通 史 昭和50年(1975) 日薬−県薬−市薬
九州薬事新報 昭和50年(1975) 7月5日号

 福岡県薬剤師会 臨時代議員会と分業懇談会

 福岡県薬剤師会(長野義夫会長)は、六月二七日、昭和四九年度の決算認定のため第32回臨時代議員会並びに総会を県薬会館で開催、引続き懇談会を開いて分業推進等について協議した。

 代議員会は午後一時四五分から神谷専務理事の司会白木副会長の開会のあいさつで開会、長野会長は「分業進展とともにその経済性に着目した商業主義の業者が進出することは明らかである。この際薬剤師としては分業応需のための卒後研修につとめ、国民医療の分担者としての責務を果たさねばならないと考える」と所信を述べ、ついで来賓の岩橋県薬務課長は、さきに開かれた全国薬務課長会議における今後の行政指導要領(別掲)を報告してあいさつとした。それより国武議長によって議事に入り、富永会計担当理事から四九年度歳入歳出決算につき詳細な説明があり、質疑応答のあと異議なく歳入、歳出二九、七五三、七九六円を認めて閉会、引続き開催の総会において会長より代議員会決定事項の承認を求め、満場一致で決定した。

 それより懇談会にうつりさきの統一地方選挙において当選した業界関係者の地元より感謝の意が述べられて引続き分業問題について薬務課長もまじえ懇談が行われた。なお、懇談会で保険薬局コード番号(九月実施)について神谷専務理事から説明のあと報告された県下の分業推進情況は次のようである。

 ・処方用医薬品繁用度調査結果の報告(別掲)
 ・県下の保険薬局数は増加の傾向で、九二六軒(前年八三八)になった。
 ・五月の請求金額(県薬扱い分)約六千万円は前年の約三倍。六月請求分は七千万円に増加することが予想される。
 ・請求金額六千万のうち約二分の一は二三軒の調剤専門薬局中の一八軒(久留米、柳川、二日市、糸島、福岡、門司、飯塚等)で請求、残りの三千万を一般薬局が請求、一般薬局の請求、一般薬局の請求額は漸増の傾向であり、若松地区、八幡穴生地区飯塚地区等は今後ものびることが予想される。

 適配撤廃後の対策 清水貞知 

 ◆ポスト適配
去る四月三十日適配条例に対する最高裁の判決は、同法の庇護の下に愉安の夢を貪っていた剤界にとっては正に黒船来襲以上の驚きであった。それから二カ月余、余韻未だ冷めやらぬ只ならぬ気配の中に、予想通り驚天動地の事態が持上ったかといえば、案外そうでもなかった。だからといって、適配撤廃恐るるに足らずと高を括り、今後共剤界の静ひつを信じて疑わない人は、先ずいなかろう。

 現状はむしろ嵐の前の静けさとでもいおうか、その背後にあっては、いま憶測・暗影におびえた種々な風説も飛んでいる。曰く、スーパーの進出、大型店の割込、巨大な財力を有する第三資本の睥睨(へいげい)等々である。従来共その懸念は皆無でなかったにせよ、適配条例という一つの大きな障壁に阻まれて、意の如くには展開できなかった。だが最高裁の判決を契機として、舞台は大きく暗転したのである。

 ◆自主規制

 去る六月二日附薬業時報によれば、これが対策の一端として「日薬・ポスト適配で対策を支持」と題し「薬剤師会の自主規制の強化」その他三項目を骨子とする策を打出している。話しは変るが、私の永年の病院勤務の経験からいって、この自主規制という文句程空々しい逃口状はない。己の矜持を持し、自からを律することに頼れる位なら、最初から規制などは無用である。それができない処に人間の悲しい性と浅ましい業があるのである。

 現在こそ多少その弊、改められつつあるとはいえ、未だに医薬製造業界における売込競争は激しく、一時鳴りを潜めたかに見えた添附押込みも、一部にはその跡を絶っていない節がある。これなど自主規制というより、当局の行政権発動という強力な強権をもってしても尚且つこの態である。片や製造業者、片や販売業者とその業態こそ違え、その根本においては何ら異る所はない。

 ◆問題は管理薬剤師

 といって私は、それが全く無意味だといっているのではない。むしろ分業の完璧を期するためには、それ以上、何等かの形で内面的な指導と規制が必要であると主張したいのである。特に非薬剤師の開設する薬局に対する指導監督の強化は絶対に必要である。管理薬剤師に関する事項については章を更めて書くつもりであるが、ありていにいって営業圏内における管理薬剤師の比重も、従って発言力も極めて低く、名義貸しでないにしても、単なる名目的存在に過ぎない事例が多い。

