の中で、「厚生行政は公共資金に依存する度合いが強かったが、今後はこうした方法に大きな期待はできない。給付の拡大に対しては財政資金の適正配分と共に施策の見直し、諸関連制度の整理統合を行う外、制度の充実に見合った国民の適正な負担を求めていく必要がある」と行政効率化の方向を示し、また具体的には「医薬品、家庭用品の安全性確保対策を強化する」、「医薬分業の円滑かつ適正な実施をはかる」と述べた。また同日午後行われた薬務局の説明会では、上村薬務局長から一〇項目について指示が行われたが、その内容は次のようである。

 (1)医薬分業
五〇年九月の処方箋枚数は社会保険・社会医療関係で対前年同月比二二六%に相当する九〇万枚を超え、国保を加えて一三〇万枚となった。しかし全国の外来投薬数からみると微々たるもので、分業推進に一層の努力を払わねばならない。新年度は薬局等実態調査、指導者講習会、国民に対するPR、医薬品検査センターの充実、調剤技術等研究費ならびに医薬品情報資料整備費の日薬への補助などを行う。

 (2)販売姿勢
昨年、国立ガンセンターの医薬品納入をめぐる贈収賄事件が発生したが、この背景には、薬品業界の過当競争による販売姿勢の悪化があったことも否定できない。この種の事件の再発防止のため、販売姿勢の適正化を強化する。

 (3)薬価基準未収載医薬品
「未収載」である旨を明示するよう指導すると共に誤解を招く方法による販売のないよう慎重の配慮を要請していく。

 (4)医療用医薬品の継続供給
薬価基準収載期間中は企業側だけの事情から製造を中止することのないよう要請していく。

 (5)添付販売
事実が判明したときは厳しく対処する方針は従来と同様である。実態の把握に努め、業界に対する販売姿勢の適正化を指導する。

 (6)資本自由化と物質特許制度の導入
医薬品業界はこれに対応するため研究開発力の強化が当面の課題であるので、その促進に十分配慮していく。

 (7)GMP
五一年度も日本開発銀行中小企業金融公庫などから必要な資金融資が行われる

 (8)安全性対策
新医薬品の製造承認審査の厳格化、モニター制度の充実により、副作用情報収集体制の整備をはかり、必要な行政措置を講じる。昨年三月から全国の病院、診療所に副作用情報を伝達する制度を発足させた。

 (9)再評価
配合剤の再評価は四月頃から開始される。今後も単味剤の審議状況を勘案しつつ、配合剤の指定を進めていく。

 (10)血液事業およびワクチン類の需給
血液事業推進部会を設けた。国、中央公共団体、日赤が一体となって血液事業を一層促進するため@献血組織の育成、強化による献血思想の徹底A血液成分製剤および血漿分画製剤の普及B血液製剤の供給体制の改善C血液代金自己負担金支給事業の促進などに努める。なお、必須なワクチン血清類の確保をはかるため絶えず開発および改良研究を進めるとともに、常に需給の動向をみて業界を指導し、不足する事態を生じないよう努める。

九州薬事新報 昭和51年(1976) 2月25日号

 処方箋発行のメリット・デメリット(上)

 「分業医師の提言より」

 本文は日本医事新報の一二月六日号に発表されたもので、筆者は関根博氏(東京・北多摩医師会副会長)、その内容は@医薬分業から処方箋発行までA処方箋料の占有比率B医師側からみた場合のメリット・デメリットC患者側からみた場合のメリット・デメリットD薬局からみた場合のメリット・デメリットE今後の問題点−からなっている。

 関根先生の開業医としての私的、並びに医師会役員としての公的な立場からの医薬協業に対する理解とともに、文中、薬剤師は勿論、薬事・薬業の全体に対して適切な問題点の提起も行われている。非常に良い資料であるので、左記して参考に供する。

 ◆医薬分業から処方箋発行まで
所謂、赤ひげ時代は、医師は漢方医が主流であり、「くすし」と称され、治療も薬剤が主体であった。医療費もそれに伴って医師が個々別々に自己判断により使用した薬価を基準として治療費を算定していたものと思われる。

 ところが明治維新によって諸制度の改革が実施された。政府は明治七年、医制を定め、三府に伝達した。これは医事、薬事に関する法律第一号ともいうべきもので、また同時に医薬分業のあり方を明確にした最初の法制でもあった。明治八年に一部が改正されたものが次のとおりである。

 医制第二条 医師タル者ハ自ラ処方書ヲ病家ニ附与シ相当ノ診察料ヲ受クヘシ
まさしく医薬分業の明文であったが、薬剤師の身分が確立しておらず、また医師対薬剤師数が充分でなかったために空文として分業は実施されなかった。

 明治十三年、十四年以降全国各地に薬舗主の要請を目的とする薬学校が設立されたが、その数も非常に少なく明治二十三年、薬律実施当時でも医師数三万八〇〇余名に対して薬剤師数は僅か一七〇〇名に過ぎない少数であった。

