通 史 昭和49年(1974) 日薬−県薬−市薬
九州薬事新報 昭和49年(1974) 7月5日号

 我が町(支部)の 調剤薬局設立の一例

 福岡県糸島郡前原町 古川周一

 糸島郡薬剤師会員の総意で出資し、内科・循環器科の開業医院の調剤を受入れるため設立した会員経営の調剤専門薬局は、本年四月一日から発足し、未だ二ケ月を経過したのみであるが既に経営の見通しも十分立っており、会員も、処方せん発行医も、患者もすべてが喜んでいる。医薬分業受入れも五年計画で推進されているが、末端で薬剤師と医師がこのような繋りを持つことこそが分業実現の早道と考え、各位の参考になればとその概要を述べることにした。

 知花医師が医薬分業をしたいとの意志を表示された時、一番危惧されたことはその受入れの薬局についてであったようだ。既設の一般薬局では、郡部の特徴として薬局自体に歴史があり従来からの顧客、あるいは親戚とか他の医院との古い連帯を持っているため、混乱が起りはしないか(他の薬を患者に奨めたり、他の医院を紹介したりしないだろうかという危惧)、できればそのような色彩というか、他との繋りを持たない薬局をと期待され、そういうものが望めるなら分業体制をとりたいとの意向であったと思う。

 まず、当医師から最初に「分業をしたいから自分の所の薬室でやってみないか」と相談を受けたのは出入の若狭薬品KK外務員(薬剤師)であったが、たまたま一月四日開催された「福岡県薬事薬業年賀会」(九州薬事新報主催)において福岡市内卸の営業部長数氏と藤田胖氏が分業について話合ったことがあったため部下の前述のレポートを見た若狭薬品の藤野部長は、早速藤田氏に相談、知花医師の意向を伝えたため、知花、藤田両氏の対談となり両氏の意見が全く一致したため藤田氏により地元薬剤師会に受入れるよう申入れがあったわけである。

 一月下旬、この申入れを受けた私は、当時福岡県薬糸島支部長であったためここで受入れを果さなければ次々にこのような希望の医師が現れても、地元薬剤師は「受入れ拒否」であるとの感じを植えつけ、吾々の念願する医薬分業は吾々の前を素通りすることになると考え、受入れを決意した。

 現在、糸島郡薬剤師会は前原町大字前原の七名を含め会員一二名で、薬局の形態はマチマチで調剤能力に欠ける点、経済的理由から受入拒否的な人、等々吾々の側にも分業実施時点で、果して満足な受入れができるだろうかとの危惧を私は常々持っていたのであるがここではいかなる犠牲を払っても受入れねば将来に禍根を残すと考え、同時に郡内の分業体制の促進、備蓄薬品の利用など内面的に考慮しても、また外面的な理由(医院側の危惧)からも個人プレー的なものの入らない協同の調剤専門薬局が最適であろうと判断、調剤薬局は法人とし、郡支部会員が株主となることが適当だと考えた。

 そこでまず、前原町(地元)の会員七名に相談、賛意を得たので、次は糸島郡の全会員(前原含め12名)に相談、郡薬剤師会主体の調剤薬局を新設することとなり、三名の設立委員を選出して推進することとし、有限会社「新生薬局」の名称で知花医院より約三〇メートルの場所に開設することになった。

 将来、分業を希望する医院あるいは郡内の無薬局地区等の受入れは支店の形で次々に新設拡大し、一括して事務する本部を作り、郡内の薬局に対する分業指導機関としても活用しないなどと考えている。私としては日頃考えていたことをまず実行に移したという段階であるが、やはり最初は殆んどの会員が消極的であったし、出資の面でも種々あったが、四月開設以来、現状すでに十分な健全経営の見通しもついている。前原町内で、現在すでに処方せん発行することを検討中の医師が二〜三人現われている。
なお、参考までに、新生薬局の概要は次のようなものである。

 ▽糸島郡は人口七万人(前原町は約半数)

 ▽前原町は福岡市と佐賀県唐津市との中間に位し、両市をつなぐ二〇二号線に沿って、その最寄りに薬局が存在し、前原町に七軒、その他郡内に五軒薬種商は郡内に三軒

 ▽出資金は一口二五万円で一人二口までとし、一〇名が出資(二口七名、一口三名)出資金合計四二五万円。今後、未加入の会員の出資は希望があれば受入れることに申合せができている。なお、現在、第二の支店開設のために、又は増資の必要が生じた場合に備え、日掛けの定期性の預金を奨めている。

 ▽開設場所は医院より約三〇メートル。既設節薬局からの距離は適配規制一五〇メートル以上約一五五メートル。借家。

 ▽専従職員は薬剤師一名。女子従業員五名(パート一名含む)。計六名。内訳は会計一名、事務一名調剤助手二名(業務に馴れれば二名は削減できるが将来支店形態の調剤センター設置時の予備要員として保留)

 ▽備蓄薬品は一七八品目用意しているが実際に使用度の多い薬品は一〇〇品目以下でいずれも一流メーカー品。開設に際し知花医院の備蓄薬品を譲受けた品目は一七六品目、金額にして約三〇〇万円。

 ▽四月分の保険請求は国保一、一八一枚、一、三四〇、六〇九円。社保八一九枚、一、〇四八、四九七円。

 ▽薬局の設備部分の外に、待合室に続くトイレと、調剤室に隣接して休憩室を兼ることのできる事務室を設置したが、これは是非必要なことと思う。

 ▽医師と役員及び管理薬剤師との直接のミーティングは月二回ぐらい不定期に開催、職員相互は月一回定期的に茶話会式の研修を行っている。

 福岡県商業組合 新役員で理事会 大いに活発化

 福岡県医薬品小売商業組合(白木太四郎理事長)は役員改選後新役員による初の理事会を六月二四日午後二時から県薬会館で開催、四ブロックより推せんされた二六名の理事中一九名が出席した。当日はまず議事にさきだち、理事の役職の決定を行ない、ブロック長(副理事長)に須原勇助(福岡)大坪外洋夫(北九州)中村英貫(筑後)本松茂晴(筑豊)の四氏を決定、専務理事は引続き藤野義彦氏に決定した。

 ▽常務理事=山手陽一(会計)、戸田連城、庄野文茂、森川公人、杉山官、岩橋雅雄、井上浩一、甲斐堅、坂田家一郎、堀和夫、筒井正巳、川口正幹

 ▽理事=石井源吾、芳野直行、青柳正身、大石大輔藤田哲也、一木昌弘、大石孝雄、中島茂人

 次に商組の運営については種々活発な意見が開陳され、毎月一回理事会を開き積極的に推進し、組織の強化を図ることも当面重点的に行うこととなった。

 その他当日協議した主な項目は▽塩ビ殺虫剤▽母子ミルク▽再販問題▽全商連の共済制度などであるが、特に塩ビ殺虫剤の回収に関連して「小売側の経済的損失については商組で採りあげるべきで、業界が泣き寝入りすることはない」との大多数の意見に対し、厚生省には全商連を通し要請することになっており、今秋の九州山口薬学大会でも採りあげる予定であることが理事長より報告された。

 また再販問題については再販品である旨及び小売販売価格を印刷表示することが九月一日以降製造される製品に義務づけられる(最終期限は50年3月31日)ことが報告された。それより白木理事長から業界発展のためには何と云っても政治力が必要であるため、その機を逸しないよう要請があって散会したが当日はこれまでになく活発で充実した真剣な討議が行なわれた。今後の活躍を期待したい。

 ミニ情報 調剤報酬の緊急是正を要望

 日本薬剤師会(石館守三会長)はこのほど斎藤厚相に対し調剤報酬改定で緊急要望書を提出したが、その内容は次のようである。
(1)調剤基本料(処方箋受付け一回につき)二百円。
(2)調剤料・内服薬(一剤一日分につき)百円=以上要求済み。
(3)時間外加算百分の百。
(4)深夜加算百分の二百。
(5)休日加算百分の二百。
(6)麻薬、毒薬加算五〇円。

 ◆薬価改訂 銘柄別で三六〇品目
薬価基準を上回る逆ザヤ医療用医薬品の解消のため厚生省は六月一日付で局方品の薬価改定を行ったが、さらに七月一日から局方外医薬品についても改定をするため準備を進めている。今回の値上げは銘柄別では三六〇品目(項目別で一九三項目)で銘柄の内訳は外用四七品目、内用九六品目、注射剤二二七品である。値上げ品目の多くは局方品と同じ原材料の局方外医薬品で、局方品の値上げにともない均衡をとるためのものが多い。また値下げは項目で六六項目となっている。

 ◆薬効再評価VB1の活性は削除か
厚生省は第二次医薬品再評価に関し、近く公表の予定であるが、今回の審議過程で注目され、再評価の最大のヤマ場とされていたビタミンB1の評価についてはかなり厳しい判定が行われた模様である。成分として不適格になったものはないとされているが、薬効は大幅に整理されたと伝えられている。また従来B1一〇〇mgの内服錠剤も規制される模様である。しかし業界最大の関心事であった疲労回復は表現を変えた形で残され、神経痛、筋肉痛なども推定薬効で認められている。

 過ぎし日々(27) 塚本赳夫

 学校から帰って来ると皆がいない事が多いから遊び相手がないので、又一人でいたずらを探し歩いて、何とか一人でやる事を発明しなくてはならない。そのうちに日の暮れる時間が早くなって、あまり外で遊ぶことも出来なくなってきた。

 ある日台所に行って見たら、真新しい竹の皮草履が置いてあった。一寸履いて歩いて見たらいやによくすべる、少しすべって見たら板敷の廊下でも畳の上でもかなりいけそうだ。始めのうちは廊下で遠慮がちにやっていたが、台所はかなり広くてうまく行きそうに思えた。但し台所の板の間(ま)は、所によっては揚げぶた(下に糠味噌桶や野菜)があって平らな板張りばかりではない、この障害物をよけて滑るのもなかなか面白そうに思えた。

 もう外はうす暗くなってまだ大きい人達はあまり帰って来ない。女中は台所から裏へ出たり入ったりして夕飯の仕度を始めているらしいから問題はない。
台所は今すべって居た廊下をへだてて向うは畳敷きの部屋がある。逆の側は改良べっついだか、改良かまどとか云う鉄製のコークスを焚く少し背の高いかまどが七輪などと壁ぎわに並らんでいる。始めには対角線にやってもみたが板の方向と違うからやりにくい、ぞうりで入ったらしかられるかとは思ったが畳の部屋から廊下を横ぎって来れば、大分アプローチが取れそうに思えたので一番遠くから駆け出して廊下を越えた所からすべり始めた。

 あまりよくすべるのでうまくいったと思った時は勢いあまって改良かまどの下の方のコークスの燃えているところに衝突して、自分はころんでいた。上の方は大きなお釜が、掛けてあって頭でっかちになっていたから、この釜が一緒にゆれて、運よく火の方はそのままで釜の方だけ落ちて来た。起き上がって逃げようと下向きになった所に、頭と首の上にうまくがっぷりとかぶさってしまった。両手に力を入れて一度は少し持ち揚げたが力及ばなかった。顔の横を煮えかけの白い、厚切りの大根がころがり出して行った。丁度従兄が学校から帰ったとみえて、僕の足を持って引きずり出して呉れた。この時に又大根がいくつもころがり出したので「ハハーン、風呂吹き大根だな!」と思った。

 これより前から女中は「キャーキャー」叫ぶし、いつ帰ったのか色々な大人、中大人(ちゅうおとな)がわいわい云って着物をぬがせて、何かを着せられて人力車で母と大学病院に走った。丁度よく?兄が外科に入院してるので先づ兄の居る病室の一隅で外科の先生達による処置を受けた。前頭部の毛の中から顔にかけて全部水泡になっていたので若い先生達が水泡をやぶって、黄色いような少しおいしそうな香りの軟膏を布にのばして(単軟膏?)頭から全部はりつけて、繃帯でぐるぐる巻きにされてしまった。

 夜寝る頃いくらかヒリヒリして来たが「これは何と云うても自分が悪いんだから、泣いてはいかん」と頑張っていたが、将たして泣かなったかと云い切る自信もない。風呂吹大根はどうなったかな!。皆んなは晩飯はたべられたか?第一僕は食ったかな?

 九州山口薬学大会 各部会の内容、日時など決定

 研究発表・議題を募集

 「第一報」
今秋開催される第41回九州山口薬学大会の大会準備委員会(渋谷喬委員長)は部会ごとにその内容、日時などを決定し、このほど委員長・部会長名で関係先に対し具体的な案内状をだし研究発表並びに議題の募集を開始した。原稿等の送付先は、山口県宇部市小串一一四四(〒七五五)山口大学病院薬剤部内、第41回九州山口薬学大会学会部(電話〇八三六‐三一‐三一二一番)。部会の内容、日時などは次のとおり。

 ▽学薬・公衆衛生部会
部会長=石本博美。
従来別個に行われていた部会を、内容の充実と重複をさけ、参加者に広く研究の成果を知ってもらうために一部会に統合し前半を学校薬剤師、後半を公衆衛生担当の薬剤師の発表という形に区分して実施。
期日=10月24日(木)
時間9時〜12時。
発表時間=1題8分。
場所=宇部チッソ保健会館
演題=自由、各県1名以上
其他=発表者は所属、氏名(連名の時は、演者に○印をつける)及び演題を7月15日迄に送付のことなお、講演要旨は四〇〇字詰の原稿用紙3枚以内とし締切は8月15日。同時にスライド使用の有無配布資料の有無を報告のこと。

 ▽薬業経済部会
部会長=末永克巳。
本大会の主テーマ「新しい薬剤師像の確立」を体し、今日における薬学と薬業経済の発展を期して開局薬剤師、病院薬剤師卸・メーカーの勤務薬剤師の参加を得て開催。内容はシンポジウム方式で実施。
期日=10月24日(木)
時間=9時〜12時。
場所=宇部チッソ保健会館
シンポジウム
@小売薬業に於ける当面する諸問題(薬業)(約1時間)全国医薬品商組理事長荒川慶次郎。
AGMPをめぐる諸問題(薬学)(約1時間)関東逓信病院薬剤科部長・共立薬大教授斉藤太郎。
B会員の発表、質疑、討論(約1時間)
其他=B項の会員の意見発表は@、A項の講演を中心テーマとして各職能より意見を求める。1題10分位、尚発表者は所属・氏名(連名の時は発表者に○印を付す)及び演題を7月15日までに、講演要旨(四〇〇字詰原稿用紙3枚以内)は8月15日までに送付のこと。

 ▽薬局部会
部会長=五郎丸三
従来薬局保険部会と称していたが、医薬分業策定1年目に当り、特に備蓄等々の関連があるので卸部門の参加を得て薬局部会とした。従って本部会は医薬分業とそれに関する問題だけに焦点を絞り内容は日薬執行部より分業をめぐる現況報告、各県から夫々の立場で地域分業の具体的事実、準備している実行方法、分業へのアプローチとPR、薬価基準、教育研修方法等々を発表。パネルディスカッション方式で行う
期日=10月25日(金)
時間=9時〜12時。
場所=国際ホテル宇部。
発表時間=1題10分。
其他=発表者は所属、氏名(連名の時は発表者に○印を附す)及び演題を7月15日までに、講演要旨(原稿用紙3枚以内)は8月15日締切。

 ▽薬学部会
部会長=神代昭。
従来、薬学薬剤部会と製薬部会とは別々に開催されていたが、研究発表の内容が同じ傾向にあるので、部会の重複をさけ、なおその内容の充実をはかるため本年より薬学部として統合して開催。
期日=10月25日(金)
場所=宇部市総合福祉会館
講演時間=1題10分(追加発言2分)。演題多数の場合は8分(2分)とする
発表者=所属名・氏名(連名のときは演者に○印をつけること)。
講演要旨=四〇〇字詰原稿用紙3枚以内。
其他=スライドは2面用意
演題申込締切=7月15日。
講演要旨締切=8月15日。