 これは薬局の機能が調剤という重要な責務を現実に担おうとしている今日、決して黙過してはならないことである。素人から見れば「処方箋通りに薬を合わせる位何でもない行為」が時として重大なる結果を招くに到ることは、既に本紙上において述べた。

 調剤行為の重大性を認識すればする程、無きに等しい現状の秩序と想い合わせ非薬剤師の開設する薬局に対する指導監督の強化を痛感するのは、敢て筆者のみに止るまい。かかるが故にこそ、ポスト適配の薬局対策がさしてその実行期すべきもない所謂自主規制の逃口上に終ってもらっては困るのである。

 告知板

 ◆福岡市学薬理事監事会
日時 7月7日11時
会場 福岡県薬会館
議題
@報告事項=▽冬期温度調査報告▽十大都市学校保健研究協議会報告▽50年度学校保健講習会報告▽教師の音声レベル測定について▽福岡市学校保健会総会▽新幹線騒音測定について
A協議事項=▽全国学校薬剤師講習会▽給食センター調査▽林間学校調査▽九州地区学校保健研究協議大会▽夏休み開放プール調査について▽日薬学術大会(神戸)

 ◆福岡市薬 理事・部会長会
福岡市薬剤師会(斉田和夫会長)は、第四五回理事会と第三五回部会連絡協議会を左記により開催する。
日時 7月9日(水)
13時より理事会、14時30分より部会連絡協議会。
場所 福岡県薬会館
議案
@社会保険業務に関する件
 ア 薬局コード番号について。
 イ 処方応需策について。
A休日急患センターに関する件
B研修会開催について
Cその他
D部会よりの質疑応答。

 福岡市薬 第二回 研修会

 福岡市薬剤師会(斉田和夫会長)は休日急患センター医薬品集による研修会(三回シリーズの第二回目)を六月二四日一時から県薬会館で開催した。同研修会は当初、休日急患センター出勤薬剤師のみを対象としていたが、今回から医師会よりの要請もあって、市の全保険薬局の会員を対象とした。当日は受講者七一名にのぼり、荒巻専務理事の司会斉田会長挨拶ののち、左記により研修を行った。

 ▽休日急患センターの調剤申し合せ=同センター・成沢哲夫専任薬剤師
医薬品集の「調剤申し合せ」によって@調剤A書記B服用の表示C処方箋記入事項D一般投与法‐などに関して詳細な説明あり。

 ▽中枢神経作用薬について=九大歯学部病院・河野義明薬剤部長
(1)向精神薬・・・@強力精神安定薬A緩和精神安定薬。
(2)解熱・鎮痛・消炎剤。
(3)(1)(2)に関連して、薬効と心理的効果、非ステロイド抗炎症剤の薬理学的性質など。

 ▽循環器管作用薬について
福岡市立第一病院・吉本喜四郎薬局長
(1)利尿剤・・・@体液の分布と水分の排泄A腎臓の構造B腎臓の機能C利尿剤の分類と種類D利尿剤の選択E降圧作用を示す利尿剤の薬理作用。
(2)血圧降下剤・・・@血圧A高血圧の治療B血圧降下剤の選択C降圧剤使用時の注意D降圧剤の副作用。

九州薬事新報 昭和50年(1975) 7月15日号

 所感 日本薬剤師会 会長 石館守三

 いつの時代にも、時流の停滞はあり得ないが、昨今は、とくに大きな、しかも急速な時流が感得される。それは、世界的な規模で、大きく世界の様相を変える動きを持っているように思われる。

 わが国の経済が、一旦の石油ショックで大きくゆらいだことは記憶に新しい。それに似たエネルギーの勃発が各所でおきている。わが国の薬学、薬業界がより広い視野で対処しなければならない時期にさしかかっていると言える。

 世界薬剤師会が、その組織を従来の欧州中心から改め、世界の各ブロックを主体とした連合体にしようとしていることも、この趨勢をふまえた動きである。世界の全人類に奉仕する薬学、薬業のあり方が今後の課題とされよう。

 わが国の、とくに薬業界が、従来の狭い視点、古い慣習に固執することは、世界の大勢からおき去りを食うことにほかならない。医薬品流通の適正化は、資本自由化という門戸開放を機として、焦眉の急となっている。わが日本薬剤師会も、世界の大勢に順応し、全薬剤師の団体として大きく脱皮し、このような、世界と国内の動きに誤りなく対応したいと考えている。