 明治二十二年、法律第一〇号で薬品営業、薬剤師試験、毒薬劇薬等の設定が施行されて薬品制度の基盤は出来上ったものの何等分業に対する動きは見られないまま、大正十四年の薬剤師法制定となった。

 この条令の第一条に「薬剤師トハ薬局ヲ開設シ医師ノ処方箋ニ拠リ薬剤ヲ調合スル者ヲ言フ」と薬剤師の権利を明記してあるにも拘らずその附則第四三条には「医師ハ自ラ診療スル患者ノ処方ニ限り……自宅ニ於テ薬剤ヲ調合シ販売投与スルコトヲ得」と書かれてあり医薬分業はまたも単なる空文として現在にいたったのである。

 この間、薬剤師側の同法律に対する改正運動、請願等も度々行われ、また法案の提出もあったようであるが、総て廃案となっている。この長い歴史の空間に、薬剤師は自らの調剤権を生かすことなく、単なる薬店の経営主と化して行ったのである。

 昭和三十一年に医師法が改正され、その第二二条に次の如く書かれている。
第二二条(処方せん交付義務)
医師は患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には患者又は現にその看護に当っている者に対して処方せんを交付しなければならない。ただし、患者又は現にその看護に当っている者が処方せんの交付を必要としない旨を申し出た場合及び次の各号の一に該当する場合においては、この限りではない。

 一、暗示的効果を期待する場合において、処方せんを交付することがその目的の達成を妨げるおそれがある場合
 二、処方箋を交付することが診療又は疾病の予後について患者に不安を与えその疾病の治療を困難にするおそれがある場合
 三、病状の短時間ごとの変化に即応して薬剤を投与する場合
 四、診断又は治療方法の決定していない場合
 五、治療上必要な応急の措置として薬剤を投与する場合
 六、安静を要する患者以外に薬剤の交付を受けることができる者がいない場合
 七、覚せい剤を投与する場合
 八、薬剤師が乗り組んでいない船舶内において薬剤を投与する場合。

 以上の条文で明らかな様に、原則的には医師は患者に対して処方箋を交付しなければならないが、但し書で医師の調剤権が全面的に認められている現実である。医師法のこの但し書によって、薬剤師の調剤権は全く縮少され、薬店における調剤室は次第に雑貨の棚と化して行ったようである。

 昭和四十八年十一月、武見会長は「技術中心の診療報酬の方式に転換する。再診料を五年以内に一〇〇点とし、その段階で医薬分業を完全に行う」と、医薬分業に関する発言を初めて行った。それ以後、中医協の場においても諮問の談話の内にも処方箋発行が論ぜられるようになり、昭和四十九年二月に六点であった処方箋料が一〇点となり、十月の改定時には大きく五〇点に引上げられることによって、一挙に処方箋発行の機運が各方面に高まってきたようである。薬剤師側は余りにも永い冬眠からの目ざめに相当の時間を必要とするようであるが、医師会との話し合い等によって、ようやく薬剤師としての本来の調剤権を発揮する兆しが見えて来たようである。

 ◆処方箋料の占有比率
私は本年(昭和50年)六月一日を期して全面処方箋発行に踏切った。拙院より患者通院動線上一二四mの所に新たに調剤薬局が開設されるのを機として実施した訳であるが先ず診療行為別からみた占有率より分析してみると左記の如くである。

 実施前五月分、実施後六月分の夫々の提出全レセプトの点数分布をコンピューター集計によって資料行為別占有率を比較してみた。実施前全体の五三・七三%を占めていた投薬料は処方箋発行により当然〇%となり、これに反して三五・五二%を占める処方箋料というものが現われてきた。

 レセプト枚数は、両月共に約一〇〇〇枚で、全例外来であり、五月、六月とも診療内容の大きな差はなく七月分レセプトでは三六%を占めているところより、処方箋発行による処方箋料という技術料は、全診療費の三五〜三六%を占める訳けで占有率としては非常に高いのに驚いた訳である。診察料の三二・八八%より高率であることは技術料評価の面からみて初診料、再診料が現況余りにも低いことを物語っているようである。

 処方箋発行によって診察料が二六・〇八%より三二・八八%と上昇したのは全体の占有バランスの比率変動によることもあるが、処方箋による投薬日数によっても大きく左右されるものと思われる。以上の単純なる比率からでも、夫々の医院における現況を照合してみる時に、処方箋発行のメリット、デメリットがある程度把握出来ると思う。

 ◆医師側からみた場合 
<メリット>
 (1)医療経営の収入増加
薬剤に対する支出は注射薬剤を除いては皆無となる即ち月末の問屋支払が殆んどなくなる訳で、収入の殆んどが技術料によるものであると評価出来、実質的収入増が見られる。