 医薬分業を意識する 開局薬剤師のために 福岡市 藤田 胖

 福岡市の周辺には局地的ではあるけれど調剤のみ行う薬局が五、完全分業医師五(内科が四、外科一)、その他一部処方せんを出している医師が二六名ほどあります。また、現在話合いが進められているものもあって、分業に対する医師の意識が漸時変り、理解を深め実施を考えているようです。一部の医師には意欲はあるが自分の方から呼びかけると何等かの責任を持たされても困るからとの気分もあるようです。

 今までの実情は医師からの呼びかけあり、薬剤師からの働きかけありで画一ではありませんが、いずれも個人の対話と信頼による分業であって医師会とか薬剤師会とかの折衝による公式のものではありません。医療改正案の地域指定分業を待つのも結構なことですが、現在の薬局経営になお保険調剤を加えることを意識するならば薬剤師から近隣の医師に対して積極的に対話を求めて、分業が患者とって都合のよいことや、医師にとってもメリットのある部分などをよく説明し、あわせて薬剤師として分業に対する自分の態度をよく理解してもらうことが大切と考えます。

 先般福岡市医師会誌に、ある医師が分業にふれて「医業に対する社会事情はかなり変化を示し医学の著しい進歩に対して低医療政策のため、医療従事者特に看護婦の不足は著しい。故に私設病院や診療所は医薬分業を切実に考えなければならない時期にきている。然し薬局側は医薬分業の必要性を認めながら受入態勢の整わないまま実施すると一番困るのは患者であり、また皮肉にも分業を追っている薬局ではないか。だから薬局側は受入れ態勢を整えるべきで、市街地などは診療所一〇ケ所位に少くとも一ケ所の保険薬局センター(仮称)を設置し三交代二四時間勤務が必要である」と書いています。また「処方せんを公開すると患者はマスコミで宣伝されている薬を欲しがり医療費がかえって上るのではないだろうか」とも書いています。

 これに対し、分業を実施している医師が答えて「医師としては近隣の薬局一軒か二軒で受入れてくれれば話合いも楽だし、患者にも無理がかからないだろう、また薬局側も相手にする医療機関が多くなればその全ての要望をみたす医薬品を備えるにたいへんであろう。対話もうまくいくまいから一薬局で二、三の医療機関が相互に理想的であるまいか。また三交代、二四時間勤務は申し分ないが、必ずしも二四時間勤務でなくとも夜半は救急薬を院内投薬し、翌日改めて処方せんを渡すことで患者も安心している。

 また処方せんを公開してもマスコミ宣伝の薬を患者が希望するといった経験は全くない。また医療費については上田市の報告によれば、処方せんを発行する薬剤費の方が院内投薬より少額であるとのデーターが出ており医療費が上るとは考えられない」とも書いています。この医師会誌上の論議は、吾々薬剤師が医師との対話を行う場合の参考に非常に役立つと考えます。

 私が分業受入れを始めたのは昭和四四年ですが、その時の対話で合意点を見出して相互に確認し合ったことがいろいろありましたが現在ではすでに皆さんにはわかりきったことばかりですが二、三列記するとつぎのようなことでした。

 @人手不足、人件費、労務管理等に要する気苦労と費用が軽減する。
A請求事務の簡易化と明細書作成の繁雑さから解放される。
B医薬品の在庫が著しく減少し資金調達が楽になる(管理のための労力、時間、設備場所等減少)
C税金が減少する。(本紙八五一号掲載)
D自由な効果的な処方投薬ができる。

 さてお互に分業実施の決心がつき、開始に当り具体的な準備として今まで医院で使っていた医薬品の在庫を薬局で引取り、日曜、祭日夜間の急患用として約二五品目少量宛を従来通り院内投薬用として残し、その後の新規採用薬品は予め話合って準備することとして患者への不安感を与えないよう配慮しました。この方法は現在も続いていますが新しい薬剤についてはDTも行っています。

 患者は病院から処方せんを持って薬局に来ますがムードの違いかホットした様子で、薬の効果、用法、時間など心安く聞けるとしており、薬剤師も処方医の意志に沿って親切に教えるため、患者の喜ぶ姿を見て、これが正しい医療の在り方だと感じ、医師にも報告してお互に分業は間違っていなかったことを喜び合っています。

 私の場合は、内科・小児科医師と藤田薬局那珂支店と、ペインクリニック医師と銀天町支店との一対一の対話によって始めた分業ですので、備蓄薬品も非常に限定され、約一五〇種と二二〇種、金額にして一五〇万円と二〇〇万円位で二ケ月一・五回転程度かと思われます。処方せん枚数は一ケ月一、五〇〇枚位と二、二〇〇枚位で、一日平均六〇枚と九〇枚位です。

 開業医師との一対一の分業はこれが一般的に普通考えられる姿だと思います。以上が概要ですが、現在の薬局経営に分業を加えることを志向するならば分業動向の如何にかかわりなく、独自の立場から近隣医師との対話を開始し、薬局店頭の整備と、患者の待合設備を快適に備えることを提案いたします。

 森下泰当選 九州山口各県得票数 喜びの中に反省色濃厚

 今回薬業界が一丸となって推した森下泰参院選は台風被害によって最終的当落の判明は、一週間のお預けとなったが、一応51位〜54位までの全国区議員の中に当確との発表があったことは全く慶ばしい。余ほどのハプニングが起らない限り当選はするであろうが、上位当選との大方(日刊紙雑誌等)の予想を裏切ってスレスレであったその原因は今後いろいろと分析されると思うのでここでは九州山口地区の高野一夫氏が当選した昭和三四年からの得票数を表にしてみた。

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 日本薬剤師会 分業予算一億円 薬務局に要望

 日本薬剤師会はこのほど五〇年度厚生省予算について、総額一億一千百五〇万円の医薬分業推進予算を松下薬務局長に要望した。 五〇年度の分業関係予算で日薬が重点を置いているものは@医薬分業PRA各都道府県薬剤師会の分業推進員研修費で、これの実現は分業に対する行政の姿勢を示すものとして注目している。薬局実態調査は四九年度に引続き実施される予定であるが、五〇年度は経営内容を主体に行われ、日薬は分業に至るまでの過程を経時的に調査したいとしている。

 要求項目は次のとおり。
(一)医薬品試験センター設置補助金一千五百万円(三百万円・三か所)。
(二)薬局実態調査費一千百五〇万円。
(三)医薬分業PR費二千三百二五万円。
(四)分業推進員研修費八百二五万円。
(五)薬剤師卒後研修費五千三百五〇万円。
(六)医療金融公庫融資拡大=@備蓄センター設置費を対象とするA調剤薬局の扱を無床診療所並みとするB運転資金の増額(分業資金)など。

 松下薬務局長談 再評価、大衆薬への影響も 塩ビ殺虫剤融資希望額三億

 松下薬務局長は一日午前定例の記者会見を行い、「再評価の第二次公表は七月下旬常任部会の意見を聞いて行うが、大衆薬への影響も避けられない」など当面の問題について次のように語った。

 ▽再評価問題
常任部会は七月下旬に開催を予定しているが、一部薬効の削除などから大衆薬への影響も避けられない。医療用単味で薬効なしとされたものは当然回収の対象となるが、用量変更などのケースは有害ではないのだから回収などの措置はとらない。

 ▽有効期間と定価の表示
有効期間の明示のため製造年月日を入れるのは、その理由が問題である。抗生物質、ワクチン等は薬事法に規定されており、経時変化の多いV剤なども自主的に使用期限として入れている。全医薬品に対しては必ずしも必要ではないと考える。定価表示は近く公取委が再販品に表示義務を課するようだが、他のものは独禁法からいっても好ましくないのではないか。

 ▽塩ビ殺虫剤の融資
塩ビ殺虫剤の回収融資は希望額が約三億円で中小三公庫の融資を中小企業庁へ申し入れ、配慮方の確約を得た。

 ▽大衆薬の価格問題
大衆薬の価格で事前協議制をとっているが、この現状のままで進むか撤廃するかは政府の方針如何にかかっており、いま検討中である。公明党が指摘したようなヤミ値上げの事実はない

 ▽来年度の予算要求
薬務行政は整理調整時期で、従来の予算を地固めする方針で編成した。

 ▽ケネディ聴聞会と日本
ケネディ委員会の規制は個々をとりあげると従来日本でも行っていることだ。米国では製薬企業に対する行政コントロールが強化の方向にある。ディテールマンの実態調査を含め、日本でもその方向に向うことになろう。

 福岡市学薬 第2回理事・監事会

 福岡市学校薬剤師会(馬場正守会長)は左記により第2回理事・監事会を開催する。
日時=7月16日(火)11時
場所=福岡県薬会議室。
協議事項=@林間学校調査についてA各区学薬協議会について。

 社会保険調剤請求事務説明会

 主催=福岡市薬剤師会
日時=7月25日(木)13時
場所=福岡県薬剤師会館
対象者=保険薬剤師が必ず受講すること
備考=出席者は手持の調剤請求書5枚、請求明細書5枚、筆記用具を持参

 福岡県薬 調剤技術委員会

 福岡県薬剤師会調剤技術委員会(堀岡正義委員長)は左記により委員会を開催する。
日時=7月25日(木)14時
場所=九州大学病院薬剤部会議室。
議題=@第二回新採用者薬剤師研修会について。A第一二回病診薬剤師研修会について。B第二一回日薬病診勤務薬剤師研修会について。C第四一回九州山口薬学大会薬剤部長協議会提出議案について。

 九州山口薬学会役員会

 九州山口薬学会(林清五郎会頭)は役員会を左記により開催する。
日時=7月26日(金)14時〜15時30分。
場所=福岡市博多区博多駅前、福岡朝日ビル9Fホテルステーションプラザ
協議事項=@第41回九州山口薬学大会における薬学会の運営についてA薬学部会(薬学薬剤部会、製薬部会の統合)の運営と特別講演についてB第5回DT担当者会議開催についてC其他。

 九州山口薬剤部長協議会委員会

 九州山口薬剤部長協議会(堀岡正義委員長)は委員会を左記により開催する。
日時=7月26日(金)15時30分〜18時。
場所=福岡市博多区博多駅前、福岡朝日ビル9Fホテルステーションプラザ
協議事項=@第41回九州山口薬学大会薬剤部長協議会の運営についてA日病薬九州山口ブロック会長会議についてB日病薬九州山口ブロック会員名簿についてC其他。

 福岡市勤務部会7月例会

 日時=7月26日(金)17時30分
場所=はかた会館九重の間
学術研究会=疾患シリーズ「消化器の悪性腫瘍」…古澤元之助先生(国立病院九州ガンセンター手術部長)

 福岡県病薬研修会アンケート

 福岡県病院薬剤師会(堀岡正義会長)は、来る九月七、八日に第二回新採用薬剤師教育研修会(本紙前号既報)を開催するについて受講対象を@昭和四九年度採用者A昭和四八年度採用者で第一回研修会に参加できなかった者に決定し、該当者の実態と参加希望者についてのアンケート調査票をこのほど関係先に送付した。

 福岡市学薬、中学校の給食センター環境調査

 福岡市学校薬剤師会(馬場正守会長)は、給食センターの依頼により次のように環境調査を行った。市学薬の積極的な真面目な活動は当局の認識を深めていて、関係者より感謝され大きく評価されている。
▽実施月日と対象
@7月10日(水)那ノ津センター
A7月11日(木)有田センター
▽調査項目
@気温、湿度、気動、感覚温度、CO、CO2、じんあい、落下細菌。
A照度。
B騒音。
C食器、食缶等の大腸菌群など。

 過ぎし日々(28) 塚本赳夫

 この大火傷(おおやけど)事件では、どの位学校を休ませられたかもあまりはっきりとは覚えていないが、少くとも一週間位は休んだものであろう。多分包帯も全部はとれないうちに学校に出たようだその最初の日の授業が終る前に担任の野尻先生から「授業が済んだら、そのまま教室で待っていなさい」と命ぜられた。待つ事しばしで、先生は紙や鉛筆を持って教室に入って来られたが、いつもより少しこわい顔をして居られた。いきなり「あなたは大変悪い事をしましたね」と云い出されて、そのあと親からいただいた大切な自分のからだをひどい目に会わせた事は大変にいけない事で、親に対しては大変に悪い事をしたことになると、諄々として解かれた。

 台所ですべって見た事はしかられても仕方がないが「身体髪膚これを父母に受く」と云うお話から先は全くわからん。お母さんに、あやまりのお手紙を書きなさいには全く弱りはててしまった。ついに先生は、それでは私の云う通りにお書きなさいと、紙と鉛筆をつきつけられてどうにも云う事を聞くよりほかに手はなかった。出来たものを先生が封筒に入れて持ち帰る形にまとめて下さった時は全くほっとして丁寧におじぎをした。

 こうして頭にはまだ白い包帯をして学校に出はじめてもうあたりまえに皆と駆け回って遊んでいたが、時に誰れかが気がついて顔を見に来るので閉口した。中にはおまえ本当に塚本か?と聞きに来た友達も居た。けがは最後に耳のすぐ前のもみあげの所が膿を持って、出来物(できもの)になって残ったが他の部分はなおって包帯をはずしたら友人達は妙な事に気がついた。

 台所でころんだ時、あわてて起きようとして、半分下向きになった所に熱湯の入ったお釜をかぶるようになったので、湯は耳に遮えぎられて耳の上の方から流れたものと、耳の下の方から流れたものとが口の横で合流したと見えて、左頬はほとんど全部やけどになって居るのに、耳の所を底辺にした細いさかさの三角だけはあまり熱い湯が流れなかったと見えてほとんど健康な皮膚が残っていた。 その他の部分はやけどしたあとに新しい皮膚が出来たのだがまだ若い弱々しい皮膚ではづかしいと思ったり、おこったりするとすぐ赤くなる。この時、口もとから耳に向ってサーチライ状のものが現われるので仲間の悪童共は僕に探海灯と云うニックネームをつけて、からかってはサーチライトの現われるのを喜んでおこらせようとばかり努力していた。

 その頃、上野広小路あたりの絵草紙屋に出ていた版画に水雷艇の夜襲とか云う絵でサーチライトの光が交錯する中を大きな敵艦に向って、数隻の小さな水雷艇が攻めよせてる画があって敵艦の照射するサーチライトの中で活躍する水雷艇がとても英雄的に見えていた絵もあり、夜の海戦を画いたものもまだ沢山あったから皆もこんな絵を見て、当時普通に呼んでいた探海灯と云う命名を思いついたものと思う。

 家に帰ってこの話をすると年うえの従兄達は「なる程子供達はうまい事を云うもんだ、絵草紙の探海灯と全く同じだ」と喜んで皆で僕の顔をながめるので又赤くなる、彼等は尚喜ぶ。学校では会う友達毎にからかわれるし全く立つ瀬がなかった。野尻先生に悪いことをしましたねと云われたことの中に、こんな事まで入っていたのかとやっと少しずつ解り始めたような気もして来た。しかし割合に恢復も早く二年生になる頃にはもうだれも探海灯とは呼ばなくなってしまった。

 新任あいさつと、薬務行政について福岡県衛生部長 鴛淵茂

 私は、本年五月、長崎県から本件の衛生部長に着任いたしましたが、それ以来薬務行政のなかでいろいろの事件が発生しています。福間町における農薬工場爆発事故、地盤凝固剤アクリルアマイドによる中毒症事件、そのほか毒劇物による事故が続出しこれがすべて周辺地域に影響を及ぼす事故であって、幸い地盤凝固剤アクリルアマイドによる中毒症事件を除けば軽い被害であったが、薬物の種類工場の規模、立地条件によっては最悪事態も考えられるわけで、関係業者はこの機会に危害防止を最優先した安全対策、管理体制をもう一度チェックしてもらいたいものである。