 病等生活の教え 福岡大学病院 薬剤部長 黒田 健

 五月末より三週間あまりは外科病棟に入院した。手術前後の一週間ばかりは諸検査や術後管理のスケジュールに追われる日もあったが、その後はひたすら養生専一につとめることが患者としての義務であり、検温、回診およびつけかえ、服薬、食事といった一定の日課を規則正しく繰り返し経過を観察しながら術創の回復を待つばかりの毎日であった。

 西区の町並の向うに能古島を遠望する窓外の景色は、ある時は目に沁みるような新緑が輝き、また一夜にして水を張られた田圃に稲の爽やかなそよぎが見られるなど、勤務を離れての慰めにはことかかなかったが、一日も早い軽快治癒を願う患者の一人としては、経過の一進或いは一退に神経質で不安定な情緒が敏感に反応する状態にあったようである。屈託のないのんびりした患者もいるであろうが、ささいなことでも一応納得しておきたいのが病人の通例ではなかろうか。このような意味での薬についての訴えも多いだろう。

 さて今回の入院は私にとっては本来の治療目的のほかに、薬剤部対病棟の関係における現状についての反省と、将来計画としての指向は持っているけれども現実には実現の見通しがはっきりしない薬剤師の病棟進出について現場の様子をうかがってみるよい機会ともなった。ともかくも不十分な観察ではあったが、次のようなことを考えながら退院してきた。

 一般的に専門職としての技能をベッドサイドで十分に役立たせるためには、その土台としての人間関係の疎通と保持にもっと慎重な配慮を加える必要を忘れぬようにしたい。専門的知識技術の向上は言うまでもないが、よりよき人間関係を樹立するためのより意識的そしてより積極的な日常の積み重ねを是非心がけねばならない。

 「患者志向」の薬剤業務とは、適正な薬物療法と使用薬剤の品質、安全性、薬効を専門的に補償するだけにとどまらず、患者の特殊な心理状態に対し理解を示し、暖かく対応しうる姿勢を要求するであろう。カウンセラーとしての薬剤師の言動は、専門的に正確であるだけでなくあらゆる患者を真に教育指導し納得させることが大切であることを常に心に留めておきたい。

 医師や看護婦など医療チームのメンバーとの関係については、当院では残念ながら相互理解に不足があることが感じとられる。例えば病棟管理薬の取り扱いに対する薬剤部の助言や指示が計数管理面に強く受け取られやすいため、品質管理に意をつくす薬剤部の本質的機能が仲間である若い看護婦達に看過され、誤った固定観念を植え付けるおそれもある。

 また病棟における看護業務の実態についての薬剤部員の認識不足も問題であって、個々の歯車としての役割を病院全体の業務の流れのなかに把える態度を養成するようにしたいものである。中央的サービス部門である薬剤部の綿密な努力によって病棟との相互理解も深まり病院薬学の専門性をベッドサイドに直接反映させる条件も整うであろうし、またそのニードも潜在しているように思われる。患者としての病棟でのささやかな経験をもとに、薬剤部長としての断片的感想をまとめてみたところ極めて常識的な結論が導かれたようである。よりよき人間関係をうるための最善のアプローチは現場に出向いて相手を知り同時に己を知ってもらうことにしくはない。

九州薬事新報 昭和50年(1975) 7月25日号

 適配条例の撤廃について憶う 宮崎綾子

 四月末に最高裁が、薬事法の適配条例を「違憲」と判決し、これを一般紙やテレビが大々的にとり上げた時は、業界のうけたショックも激しく「判決がおりても薬事法の改正があるまでは、現状の儘から」と、些細なことに慰められていたが、1月経て一部改正案が議員提案され可決されたあとの、ポスト適配について業界紙が競って薬務当局や日薬その他の団体の動向を報道し、自他の意識の改革をうち出しているのと対照的に、末端の開局者とくに女子薬の場合は、その手前の問題で長年にわたって意欲をスポイルされることがあまりに多く、ためにその大半にとっては日常生活の意識の外にあるような感触しかない−というのが2月余が過ぎた現在のうけとめ方ではなかろうか。

