通 史 昭和49年(1974) 日薬−県薬−市薬
九州薬事新報 昭和49年(1974) 9月5日号

 薬事法にもの申す 福岡県女子薬剤師会会長 田中美代

 今日の工業化された社会における医療制度に対応するには、古典的な分業理念では不可能であるという、医師会の提案をうけ、医師と薬剤師の協業といった「すがた」で推進する医薬分業が、日本薬剤師会の理念づくりから始まる、五ヶ年先実現を目途に、ようやく陽の目をみることになった。この協業の中で薬剤師がはじめて医療人として社会の評価をうけることになるであろうことを、確信して疑わない私である。

 こういったことを前提として現行の薬事法を考えてみることにする。薬事法第八条の条文中に管理薬剤師という規定がある。この規定では自らが管理薬剤師であり、又代行者を置いた場合であっても医薬品すべての管理者ではないことになっている。(同法二十八、三十五、三十八条)更に、医療用医薬品については、一方では責任を負わせながら、他方では同法第四十九条によって、国家が自ら与えた「薬剤師免許証」というライセンスさえ否認するような「要指示薬」という薬剤師にとって治外法権ともいうべき行政上の制約を設け、薬剤師の権利を束縛し、否認しているのである。まことに奇怪な法律といわなければならない。

 「薬剤師法」という法律があることは御承知のとおりである。この法律では薬剤師の身分が保証されているが、あくまで身分法であって、折角のこの身分法も薬事法が優先して、単に行政の便宜(云い過ぎであればあやまることにして)のための薬剤師という職能であって、権威は保障されていないのである。
私が今日あえてこのようなことを言いたいのは、我が国の法律でもって薬剤師が医療人であるということを認めてくれる法律はないということである。即ち今日までつづけられてきた又つづけてきた公務員の待遇改善の裏付となる法律はなかったということである。今にして惟えば、長い間まことに無駄な、しかも空しい努力をつづけて来たものである。過日の人事院総裁の公務員に対するベースアップの勧告の中にも、医療職としての薬剤師の職制というものはない。

 「医薬分業受入態勢の理念と背景」という日本薬剤師会雑誌第二六巻第六号の石館会長のおことばの中に国際的定石として制定されようとしている医薬品のG・M・Pの規範によって、今後名目的(まことにおだやかな表現である)な管理薬剤師は通用しなくなる、と仰言っておられる。しかしながらこの国際的な規範の中ですら品質管理者はともかくとして、製品管理者(G・S・Pにおいては保管管理者)は薬剤師でなくともよいことになっているようであり、世界的な評価でさえまだまだきびしいのである。

 多年の懸案であった医薬分業が実現することによって我々薬剤師が、医療人として国家から或は又社会から評価されることになるであろうが、G・M・Pや、G・S・Pが国家によって法制化される日の一日も早いことを念願し、しかもこの規範が薬事法改正への起爆剤(まことに不穏当な言葉であるが、こうした言葉を用いないかぎり薬事法の改正は困難であろう)となって医療人としての薬剤師像が確立される日の来ることを重ねて念願してやまないのである。「薬と薬剤師」、街の中にあって黙々と患者に接しながら、ある時はジックリと相談に応じておられる開局薬剤師の皆さん達こそ真の医療人であることを確信している私である。
(一九七四・八・二九)

 各地の会合 福岡市薬剤師会 休日診療で活躍

 福岡市薬剤師会(斉田和夫会長)は理事会並に部会長会を八月二〇日県薬会館で開き▽医薬分業実態調査▽休日診療▽九州山口薬学大会▽市薬会館問題、その他につき協議した。

 @ 医薬分業実態調査については荒巻専務から詳細説明が行われた。
A
B 休日診療については、福岡市が本年四月から実施している日・祭日急患診療に参加しているが、手当支給は八月より市薬が一括受領するよう変更されたこと、また専任薬剤師の選出につき要望があったので人選の結査、成沢哲夫氏(開局)を決定したこと、日・祭日の調剤については病薬の指導のもとに開局会員が調剤実務の研修を兼ねて勤務していることが報告された。

 B本年度の九州山口薬学大会は10月24・25の両日宇部市で開催されるが、本県薬からの研究発表は▽保険薬局の分業受入調査(福岡県薬実施)=藤野義彦▽福岡市の休日診療と薬局=荒巻善之助▽地域分業の実例について=古川周一▽医薬分業のアプローチとPRについて=中村里実の四氏がそれぞれ発表することになっている。

 C市薬会館建設の件は一ヶ年の建築延期届を市長に提出していることが報告された。その他、本年度の薬と健康の週間は10月13日〜19日まで実施と決まっているが市薬としては経費を省き、簡素でしかも実効ある実施を考慮中であると報告。ついで、辻県薬副会長の急逝の報告ほか、財団法人北九州生活科学センターが経営の行詰りにより破産したこと、現在再建のため努力中であるが薬剤師会の対外的地位に大きな問題をなげかけていることなどが報告された。