 次に全国的な問題として塩化ビニール入りスプレー式殺虫剤の回収があります。六月三日厚生省の製造、販売禁止の決定以来、その後三回に亘るメーカー、卸売業者、小売店の回収状況点検の結果六月末日には県内の流通過程にある製品は殆んど回収を終ったとみています。関係業者の協力につきましては、この誌上をかりて厚くお礼申し上げる次第であります。このようなことで、県会常任委員会、毎週行われる庁議には従来、薬務行政関係の議題にのぼることが少なかったといわれていますが最近毎回議題を賑わしました。担当課の方ではそれなりの苦労の毎日のようでしたけど、県庁内の薬務課の活動を知らせるよい機会であったのではないでしょうか。

 塩ビ入り殺虫剤の問題につづいて、この七月に薬効再評価の第二弾が発表されることになっています。
第一回目の場合の対象は精神神経用剤、抗菌製剤ということもあって、薬局、薬店の間では対岸の火災といった感じでしたが、今度の薬効再評価には、大衆薬として馴染み深いビタミンB1が含まれていることであります。今回は医療用医薬品の単味製品のみの薬効の手直しといわれるものの将来は大衆薬にも拡大されることが想像され薬局薬店への影響に関心をもたざるを得ないわけです

 一方、メーカーに対する「医薬品の製造及び品質管理に関する基準(GM、P)」は過日厚生省より案が示され昭和五一年度から実施されることとなっています。これは製造レベルでの品質保全の見地から医薬品の原料製剤、出荷にいたる製造過程における安全性の遵守事項を定め、医薬品の均一性を保持しようとするものであります。

 このように、医薬品等の生産、流通にたずさわる企業の環境は、とみにきびしいようであります。同時に私達が担当する薬務行政に対する風あたりもきつく、行政をとりまく万強も将来さらにきびしさを増すようです。「薬は効くか」という世間の問いかけに対し端的に答えることはむづかしいにしても、これらの諸施策の実施が、少くとも有効性と安全性のバランスを考えた「有用性のある薬」であるとズバリ答えることができるようになるでしょう。

 最後になって申し訳ありませんが、私も薬務課長と同じ出戻りで、昭和三三年まで衛生部にお世話になっていたことがありますが、再び皆様方の仲間入りをさせていただくことになりました。今までの厚生省、他府県に勤務した折角の経験から薬務行政をとらえることができれば、それが県民への行政となり、あわせて業界の発展につながることと思います。最後に、重ねてよろしくご指導お願いします。

 七月八日の夜 福岡県薬剤師会会長 長野義夫

 我々の支持した候補者が当落すれすれの今日は朝から県下各地の会員から電話が引っきりなしだった。そして夕刻になるにつれて少々アルコールのしみたらしい声もあって終日うけこたえに暮れてしまった。
団結の弱さをなげく者政治意慾の向上を訴える者、テクニックのまずさをなじる者、無関心ノンボリ組の多きを嘆ずる者そして一縷の望みを残して胸をつまらせる者等々おもえば過去十数年選挙の度に敗者の悲哀を味わってきた人達の心を、剤界の浮沈をかけると云われる今度の戦列にどう加えるかということと、時代は少しづつ変転している、政治動向も変っている、年齢差と政治理念の違い、剤界危機感の稀薄と漠然とした安心感、これ等の中に本人は誠に立派ではあるが突然に飛び込んできた様に思われ易い人物とをどう結びつけるか。

 この二つのことが一番苦心した事であり又スタート前の最重要事であった。然し完璧なる理論武装のいとまもなく戦いに入ってしまったが、さすが往年の物馴れた我が同志いや闘士達は日時の経つにつれ日に増し闘志を燃やし、ピッチを上げて身の内にたぎる使命感に生き甲斐を感じながら努力に努力を積み重ねてくれた。喜と憂相半する今日の今、それ等の数人達はいづ処かで肩をたたきあいながら杯を交わしているであろう。

 私は昔時に読んだ兵書の一節を思い出した。
「悔なく戦った者のみが真の喜びと悲しみを味う権利を持っている」と。
分業の問題も又永い永い戦いと云えなくはない
七月八日の夜はいつになく永かった。

 医薬協業 長崎大学病院薬剤部長 清水龍夫

 復刊早くも一カ年の由、よかったと思う。見て愉しい気がする。その理由は近隣親しみのある人々の、或いは会合の動向が知れるからである。社の論説や中央のご意向より、身近から諸者の飾り気のない意見で紙面が埋められているからである。立場に応じた地方紙というより同好紙の感があり、編集子の御努力と意途が無言で示されているのが面白い。先ずもってご同慶に堪えず心からお祝い申し上げる。

 今一つの本紙の見どころは、勤務者と開局者が胡座をかいて話し合う場を提供されている点である。日薬は勿論、どこの県でもこの両者は肝胆あい照らす仲であるに違いはないが、平素職場を異として話題がまだ一致しない事が多いので、ややもするとその親交は同窓、同好、役職の間柄だけに止まることが多いのである。医薬分業は勤務者と雖も薬剤師職能の確立のためには重大な関心事である。分業が何とか軌道に乗ろうとしているこの秋に更に積極的に協同線を張る事は双方にとって必要事なのである。

 医薬は分業というより協業であるという表現は医療に於ける対患者的な心がまえをいうのであり、倫理をその様に説明しようとしているのである。しかし吾々はその前に薬剤師自身の倫理をもう一度見直さねばならない。何十年薬剤師の倫理を説き聞かされ、今やそれらは自分にも他人にも既に老婆心であり、杞憂にしか過ぎないと信じかけていた矢先きにこういう記事を日刊紙に見た。

 東京の一薬剤師が態々投書したもので、病院から馬に食わすほどの薬をかかえて彼のところへ立ち寄った患者さんの手から、毒々しい色、変った型のものをとり去り、安全そうなものだけを残し、なるべく我慢して、本当に具合の悪い日だけ用いるように注意するのだそうである。医師と薬剤師が互いの技術で協力し合う日がくる迄はそれが薬禍を防ぐための知恵であるというのである。協力し合う日を誰が作るのだろうか。若し変色、変質などの異常を発見し、或は処方に疑問を持った時の事を言うのであっても明らかにこの薬剤師の処置は誤っている。医師が最も分業に対して抱く不安は、勝手に処方が摩り替えられることだ、と言われても、まさかと思いはじめている今日この頃である

 この場合は調剤済のものから抜き取られ、具合の悪いときだけ飲む様に無責任な誘導が混入されているのである。薬剤師側の弁明が掲載される前に医師の一人から、それでなくても治療の指示が徹底しないで困っており、分業によって患者指導に協力が得られる事を福祉に対する大きな力と思っていたとき、これでは患者は一体終局の責任をどこへ訴えたらよいのだろう何となく釈然としない心境であると、大そう控え目なご意見が投書されている。何となくという様な問題ではないと思う。

 追い討ちをかける様に、九州某県で実施中の学童への肝油球投与について不要有害説を唱えた医師に対して、薬局の主人らしい人から営業妨害だと脅迫じみた電話がかかったという。投薬の是否は正しく生体の問題であり、今から真剣に論じられようとしている鼻先にポコンと独り営業問題から考えようとする薬剤師の存在を浮き出しにされた事は遺憾である。

 勿論紙上の言葉は当該薬剤師の真意を伝えていないかもしれない。が紙面に見えるような人ばかりでもないのに、折角みんなが努力しているのに、態々新聞に迄飛び出してこなくてもいいのにひとくさり愚痴をのべ、深く反省して、何べん失敗しても、足を引っ張られても、イメージ造りの難しさは既に何十年の先輩以来の継承事であり、コツコツ積み上げて行こうと覚悟を新たにさせられた。

 医薬分業に思う

 佐賀県立病院好生館 薬局長 於保誠

 九州山口各県薬、薬業界並に関係諸団体の御支援と御協力のもとに九州薬事新報が、この七月をもって復刊一周年を迎えられ地方業界紙として着々その成果を挙げられておりますことは誠に喜ばしい限りでございます。心よりお祝い申し上げます。

 さて日医の武見会長の発言、厚生大臣の談話などで御承知の如く五年後に医薬分業が実施されることが確定的になりましたが、日医としては、技術料を中心とした診療報酬の改訂、医師の信頼する調剤センターの設置等を条件としております。参院選が終れば各県薬とも本格的な分業対策が講ぜられることでしょう。

 武見会長の「薬剤師への提言」をみても分る通りなかなか厳しいものがあり、従来のややもすると物品販売業的な薬局から脱皮して患者を中心とした真の医療を行わなければならない時期にきており、お互いに責任のなすり合いをする時代でなくなったと考えます。

 分業に際しては各県また地区によっても多々問題がありますが、一番重要なことは先ず医師からも国民からも信頼される薬剤師になることではないだろうか、最近では各県薬に於ても各種研修会、実地研修、学薬女子薬の活動と、ほんとうに商売を抜きにしてやっておられる姿に、分業に対する意欲がひしひしと感ぜられ、特に青年薬剤師の活躍が業界紙に報道されており大変力強く思っております。要は医薬分業に対する薬剤師の熱意であり、一年でも早くすっきりした分業が出来るようにお互いに頑張りたいと思います。いやしくも御破算にだけはしたくないものです。

 ごあいさつ 九州大学薬学部 部長 川崎敏男

 私は、去る四月一日、田口胤三前学部長の任期満了にともない、後任薬学部帳に併任されました。昭和十八年東大薬学科卒業後、副手、助手を経て昭和二十五年新設の九大薬学科に塚本赳夫先生の助教授として着任、昭和三十五年先生の御退官後教授となり現在に至りました。此の間、生薬学、植物化学の研究と教育一本の三十年、文字通り温室育ちの世間知らずで、各方面には申し訳けない御無礼を重さねてきましたが、今後何卒よろしく御交誼、御鞭撻給わりますよう、紙上を拝借して御願い申し上げます。

 本号は復刊一周年記念夏季特集と伺っており、なにかお目出度い話、涼しい話題の欲しいところですが、昨今、見るもの、聞くことすべてがきびしく、暑くるしく、肩肘はってギスギスしている様に思えるのは私一人でしょうか。全国的、いや全世界的、各界つうじてのはげしい変動の時代とあっては、わが薬事薬業界のみその例外であり得ないのは当然かもしれません。薬学同冠者にとって待望の朗報といわれる近年のいくつかの動きも、反面、その責任の重大さを痛感させられ、むしろ身の引き締るおもいがします。

 開局薬剤師、病院薬剤師それぞれホットな問題を抱え、メーカー、販売業界もまた独自の深刻な事態に直面しています。私たちの世界も「象牙の塔」は昔語り、これらの問題、事態を反映して、薬学の教育研究のあり方将来、に議論が沸騰しております。なにか目に見えない大きな流れを感じずにはおられません。情報化時代といい、また情報過多との声も聞きますが、今の様な変動の時代こそ、各分野の動きをすみやかに、かつ正確に伝える本紙の役割が大きく期待されます。この意味からも、復刊一周年を心から祝し、今後の御発展を祈りたいと思います。

 私自身、出来るだけ多くの情報を得ながら、表面のサザナミに一喜一憂することなく、これらの底を流れるものを直視し、その流れの中にある自分の使命を意識し、自らをきびしく向上させることがなにより大切と自戒しております。重さねて、皆様の御鞭撻を御願い申し上げます。

 医薬分業について 熊本大学薬学部 部長 一番ヶ瀬尚

 医薬分業がここ数年の間に実現しそうな状勢といわれている。既に医薬分業は確立していなくてはならないので、今更、医薬分業が悲願であるというのがおかしい位である。しかし現実は今尚、全薬剤師の悲願という旗印にて実現を期さねばならないというより、医師会の出方をみている状態という処に、何か日本の医療の歪さえ感じさせられる。

 医薬分業ということが目前に迫って来ている今日、分業の受入れ態勢云々が医師の側からも指摘されているが、これでは全く情けない次第で、何時でも来いという姿勢と態勢はとっくに準備され、実行されているべきである。私は医薬分業を控えて心配していることがある。それは単に薬剤師側からだけではなく、医師側にも医薬分業に当って充分考えて置いて貰いたい問題である。

 従来でも、私から考えると、医師は医薬品に対する知識は充分であると思っていない、もちろん医師が自から取扱っている医薬品に対しては現物を手にし、効能書を見、またはDetail manの説明を聞き、ある程度以上の知識をもって薬物治療に当っていることと信じているし、それは当然の措置と考えている。

 しかしそれは私から考えれば、医薬品というよりむしろ薬物そのものの知識であったと考えられる。同一成分の医薬品が必ずしも同一の利用効率を示さないことは明白な事実で、言いかえれば同一成分の医薬品が必ずしも同一の薬効を発現するとは限らない。これに患者それぞれの生理的条件や服用時の条件等が異なれば、医薬品の成分が同じでも、その製剤の性質と相俟って千差万別に薬効は変化し得る。

 今迄は医師は自から医薬品を取扱っているために、実際に医薬品を手にし、効能書を見、Detail manの説明に耳を傾けざるを得ない。しかし医薬分業が実現した後、医師は医薬品は注射剤以外は自から手にすることは極端に少なくなる。そうなると医師は診断と、病気に対してとった措置の結果の観察に主力を注ぎ、医薬品の知識の獲得に消極的にならざるを得ないのではなかろうか。製剤という成分以外の条件が要素になる複雑な医薬品の選択の判断の資料は持ち得なくなるのではないだろうか。そこに医師が処方した処方箋の完全実施に対しての不信がそれは製剤というものに対する理解の不足に基づいた誤解からにせよ、生じるのではなかろうか。そのほか医薬品の併用効果が生物薬剤的に考えると成分薬物の吸収代謝排泄分布にも変化を来たすという事実も知られている。

 こういうことを考えると薬剤師は医薬品の専門家としての実力をもっともっと涵養すべきである。その第一の出発として現在病院薬剤師の間で実施され、実際的な役割を果しているD・Tの受入れ態勢を早く整えることが肝要である。亦、これに基づいての医師との間のコミニュケーションを心掛けるべきで、この二つについて組織的な態勢を早く作りあげ、薬局末端までよく浸透するようにすることが、医薬分業の効果を高めることであり、医薬品の応用に当っての有効性、安全性の確立に資する手段であると考えている。

 「福岡県薬事団体連合会」(仮称)の結成を提唱する 国松藤夫

 先づ九州薬事新報の復刊一周年をお祝い申し上げます。当事者の並々ならぬご労苦に対し心から敬意を表しますとともに、今後とも当報が、私達相互のコミニュケーションの場として、また、指導啓発の機関紙として、情報の交換、実施(計画)行事の報告、指令及び用件の伝達、あるいは夫々への下意上達、さらに進んでは、さらに進んでは、業界世論の喚起育成を計る等、より一層の努力を傾注され、その内容の益々充実発展されんことを祈って止みません。

 さて私達業界をとりまく環境はまことにきびしく、薬効及び安全性の厳正な評価、即ち薬効再評価の問題を始めとし、再販規制、要指示薬、薬害に折る救済制度の問題及び一般消費者運動の問題等、あるいは五十年五月に実施が迫っている資本の完全自由化及びこれに対するG・M・P(品質)、G・D・P(流通)の問題や、医療保険制度の抜本改正並びにこれに関連しての医薬分業問題等全く難問山積の状態であり、どれ一つとりあげてみても容易に解決出来るものはなくいずれも今後の経過如何によっては大きな影響をうけるものばかりであります。

 加うるに昨年後半より起った石油危機により、インフレは昂進し、原材料等が不足、高騰するなど非常にきびしい環境下にあります私達医療関係者はこうした状況の下にあって如何にあるべきか?如何にしてこうした情勢の変化に適切に対応して効果的な対策を講じてゆくべきかをお互に真剣に考える時であります。