 思えば敗戦後の日本経済が奇蹟的ともいえる早さで回復した上に、さらには世界の脅威となるほどの飛躍を続ける頃から、必然的に国内でも量販時代に移行しだし、薬業界においても薬は本来身体にとっては異物であり、用い方では毒にもなるという医薬品の特殊性が逆に、その販売には薬剤師のライセンスを必要とすることからくる特殊地帯の安定利潤が、シビアな他業種の好餌と目され、それに対する自衛手段もあって商業ベースにのった薬局経営が優先するにつれて、「消費者のために…」というデモクラシー的呪文のもとに等閑視されがちとなった。

 大阪の一画でおこった薬品の廉価販売はまたたく間に名古屋・東京と移り、九州に飛び全国に及んだが、業界の混乱是正に働くべきメーカー・卸もやはり営利会社であるための利潤追求に走り、消費者もまた売手市場時代の反動からか、広告によりチラシにつられて必要以上の薬品を廉価に誘われて買いだめる等、市中の価格競争は激化の一途を辿ったため、国民の保健衛生上からもそれ以上の薬局の品位と、医薬品の品質が低下することを憂えた日薬代表の高野一夫参議員の多大の努力もあって、12年前に議員立法により成立施行したのが、いわゆる適配条例と呼ばれる「薬局の距離制限を定めた適配条項」である。

 これは戦後まもなく発足した社会保障制度審議会のもとに、従前の各種保険を整備拡充して新国民健康保険法を成立させ、2年後には一応国民皆保険制度が達成されるとともに、薬業界としても長年の悲願とした医薬分業実現への曙光とうけとめ乍ら、現実には小売薬局の売上げ減に連なる懸念をもたれだした、それより3年後のことであった。

 同法の施行によって泥沼化しつつあった業界の混乱状態は歯止めされ、既存薬局の安泰は一まづ保証されたが、一度商業ベースにのった経済活動の面白さに刮目した積極的経営者は、その後も廉価販売を続けてさらに新らしい需要層の開拓に努め、わが国G・N・Pの上昇に比例して所得も増し企業としての成功をみたものの、結果的には地区同業者間のシェア争いの上での繁栄とも見られた。

 さらにそれは善意な個人の開局希望まで阻止する形となって、彼らの批判をあび折角の立案の真意も空しく、次の総選挙では政界における薬系唯一の代表者であった高野氏を無残にも落選させてしまった。
他面、メーカー・卸段階での過当競争も資本の自由化問題とからんでエスカレートするばかりで、国民皆保による投薬量の増加は新薬開発ともあいまって、卸の医・薬専の比は平均して3:7だったのが5:5となり7:3に逆転して、寡少化する一方の薬系流通部門におけるシェア争いは、薬剤師職能に対する愛着と研修度にかかわりなく、薬局間の経済的格差は拡大するばかりであった。

 そしていよいよ零細化する弱小薬局にとっては、またしても医薬分業への道はバラ色の夢とみえ、政治的解決をめざして団結こそは力であると、折々の呼びかけに応じて乏しい懐からの拠出・献身を、過重とも思えだした会費の納入も含めて、唯唯として続けてきたのも非力な一個人の力ではどうにも出来ぬ時代の流れを知るゆえに若干の不満を抱き乍らも、やはり最後の拠点と信じて所属団体の強化を願うのであった。

 開局薬剤師と無縁状態のまま一部医療費の無料化が近年急速に進むにつれて、その経営基盤はさらに沈下するにつけ、かねて大型薬局との対抗上それぞれに漢方・育児・自然食・皮膚病等の専門化をめざして研鑚に励んできた開局者たちにとって、過年度のオイル・ショック以来の経済不況とめざましい公害追放運動の結果、漸く量より質にと消費者が目をむけるに及んで若干その労も報われだしたとはいえ、この時期に迎えたポスト適配は、再販の行方も含めて今一度これからの自己の生き方として、薬剤師職能と医薬分業について再認識すべきではなかろうか。

 昨年秋以来、政府の健保赤字財政の解消政策により医師会の一応のコンセンサスもあってその実現はようやく緒についたとはいえ、巷間伝えられる種々の溢路やデメリットについていえば、物的余裕も個人的コネもあまりない私たち仲間の多くは、正直のところマン・ツー・マンの方式の云々のと下駄をあづけられても手を束ねた感じであるが、関係筋の報道をみると日薬の自主規制方針に加えて行政官庁は、業界の無法状態に陥るのを防ぐために現行薬事法によるチェックの厳正化をうち出しているが、その目的とするところとは別に実際には、微力な底辺の者ほどそれに抵触する懼れも大きく、一方分業推進もかねて要指示薬の拡大の可能性も充分考慮されるとき、やはり今後における開局薬剤師の基本的生き方は医薬分業による医療担当者の道に進む以外になく、物心両面(といっても前者は別途考慮の必要があるが)とくに自己の決意一つにかかる後者においては十分に熟慮検討して、薬剤師が本来あるべき姿としての薬局経営の原点に立ち直るべきで、それ以外に社会が求めその存在を許容する薬局業種はないのではなかろうか-