 (2)人件費が少なくてすむ
「診療→調剤→投薬→会計」というパターンが「診療→処方箋発行・会計」というパターンに極端に短縮される。「調剤投薬に一人完全に人力を要していた医院では、完全に一人の人件費が浮いてくる訳である。また調剤時間も診療時間に多少なりとも振り替えられることから、患者との対話も今迄より多く出来る余裕が生じると共に、投薬に対する誤りの危惧も完全になくなってくる。

 (3)医薬品の購入管理、資金在庫施設が不要
医薬品の問屋をかいしての購入は、医院経営上重要な課題であるが、メーカー品、類似品等の比較、一括購入問題、添付云々の問題等について一切頭を使う必要がなくなる。また包装によって冬眠する薬剤もなくなり、有効期間を気にすることなく、薬局の薬棚及び在庫棚が全く空となる誠にスッキリしたものになってゆくようである。

 (4)窓口事務、請求事務の簡素化
窓口に於ける薬価計算は不要であり、薬価改定時のあのあわただしい薬価表の索引等も全く不要となってくる。更に毎月の請求事務の際、投薬欄への記載が皆無となることから、請求事務の能率簡素化は驚くべきもので、請求事務の日数が半分になるといっても過言ではないと思う。

 (5)待合室が非常に整理される。
調剤待ちの患者がなくなる為に、待合室は診療待ちの患者のみに整理されてくる。即ち窓口に於ける繁雑性がなく、患者動線も非常に単純化してくるために、待合室は従来よりも混雑することなく非常に整理された状態となってゆく。

 (6)処方が自由に出来る
保険診療上、投薬と病名の関連等で返戻される例もなくなり、医師としての本来の処方を自由に書くことが出来、また薬剤もメーカー別に夫々価格を頭に入れて投薬選定するというわずらわしさがなくなってくる

 (7)節税になる
特別措置法二八%の場合には薬価を入れての総収入であったものが、実収入としての年間収入である為に非常にメリットが高いものとなろう。

 <デメリット>
 (1)患者に処方箋発行移行時のPRを充分に行う必要がある。このため私はチラシ(文面=皆様に使用する薬の種類も最近非常に多くなり、よりよい薬を確実な調剤の下で使用して戴く事が治療効果を最高に期待出来る方法と思います。今般多少の御不便はかかると存じますが、処方箋発行により下記保険薬局で投薬を受けて戴く医薬分業方式を5月中旬より実施いたしますのでよろしく御協力下さい。…医院からの調剤薬局略地図を附記。)を約二ヵ月前より来院患者全員に窓口で配布し、また待合室に処方箋発行の意義を簡明に説明したポスターを作成してPRに努めた。

 医院によっては、本人と老人医療の患者のみ処方箋を発行し、一部負担金のある患者には自家投薬するところもある様であるが、かかる方法であれば、処方箋を発行しない方がよいと思う。患者間で処方箋の意義が不明確となり、トラブルを生じ易いようで発行するならば思い切って全面処方することが処方箋発行の真の意味があると思う。最初の一ヵ月は窓口での患者教育に相当の努力が必要であり、この努力がこのシステムをスムーズに発達させるか否かの大きな鍵を握っているように思われる。

 (2)潜在薬価がなくなる
潜在薬価は全くなくなる値引き、添付等による薬価幅等による所謂、潜在薬価を期待することは出来ないが、果して一ヵ月の投薬による潜在薬価がどの位あるかを実際に計算した場合に前述の処方箋占有率三五%の実値とどの様な差が出てくるか問題であるが、全収入薬剤を七掛けで購入した場合には完全に処方箋発行の方が大きく優位を占めると思われるが、個々の薬剤差がある為に細かく計算しないと結論はなんとも言えないと思う。

 (3)処方通り調剤されたかの不安
誠に薬剤師に失礼なことであるが、確かに医師側には調剤の真偽の不安はあるようである。然し、この点は今後の薬剤師会の態勢と再教育と姿勢の問題で、心から医師の希望する点でもある。

 (4)事故責任の不明確
投薬に於ける医療過誤の場合、処方箋発行による責任を如何に分担するか、今後検討さるべき大きな問題であろう。

 (5)医薬品情報の減少
従来手元に薬剤があり、自ら調剤する立場から医薬品に対する情報は非常に多かったと思うが、一度、自分の手元から薬剤が離れた場合、プロパー活動も手薄となり一般的薬剤情報は減少するようである。

 (6)分業定着後の保険点数の不安
処方箋五〇点が定着した段階に於て、点数評価は今後の問題であろうが、今後の点数改訂時にどのようにこの点数が位置づけられ、技術料として如何に評価されてゆくかに大きな不安が残されている。処方箋発行という従来と全く異ったパターンに移行した者にとって、全医療機関が実施される間の種々の思惑は大きく残ると思う。