 日々目前の利益の追求にのみ眼を奪われることなく大きく眼を開いて、私達業界の社会的使命を十分に自覚し、業界の振興、公衆衛生の向上及び消費者保護を図る等県民の健康と福祉の増進に寄与しなければならない。畢竟、これが業界の繁栄ひいては私達相互の利益につながる捷径であることを忘れてはならないと思います。幸い県内には次のような多くの薬事に関する団体があり、夫々思い思いの活動をされておりますが、また一面共通の利害をもつ関係にあります。
一、 福岡県薬剤師会
   福岡県病院薬剤師会
   福岡県女子薬剤師会
   福岡県庁薬剤師会
   福岡県学校薬剤師会
二、 福岡県薬事協会
三、 福岡県医薬品小売商業組合
四、 福岡県医薬品卸業協会
五、 筑紫二十日会
六、 日本新薬協会西部部会九州支部
七、 福岡県製薬協会
八、 福岡県麻薬協会
九、 福岡県家庭薬協会
十、 福乳会
十一九州医療品卸商連合会
等、そこで以上の各種団体が更に一歩進んで積極的に大同団結し、一つの大きな連合組織をつくり相互信頼の下に、強い団体の力を以って県住民の健康と福祉の向上に努力し、業界の繁栄を計ってゆくことは極めて肝要なことであります。

 こうした企ては、すでに他県でも実施の例があり、また時代の要請するところでもあると思われます。
ここに私は、この機会にあえて「福岡県薬事団体連合会」(仮称)の結成を提唱致します。福岡県内の薬事団体連合会の基礎固めが出来、これが端緒となり九州管内の各県が、そして将来は、九州沖縄、山口の連合会の結成にまで拡大発展すれば、まことに喜ばしいことだと思う次第であります。
(昭和四九年七月八日)

 毒劇物と環境放言 福岡県衛生部薬務課 課長 岩橋孝

 ◆有害物質とは
微量分析技術の可能となった現在、従来零とみなされていた化学物質が検出され、これが世に知られたいわゆる有害物質の場合、その量の如何に拘わらず社会的問題化するケースが増加してきている。
残留農薬の場合、これは人為的な化合物であり、天然にあり得ないものの検出である以上、百%の人為的汚染とみることができよう

 しかし、現在の分析技術の制約のもと、水銀、鉛とか砒素というように、その化合物や結合形態を無視して元素の量としてとらえた場合、天然に広く存在するものもあるし、たとえば、塩素のように毒ガスともなるが、ナトリウムと結合すると食塩として日常欠かせない化合物となるといったように、化合物ごとに毒性には強弱があり、これらを問はず、有害≠ニ極めつけてしまうとは乱暴な話しである。

 その二は大量にまた長期間摂取したとき、その量、期間に比較の差があれ、中毒症状を起すものであり、元素なり化合物のすべてを通じ濃度なり量なりまたその摂取接触等の期間によって判断されるべきものである。以上、最近の世相は、こうした当り前のことがごちゃごちゃになっていると感ずる。

 ◆人体へ影響の検討は
現在の生産性の向上に伴う所得水準の上昇と品質の向上した製品の普及によって、新らしい消費傾向を生み出し豊かな国民生活の実現する一助となっている。その一形態として開発された各種の化学物質が家庭用品として利用されたり、処理剤、加工剤として繊維製品をはじめ家具、洗剤、塗料、接着剤、紙製品に使用され、品質向上の効用を果している。たとえば、繊維製品には、難燃性、柔軟性、防かび性、防しわ性、発水性、帯電防止等の優れた性質が付与され、消費者に大きな利便を与えている。その半面、これらの化学物質の人体影響についてはほとんど検討されず、保健衛生上何の規制もなく家庭用品として生産、消費されてきたため、健康被害の問題が国民生活への新たな脅威として提起された。昨年十月「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」が成立し、近く施行される運びとなっている。

 昭和四十七、四十八年には家庭用品と関係ある化学物質三十品目について各種毒性試験を実施中である。
一方、厚生省、通産省共管の「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」が昨年十月成立した。
これは、PCB等の蓄積性、毒性等を有する有害な化学物質そのものを開発段階で事前に審査し、市場への流入をチェックするものである。

 すでに市販されている化学物質は一万九千あるといわれているが、その中で、重金属、ハロゲン化炭化水素など四百種を選び分解性蓄積性など調べているが、毒性について疑問がもたれたものについて、さらに各種の毒性試験が実施されることになっている。

 これらの化学物等のなかの毒劇物であるがこの法律が急激な毒性をあらわす化学物質による危害を防止するため、その流通過程を規制しようとする趣旨でもあるので、毒性は、急性毒性が中心に検討され、長期間摂取、接触による毒性その他の検討は必らずしも十分とはいえない。今後、厚生省においても早い時期に検討されることを期待するが、前述の化学物質四百種のなかでも検討されることになっている。

 ◆広範囲に使用される毒劇物
毒劇物は、その使われる範囲は大変ひろく、工業薬品あり、化学用試薬あり、農薬あり、写真用薬品あり一般家庭で使用される殺そ剤や染毛剤のほか、そのほかの化学物質としても、繊維製品、家具、洗剤、塗料などにも使用されている。

 このように、われわれの生活のあらゆる分野で取扱われているといっても過言ではない。しかも、同一のものがきわめて多方面の用途をもっている場合が多い。つよい腐蝕性である苛性ソーダを例にとってみよう。工業薬品、医薬品、油脂、石?、染料など、ほとんどあらゆる化学工業の基礎原料であると同時に、パルプ、製紙繊維、石油などの諸工業にも多量に使用され、また、染色業、洗濯業から、さらに一般家庭でも建物家具などの洗浄に使用される。

 ◆最近の毒物劇物による事故
五月、県内F町にある農薬工場で爆発事故が発生し周辺住民など三七名が、これが原因とみられる有機燐中毒類似の症状を訴えた。幸い、その症状も軽く間もなく消失した。しかし、この事故の原因は、企業の生産第一主義によるものといわざるを得ない。殺虫剤需要の最盛期をむかえ、その薬剤の性質から当然配慮されるべき作業管理が十分でなかったことは全く残念なことである。

 県においては、事故発生と同時に、安全対策管理体制が確立するまで、製造部門の操業停止を要望したところであり、操業停止後二カ月近く経過したが近く操業再開の運びとなっている。

 次に、新宮町において発生した地盤凝固剤アクリルアマイドによる中毒症の発生である。この事件は、下水道管の埋設工事を行なうにあたって、家屋に対する影響などを防止するため実施したアクリルアマイドを主剤とする地盤安定化作業中、薬剤が何等かの原因で井戸水に混入し、この水を使用した三名のものが、亜急性のアクリルアミド中毒にかかったものと推定されている。

 アクリルアミド系の高分子化合物は、わが国においては、昭和三十八年頃からトンネル工事における湧水防止工事や地盤安定化工事に際して広範囲に使用されてきたが、今まで井戸水を汚染して健康障害を起した事例は報告されていない。今回の事故は、工法上のミスが第一と考えられているものの、国においては、これらの毒性は十分検討されておらず事態を重視した国は本年五月新らしく劇物に指定し、毒物及び劇物取締法の規制をうけることとなった。

 この地盤凝固剤のなかに含まれていた促進剤ジメチルアミノプロピオニトリルは、劇物であるが施工業者に販売した業者は、毒物及び劇物取締法による知事の登録をうけていないことも判明した。さらに、現在調査中の事件では福岡市内の某大学生がブロムを下宿先のアパートに持込み何等かの原因でガス漏出し、気散したガスが周辺住民に眼がチカチカするなどの被害を与えた。ガスの充満した部屋は、消防署の手によって、アンモニア水やハイポによる薬品処理が行なわれ、幸い大事にはいたらなかった。
このように短期間のうち毒劇物での事故が続出している。

 ◆急がなければならない監視体制の整備
このように、毒物、劇物による事故は、この薬物の性質上、水俣病、イタイイタイ病のような公害病のように微量な物質の長期間の摂取、接触によるものではなく、急激に周囲の環境に影響を与えるものである。

 医薬品の品質の確保を主目的とした薬事法とは異って、毒物及び劇物取締法は品質の確保をいうよりむしろ流通過程における危害の防止を主目的とした法律である。また、工場内での従業員に対する危害防止については労働基準法があって労働安全衛生規則によって予防のための設備などの事項が規定されていることからいって、この法律は、流通過程の周辺すなわち環境への危害防止の規制も大きな役割をもっているものである。

 環境汚染が社会問題化している現在、毒物劇物の事故によって発生した現場周辺すなわち環境の被害については、とくに、じん速な的確な処理が要求される。そのためには、即応できる体制を整備し、事故がおきた現場周辺の住民の不安解消につとめることを第一とし、事故の未然防止のため従来からの医薬品の品質確保を中心とした薬事監視のあり方から、毒物劇物についても、最重点事業とした指導監視体制の強化が現在の最大の課題であり、しかも法律は今よりもさらに厳正に運営することとしている。

 とくに、今後の問題のひとつとして、業務上取扱う業者は法律で届出の義務がない、たとえば食品、繊維製品、パルプ、鉄工などの製造業、さらに印刷業、倉庫業、一般農家、学校、遊技場など対象が多岐でかつ多数であって、その対象数その実態が未だ把握されていない。しかもこれらの業者は毒劇物に対する知識、技術に乏しい。とりあえず大量に取扱っている業者、シアン等環境汚染につながる毒劇物を取扱っている業者の実態を把握し、指導監視につとめる一方、業者の関係団体を通じての指導を急ぐことにしているが、現状の体制では、とうてい満足できる指導は不可能であるので、いずれにしても、人的、物的面の体制の整備を急務としているところである。

 「くすりと健康の週間」に向けて

 九州大学医学部附属病院 薬剤部長 堀岡正義

 毎年一〇月に行なわれる「くすりと健康の週間」のことを、梅雨がやっと明けて夏が始まった今ごろ取上げることに、疑問を持たれる方がいるかもしれない。だが筆者が言いたいことは次のようなことなのだ。ともかく読んでいただきたい

 今秋日薬病診部会で「薬品中毒とその処置」というテーマで研修会を行なうことになり、その総論を執筆すべく資料を集めている。そのなかで取上げたい一つに米国薬剤師会の行なっているNational Poison Prevention Week(全国薬品中毒防止週間)がある。

 ご承知のように医薬品をはじめとする各種薬品の急性中毒に対応するためアメリカではPoison Infornaition Center(中毒治療センター)Poison Contriol(中毒治療センター) Centerが発達しており、その数は二百数十カ所に及んでいる。このセンターのことが最初に取上げられたのは一九五〇年であるが、その提案は一人の薬剤師によって行なわれたのである。

 科学の進歩は人間を新たな生命の脅威にさらすことになる。医薬品をはじめ洗剤などの家庭用品、殺虫剤農薬などの誤用による事故は急激に増加しており、その三分の二は五歳以下の小児であるという。子供を危険から守ることについて関心の高い米国やヨーロッパ各国において中毒情報センターやコントロールセンターが発達したことは当然ともいえる。

 今年のアメリカの中毒防止週間は三月一七日から二三日までの一週間にわたって行なわれたのであるが、それに用いるポスターや立看板ならびに実施要項はすでに米国薬剤師会誌の一月号に六ページにわたり詳細に記されている。その準備と計画性は驚くばかりである。

 ところで日本の場合はどうか。「くすりと健康の週間」は、病気の回復や健康維持にくすりが欠くべからざるものであること、その正しい使い方が大切であることを一般大衆に教えるとともに、薬剤師の職能を国民にPRする絶好のチャンスである。とくに本年の場合、医薬分業五カ年計画がスタートし、いろいろの施策や対策が練られていることを考えるとき、この週間をうまく利用して国民に医薬分業へのコンセンサスを得ることは、まさに時宜を得ているはずである。この週間に作られるパンフレットをみるとき、その内容の良し悪しはともかく毎年あまり変わりばえのしないのが現状である。

 分業に向けて日薬の総力を結集して動き出した今年こそ「くすりと健康の週間」をいかに活用するか、思い切った対策を日薬も県薬も今すぐ立てるべきでなかろうか。以上のことを記した筆者自身、現在日薬および県薬の役員の末席をけがしている次第、先に記した米国の計画性の良さにならって大いに動き出したいと考えている。良いアイディアがあれば読者諸氏からもどしどしお寄せいただきたい。

 臨床薬学 鹿児島大学医学部附属病院 薬剤部長 石橋丸應

 金沢市で開催された第二四回日本病院学会の講演(××県立病院栄養部)要旨中に「薬剤師と比較して恐縮であるが最近女性の進出が多いので比較してみると薬剤師の場合、学校では高度なことを学んでくるが、職場では医師の書いた処方通りに調剤すればよい、その間高度な判断は必要としない。手足を軽く動かせばこと足りる……」とあったそうである(薬剤師新聞)。病院内で同じ医療人として働いている栄養部からこの程度にしか見られていないとは全くもって憤慨に耐えない。

 「病院薬剤師は医師の処方によってヒートシールされた錠剤やカプセル剤を、はさみで切って袋につめて患者に渡す単純な仕事である、薬剤師としての生きがいを何に求めたらよいか」これは女子薬剤師の未来像について≠ニいうテーマでパネルデスカッションの中で出てきた発言である。

 確かに従来から調剤は医師の処方によって正しく秤量し、混和し、分包して患者に用法を指示し投薬してきた、軟膏剤、注射剤、点眼剤、試薬の調整もしてきた、技術的に困難でないにしても個々の薬剤師の責任において、この仕事をしてきたのである。錠剤一個にしても、外用剤一びんであろうとも薬剤師の責任によって調剤し患者の治療のために、ひたむきに職務を遂行してきているのである。この仕事を薬剤師がやらなければ誰がやるのであろうか、薬の専門家は薬剤師以外にはないのである。

 近年、クリニカルファマシーが病院薬剤師の間では叫ばれているが、このクリニカルファマシーの仕事はもうずっと以前から実際おこなわれている病院薬局も少なからずあったのである。症状はこれこれで臨床検査成績はこのようなデーターで、現在、このような薬剤を投与しているが改善がみられない、どのような方向で今後、薬物療法をおこなったらよいか、また、このような薬物療法をやっているが、このような障害がみられる、どの薬剤の副作用であると考えられるであろうか、など医師から問われた事も少なからず私自身経験している。クリニカルファマシーといえば病棟に進出して医師・看護婦に対して薬剤についての助言指導を考えがちであるが、まず現在、調剤をしている処方についてクリニカルな目で見る必要があると考える。

 例えは薬物と薬物のインタラクションの問題である。処方されている内容を薬物の相互作用の面から検討してみると問題になる組合せがかなりみられる。経口糖尿病治療剤のスルフォニル尿素剤のアセトヘキサミド、トルブタミド、クロルプロパミドなどを服用している患者にサルファ剤を併用投与すると低血糖をきたす。トルブタミドは吸収されると血漿中のアルブミンと結合する(結合率は84〜87%)、スルファフエナゾールと併用すると、この結合率が59%に低下する、すなわちサルファ剤によって遊離型のトルブタミドが急に増加し薬効が極度にあらわれるわけである。

 経口抗凝血剤(ジクマロール系)を与えている患者にクロラムフェニコールを投与すると抗凝血作用が強度にあらわれるので、併用しなければならない場合は抗凝血剤の投与量を半量程度にすべきである。ビタミンKを生産している腸内雑菌の発育をクロラムフェニコールが抑制し、肝臓中へのビタミンKの補給が不足しプロトロンビンの生産が低下するからである。

 副腎皮質ステロイドホルモンを連続投与している患者にサイアザイド系降圧利尿剤を与えると高度の低カリウム血症になる。副腎皮質ステロイドS・・レモンを連続投与すると低カリウム血症になる。その上にサイアザイド系薬剤を投与すればさらに追打ちをかけることになり絶対に避けるべきである。これらはドラッグインタラクションの二、三を例としてあげたにすぎない。その外に成書にもあるとおり多数のインタラクションが報告されている。

