通 史 昭和49年(1974) 日薬−県薬−市薬
九州薬事新報 昭和49年(1974) 10月5日号

 福岡県薬 分業対策で緊急理事会 処方せん料大幅アップを重視

 福岡県薬剤師会は、今回の医療報酬の改正、特に処方せん料の大幅アップが一〇月一日から実施されることから二一日、一一時緊急理事会を開いて分業対策について協議した。

 議事にさきだち長野会長は「今回の医療費改正は、分業を大きく前進させる要素を含んでいる。すでに心ある医師は分業の意志表明を行っており、事前の話し合いなしには実現困難あるいは混乱が予想されるところから、日薬としては緊急に各県薬と連絡をとり、この機に、各県薬会長より県医師会長あて事前協議と計画分業を進めるため公文書を出す考えであるので県薬としてはこれについてどう対処するか検討願いたい」と述べて協議に入った。

 当日は種々前向きに検討した結果、県医師会長あての公文書を直ちに提出したうえ、一〇月早々医師会並びに本会幹部の話し合いを持つよう進めることとし、この機に歯科医師会へもあらためて処方せん増発依頼の申入れを行うこととなった。

 なお、内部対策としては二七日開催の日薬地方連絡協議会のあと支部長会を開催するが、取りあえず各支部長に、医師会長あての文書の写を配布、県薬が県医師会と事前協議の場を持つべく交渉していることから各支部においても地区の医師会並びに近隣の医師に、タイミングをあわせ分業の意思表示を行ない折衝するよう指導することとなった。長野会長より青柳医師会長あて「医薬協業に関する協議会設置についてのお願い」の文書は次のとおり。

 日本医師会におかれては日本薬剤師会と協議の結果保険診療の技術評価を高めつつ、医薬分業を任意の形で推進する方針が確認され昨年一一月一六日宮崎市における移動理事会において正式に日本医師会としてこの方針が機関決定されましたことは、ご承知のことと存じます。以来中医協における医療費の改正について常に三師会協力団結して対処され、今回の改正にて処方せん料が五〇点となりましたことは、ご同慶に存ずる次第です。

 この改正に伴い、投薬にかえて処方せん発行を希望される病院・診療所が多くなることと推測されますが、私共薬剤師会としましても、万全の準備をいたし、処方せん発行医並びに患者に名作のかかることのないよう、完全な業務を遂行する決意でおります。このため処方せんを発行する医師と受入れを担当する近隣薬剤師との事前における十分なる協議を行うと共に、準備を整え処方せん受入れ業務の円滑を期したいと考えます。

 当会としましては、慎重を期する意味から県レベルにおける事前協議の場を持ち具体化についての十分なる協議を行い、更に県下支部レベルに、それを拡大し実施に入りたく存じますので至急協議会設置方ご配慮願うと共に貴会役員をはじめ下部組織に、よろしくその意をご伝達賜りますよう願い上げます。

 ◆今回の医療費改正の主な点
「保険薬局関係」
▽調剤基本料 100円→200円
▽調剤技術料中
内服薬1剤1日分 40円→44円
▽時間外加算    100/100(新設)
▽深夜加算     100/100→200/100
▽休日加算     140/100(新設)

 「乙表関係中参考となる点」
▽処方せん料   100円→500円
▽再診料  150円→300円
▽内科加算  130円(不変)
▽乳児加算   50円(新設)

 ◎乙表が処方せんを発行した場合
再診料(又は初診料)処方料 処方箋料 内科加算、乳児加算
300円  +80円 + 500円 + α(130円、50円)

 ◎乙表が自家投薬した場合
再診料(又は初診料)処方料 調剤料(上に同じ)
300円  +80円 + 40円 + α + 薬剤料

九州薬事新報 昭和49年(1974) 10月15日号

 福岡市薬剤師会 保険薬局は意志決定を!!分業対策全体会議で

 福岡市薬剤師会(斉田和夫会長)は、県薬にさきがけ一〇月五日県薬会館で分業受入れのための全体会議を開催、一三七名の全員(保険薬局会員二一八)が出席した。

 当日は質疑応答なども熱心に行われ、ようやく分業に対する会員の意識が動き出した感があったが、当日の出席者が大体分業を受入れる意欲のある薬局であることが予測される。まず分業に対する市薬の考え方として斉田会長並びに藤野副会長から発言された内容は概略次のようなものである。