 また組合問題としては、母子ミルクは10月1日より切符制により小売業者扱いに改正されること、全商連並に福岡県商組の推奨品ピピットの販売に協力するよう要望があった。

 福岡県薬公衆衛生委員会

 福岡県薬剤師会公衆衛生委員会は、八月二七日午後一時から県薬会館で第一回委員会を開き、左記委員中一三名が出席(二名欠)した。

 担当理事=橋本祐一、柴田伊津郎
委員=馬場正守、内田数彦、村田正利、木村英樹、野口美智子、馬場スナエ、水町元治、高橋賢治郎、末宗成二、佐伯薫、岡本勝子、大野義昭、秋吉博
正副委員長の選出については、協議の結果、委員長に村田氏を、副委員長に末宗氏を決定した。

 本年度の事業としては、新幹線開通に伴う騒音の件について開通前の基礎調査を行うことに決定、測定班を北九州地区と福岡地区に分け、九月中に調査を完了する。実動の中心は学薬とし、予定表を作成することとなった。

九州薬事新報 昭和49年(1974) 9月15日号

 日薬代議員会 石館会長 分業推進で演述

 日本薬剤師会は八月二一日(水)、東京渋谷の薬学会館で第三六回臨時代議員会を開催し、四八年度決算案、同剰余金処分案、四九年度補正予算案等を審議した。代議員会は平岡源一郎(大阪)、山村実治氏(鹿児島)を議長、副議長に選出したあと、石館会長は「四九年度前半は保険医療の改革、両医師会との協調のもとに出発する医薬分業実施第一年度として意義深い年であった」と概要次のように演説した。

 医薬分業の推進に当っては今年度一千万円の医薬検査センター設置費と三百六万円の薬局実態調査費が実施に移されているほか、五〇年の薬務局の分業予算に関する交渉の結果、薬局実態調査費(二年度分)七百万円、分業推進委員研修費と薬剤師生涯教育費として八百万円、医薬分業PR費四百万円を計上することが厚生省議案となり総額二千九百万円について大蔵折衝に入る段階にある。 今回の薬局調査は薬剤師の意識調査の意味を持ち今後の分業施策に重要な意義を持つものであって、その目的達成に十分な協力をお願いする。

 日薬会員の拡大と再編成は目下委員会で検討しているが、当面メーカーと卸業のGMP責任者、流通管理者の研修と制度化をはかりたい。

 技術報酬の改善については中医協で審議されているが、日薬としては医療の近代化に努力するとともに、正規の処方箋発行促進と定着化をはかる。なお病院勤務薬剤師の職能確立には更に努力する意向である。
現段階における分業推進の具体策などの検討はおおむね出しつくされ、日薬の分業対策特別委員会も基本理念と実施目標を用意しているが、今後の展開は地方県薬、各地区の課題としなければならない。小なる目前の利益に大なる目標を失うことのないように会員の理解と協力を求めるものである。

 分業理論 大筋まとまる 日薬分業対策特別委

 日本薬剤師会の分業対策特別委員会(水野睦郎委員長)はこのほど分業理論(分業の基盤と理念)の大筋をまとめた。

 この分業理論は分業の理論的根拠を明らかにし、今後の分業運動の支柱とするために日薬執行部から分業具体策(前号既報)と並行して諮問されていたものであって、特別委では今後若干の修正を加えたのち、近く答申する予定である。これまでにまとめた分業対策委の見解は次のような五項目になっている。

 (1)薬剤師の時代像
歴史の変化によって変る医薬品と薬剤師の位置付けを明かにする。

 (2)薬の複雑な特性
@生命との関連、多様性、個体差などの薬学的特性
A少量多品種などの経済的特性。
B社会的特性。

 (3)薬剤師職業の存在理由
薬が社会に必要なもので相互関連性があること、予期せぬ弊害があることなどから、社会が薬剤師の存在を求め、薬の取扱いを委任すると同時に薬剤師は管理の責任を負うと位置づけ。そしてこの管理権は薬の持つ特質を包括的にとらえて、そのすべてを制禦するのに必要な措置を行うものでなければならない。

 (4)日本薬剤師の基本的性格と姿勢
薬の社会的・経済的特性を踏まえて、薬を制禦する薬剤師の連帯組織で、自主性を持って薬の包括的な方策を実施するものである。

 (5)薬剤師の役割と業務
まず、品質確保が第一で開発、製造、供給の各段階でそれぞれの役割があることを明らかにし、薬剤師特に薬局薬剤師の薬に対する権限と責任の明確化が必要としている。

 日本薬剤師会 処方箋受付けに万全を期す 各委員会に年次計画を諮問

 日本薬剤師会は九日、処方箋料が一挙に五百円にアップされて諮問されたことを高く評価するとともに、このまま実施されることになれば直ちに大量の処方箋が発行される可能性があるとして、医薬分業推進の緊急対策案を全体理事会で作成することを決めた。

 今回の厚相諮問ではほぼ原案通りの答申を得られるとの見通しから、大量の処方箋発行による末端の混乱が懸念されることから、背水の陣でこれに対処することを決めたものである。