 医師の書いた処方についてこれらのドラグインタラクションについて検討を加え、そして正しく調剤する、これがクリニカルファマシーの仕事をおこなう第一歩であると考えている。

 復刊一周年を祝して 熊本県病院薬剤師会 会長 佐竹健三

 復刊一周年、おめでとうございます。私共熊本におりましても九州全域の事情が坐しながら手にとるように判りますので非常に重宝しております。なお一層の御発展をお祈りします。折角の機会ですので、私の平素考えております医療の場における薬剤師の将来像について述べてみたいと思います。

 先日、東京で日本学術会議医薬研究連絡委員会と日本薬学会共催で「臨床薬理学に望まれるもの」と題してシンポジウムがありました。いろいろと有益な討論が行われましたが、要は医薬品の開発の過程で、現在わが国で行われているような基礎薬理から臨床家への受渡しには不都合なところが多い。その中間の学問領域として、また病院の組織として臨床薬理学なり臨床薬理学センターが必要ということであります。このように重要な臨床薬理学の専門家の養成は、学問の確立とともに組織の問題が大きな因子となります。諸外国では既にその専門家が活躍していますので、わが国でもその必要性が叫ばれているわけです。われわれ薬剤師とくに病院薬剤師もこのことに無関係ではありません。学問的には異質の問題があるにしても、こと組織に関してはその役割がわれわれと競合するところが多く、したがってわれわれの協力も要請されております。

 一方、われわれ病院薬剤師の間では十年程前から「臨床薬学」が論議されています。これは前述の「臨床薬理学」が米国のみならず、欧州においても確立しその性格には多少のニュアンスの相異はあるが、とにかく実施されているのに対して、「臨床薬学」は主として米国において始められその教育、研究、実務が結実開花しております。わが国でも先覚者らが部分的に指導実行されていますが、そのうち最も定着したものはDrug Information 活動であります。九州では九大病院堀岡薬剤部長がそのリーダーシップをとっておられますが、同部長の見識は全国的にも有名であります。

 米国の真似をすることのみがわれわれの理想ではありませんが、「臨床薬理学」が学術会議でも採り上げられている折柄、「臨床薬学」にもわが国においてフォーマルな考え方が必要な時期と思いますので、米国における両者の役割を対比して御参考に供します。なお、前者は米国々際臨床薬理学フェローの経験ある北大、石崎講師の発表から、後者は多数の臨床薬剤師共著の Perspectiues in Clinical Pharmacy などから要約しました。

 ◆臨床薬理学
一、臨床薬理学者の研究目的
@人体と薬物の相互作用に冠する研究
A人における新薬物早期臨床試験
B比較薬物効果試験
C薬物モニタリング

 二、臨床薬理学部門の病院内における患者指向性の役割
@Drug Information Center による情報の提供
ADrug Interaction をはじめとする
Therapeutie Consu Itation
B臨床試験のデザイン及び方法に対するアドバイス
CPharmacokinetics からの薬物作用と効果に関する情報の提供
D政府、薬品製造会社、国民に対する薬品コントロールに関する情報の提供
E専門領域に関する臨理学者による限られた患者管理等
この組織としての役割はEを除いて、すべて臨床薬学の役割と競合します。

 ◆臨床薬学
@Unit Dose 与薬システム
A静注薬混合プログラム
これは単に混合可否や安定性の検討のみならず、Hyperalimentation の問題も含まれる。少くとも@、A両者を実施するに当っては、「薬剤助手の教育」という大きな問題を解決しなければならない。
B患者の薬歴作成、処方薬及び大衆薬を含めた薬歴が必要で、そのためには問診のような患者インタビューを実施しなければならない。
CDrug Information Service,Poison Control Center Service
D薬剤師の病棟参加と病棟薬局分室の活動、処方医による薬剤の比較的治療メリット及び薬剤の選択に対する正確な判断のできるような情報の提供、さらに各薬剤の副作用ならびに薬剤‐薬剤、薬剤‐食物、薬剤‐臨床検査結果の相互作用による副作用のモニタリングも行われる。教育としては、病歴の読み方から臨床検査結果の意義、Pharmaco kinetics の情報提供、検討(これはむしろ臨床薬学の研究の部類に入る)まで広範囲のものが必要となってくる。
E医師、看護婦に対する薬物療法カンファレンス、医師、看護婦など他の医療チームメンバーとのgroup practice が必要で、医師、看護婦に教えるもののある反面、彼等から教えられるものもある。また退院後の薬物療法も一つの分野である。
F患者に対する薬物モニタリングサービス処方薬、大衆薬の正しい使い方、副作用、禁忌徴候など専門的な患者指導を行う。
Gその他、救急医療における役割、小児科専門臨床薬剤師などがある。

 以上、紙面の関係で列挙するにとどめましたが、問題はわが国で最大限度どのレベルまで実施できるかにかかっていると思います。前述の臨床薬理学においても医科大学内に臨床薬理学の講座設置が望まれていますが、臨床薬学においても薬科大学内に臨床薬学講座の開設が必要で、医療における薬剤師の教育を改革しなければなりません。また臨床薬学における薬剤師のもっとも魅力的な部分の実務、研究が臨床薬理学と競合するところが多いのですが、その教育が医学教育の一環として行われるとしますと、医師監督下の技師のように薬剤師の独自性はなくなり現在の薬剤部が病院全体としてはパラネディカルながら、少くとも独立性を維持しているのと比較して、地盤低下といわざるを得ません。薬学関係者の奮起を期待してやみません。

 女子薬剤師の責務を考える 佐賀県女子薬剤師会 会長 奥平勢子

 私達人間はいつ病気になるか分らないし、もし病気になったら、だれでも、いつでも、どこでも病気の回復の為必要で十分な医療を受けられること、また逆に医療を受ける必要のない場合むだな医療が行なわれないこと、これが適正医療であって、これからの医療の正しい姿であると思います

 たまたま主人が胃の調子が悪く佐賀国立病院へ入院検査、手術ということになり五十日あまりの病院生活を続けていますが一患者として医療を受け乍ら感じましたことは医師は全責任をもって患者の治療に接しておられます。このことは本当に感謝でございます。看護婦も医師と一体になって患者に接しておられますが看護婦の仕事はもっともっと評価されてよいのではないかと感じました。

 併し一方薬剤師の存在は患者には知られてなく、また薬の行方を薬剤師は知らな過ぎるのではないでしょうか。医療担当者の一人として薬剤師はもっと患者と接し、患者に理解されるよう努力しなければなかろうかと思いました。国民の為の適正医療として医薬は分離されると思いますが、医療担当者の薬剤師の一人として、開局者として、女子薬剤師として、これからの私達の社会における責任は大変大きいと思います。

 女子薬剤師の腰かけ的就職が薬剤師一般のレベルを引き下ることになっていると云われる現状で、女子薬剤師の数が年々増加し半数を越してきていますが働いていない女子薬剤師の数が増加してくる現象は社会的に決して好ましい状態とは云えないと思います。私自身今迄は、薬を売る薬剤師であって調剤技術、医薬品の知識はありません。学校を出て免許を取得した女子薬剤師も実務につく為には保険薬剤師として実力を養ってゆく必要があると思います。その為には私の考えとして常時官公立の病院薬局で、実地研修させて頂き、絶えず新しい知識と実技を勉強してゆく、それと共に薬剤師会に登録しておき、病院薬局、保険薬局が薬剤師を必要とする時(分業が完全に行われる為には薬剤師不在はあってはならないと思いますので)連絡の上で要請された薬局へパートで赴き調剤の実務を行うことにする。併しこれには病院長始め医師、薬局長、薬剤師の方々の大いなる理解が必要ですし、県薬剤師会の指導も頂き度いしまた、女子薬剤師だけの問題としてではなく男子薬剤師の皆さんの御援助も頂き度いと思います。とくに女子薬剤師の方々の奮起を期待しております。

 薬剤師の組織と 分業への六条件 隈治人

 この文章を執筆のいま(七月三日)は七夕選挙の大詰めを迎えたところである折りしも毎日新聞は、朝刊の第一面に六月末ごろ調査した形勢を伝えた。これよりさき朝日新聞が初盤戦の形勢を伝えたが、それと単純比較すると各党の当選見込数は
自民七〇から七二へ
社会二五から二三へ
公明一五から一二へ
民社 四から 五へ
共産一〇から一一へ
その他六から 七へ
と多少の異動があり、業界注目の全国区では自民二三(二七〜二一)から二一(二四〜二〇)へ微減の予想であるが、森下泰候補については初盤の自民候補中一七〜二〇位から、一二〜一三位へ大きく浮上したような印象をうける。当選はまず固いと思われるが、七月一日大阪で調べたところではマスコミの森下票試算では六〇万〜六五万、六五万〜七〇万と二つに分れており、果たして六五万票を突破できるかどうかがこれからの業界の努力にかかっているといえよう。

 (一)薬剤師会という組織
薬剤師という組織の芽ばえは明治二〇年代からで、長崎県薬も明治三〇年ごろには会員少数ながら、すでにその名称が使用されはじめていた。いわゆる歴史は古く雪白し、というわけでその歳月は八〇年に近い(来年は日薬八〇周年)。これはなみなみならぬものであるが、歴史の重さにくらべると県薬の組織実質とエネルギーはたいへんに軽くかつ弱い。「長崎県薬だより」七月一日号には、このことについて「薬剤師会は大慢性の循環器疾患、心臓が弱く末梢の血行不良」と批判してある。ある業界記者が「こんなことマトモに書いたり言ったりして大丈夫なんですか」と心配してくれたが、誰かサンのいいぐさじゃないが「当り前のことを当り前にいって何がワルイ」と答えたいところである。

 この循環器病を早く手当しないことには世間からも見捨てられようし、会組織の意味はほとんどないといってよろしいし、特にこれからやらねばならぬという「医薬分業」など、テンからできるわけもなかろう。きわめてササイなことではあるが、昨二日のNHKテレビニュースで「斎藤厚相、医療職の待遇改善を要望」という項目を聴いていたら「医師・看護婦について」がまずいわれ、ついで「レントゲン技師など」という声がきこえた。アリヤ薬剤師は疎外かと胸がつかえた思いがしたのだが、そのあとで再び説明がでて「医師・看護婦」ついで「薬剤師・レントゲン・検査技師」という声がでた。やっと一回でたという感じだった。薬剤師は日本では確かに意識的に疎外されているような印象である。

 こういう医療の中の薬剤師疎外という一般の取扱い方の原因については、いろいろの理由を挙げる必要はないのであって要するに開業医の「医薬兼業」という実態そのものが大きく根を張ってるという、まさに「この一事」があるのみであるのに、開局者の無関心はもとより、病院の薬剤師も「オレの知ったことじゃない」意識の方がつよく、両者相俟って「医薬分業」を傍観する第三者化している現状はいつなら変り得るのであろうか。

 それはともかく、県薬の慢性組織病を癒すことが何よりもだいじである。長崎県薬としてはこのため、まさに遅蒔きながら、現在の人間関係を中心にした班づくりを進めようとしている。一時地域的な隣保班組織に主眼を置いたが、これはうまく行かなかった。そこできりかえたのである。開局者は主として営業で人間関係がつながっており、それを活用するのがいまのところ一番よいと思う。そのためには(一)レギュラーチェーン(会社チェーン)的メーカー主導型のグループでもよく(二)問屋主導型のボランタリーチェーングループでもよく(三)さらに薬局主体型の協業グループでもよろしい。あとに一匹狼や一匹羊的な会員が残るが、これはその数によって適宜のグループをつくらせる。こういうやり方で、こんご組織末梢の血めぐりをいまよりも何とかすこしは良くするような方向にもってゆきたい。

 (二)医薬分業について
分業について真剣に考えているごく一部の開局者と病院薬剤師もおられるので、そういう人たちの指導力と実行力がこんご貴重な推進エネルギーとなるだろうし、それをあますところなく活用しなければいけない。

 開局者は概ね次のように考えているようである。
要件の(一)、三師の緊密な提携強化
要件の(二)、資金の円滑な導入
要件の(三)、備蓄体制を綿密に効率的にやること

 これに対して病院薬剤師は次のように考えていると思われる。
要件の(一)、「兼業」から「分業」への転換についての基礎条件をつくること(この中に前記開局者の三要件はすべて包含される)
要件の(二)、開局薬剤師の再研修が絶対に必要
要件の(三)、病院薬剤師と開局薬剤師の人間関係の改善深化
この病院薬剤師のまじめな考慮を開局薬剤師はしっかりとつかんで頭の中に刻みこむ必要があると思う。
私はこれらを総括的にまとめ直して医薬分業推進の六要件というものを次のように提言したい。

 (一)開局者薬剤師の意識の昂揚(これが最重要)
 (二)開局薬剤師の再教育
 (三)資金対策
 (四)備蓄薬剤についての緻密な対策
 (五)病院薬剤師と開局者との実質的融和
 (六)三師提携
この六本の柱のどれかが欠けてもうまく行かない。この提言についての大方のご教示を仰ぎたい。

 上田市における

 分業問題研究会≠ノ出席して 福岡県女子薬剤師会会長 田中美代

 このたび、ある医薬分業問題研究会が、長野県上田市において開催された。私は社命をうけてこの会に出席、関係者と懇談、ディスカッションに当って、二、三質疑を行ない、終って現地の薬局。卸機関等の視察に加わり、いろいろ伺ったその内容を詳しく申し上げることは、紙面の都合もあるので、ここでは私は長野県女子薬会長と懇談しながら承ったことを、問答形式をもって報告することにしたい。

 その前に先づ上田地区の立地条件と、温存されて来た土地の、社会環境といった、好条件を前提として書かせていただくことにする。人口約十万の上田市と、隣接する小県郡の七万五千人、即ち一市十町村を管轄とした上小薬剤師会は、保険薬局数三六、保険薬剤師相男子三三名、女子二七名、会員数九一名をもって組織されている。この中に卸兼業薬局が四店あり、八〇〇品目、二00品目余の備蓄薬品が保有されているとのことである

 上田市にある薬局のあり方というものを承ってみると長い間の伝統をふまえた格式と強い世襲意識に加え断ちがたい同族意識といったものを、はぐくみながら今日に及んでいることを知るのである。こうした意識は、若い人々の土地に対する愛着心となり、延いては医師、薬剤師の間に同級生や因戚関係兄弟といった間柄を生じ、親子二代、三代にわたる医師と薬剤師の人間関係に、極めて強い協調意識となって植えつけられて来たのではなかろうか。

 こうして温存されて来た住民意識というものが、この土地にあって、専門薬局として世襲をほこる漢方に或はまた皮膚病薬や、その他、自家製剤(家伝薬)といった、得意の伝統と分野を守りつづけながら、それぞれが専門分野の医師に対する独自のアッピールをつづけて来たことが分業の基盤ともなっているのではなかろうかと、自讃された橘会長の姿を、目に浮べているのである。

 一方こうした連帯意識の中にあって、卸兼業薬局を営んでおられる方々の、多少にかかわらぬ医薬品供与の、涙ぐましい努力が、一面においては市場安定の裏付けともなり、また流通機序確立えの寄与ともなって上小薬剤師会員の団結を促がし、延いては全国に評価される功績を築かれて来たものであろうことを考えるとき、私は上小薬剤師会の努力に対し心てから讃意と敬意を惜しまぬものである。既にこの地の実情については今日まで、多くの人々によって紹介され、報告されていることでもあり。二番せんじのそしりをうけるであろうことは承知のうえで、私は予め用意していた質問事項を示しながら、お話を伺うことにしたのである。