 勿論、処方箋受入れに全力を尽しその傍らで医療担当者の一員としての精神をもって軽医療に献身するのも、相談薬局を続けるのも各人の考えによって自由であろうが、少くとも過去にみるような社会に与えるイメージ・ダウンが再びくり返されるような事態が、形態の如何を問わず万一生じればいづれは無用の職種として淘汰されても、歴史の必然性からやむを得まい。

 しかも何時、どこから目前に出現するかも判らぬ巨大資本の経営薬局が、合法の仮面の下にまきおこす非情な斗いを防禦するため、それはまた、「サイレント・スプリング」にも似た悲劇を薬業界にもたらさぬために、大は大なり小は小なりに今後とも共存できるような方向づけを、現存するすべての薬剤師が衆智を集めて早急に確立し、力を合せて実践できぬものか?!と、従来ややもすると上層団体と末端会員の間に、さらには同じ会員同志の間にも意識のズレがあるために、薬剤師にとり最大の拠点であるべき日薬・県薬の団結力の弱さと、その無力化を痛感する者が少くない時だけに、多くの仲間たちの願いと祈りをこめて訴えるのもつまりは、戦後の変動期を事の成果は別としてそれぞれの境遇において精一杯に生きてきた年代層から、いよいよ複雑多岐になってゆく薬剤師という名のライセンスを手にする、次代の若い仲間たちの地位の浮揚を切望するゆえ……と、ご了承頂けば幸いである。(福岡県女子薬)

 調剤過誤に想う 九州大学歯学部付属病院 薬剤部長 河野義明

 九州中央病院の調剤過誤事件(3月19日付夕刊フクニチ、5月7日付朝日・西日本新聞など)は、将来に夢多い可憐な女子大生の受難だっただけに医療関係者に、やり場のない、やるせない気持を与え、また分業推進に拍車がかけられていた時期だけに大きな衝撃であった。

 調剤過誤は薬剤師にとっては全く致命的である。これまでにも大なり小なり過誤を起こしていたものも示談という形で処理され余り表面化されなかったが、医療過誤紛争がマスコミに次々と克明に採り上げられるようになってから患者の薬剤に対する認識が高まり、漸次、調剤過誤にも目が向けられ始めた。

 過誤は監査の段階で発見されるものが約三%で、最終的には推定で〇・〇二%はあるといわれる。単独薬剤師に対する調剤行為不信感が分業達成に齟齬をきたさないようにせねばならないが、病院においても投薬前の他者による監査の実施は今後一段と厳しく行い、万遺漏なきを期すべきである。こんな初歩的な重大な過失が二度と起こらないなためにはどうしたら良いか。今一度調剤の原点に返って基本的な態度を考えてみたい。

 ・標準動作を設定すること・・・いわゆる調剤申し合わせを決めそれを励行することである。薬袋の書き方、調剤済みのサインの仕方など一定の規定に従ってルーチンに確実な調剤を行なうもので、ルールが正常に守られているか否かによってその人のその日の心理状態が把握できる。標準動作が乱れている日は要注意である。思い切ってその日のチームから除外すべきである。

 ・指差呼称の実施・・・鉄道従事者の行なっている、線路オーライ、踏切オーライのことである。指差し呼称して確認するのであるが、なにも調剤室で大声あげて実施せよと言うのではない。心の中で行なうのである。

 筆者も二〇年来行なっているが、かって注射用・生理食塩液の量産の際、塩化ナトリウムの結晶五〇〇g瓶入り一〇本の中に混入していた臭化ナトリウム一本を発見した経験がある。倉庫掛から出庫の際に混入していたものであるが、結晶は白色、瓶の外形は両者共同じで、隅々、同一製薬会社の製品であったからラベルのデザイン、色彩、活字まで全く一緒で、異なるのは小さく書いた塩化と臭化の塩と臭の違いだけであった。例のごとく指差呼称して蓋を開け、秤量し、薬匙を下に置き、蓋を閉めるとき再度の指差呼称で発見したのである。薬品購入の際は、局方品、試薬類は同一メーカー品はなるべく避けた方が無難である。