 去る一日、市医師会・薬剤師会幹部により行なわれた話合いのなかで、医師会側の主な考え方としては相対的には中央の分業基本線に従い前向きに考えるとする意向であるが、市医師会員八六〇対保険薬局二三〇で受入れが可能かとの危惧があるとの意見であった。

 そのほか保険薬局の名簿と分布図の提出、分業に関しては今後医・薬両会の委員による協議会を作り、話合いを重ね下部組織(各部会の部長)への伝達を行うこと等が双方の懸案事項となったが、休日診療センターでの薬局の運営がまだ軌道に乗っていないなどの現状指摘もあり、医師会員の処方せん発行の不慣れな点等の是正も必要であるが患者に迷惑をかけない信用し得る体制をとって欲しいこと、分業を一斉に実施することは混乱が予想されるので漸進的に進めること、保険薬局との距離の問題にまだ隘路があること、患者にとり処方せん発行の方が医療費の割高になる点など、今後解決を迫られる問題等相当あることが指摘されたと報告、次に今後大いに経年変化があることは予想されるが、市薬の基本的な考え方の概略としては

 @医師会に受入れ保険薬局を通知するため、保険薬局の確認(新たに保険薬局を申請する薬局は一〇月一五日までに市薬へ報告のこと)
 A医師会と協議会を持ち、分業に対する相互の隘路の是正につとめる
 B会としては、薬剤師職能の推進は大局的には分業しかないことを確認し、あらゆる分業の型を推進する(近隣の医師へのアタックとコミニュケーションの拡大をはかって欲しい)
 C会営薬局は作る意志はない(地域毎に会員間で努力、個々の薬局が会営と考えて欲しい)
 D現在の薬局経営の上に分業応需形態をとるよう努力することが好ましい
 E混乱を生ずるような個人の行き過ぎについては、会として是正するよう努力する
 F受入れのための新規開設については、会として適当な会員の斡旋も考慮する
 G適配条例の保険薬局に関する内規(既設の薬局から七五メートル)は厳守したい
 H融資の件では医療金融公庫等の活用を各自で推進努力して欲しい。会としては県・市等他の融資方法も折衝する
 I備蓄、小分けは会としては行なわないが、地元卸業者の協力をお願いする
以上が概略の考え方であるが、受入れに関し不信、不正の行動は薬剤師の職能を逆行させるものであることを肝に銘じ、努力するよう要請した。

 次に分業に対する応需態度としては、分業に対する意欲の有無と不正・不信を起さないよう努力することをハッキリ表明するよう要請するとともに、現在の分業は武見理論の理解なくしてはあり得ない。体制としては日薬、県薬の段階でなく、すでに市、部会、個々の問題となったこと、基本的態度はすでに決まっているが具体的には個々の問題であること、医師へのアピールについては今回の医療費アップ、近く行われる薬価基準のダウン等をふまえ、医療メリットについての資料等を活用して活発に推進し、処方調剤の研修は休日診療の場を積極的に活用されたいことなどが述べられ、受入れをする意志のない保険薬局はこの際態度をハッキリさせるため、保険薬局を辞退する位の態度をとって欲しいことも希望した。

 「医療費改訂の問題点」については、藤田日薬分業推進委員から今回の医療費改訂の背景について詳細な説明のあと、処方せん料の五倍という大巾アップについては医師会も厚生省も医薬分業を本気で実現させる意向の表れであることが報告され、引続き今回の改訂について受入れ薬剤師が医師との対話の際、必要な点について詳細な説明を行い、出来るだけ早い機会に近隣の医師に分業受入れの意志のあることを表明して医師の分業意欲を喚起して貰いたいと述べた。

 分業推進情報 福岡市薬分業問題 で市医師会と懇談

 福岡市薬剤師会は10月1日料亭新三浦に於て、今後の分業推進について、市医師会と懇談を行った。冒頭斉田市薬会長は、処方せん料5倍アップに伴い、分業の進展が予測されるが、これについて、薬剤師会は万全の手段を講じて受入れを行うつもりであるとあいさつし、続いて藤田福岡県薬社保委員長は、改正医療報酬による処方せん発行の有利性、及び分業の実態についての説明を行った。