 問(一) 医薬分業に対して今日まで行なわれたPR方法というものについて。
答 特にこれと言ってとりあげて申しあげるようなことはない。明治以来の伝統を享けつぎ、薬局としての格式を保つことにつとめるかたわら、漢方皮膚病或いは自家製剤といった、それぞれの家伝の分野を守りつづけて来た、そしてその間において専門医師との対話をつづけ今日に及んでいるがことさら改まって医薬分業を実施するため、一般を対象としてPRを行ったことはない。

 問(二) 医師会員との対話のあり方といったことについては
答 予め会員が、一つの検討事項をとりあげた場合には、それぞれこれを専門の医師に提示して、検討してもらい、必要によっては講師として招き、研修もつづけて来た。処方せんを発行してもらうことについても、改まって要請したことはなく、学術レベルでの対話をつづけ、信頼感を得ることにつとめて来たつもりである。

 問(三) 薬局の数と、現在発行されている処方せんの数等について。
答 現在保険薬局数三六、この中で調剤実績をもっているもの三三、昨年十月の処方せん受付数は、一二、一八七枚(一一、三六〇万円)、一薬局当り三六九枚(四一万円)各薬局も、分業受入れのためことさらに整備をしたわけでなく、漸進的に今日に及んでおり、整備資金についても、強いて申しあげれば、設備、薬品それぞれ五〇万円位と申し上げてよいのではないか、将来備蓄薬品は四五〇品目、八〇万円位を予定している。

 問(四) 医薬品の流通対策といったことについて。
答 医薬品の流通状況は、大体医家向七、薬局向三と考えてもらってよい。卸機関でもある四社は、当然のことながら各薬局医療機関の需要に副えるかたわら、薬局の需要量によっては、その量に応じ雰売にも応じ、また小包装による販売方法をとってもらっている。このことは、各店舗の経済的負担の軽減に寄与してもらっているわけで、これがまた分業推進のための大きな役割の一つであろうと思っている。
一方メーカー側の態度はきわめて非協力的なところもあるが、薬剤師会として積極的に協力方を要請してもらっている。

 問(五) 分業の推進現況について
答 分業は上小薬剤師会といっても、上田市を主として行なわれて来た、一般診療所五〇ケ所、歯科二〇ケ所が処方せん発行にふみきっておられるがこの中上位一〇ケ所の診療機関で約八〇%の処方せんが発行されている。

 問(六) 分業対策のための特別委員会といった機構があるか、またあれば、その機構の中での女子薬剤相のウェイトといったことについて
答 長野県においては、このたび医師会と薬剤師会合意のもとで双方それぞれ五名あての委員を選出して小委員会を組織し、二ケ月に一回の割で会合を持つことになっているまた、県薬剤師会の中にも四〇〜五〇名の委員をもって構成する分業推進のためのプロジェクトチームが発足、前者同様隔月毎に会合を持ち、会員の指導、金融対策等にとり組んで行くことになった。このチームの中に女子薬剤師会から二名のスタッフが参加し、会の意志表示につとめることになっている。

 問(七) 情報の交換等について。
答 メーカーの新薬売り込みに当って、先づ最初に薬剤師会に連絡し、サンプルと情報提供を義務づけていることは他に例がないのではないだろうか各薬局に保有されている医薬品については、それぞれ成分、効果、薬理作用等を印刷した一覧表を各店舗に掲示させて、情報提供、蒐集につとめている。また医師会との接渉、万一トラブルの発生といったことについては、必ず薬剤師会が責任をもって対処することにしているこのことが医師会や一般に対しても信頼を得ることになり、薬剤師会の評価を高めることに役立っていると思う。

 以上甚だ簡単に概要だけを申し上げたのであるが、終りに当り、医師会と薬剤師会の人間関係が、上田市を中心として、長い間、つちかわれて来た暖かい隣人意識のつながりの賜であったこと。そしてこのことが今日の成果につながったのであろうことに思いを致すとき、この上田市の美しい人間関係が長い間解決できないまま今日をむかえた日本の医薬分業問題解決の足がかりとなることを、高く評価するとともに、このことがまた、我が国の分業推進の歴史の一ページに、輝かしい功績として記録されるであろうことを祝福しながら、私の報告を終ることにする。
(一九七四・七・四)

 医薬分業と 獅子の分け前 大分 郡司昇

 医薬分業は経済分業だとかイヤ技術分業であるべきだとか色々の説がある。夫々もっともな意見で感心する。しかし分業というものの中味が夫々の獅子にとって好ましい獲物として心に映っているのではなかろうか。獲物の分取りに智恵を絞ったり、ウナリ声を聞かせたり、一寸と牙を出したり前哨戦を始め出した。時到れば王者は前足の一打ちも出すかもしれぬ。分け前は少しでも大きく又確実な方がよいからだ。にも拘らず分業は国民大衆福祉のためにあるべきで又その分業の基本的経費は国民の支払により裏付けされるとするならば分け前は国民に与えられるべきであり、国民の理解を前提とすべきだとも説かれる。しかし現実的にはうまい肉や脂は国民に渡る前に無くなっていて骨が国民に与えられる事になりかねぬとも思ったりする。骨がつまり薬であるのだということになれば問題は解決するのだがどんなものだろう。

 分業という獲物は今まで医者の占有物である。百年近く薬剤師は分業を待ったと申している。医者は調剤権とは長い時代を暮したから愛着があり何等かの形で再び自家薬籠中のものとしたいかも知れぬ。この辺に医者が医療に対する権威を説き責任を高唱する所かも知れぬが医者には処方という医療責任を示す端的な権威がある筈で調剤は別の者に帰すべき技術である

 此等を今後どうさばいて国民理解の下に料理するかは政府の仕事であるが政府の態度はきわめてはっきりしない様に感じられる。曰く強制分業はやらない。この事をはっきり申せば医薬分業法等といものは作らんという事である。もっとも作らなくても分業は出来るが大体行政という代物は施行にあたって摩擦を起すのを嫌う。前例のないものはやらないとなっている。それに厚生省は予算の強行分取には極めて弱いと聞かされている。調査資料も充分に揃っていないそうだし対案も検討中の様に見えたりすると分業の行方はかすんでしまう。今頃になって先進県や地方都市の分業受入れ態勢を視察している現状では一体どうなる。日薬の石館会長も大奮闘で色々と上部にご活動も戴きご多忙であるが京都勢が又別口で噛みついている。連中の申されること一応もっともなところがあるが、この辺のところは腹が小さい様だ。なんだか獲物は細切れにして一口づつでもよい皆んなに喰べさせろと聞える。

 問屋さんは医薬分業実施により医薬品流通の流れが変っては困る、過去の体制を乱すなとメーカーに名主的発言もあるやにきく、ご心配なことだが時代の流れは色々な方向に流れる事も起きるわけで予測は出来ぬものだ。メーカーは合点合点と合図を打ち注文を聞く振りをしながらセッセと自分の座布団を厚くして来るべき寒さや痛さが身に沁みぬ様に準備をする。自家開発製品に身を入れ、それを又お互いにクロス戦法で交換し、外国メーカーにも自社製品を持たせ、来るべき自由化に対処するに忙しい。とても分業に伴う流通変化にどう対処すれば得になるか等をソロバンしている暇はない様だ。

 病院薬剤師会では開局者の教育レベルアップとその研修に協力したいとして対手を喜ばすけれども、さなきだに病院薬局の実務は複雑多様になっているのにカビの生えた八〇剤という定員法を更に削減するのが政府の考える公務員合理化となっているから、そんな教育を引きうける余裕があるのかないのか、そして収容する教育現場である病院薬局が広いのか、なるほど筋を通して研修者の受入れ体制を作る事は必要だろうが作ったら出来るのかは末端では検討の余地なさそうに思う。

 薬剤師だから実務調剤が出来るのは法的に考えられるが調剤過誤の責任を誰がとるか、又教材をどの様に準備するか一朝一夕のものではない様に思う。研修に要する経費は受益者の負担ですまされるものでもない。それ程に分業に熱心に協力して、どれ丈の労にむくいられるかも考えて見なければならないとも思う。新卒業薬剤師が病薬で一人前になるにどれ位の日時がかかるかを考えたら、そうたやすく引受けは出来ないと思うがどうだろうか。

 分業に伴って必然的に起きる問題に貯備センターの問題があるが之は是非とも地方県別に地方行政体の出資を求めた公団の様なものを一番初めは作るべきであろうと考える。こうする事に依って指導も出来やすくないかと考えたりする。薬剤師会もメーカーも出資して作り、軌道に乗ったら発展解消してよいと思ったりする。分業には何かその中心になる公的な体制が必要に思えるのだが、さてどうなるやら。
勝負は昔からどうも金のある奴と力のある者それに智恵や経験のある者が大抵勝つ様だ、三つ程兼ね備えていれば云うことないのだが注文通りに行かない薬剤師界に思えて仕方がない。
(大分県病薬名誉会長)

 病院における 薬品の採用について 市立長崎病院薬局長 築城巌

 最近医薬品の種類がますます増加して来ている。病院薬局を設計する段階では広々とした働きやすい薬局であった筈であるが、数年たたない中にごちゃごちゃと種類が増加し、薬品棚からはみ出した分がそこらに無秩序に積上げられ、サンプルか商品か分らないのが次から次へと引出しや棚のすき間につっ込まれている。我々の怠慢もあるわけであるが、仕事におわれて名前を覚えるゆとりもない。似たような名前でも中味の全く違うのがあり、医局からちょっと尋ねられても即答出来ずにエートエートを繰返すときもある。

 病院の薬事委員会では新製品の採用を決定するわけであるが、同時に使わなくなった薬品の廃止もどんどん行なわなければならないと考えている。ではどのような規準で採用などを決定するのか、理想的には薬局が権威をもって純度試験、吸収、薬効等の試験を行って薬事委員会に報告して、最も優秀な薬品を採用するのが一番いいのであろうが、しかし現実的には我々中規模病院ではそのような設備も場所も人員もない。とてもメーカーが持っている程の器械、設備を持てる筈がない。

 ではメーカーのパンフレットや能書を比較したら、と云ってもメーカーそれぞれ手前みその実験データーを並べているのでは大した意味はない。いっそ大きいメーカーほど優秀な設備をもっていると仮定して、メーカーの資本金や売上げ実績を参考にしては、といっても意味はない。何故なら大メーカーの薬の中にも下請けの会社に作らしたり、小メーカーと云えども立派な良心的な品物を作ったりすることがあるからである。

 欧州の製薬メーカーの中にはこの様な小さな優秀な会社が多いそうである。いわゆるぞろぞろ品に対しても、いつでも先発品の薬品が宜しいかといっても、そうであることもあるしそうでないこともあるので一概に云えない。ぞろぞろ品を作るのは三流会社に限らないからである。

 ではどのようにして決めるか、決定的な要素はないが、いくつかのファクターはある。品質に関しては、大ざっぱに上位二〜三十の製薬会社を信用することにする。次に病院も企業であるから企業であるメーカーの立場と反対に価格が安いことが重要である。所がこの価格であるが、当然いつでも一定ではない。昨年末のように石油危機で品薄となれば高くなるし、ダブついて来れば安くなる。一社か二社の独占であれば価格はくずれないが、その中一社がシェアーを伸ばそうとこっそり動いて来ればカルテルはくずれてくる。その競争の激しくなった所で、社長のトップ会談でカルテルの再確認が行われ、価格が硬直化する。同種製品が数社ある場合は、最大のシェアーを占めるメーカーが音頭取りをしてカルテルの幹事をつとめるが、その結束はそう強くはない。これは私の単なる想像であるから誤解のない様に。とにかく我々企業である病院は出来るだけ薬を安く買うことは至上命令である。

 医局とメーカー・プロパーとのつながりは無視出来ない。全くプロパーのやって来ないメーカーの品物はクレームがつけにくいし、又宣伝がなければ購入希望もない。逆にプロパーが張り切ってどんどん宣伝に来てサンプルやパンフレットを置いてゆくなら、薬事委員会でも、あいつに気の毒やから採用するか、ということもある。プロパーの人柄、医師のプロパーに対する好き嫌いもたしかにある。「あいつはようペチャクチャ喋る奴ちゃなあー。」「ありゃ、ボサーとつっ立ってて何しに病院来るんやろ。」など色んな噂も出る薬事委員会である。

 輪廻 大分県立病院 薬局長 吉村淳

 今から約二千年前、世界史にその艶名をうたわれたエジプトの女王クレオパトラ(プトレマイオス朝のクレオパトラ七世)は毒蛇に自分の乳房をかませて波瀾に富んだその生涯の幕を閉じたが、行年四十才であった。シーザーとかアントニウスとか当時の政治を動かしていた政治家で彼女の魅力のとりことなった男性は少くないので、世界史が影響を受けたといわれ、パスカルをして『クレオパトラの鼻がもう少し低かったら世界の顔は今とは変っていたであろう』と言わせたのは有名な話である。現在に残されているクレオパトラの像としては貨幣などにその横顔が残っているが、鼻は確かに高いようで戦前派ならよく御存知の往年のスクリーンの大女優グレタ・ガルボに似ているといえばいえないこともなさそうである。

 一方、別の史料によると彼女はパスカルが心配したような意味での美女ではなかったそうで、その代り語学と話術の天才で数ケ国語を自由に操り、才気煥発で知的な魅力は圧倒的なものがあったといわれている。いずれにしても趣味の問題は余人の介入すべきものではないが、シーザーなどという一筋縄ではゆかぬ第一級の人物が彼女とは深い仲になったのであるからクレオパトラも相当な代物であったに違いない。パルカルも公平を期するならばクレオパトラの言い分も聞いてやるべきであろう。

 さてそのクレオパトラの肉体を構成していた水分子(H2O)のうち少くとも千個位が私の肉体にも入っているといったら皆さんは眼をパチクリされるであろうか。これは何等荒唐無稽な話ではなく、確固たる科学的根拠があるのである。例のアボガドロ数(別名ロシュミット数)6.02×10??が如何に膨大な数であるかということを分り易くするためのたとえ話がいろいろ作られているが、その一つにケルヴィン卿(ウイリアム・タムソン)が作った『タンブラーの水』という話がある。すなわち、ここにタンブラー(大きい目のコップ)一杯の水をとり、その水分子に全部目印をつけることができたとする。そこでこの水を川なり、海なりに流し、地球上の水のあるところに満遍なく均等に混合してゆきわたらせたと仮定する。そこで今後は川でも海でもタンブラー一杯の水を掬い上げる。そうするとその中には元のタンブラーに入っていた水分子約一千個があるというものである。クレオパトラの死後その遺体がどのように処理されたにせよその構成分子や原子は自然界に還元されエントロピー増加の原理によって普遍的に存在していると考えることは十分根拠のあることである。

 さて今から八十年程昔、哲学者ニーチェは天才的直覚によって輪廻転生、永劫回帰の思想を把握したが、私が今迄話したことは正にその科学的証明と迄は行かなくとも傍証位にはなるであろう。つまりクレオパトラと限らず過去に存在したすべての生物の構成元素が現在の生物の体内に満遍なく入っているということで、我々は好むと好まざるとに拘らず運命共同体的な連帯関係にあるわけである。

 輪廻といえば現代の天文学では宇宙そのものも輪廻をくり返しているそうで、勿論時間的にも空間的にも桁が違うがその理論は割に納得し易いものである。そして理屈としては広い宇宙のどこかには地球と似たような星も無いとは言えないし、そこでは生命が誕生しかかっているかも知れない。生命誕生の基本的条件として環境条件もさることながら、生命本体をつくるものとして炭素原子の存在を指摘したのはたしか英国の天文学者ジーンズであったと思うが、四十年程前であったと思うのでけだし卓見というべきであろう。