 ・劇・毒薬は極量と常用量を装置瓶に記載すること・・・日薬の調剤過誤対策委員会で申し合わせが行われたと聞いている。

 ・標準量の少ないものは装置瓶に用量を記載すること・・・通常の用量は大約一日三〜六錠が通例であるが、カルバマゼピン(テグレトール)のように三叉神経に対し初日は一〜二錠で充分なもの、グリコダイアジン(ゴンダフォン)のごとく一日一〜二錠使用のものは特に常用量を記載する。

 ・神様ではないのだから人間の行なう調剤はそれでも一〇〇%の正確さは期し難い。可能性を機械にかける試みが当然なされても良い筈である。東京の国分寺にある無人スーパーのチェックシステムを信藤氏(大阪日赤)は考慮中である。日本機械新興会の方式で、これを調剤に応用して処方箋にパンチを入れ、どの調剤台の何番目からとった薬剤であるかを記録するのである。

 ・根本的には薬剤師のプロ意識の有無である。二〜三年で退職するから結婚のための体裁の良い腰かけ的気分、あるいは外見的な面からばかりみた単調な計数調剤に意欲を失い薬物療法の一環に携わるという自覚に欠けた消極的男子薬剤師が仮りにあるとすれば、過誤は永遠に跡を絶たないであろう。

 石館会長も言われるように、単調にみえる外見的な調剤業務は末梢的な事柄にすぎない。薬剤の薬理や性状を知った上での処方箋のチェック、安全性の確認、調剤方法の決定、服用時の指導など一連の思考の上に調剤の本来の重点がある。その背景には幅と奥行きの深い医薬品に関する学識と技術が根底となっていることを今一度理解すべきだ。怠惰な馴れはいけない。多少の意欲があれば我々の周囲には尽きることのない情報が安易に入手できる状況である。

 日刊新聞の社会面を読んでみただけでも最近の経口糖尿病剤に関する知見が伺えるのである。例えば朝日新聞を例にとれば、すでに昭和48年にはトルブタマイドがインシュリンの死期を早める恐れがあると2回に亘る報道が載っている。49年6月24日は血糖降下剤で死者、廃人続出の例、翌25日は厚生省の実態調べの状況、さらに12月14日は開業医から与えられた錠剤で植物人間になった大石孝雄さんの実例、50年1月29日は死を誘うトルブタマイドとして米国医学会誌の解説など、合計六回に亘って報道されているのである。大衆紙からでさえスルフォニール尿素系の副作用の重大さが伺い知れるのである。ましてや医学、薬学の専門書、雑誌類にかこまれている我々の立場ではもっと敏感な反応がなければならないのである。

 振り返って考えてみるとこれほど個人の権利が主張され、尊重されているわが国においてさえ、一度、医師から交付された処方箋が患者自身のものであるという権利意識がどうして生まれないのであろうか。医師は誰でも読める処方箋を書く義務(癌患者、神経科患者は別としても)があり、患者は与えられる薬の内容を知熟しているのが当然である。直接自分自身の生命に関する事柄を無関心である筈がないからである。今回の過誤事件も患者自身が服用すべき薬剤を真に理解していたら、従来のものと異なった薬が渡されたことを知った時点ですかさず疑問を抱いて、調剤者に問い正した筈である。医療の原則が等閑視され、旧態依然とした医療界の厚い壁をつくづくと感じる今日この頃である。

 期待される薬剤師像と薬学教育 城戸嘉寿子

 薬剤師の年来の願望であった医薬分業もようやく実現化のきざしを見せ始め、それに伴い有能な薬剤師を社会が要請するのも当然の成り行きである。

 薬剤師法総則第一条に「薬剤師は調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保する」と規定されている。しかし我々をとりまく社会の現状を考えると、薬剤師の第一職能である調剤は医師の特例として投薬を認めたことによって有名無実のものとなってしまった。医薬品の供給者として、開局薬剤師も地域住民の健康・衛生を確保する技術者というより、医薬品を商品として、流通の末端を担っているに過ぎない者が大部分であるという印象を免れない。薬剤師といった場合、国民一般が思い浮かべるのはおそらく病院診療所の薬剤師と開局薬剤師であろうが、又事実それらの職能に従事している薬剤師が大半と思われるがそのいづれもが職能を全うしているとは思われない。