 緊急対策案は全体理事会で決定したあと二七日の全国会長会議で了解を求め全国の医師会にも「処方箋発行に際しては必ず薬剤師会と事前協議をするよう」要請することにしている。両師会の事前協議は徐々に下部にも行渡るようにし最後には医師と薬剤師の協議に持ち込みたい考えである。

 また日薬は、医薬分業は単なる調剤だけではなく医薬品の製造から患者の手に渡すまで包括的に医薬品を管理するものと位置付けており@薬局管理規定(薬局委員会)A薬剤師が注意して販売する品目の確立計画(医薬品安全性情報委)B卒後並びに生涯教育計画(薬学教育委)C医薬品試験計画(調剤技術委)D医薬品情報計画(医薬品安全性情報委)‐等について三年計画を各常置委員会に諮問するを決めた。日薬に分業以外で年次計画を策定するのは初めてであるが、執行部は二五日中間報告、一〇月末答申を望んでいる。

 受入れ資金計画も従来の分業五か年計画が大幅に手直しされるのに伴い緊急対策を講じる予定で、一薬局当り百万円、一万件に対し百億円の融資を第一勧銀に要請するとともに、医療金融公庫にも今年度内の融資を要望する意向である。

 挾子

 ▼診療報酬の年間再引上げを審議していた中央社会保険医療協議会は九月一七日の総会で、さきに斉藤厚相から提示されていた諮問案をほぼ原案通り受け入れ、一〇月一日実施と決定した。

 このなかで特に注目すべきは@処方箋料一〇〇円→五〇〇円A再診料(乙)一五〇円→三〇〇円B調剤基本料一〇〇円→二〇〇円の大幅な引上げである。

 このことを単的に表現すれば、これまで我々が予想していた分業実施進度は少なくとも一気に二年は早くなったと云えよう。このたびの引上げにより、処方箋発行に踏みきる医師が急増することは明白な事実となったのである。
このような現実を受けて薬剤師側の分業受け入れの状況はどうか。その不備の責任を問われないように諸般の準備に万全を期して、厚生省などの分業に対する理解と熱意に答えねばならないと考える。また医療用医薬品の流通は今後大きな変革があることも必然で、これに対応すべくメーカー、卸業にあってもいよいよ本格的に取り組む姿勢を打ち出してきた。

 分業受け入れの主役であるべき薬剤師としては、分業への意志決定を迫られると共に受入れをどのようにするかが目前に、否、今日ただちに解決すべき問題と化したのである。薬剤師会の各段階においてはあらゆる施策を積極的に推進・実施すべきである。業界の内外から団結力の欠如を指摘されていた薬剤師は今日こそその団結の力を世に問う時が来たと云えよう。

 分業推進情報 福岡市西部内科医会と分業について懇談

 処方箋料5倍アップ等、分業の気運はいよいよ実施段階に入る高まりをみせてきたが、これに先だち、福岡市西区の西部内科医会(会員二十数名)では、分業についての、実情を知りたいということで、藤田氏あて講演の依頼があり、同氏は去る八月三十日、内科医会の例会に於て、分業の事例、処方せん発行医の有利性、受入薬局の実情等約一時間にわたって詳細な説明を行った。

 同日同席した荒巻市薬専務理事の話によれば、会は会員相互の勉強会として宿題発表が行われている様子であったが、藤田氏の発表についても終始熱心に聴講し、相当具体的な質問もあったようである。又同内科医会会員の先生から、薬剤師会員も一緒に勉強してみてはどうか、という非公式の呼びかけもあり、分業ムードの高まりの中でも薬剤師の自主的な研修の必要性が痛感される。

 今回の藤田氏のアピールが直ちに地域分業への引金になることはないにしても地域的にそういう要求が発生していることは事実であり、今後散発的に処方せんが出ることが予想される。市薬としても早急にその対策を立てる必要がある。

 各地の会合 福岡市薬部会長会

 福岡市薬剤師会(斉田和夫会長)は九月一三日、理事会並に部会連絡協議会を開き当面する諸問題について協議した。主な内容は次のようなものである。

 @保険調剤業務については9月21日(土)13時から県薬会館で県薬主催保険薬局研修会が開催される。
A休日急患診療に関する件については西区に休日急患診療センターが新築されたので、会としては引続き福岡市のこの事業に対し、医薬分業の足がかりとするため積極的に協力している旨の説明があり、今後この事業を分業推進のための医師会対策、調剤業務の実地研修などに活用する企画も考慮中であろことが報告された。
A 薬と健康の週間行事は、市薬単独の事業としては本年度は実施しないが、県薬の事業に積極的に協力する。
C母子ミルクについては福岡市が実施していた事業を小売業者の業権圧迫であるとして組合が約二年間の努力の結果受給券による店頭販売に切換えられたものであることを認識して協力するよう要請した。
その他▽明年行われる統一地方選挙における市議選は各区毎の選挙となるため、区毎に推せん候補を決め推進することとし、博多区は加藤藤次郎、中央区は久保田秀己の両氏を推せんすることが報告された。

 ▽九州山口薬学大会出席会員には会より二千円補助する(但し他より補助のない出席者)▽白十字紙綿は組合推奨品であるので推売するよう要請があった。