 個々の人間のジェネレーションは二十〜三十年であるのに対し、地球上で生命が誕生して以来現在の人類の遺伝子(核酸)が出来るまで三十億年と見なされているから人間という生命ができるのは仲々手間のかかることではある。つまり人間の輪廻はミクロに見れば二十五年位であるがマクロに見れば三十億年ということで一億倍以上の開きがある。二十五年をやり直すのはできない相談ではないが三十億年をやり直すのは地球をやり直すのと同じことではなかろうか。さて、私のいいたいことは今後の医療問題はこの三十億年もかけて作りあげて来た遺伝子の本体としての核酸に対決せざるを得なくなるということである。そこには今までの法律や道徳では律しきれない難しい問題がある。具体的なことを書くのは気が重いので婉曲な表現で勘併して戴きたい。

 ファラデーであったかと思うが『母の涙は分析すれば水と少量の食塩から出来ているに過ぎない(当時の分析レベルでの話)然し水と食塩だけで母の涙を作ることはできない』。人間としても誠実であったファラデーの言葉は我々の胸に強く迫ってくるものがある。然し、今一CCの涙をグッとこらえなければ、将来百CC否千CCあるいはもっと沢山の涙を流さなければならないことになりはしないかとおそれるものである。

 医薬分業への婦人参政 大分県女子薬剤師会 会長 高田美恵子

 一周年おめでとうございます。まるで、親しい身内の動静を読むような心持で、貴紙を拝見させて頂いていますうちに、まだ一年しか経っていないとは思えぬほどなじんでしまっております。

 さて、折柄、日本列島は選挙一色ですが、婦人参政権運動の先覚者であられた市川房枝さんが、今度も理想選挙で大量得票を予想されているそうです。この方が、最初の選挙権を行使された時の感慨は推察するに余りありますが、医薬非分業で本来の権利を奪われている薬剤師会も、いわば参政権運動を展開しているようなものです。婦人の参政権は敗戦という革命によって与えられましたが、医薬分業も又、一種の平和革命をめざすものと云わねばなりますまい。

 物に関しては、医薬が、医家からも、薬業界からも資本主義的利潤の追求の対象でなくなること、思想的な面からは、能率と成長拡大のみをよしとした観点を変えて、安全の為に時間と手間と金をかけることの意義をみいだすこと、でありましょう。そして医療制度の在り方が大きな転換を遂げてゆく過程の一つとなりましょう。

 ところで、わりあい最近個々に若い人と話合う機会があったのですが、
いわく医薬分業?なんのことですか、ええ、はじめてその言葉ききました。
いわく、一般の薬剤師は分業を望んでいないのでしょう?
いわく、薬剤師は調剤の責任をとるのに充分な教育を受けてないから、分業は無理でしょう?
何という断絶!!しかも彼等、彼女等は、出身校は違っても、いずれも九州の薬学士で、しかも、薬剤師の肩書を利用して就職し、あるいはしようとしているのです。

 薬学教育と、薬剤師教育の余りの離れすぎに驚き呆れてばかりおられず、至急に彼等を戦列に引き入れ、歴史を伝え、正しい目標を共に見出すことが、平和革命の為に大切なようです。そのための広場として、貴紙の御発展を祈ります。そして、たとえ試行錯誤であろうとも、既に実践に踏み出しておられる方々のご体験をどんどんお知らせ頂くのを楽しみにしております。

 医薬分業について 福岡県女子薬剤師会 宮崎綾子

 「医薬分業にならないと、保険の医療費無料化が拡がるにつれ、薬局の売上げは減る一方で、雑貨や他の商品がふえていく」(会員)

 「医薬分業が実施されると第一年目で、かりに医師の2%が分業をし薬局の15%が受入れると、一日の処方箋枚数は18枚。月間調剤報酬は18万くらい。四年目に医師50%、受入薬局60%とすると一日112枚の試算で、およそ100万ぐらいになる」(望月日医専務理事)

 「医薬分業は明治以来の薬剤師百年の悲願であり、そのためにはやはり議会に代表を送らねばならず、当然政治資金も必要である」

 「分業の実現は、最終的には会員一人一人の努力にまつほかなく、その意欲のない者は分業路線からとりのこされても仕方ない」等々正に事実その通りである。

 福祉国家のかけ声のもとに、老人に加えて三才児まで、保険診療による医療費の自己負担分支給により、病院はお寺詣りの代りに弁当もちで屯する老人層で占領されているとの話をきくし、開業医の待合室は乳幼児とその母親で喧噪をきわめ、かえってそこから罹患することもあるとか……

 そしてこの数年来、医家向け卸の業績が上るにつけ薬専のそれは下降の一途を辿り、小売薬局はメーカーの高姿勢によって低マージンとなり、世間並みのベースアップについてゆくためにやむなく、商品回転率を優先させて雑貨から薬品にいたるまで拡売につとめ、それから生じた薬価の乱れは、医師側の乱診乱療とあいまって薬禍問題を招いたが、その矛先は政治力の弱い薬業界により多くはねかえり、一物二名称、要指示薬拡大はおろか昨今は、薬効洗い直しでVB1の含有量は10mg以下とか何とか、次々に法的規制をうけることばかり−だからこそ、我々の代表者を政界に送り込み、圧力団体としての会を強化せねばそのうち薬剤師無用論さえ出かねない。

 残念ながら現在の日本の政治とはそのようなものである−と諦めて、苦しい財布から均等割りの諸費用を醵出し、選挙運動に献身する一方、会をあてにせず各自がその周辺の医師との対話に努力し、処方箋受入れに成功すれば最初は備蓄薬品で苦労しても、やがて充分なメリットがあることは、会のPRにまつまでもなく各地区の、調剤専門薬局のレポートが証明している。

 しかし誰でもが医師と対話する場を持てるとは限らず、ことに会の肩書もなく個人的に多くの掣肘をうける女子薬の場合は、容易ではないというのも、いまだに待合政治という言葉があるように、あらゆる面で男性中心の前近代的体質を、日本の実社会が固持していることも一要因である。

 が、さらに熟考すると昨今の医薬分業の実現近し!!とする客観状勢なるものを分析するとき、これまでになく政府・与党が積極的態度であるのは、保険財政の尨大な赤字解消が根底にあることは周知の事実である。

 また医師会側が五年のタイムリミットをつけて公言しているのは、明治以来「富国強兵」の国策のもとで、低医療費政策をとり続けてきた我が国の、開業医制を軸にした今日までの医療制度のもとでは、いわゆる「潜在技術料」と呼ばれる実勢薬価と社会保険薬価の巾によって、医家の生活を保持してきたのが最近になって、福祉政策を一枚看板とする政府が政治問題化してきた医療費赤字の根本的解決をめざして、技術料のひき上げにより現在の乱診(即、過剰投与)を抑制し、医療費総額の40数%をしめる薬価支払を抑えようとしていることと無関係でないことは、武見日医会長が「再診料が千円になったときに百%の分業実施をする云々」ということでもうなずける。

 さらに激化する人手不足等の要因も重なって医師側の調剤権の放棄があるとして、そのときこれを受入れる側の薬局の配置や薬剤師の受入れ体制が、経済的メリット・デメリットで云々されるとき、あるいは組織としての強力なコンセンサスがないときは、現行の開業医制を基盤にした低医療費政策の矛盾がそのまま薬局側に移行し、加えて病人からは分業による不便さをかこつであろうし、医師からの処方箋発行数は当然減ってこよう。

 観点をかえれば医薬分業は一昔前の、医師と薬剤師のヘゲモニーの争いではなく、両者にとっても、本来あるべき国民の健康を守るための医療制度のあり方に、問題をほり下げねばならず、医療人としての薬剤師倫理が問われるところであろう。

 GMPの実施が大メーカーを擁護するもの−との見方があるが、ともあれ大メーカーの分業対策が進展している反面、チェンメーカーは現行での分業実施は薬局側にはマイナスが多い‐と説くのも一理ある。
この時に当り私たちがまづせねばならぬことは、そして誰もが出来ることは、先日配布された薬剤師綱領にもられた倫理観を、あらためて自分自身のものとして、明日にと続く今日現在の生活の中で地域社会のために、もっとも適確な薬剤情報管理者としての責任を果すことであり、これが薬剤師というライセンスをもつプロ本来の姿であろう。

 そのためには会は「医薬分業の早急実現化」をメインテーマとしながら、同時に多岐多様にわたる会員がある者はセルフメディケィションに生きるため、ある者は正しい漢方医薬をマスターできるために、またある者は誤りのない食生活の指導者となれるように、従来のメーカーサイドのそれからくる一部弊害を是正する必要からも、末端会員の実情にあったキメ細かい指導と、側面からの援助を併行して実践することこそ、会員から自らの消長を托された会の執行部の重要任務であるべきでは?!

 「私ハ齢ヲ忘レテ、若イ人ノナカニマジッテ調剤研修ニ参加シ、私自身ハ実現デキヌカモワカラヌ分業ノ日ノタメニ、後輩ニ道ヲツケルツモリデ今ノでめりっとナ処方箋ノ調剤ヲダマッテヤッテイル−」

 「私モマタ、アトツギハイナイガ薬剤師トシテ当然セネバナラヌコトハ、イツデモウケテタツツモリデ、マジメニ勉強シ努力シテル」

 「税金ヨリモ高イ会費ヲ黙ッテ納メテ、分業ニナッテモ調剤薬局デキソウニナイガ、ソレデモ私ハ私ノ店ニクル人ヲ大切ニシテ、今ト同ジニ良イ相談相手ニナッテアゲルコトデ満足ダ!」

 「あほダカラト、医者ノふらうデアリナガラ一生懸命女子薬ノコトデ走リマワリ地位ノ向上ヲ叫ンデイル、考エテミルト馬鹿ミタイ」(ゴ立派!!ナント私タチノ仲間ハ愛スベキ人タチダロウ…ダカラコソ、地域社会ノ人カラ信頼サレテイルコノ連中ヲ、会ガ見放スコトナクシッカリ面倒ヲミテホシイノデス!!)

 5月の女子薬研修会から引続いて、再度発言の場を与えられたことを感謝するとともに、折角提供された本紙にさらに多くの方からの問題提起や意見発表を得て、薬剤師数の半ば以上を占めるに至った女子薬の、実態把握と相互交流がなされることを切望しつつ‐

 国民健康保険の 現況について 工藤益夫

 福岡県薬剤師国民健康保険組合は、昭和三十三年国民保険事業を開始してから十六年を経過したのである。その間関係各位に一方ならぬご指導とご協力をいただき深謝にたえぬ次第である。この度、九州薬事新報のご好意により国保制度、事業の概況を報告する機会を与えられたことを深く感謝する次第である。

 ◆ わが国における国保制度の推移
わが国の医療保険は、一定の事業所に使用されている被用者を被保険者とする健康保険が昭和二年実施されたことに始まる。昭和初期の世界的経済恐慌は、わが国の農漁村にも大きな影響を与え、とくに医療費の負担が貧困家庭の家計を大きく圧迫した。そこで、医療費負担の軽減と国民の健康福祉をはかる制度として、国民健康保険制度は健康保険制度に約十年遅れて昭和十三年七月一日から発足した。

 しかし発足当時の保険者は、市町村の区域内の住民を任意加入によって組合員とする普通国民健康保険組合と同一の事業または同種の業務に従事する者を同じく任意加入によって組合員とする特別国民健康保険組合の二種であった。普通国保組合といい特別国保組合といいいずれも任意加入であるため国民の国保加入率は極めて低かった。

 戦後になって、昭和二十三年には、公的責任体制の確立を目的として経営主体を市町村とする改正が行なわれた。また、すべての国民に医療保険を普及させようとする趣旨の国民皆保険計画が昭和三十二年からスタートし、その実現をめざして、昭和三十三年に国民健康保険法が全面的に改正された。これが新法とよばれ現在の国民健康保険法の原型となっている。

 この新法では、@昭和三十五年度中に全市町村が国保事業を開始せねばならないものとし、法制面から皆保険計画が明定された。A普通国保組合、特別国保組合がなくなり、保険者は国保(市町村が行なういわゆる公営国保)と国保組合となった。B国庫支出金、保険給付の範囲、給付の割合等が定められた。
このような新法の施行に伴って、昭和三十六年四月に国民皆保険は実現した。

 その後、数次にわたって給付の改正等が行なわれ現行のように最低七割の給付と市町村に対する四割の定率国庫負担金、五分の財政調整交付金および事務費負担金、また国保組合に対する定率二割五分の国庫補助金事務費負担金等が交付される制度となっている。

 ◆ 皆保険下における医療保険被保険者の現況
わが国の総人口約一億八百万人のうち、政府管掌健保、健保組合、船員保険、共済組合、日雇健保、自衛官等の被用者保健の被保険者数は総人口の五九%にあたる六、三二〇万人、残りの四一%四四三〇万人が国民健康保険の被保険者である。国民健康保険のうち国保組合は一五八組合、被保険者二〇〇万人で、その内薬剤師国保組合は二一組合、四八、〇〇〇人である。

 福岡県の現況は、総人口四一〇万人、その内被用者保険六六%二七三万人、国保の被保険者は一三七万人三四%である。福岡県においては、全国平均に比し被用者保険が多く国保被保険者が少ないのは商業、工業等の企業が多いためと思われる。県下における国保組合は、医師、歯科医師、薬剤師、門司港湾の四組合三万八千人である。福岡県薬剤師国保組合は被保険者数一六〇〇人で被保険者数から見た場合全国保組合一五八中一二六位全薬剤師国保組合二一中一〇位である。

 ◆ 国保事業運営の問題点
もともと健保は事業所の使用人、国保においては農漁山村住民の経済的救済を目的に発足したいきさつもあって保険医療は低医療で良い高度の医療は受けられないとの観念があり従って自費診療が多かった。ところが保険制度の改善、国民の経済観念の変化、国民皆保険の実施等により現在では特別の場合を除き国民医療のほとんどが医療保険に依存している。

 高度経済政策の伸長に伴う諸物価の高騰、医療の濃密化、診療報酬点数の改正等により毎年二〇〜三〇%の医療費が増大しつつある。また、社会福祉政策の拡充により、老人医療、乳幼児医療、心身障害者医療、公害医療の無料化に伴い受診率、診療日数、点数の増加等保険波及分の増大は保険者にとって相当の重荷となっている。また、一部負担金三万円を超える高額医療費の保険者負担等医療内容の拡大とともに国保財政を大きく圧迫しつつある。

 国としても種々財政援助措置を講じつつあるが十分でなく保険者の赤字は増加しつつある。市町村においては一般会計からの繰り入れも限度に達し止むをえず保険税(料)の大巾改訂に踏み切りつつある。国は、これに応ずるかのように自治法を改正し保険税(料)の限度額を八万円から一二万円に引き上げた。

 ◆ 国保制度と国保組合
国保組合は、国保制度発足から皆保険達成まで国保制度推進の中核として大きな貢献をしたのであるが市町村国保発足とともに影が薄くなり現在では、国からまま子扱いされつつある。それは国保組合の新規設立が特別の場合は除き殆んど許可されず、また国庫支出金の面でも療養給付費について市町村に対しては最低四割五分の交付金、組合は二割五分の交付金と大きな格差があり、しかも財政状況の悪い組合に対しては、解散を指示する現況である。

 そこで、全国国保組合協議会は全組合一丸となって
(1)療養給付費補助金二割五分を市町村なみに四割に引き上げること
(2)事務費負担金は実質十割交付すること
(3)臨時調整交付金(後述)を制度化し五分を交付すること
の要求を毎年、国、国会その他関係方面に要請しているがまだ実現に至っていない。

 しかし、国においても一般会計からの繰入れもない国保組合の窮状は判るとして、臨時調整交付金として要求とはほど遠い額を交付し一時を糊塗しているのである。昭和四十八年度の交付総額は四三億円で建設関係国保三三億円、既設組合一〇億円となっており薬剤師国保では一六組合で三、九五七万円の配分があり、福岡県薬剤師国保では初めて三七万円の交付を受けた。昭和四十九年度は若干増額される見込みである。