 薬剤師の職能が充分に確立されなかったのは、法的欠陥もあろうが大学における薬学教育にその大半の責任があると考えられる。「薬学とは如何なる学問か」との問いに宮木高明博士はその著書「薬学概論」の中で「薬学は自然科学の一分野で物理学、化学、生物学のような基礎科学を基幹とし、特定の総合体系と特定の方法論をもった総合科学であり、薬を介して医学と融合すると共に、人間の生命、生活にとって存在意義のある薬の科学的技術である」と述べておられる。我々は日ごろ薬という言葉をあまりに無雑作に使っているため、改ためて「薬とは何ぞや」と開き直られると万人が納得するような簡単明瞭な答えを出すことは案外むづかしいものである。

 同じく宮木博士の「薬学概論」の中で薬に次のような定義を与えておられる。@薬は病気の予防・治療・診断のための手段である(医学性)A薬はその化学技術を成立させている(化学性)B薬は社会の必要とする生産品である(社会経済性)この説明は薬のもと多面性をよく云い表わしている。

 従来の薬学教育が薬に関する総合科学としての発展を遂げて来たかというと、あながち全面的には肯定出来ない状態である。我が国では薬学教育の目的が医療薬剤師の養成を必ずしも目的とせず化学技術偏重の伝統が長期に亘って続いて来た。それはそれなりの歴史的背景もあるが、薬学が他の自然科学諸学科の中で医療に携さわる薬剤師を養成する唯一の学科であることは何人も否定すること出来ない事実である。この事実と実際に行なわれて来た薬学教育との矛盾が薬剤師職能を中途半端なものにしている理由の一つになっている。

 ここ数年来、薬学会にも薬剤師会にも薬学教育委員会が設置され、薬剤師教育のための薬学教育のあり方について検討が続けられて来た。その結果薬剤師が真に薬の専門家として医療関係者および国民に信頼をうけるには薬学カリキュラムを大巾に改革し、特に臨床医学分野の基礎知識を授ける必要のあること。薬学教育の中に従来なかった薬学概論を教授し、その中で薬剤師の倫理、薬学の哲学を授ける必要のあることを強調している。薬学教育委員会の改革路線をうけて、ほとんどの大学薬学部、薬科大学ではカリキュラムの再編成にとり組んでいる。しかし薬学教育を真に改革するにはいろいろな隘路も多く暗中模索を続けているというのが現状である。

 薬学の根本理論が薬の総合科学であるとするなら、又薬が何らかの形で生理活性を有する物質であるとするならば、生体の機能を知らずに薬を取り扱うことは出来ないはずである。こういう観点から考えると、薬学の基礎科目は医学部の基礎科目とあまり違わなくてよいはずである。特に生理学・解剖学・病理学に従来伝統的に培かわれて来た化学知識を結合させた新らしい型の生理・解剖・病理などが薬学の基礎科目の中心に据えられてよいのではないかと考える。とまれ医療を通じて国民福祉に貢献するのが薬剤師の最大の任務と考えるなら、日進月歩の医学・薬学に対処出来るような基礎知識を充分に大学で身につけられるようにすべきである。
(福岡県女子薬特別委員)

 薬剤師と研修 山口大学医学部附属病院 薬剤部長 神代 昭

 分業五ヶ年計画の二年目ということで、各地で保険薬剤師研修会が開催されている。山口県薬においても、本年度第一回保険薬剤師研修会を七月初旬県内五地区で開催したばかりである。県全域で受講者数三五〇名を数え、各地区とも出席者数の上では盛況であったと聞き、講師(各地区病院薬剤師)もより良い研修会とするため、九月に予定されている第二回の準備に入ったところである。

 第一回研修会の受講者側の反応については近日アンケートが予定されているから、この結果を待ちたいが講師側としては、受講者数の多かった割には講義後の質問、意見等皆無の地区もあり、しゃべり放しで少々気抜けがしたように聞いている。ともあれ、毎年開催されてきた日薬講習会での出席者数と比べただけでも、受講者の分業意慾はうかがえるといえようか。

 ところで筆者の職場においては、週一回のゼミを続けており、新しい薬学医学知識の吸収に努めている。また県病薬としても、年四回、日曜日を利用し、各地区廻りもちで薬学研究会として発表会、講演会を開いている。これらは、薬剤師としての専門性を維持し発展させるための自己研修に刺戟を与えることを目的としたものである。