 席上薬剤師会側から、双方より委員を出して、今後の分業進展についての具体的協議を継続的に行いたいと提案したが、石田福岡市医師会長は、これに対して確答をさけ、医師会としても、この問題について充分に勉強したいと答えた。また医師会側よりは、処方せん発行についての種々の不安、患者負担額についての配慮等意見を開陳し、また一部の医師の間では分業が真剣に討議されていることをほのめかした。

 この日の懇談では、具体的な実行段階までには討議が至らなかったが、取あえず処方せん用紙百冊を医師会に置くこと、市内の保険薬局の名簿千部を医師会員に配布することとし、今後円滑な分業の推進に双方努力することでは意見が一致した。今迄、医師会に対して公式の席上、分業について論じることは半ばタブーとされていただけに、前向きにこれに取組んできたことは、薬剤師会としても一応の成果を収めたと考えている。なお医師会側では地域別による薬剤師会側の窓口を求めており、今後、地域による急速な進展も考えられよう。

 当日医師会よりは石田会長、阿部、宮崎両副会長、平野理事の四名、薬剤師会よりは斉田会長、国武、藤野両副会長、藤田社保委員長、荒巻専務理事が出席した。

九州薬事新報 昭和49年(1974) 10月25日号

 福岡県薬支部連絡協議会 分業の緊急推進体制を打出す

 熊谷保険課長らも出席

 福岡県薬剤師会(会長長野義夫)は支部連絡協議会を一〇月九日一時から県薬会館で開会、二四支部中二〇支部が出席した。当日は県保険課から熊谷保険課長ほか三名が出席、保険に関して説明を行なった。
当日の議題は▽薬と健康の週間について(既報)▽薬局等の許可更新、麻薬取扱者免許申請及び免許証の返納についての説明のあと▽直面せる分業対策について協議した。

 議事にさきだち長野会長は「分業についてはようやく医・薬ともに盛りあがりをみせて来た。今後分業形態は種々なケースで進むことになろうが、一般民衆から批判されるようなことは避けねばならない。県薬段階としては県医師会長に公文書を送り、両会幹部の公式会見となって懇談を行なった結果、分業について原則的には意見が一致、今後両会の委員によって具体的問題が話し合われることになるので、各支部でも一歩一歩話し合いながら進めて欲しい」と述べた。

 次に神谷専務理事は分業について種々情報を説明したあと、二七日分業対策で開かれた日薬地方会長会議の報告のなかで、石館会長=医薬品に関しては薬剤師が全責任を持つよう会員に伝えて欲しい。田中保険課長=分業については事前協議をして患者に迷惑をかけないように。松下薬務局長=分業は既に今までも制度としてはあったが、今後実質的分業に入ることになるそのための援助として医療金融公庫の枠を拡大したので利用して欲しいなど述べたと報告。日薬において作成の保険薬局ポスター(一枚40円)診療所に掲示する保険薬局紹介のポスター(30円)は各支部単位に数量をまとめ今月末までに県薬を申込むよう要請した。

 安部分業担当理事は七日行われた県薬並びに県医師会幹部による話し合いの概略を次のように述べた。 「当日の会合はさきに長野会長から青柳県医師会長に送付した公文書により七日、森田屋において両会幹部が正式に懇談することになったもので、話し合いは細かい分野には亘らなかったが大綱においては大体の一致をみた。分業はあくまで任意分業であるから会員に強制はできないが一一日医師会の理事会を開くので本日の懇談の情況を報告すると約し、県段階では今後双方からの委員によって打合せを行うこととし、あくまで無理をせず話し合いのついたところから患者サイドで進めることに意見の一致をみた。会合の全体的感じとしては県下の医療機関の数からみても県下一斉に分業に踏み切ることは混乱が予想される等と受入側の立場を考えての発言が多く、最近まで分業が禁句であったことなど全く感じられず、情勢の変化を痛感した」。

 次に武見日医会長が、今回の医療費改訂により、処方せんの発行増加が予想されるとして三日、処方せん発行に関する留意事項及び要望事項を厚相に提出すると同時に日医会員、薬剤師会、製薬業界にも要望した事項(別掲)について説明した。

 なお当日特に出席した県保険課長は「中医協の場では支払側、診療側は利益相反する立場であるが今回の医療費の値上げについては意志が統一された。これは物価高、賃上げなどの情況から、理解が十分なされた結果である。特に処方せん料は予期したよりも大きな数字が出た。保険課としては受入を心配していたが本日の熱心な会を拝見して力強く感じる、本格的な分業の進度に沿って十分会員の指導をお願いしたい、吾々も保険行政の面で万全の策を講じたい」と述べ、医療係長からは時間外・深夜・休日加算等に対する基本的考え方が説明された。