 山口県某地区医師会の循環器関係の開業医は二十〜三十人が二〜三回会合を持ち、心電図その他の勉強会を続けており、年に数回は東京から一流の講師を招き、講演会を開いていると聞いている。それに要する出費も相当なものらしい。

 開業医の場合、一年間でも勉強を怠れば、医学の進展に対し大きな遅れをとり、その結果は、診療上の後退となり、ついには患者減少を来たす恐れがあるだろうことは想像に難くない。

 薬剤師の場合は如何であろうか。一年間病院を離れていたある病院薬剤師が、復職後、調剤に自信が持てず、以前のように、責任をもって調剤しているという気になれる迄に相当の月日を要した、との話がある。この例によるまでもなく、ごく短期間調剤を離れただけでも、処方を見る眼が衰えることは、多くの病院薬剤師の実感するところである。まして、医療用医薬品から長年遠ざかり、または卒業後何十年もたって初めて医療用医薬品に接しようかという薬剤師もいる現状で、年三〜四回の研修会でお茶を濁すようであってはならない。薬剤師倫理をふまえ、医療用医薬品の知識を深め、医師との対話において信頼を得てこそ、処方箋調剤もまかされるのではないだろうか。

 研修会は、そのための小さな足掛りにすぎない。これが契機となって自己研修への意欲を燃えたたせることができれば、講師として協力した我々としてはこの上ない喜びである。その結果内部から盛り上がる要望によって勉強会のような企画がなさされば、我々としてもできる限りの協力は惜しまない積りである。

 福岡市薬 理事会・部会長会開催

 福岡市薬剤師会(斉田和夫会長)は理事会と部会連絡協議会を七月九日(水)県薬剤師会館で開催した。
当日は@社会保険業務A休日急患センターB研修会C薬局調査、などに関して報告・検討が行われたが、そのおもな内容は次のようである。

 ▽社会保険業務
@薬局コードについて
今秋より、保険薬局コード切り替えのため、薬局(フリガナ)届の提出方説明と督促。
A処方箋応需について
六月期の保健調剤集計で福岡県は約六千八百万円。このうち福岡市は県全体の半分の約三千四百万円で、調剤薬局等の一七店で約二千三百万円取扱っていて残りの約百万円を一四〇保険薬局が取扱っている計算となる。マンツーマン方式が効果的と考えられるので市薬はこの方法を今後も取り上げたい。なお分業プロジェクトチームについての説明あり(既報)

 ▽休日急患センター
開設後一周年を迎えて祝賀会が同所で行われ、本会は市長より感謝状を受けた(荒巻専務出席)。センター利用者が最近益々増加、処方箋は一二〇〜二〇〇枚で多忙をきわめている。

 ▽研修会
五月二〇日、六月二四日と二回の研修会を開き講師の方々の努力で成果をあげている。今後は更に受講者を積極的に勧誘したい。テキスト等は受講者より実費程度徴収することに決定。

 ▽薬局調査
処方箋受入に関する実態調査(第一回)を昨年行ったが、今回第二回を実施した。この調査は処方箋応需の資料として注目を集めていて、今秋開催される九州山口薬学大会の宿題報告となっている。回答期限の七月一五日まで提出方督促。

 ▽会費納入状況
今日までの完納部会を発表、早急納入方要望。

 ▽保険薬局の個別指導
県保健課による保険薬局の個別指導が今月より毎月二〜三薬局を対象に行われるので、今後個別指導希望の薬局は申込のこと。

 福岡県女子薬総会 田中会長の重任決定

 福岡県女子薬剤師会(田中美代会長)は、六月一五日、福岡県薬剤師会館で、本年度の総会を開催、会則の一部変更並びに役員改選などを行った。当日は県下より約百名の会員が出席、田中会長のあいさつのあと、来賓白木県薬副会長の中央情報報告を兼ねた祝辞に引続き、上田ヨシエ氏を議長に推して議事に入り、事業計画、予算など原案通り決定した。

 会則の一部変更は、例えば分業推進に伴う潜在薬剤師の掘り起し等、社会情勢に対応するため、執行部のほかに適材適所に特別委員を委嘱し、特定の会務の遂行に当らせることができるよう改正したもので、任期満了に伴う役員改選では田中美代会長の重任を決め、副会長三名監事二名を選出した。
当日選出した役員は左記のとおり。
会長 田中美代
副会長 森山富江(福岡)
井上シミ(八幡、新任)
永倉静江(大牟田)
監事 綱島幸枝(福岡、新任)柴田慶子(戸畑)