 協議のあとの質疑応答も活発に行なわれたがそのなかで、八女支部から「薬事協会から、分業対策の話し合いに参加させて欲しいとの申出があったが薬剤師会としてはどう対処すべきか」との質問に対し、神谷専務理事は「職業の選択の自由からいっても門戸は開放すべきである、上田地区でも話し合いが行なわれている」と明確に答えた。

 日医が業界に 要望した留意点

 ▽医師会員の留意すべき事項

 @啓蒙活動の必要性について=処方箋の発行は患者の理解を得ることが肝要なので、地域住民に対し処方箋発行に関する啓蒙活動を行なう。
 A約束処方箋を発行しないこと=約束処方箋は法的には院外処方せんとして認められないので、地区薬剤師会との間で約束処方をつくらないこと。またゴム印などの使用は差支えないが約束処方の符号の類は使用しないこと。
 B投薬期間について=あまり長期にわたる投薬は好ましくなく、原則として再診日までが妥当。
 Cプラスチック容器に水薬を使用する場合、使用済み容器が投薬期間を過ぎたときは廃棄するよう指導すること。
 D薬局の指定は原則として認めない。患者から問われた際に信頼できるところを紹介することは差支えない。
 E処方箋は仮名書き、商品銘柄として一般名を使用しないこと。
 F指定の医薬品が薬局にないときは、連絡を求めて指示すること

 ▽薬剤師会において留意すべき事項及び同会への要望事項

 @薬品の整備について=商品名のままオリジナル・パッケージで材料が整えられていること。また医師や患者の要求に際し常にオリジナル・パッケージを提示し得ること。
A調剤薬局の整備体制について=(イ)複数の薬剤師を常駐させること(ロ)休日・夜間における調剤薬局を医師及び地域住民に明示し整備に努めること(ハ)日常の処方調剤に耐え得る薬剤を備蓄し、使用頻度の少ない薬剤についても備蓄体制をつくること。 B調剤薬局における調剤について=(イ)錠剤は原則としてヒートシールのまま患者に渡すこと(ロ)水薬についてはオリジナル・パッケージを使用したものはそのまま患者に私、使用しない場合は容器を消毒し清潔に保管しておくこと(ハ)薬袋の裏側に処方箋の写しを書いて患者に渡すこと(ニ)地区薬剤師会においては調剤専門薬局を適正に設置すること

 ▽製薬業界への要望事項

 @調剤薬局は常時相当程度の医薬品を備蓄する責任があり、問屋による備蓄センター構想は好ましくないこと。
 A錠剤はヒートシールのまま患者に渡すべきでありヒートシールには一錠ごとに薬品名と会社名を記載しておくこと。
 B水薬は小包装のオリジナル・パッケージの使用が必要なため、その作成法を考慮すること。

 福岡市薬と卸業者 分業薬品備蓄で懇談

 福岡市薬剤師会(斉田和夫会長)は九月一四日福岡県薬剤師会館で、福岡市医薬品卸業協会(大黒政治会長)と分業問題に関して懇談会を開催し意見交換を行った。当日の会合のおもな内容は次のとおり。

 市薬の斉田会長は、今回の医療費引き上げで処方箋が五〇〇円と大幅アップされたことにより、医薬分業が急速に推進される現況を踏えて、一〇月一日開いた市医師会との話合いの状況と市薬の基本的な分業に対する考え方を説明し、卸業者に対して左記のような要望を行ない意見を求めた。

 (1)卸業者は診療所との繋りが深く、医師と親密であるので、医師の分業推進に対して支援をしていただきたい。なお、医師の分業情報調査を行った場合には、出来得ればその情報を薬剤師会に提供して欲しい。

 (2)薬品備蓄問題について、現在の保険薬局の資金面からも小包装単位のものでの配給を願いたい。(小分…特に希用薬品について)
これについて種々懇談・検討されたが、卸業を代表して大黒会長は「九月一六日に日本医薬品卸連の会議が開かれ、分業に対する基本態度が検討されるので、その結果を待って福岡市卸の見解を統一し解答をしたい」と述べた。