 ◆ 福岡県薬剤師国保組合の現況
(1)被保険者の数、昭和三十三年組合発足当初組合員四一七人被保険者総数一九〇九人であったが本年四月一日現在組合員四五六人被保険者総数一、六〇一人で組合員数は三九人増加しているが被保険者数は三〇八人の減となっている。それは世帯内の家族構成の変化によるもので、世帯の老化現象がうかがわれる。
(2)四月一日現在における給付、保険料の状況次のとおり
イ療養給付の割合
組合員 八割
その他 七割
ロその他の給付
助産費 二〇、〇〇〇円
葬祭費組合員 一〇、〇〇〇円
   その他  五、〇〇〇円
ハ保険料(一人月額)
組合員 三、〇〇〇円
その他 一、五〇〇円
(3)高額医療費の給付は昭和五十年一月一日実施予定
(4)昭和四十八年度の被保険者一人当り療養給付諸率次のとおり
イ 受診率 三四五%
ロ 費用額 二八、五一四円
ハ 一件当り点数 八五八点
これらを昭和四十七年度と比較すれば、受診率は僅か二%の伸びにすぎないが費用額は二二%、一件当り点数は二五%の増を示している。昭和四十九年度は二五%の自然増に加え、二月改定点数の影響、点数表の再改定、スライド制の問題、更に高額医療実施等に伴い前年対比四〇%以上の医療費増が予測される。
(5)昭和四十七年度歳入歳出決算は、歳入四、五九七万円、歳出三、八一〇万円で歳入歳出差引残は七八七万円となるが、歳入に前年度からの繰越金八七七万円を含んでいることと国庫支出金返還予定額七八万円を考慮した場合、昭和四十八年度は単年度一六八万円の赤字となる。

 以上、簡単ながら国保制度、福岡県薬剤師国保組合の現況を報告したのであるが国保事業の運営は医療制度の面から、狂乱せる社会経済の面から将来いよいよ困難な事態に向うものと覚悟せねばならない。
これらの現状をご理解いただき将来とも相扶共済の実をあげうるよう、ご懇切なご指導とご協力を切にお願いする次第である。
(福薬国保常務理事)

 分業を考える 現状と対策

 出席者
保険薬局……A 病院薬剤師……D
医薬品卸業者……B 福岡県薬理事……E
医薬品メーカー……C 本社(司会)……F

 F…本日はご多忙のところをお集りいただきありがとう存じます。医薬分業は五カ年計画を目途に現在すでに実施へ突入しているわけですが、本日は「分業を考える」−現状と対策−をテーマとして身近な福岡市での実例と長野県上田市の実情をご報告願いながら、種々ご意見を承りたいと存じます。

 F…まず福岡での最も新しい実例の報告から口火を切っていただけませんか
 A…私には医薬分業の実例を発表して欲しいということですので、今迄の経験とか医師との対話の経過とかについて話してみたいと思います。

 実は昨日ある開局薬剤師の方から近所の開業医師五名と分業問題について話合うことになっているので応援して欲しいとの申し出があったので行ったが、最近薬剤師側に分業のアプローチをしようという機運が次第にでてきたことは非常に結構なことだと思います。昨夜の話合いは、先般作成した参考資料(本紙八五一号掲載)を読んでいただいたうえで話合ったが、医師が一番関心を示した問題は勿論経済面もあるが、処方せんを発行するにはどうすればいいか、その方法が解らないから説明して欲しいということであった。

 そのことは結局処方せんを出す意欲の表われとみた私は、具体的に分業のメリットについて説明したあと、処方せんを出す決心がついた時点で、近所の薬局に相談していただけば医院にある薬品を譲り受け、その他処方したい薬品を一応知らせていただけば即刻用意し、先生にも患者にも迷惑かけず調剤拒否もしない方法がとれること、また処方せんならば治療指針にない薬剤も使えることなど患者に対し有効適切な自由な治療ができることを説明したため、参考になった様子で、今後は近くの薬局の薬剤師と具体的に相談しようということでした。

 私は数年前から分業受入れを実施しているが、最近の開業医の動行をみていると分業に非常に関心ある医師が三分の一、次の三分の一は関心はあるがまだ半々の気持、残りがアプローチしても無理であろうと思える人の三段階だと思います。薬剤師側としてはこの一、二段階の関心は持っているがまだ自分の方から積極的に決心がつかない先生方に対話を求めて決心をうながし、こちらもしれに対応、準備をする意志表示をすれば大いに望みがあると考えられるので、保険薬局の方々は医師との対話の資料をよく読んで積極的に働きかけてみるよう提案したいと思っています。

 B…五医院というのは何科ですか。また近所ですか。
 A…耳鼻科、皮膚科、内科、小児科、産婦人科です。産婦人科の先生は手術中のため欠席でしたがこの先生が一番積極的だと聞きました距離は一番近いのが五〇メートル、遠いのはかなりあるが並んでいるようです。受入側の薬剤師はできればもう一軒近くの開局薬剤師と二人でその医院の並んでいる真中に調剤薬局を開設したい考えのようです。

 B…産婦人科の患者はプライバシーの面で処方せんを貰うのは好まないと聞きました(上田市で)。
 A…調剤する人には婦人科の患者と解るが、一般の人には何科の患者か解らないと思うのですが……。

 B…都会の場合はそうでもないでしょうが上田ではお互いに顔見知りだからでしょうか。
 A…昨夜は欠席で残念でしたが産婦人科の先生が今回の話合いには一番熱心だということです。

 D…都市によって違うでしょうが、上田のケースに反論するようでいいケースですね。
 C…常識的にはメス科は一般に忙しいので処方せんが出しやすく、内科、小児科は薬を通して患者との接触も大切だから、卸、メーカーとしても分業の話題さえ控えがちな一時代もありました。最近のように分業論が進んできたなかでは、逆に処方せんを出した方が経済的にもいいし、時間をかけて丁寧な診察ができると考えれば、何んといっても内科、小児科が処方せん枚数は多くなろうと思います

 F…上田市のことがそろそろでてきましたので、その報告を願いながらお話しを進めていただきます  C…結論から云えば一番分業が進んでいると云われる上田地区でさえ処方せんの出ている割合は全体の一五%で、上田地区を含む長野県で云えば二%弱です。

上田市の場合は非常に特殊な例で、医師と薬剤師も親戚関係とか同窓とか何かの繋がりがあって、対等にコミニュケーションが行なわれ、育つべき温床があったと云われている。このような好条件で一〇年近くかかってやっと一五%である。このことを承知のうえ、各地で検討すべきであろうとのことでした。
また、経済問題以前に、薬剤師の再教育も実施し、特定の薬剤師だけでなく、できれば会員全部が調剤できる形でないと患者が不便を感じることになるし、また薬局の開設場所も医院との往復線上でなければ不便であるとかいろいろあって、今後努力を続けても五年後に三〇%になればいい方であろうということで、処方せんを出したい先生、出したくない先生、投薬と兼ねる先生など当然あっていいのではないか、何も一〇〇%出さねば分業でないということではなく、理想で五〇%、当面の目標は五年位で三〇%達成できれば成功と思っているということであったが、これは各地での分業推進の一つの示唆になろうかと思います。また上田では信濃毎日(日刊紙)が分業問題に関心を示し、キャンペーン、アンケートなども実施して分業問題を理解し、寄与していることがうかがわれました

 D…一五%というのは大病院の処方せんも含めてですか?
 C…地区発行の全処方量ですが、大病院は一カ所しかなくあとは全部開業医です

 D…病薬の考えとしては、現時点では薬剤師のいる病院を分業と絡み合せると問題があるのでこれを除いて出して欲しいと思います。
 C…備蓄の問題もあるので大病院は別個に考えるべきでしょうね。
 B…上田市は大体小県地区と合せ人口約一七万人、調剤薬局三二軒、内科・小児科三〇軒中二六軒が処方せんを出している。年間一番多く発行する所で三万枚、少い所が五〇枚、開業医一七〇軒のうち七八軒から出ている。一薬局当り年間受付処方せんが平均約五千枚年間金額にして四〇〇万〜四五〇万円、人口三千人当り薬局一、開業医二、歯科一で、一割五分分業ということです。処方せんの受入れは完全に拡散されているが近距離に約六割が集まっている。

 処方せんを出した場合の薬の使用量は、上田薬剤師会の統計によると月に一人当り約八〇〇円、院内投薬の場合一、〇七〇円となっている。四八年まで処方せん発行数は横這いであったが(年間一九万三千枚)四九年一月から五月までに既に一四万枚出ている。これは二月の医療費改正によって発行量が急激にふえたことを物語っている。備蓄薬品は大体四〇〇品目、金額にして八〇万円、多い所は八〇〇品目、四〇〇万円程度備蓄の薬局もあるが、実際に動くのは一五〇品目〜二〇〇品目位、調剤室は五、六坪。

 以前は薬剤師会で基準薬局を指定して備蓄センター式のものをつくったがロスが多く中止、そして現在では卸の直営小売薬局を備蓄センターにして処方も受付け、同時に周辺薬局にも備蓄を分ける方式のようで非常にスムースにいっている。またここでは調剤専門薬局はなく、薬局の待合室も特別にはなく一坪程の所に長椅子を置いた程度で将来は改善の必要があるといっていた。最近、県、薬剤師会、卸の三者で約一千万円の金を作り備蓄センターを設置する案ができているそうですが実行段階には程遠いということです。

 また薬剤師会で上田地区の住民が分業についてどう考えているかということで分業のメリット、デメリットの調査をした結果@処方せんを貰うと自分が使う薬が解るので安心できる70%A医師の書いた処方せんを薬剤師が専門的立場からよく見直して調剤するので安全性が確保できてよい63%B医院より薬局で待つ方が時間が短かくて便利40%C一つの薬を貰うのに医院と薬局の両方に足を運ぶので不便25%D薬局の調剤はまだ信頼できない8%、以上で大体支持率の方が大きい。その他特筆されることは薬剤師会が▽どの薬局でも調剤できる体制に努力したこと▽これを受けて各薬局が熱意をもって努力したこと▽患者に不便をかけないため快く薬品を融通し合うこと▽事故が起った場合は薬剤師会として解決に当る努力をしていることなどです。

 F…上田地区の実情を詳細に聞けば聞くほど各地区でのこのような理想型分業推進が、いかにむつかしいかという感を深くしますね。福岡でも糸島地区のように上田市によく似た土地柄ではやはり推進しやすい面が現れていますから今後、地区差が非常にでてきますね。

 F…卸さんの立場ではどのように考えておられますか
 B…医薬分業に対する考え方は、メーカーも卸も非常に微妙な立場にあります。卸としては昨年末から今年頭にかけての武見会長や厚生大臣の発言があってから前向きの考え方が活発化し二月の医療費改正、薬価基準のダウンなどから一層活発化している。

 武見会長も日本の医師の技術は世界的トップレベルにあるが薬を扱うところに問題点があると発言しているしかしメーカー、卸、小売ともそれぞれ問題があるわけで、卸の立場から云えば今迄の医師との不快人間関係は卸の財産(ある意味の無形の投資)であると云えそれが今後調剤薬局に移ることについては微妙な点があるわけです。

 しかし卸としては今後いわゆる備蓄問題、医師と薬局との橋渡し等で協力しなければならないと思っています。特に備蓄の問題では日本卸のデポを合せ全国に二千軒あるのでこれが備蓄を受持てばある程度の解決はできようし、またメーカー医師とも深い関係があるのでいろいろの面でお手伝いお役に立つのではないかと思うので。これは現在日本卸連合会で取り組んでいる問題です。

 分業が進むにつれ、その形態もいろいろ多様化してくると思うが、一番の理想は上田地区のように医師会、薬剤師会が全面的にタイアップして不特定多数の医院から不特定多数の薬局に流れるのが一番好ましい在り方だと思うが、好条件に恵まれた上田地区と異り大都市になるほど備蓄、距離、人間関係等の問題がむづかしく、上田地区のような分業に到達するのには相当な年月がかかると思います。

 F…備蓄の問題など大変有益なお話しを承りました続いてメーカーさんの考えにつきまして。
 C…分業に対するメーカーの考えの中で反省が一つあります。それは過去において医家向の薬剤を薬局に知っていただく努力をしなかったことです。その方法としてはいろいろあるが、逐次取りあげられるような機運がでてきたようです。また医師に処方せんを出して頂く要請だとか、薬局には保険調剤が有利だというPRとか熱意が薄かった。これは最近の諸情勢の変化から今後どのように変るかということが、先程の卸の動きと同様今後、日本の薬業の方向づけに関連する非常に大事な問題であろうと思います。

 現にメーカーは再評価問題GMP問題、自由化問題、特許問題など直接影響の大きい問題に熱心に取り組んでいるが、これに併せ分業問題を会社の経営方針に折り込む会社とそうでない会社とでは将来大きな開きがでるのではないかという気がするし、またこれがメーカーの薬剤の重点のおき方開発の方向にも現れるのではないでしょうか。医師会の長期医薬品対策綜合委員会の中間報告等もその意味で薬業に携さわる者にとっては大きな課題だと考えています。

 D…分業が進展すると薬品の流れが若干変り、病院薬局と保険薬局になると、包装の問題で大包装と小包装と作らざるを得ないと思うが、コストの問題がでてくる。すると薬価基準のバルクラインを何処におくかという問題が起きてくる。  C…これは二、三年前武見会長が大包装をやめ、小包装にし、そして単価を一率にしてどの医師でも大病院でもこれを使うよう改めるべきだと云ったことがあるが、その時メーカーは非常に真剣に考えました。大量に買えばサービスするという思想もあるが、中国では金持からは沢山とり、貧乏人からは少しという思想もあるわけで、大量は安くという考え方も包装資材が安くつくことだけであれば大包装は必要ないわけで、一番シンプルな方法は標準包装というか当然包装も資材も簡素化して云ってみれば調剤薬品は局方品に近い物とするような、経済性よりも社会的な要求に合せるという方向に考えを向け、単価の面も真剣に考え、病院も開業医も保険薬局にも向くパターンを考えだす努力を、できれば日薬連とか製薬協のようなところで取り組むべきで、これは大きな研究テーマになろうと思います。

 昨年来物不足の経験をチョッピリしましたから包装の種類を少くしたいと期せずして考えられたので価格の面さえ折合いがつけば病院でも保険薬局でも了承される方向が打ちだせるのではないか、そのためには薬剤師会、病院、メーカー等の話合いが早く持たれて標準包装論が展開されることが望ましいと思います。

 D…外用薬のようなものはむしろ便利さと保存とか汚染の問題がGMPにも繋ながるから投薬できる包装にした方が理想的なものもあるということです。

 F…標準包装のことは、実現する方向に進むことが業界の大きなプラスと考えます。なお、ご意見をどうぞ
 A…分業に対するメーカーの意欲の程度は失礼だが現在では八五%位が医家向けだから積極性はないかもわからないが今後分業が進んだ時点でも処方せん発行医と、受入保険薬局と両方に新開発医薬品については紹介して欲しいと思います。このことはメーカーの研究課題の中に入れておいて欲しいと思います。真の医療を行うため分業に踏み切った医師に対し背を向けるようなことがないように、処方せんを書いて貰えば保険薬局が買うから同じことと思います。薬価基準に対してどの程度のマージンか、今後の方向としてはどうかなどの問題もあるが、これは薬価基準と仕入価格が非常に近まった時点で若干のオンコストをみるということでしょうね。

 D…仕入価格即基準価格で調剤料とか管理料とかを別に上積みした方がスッキリする。それが物と技術の分離という基本線になります
 A…それがまた先ほどの包装単位の価格に繋がってくるわけですね。
 D…だからメーカーはどう考えるか、厚生省はバルクラインをどこにおくかという問題になる。
 C…バルクライン方式は長い歴史があるが、今後バルクライン方式がいいか、オンコスト方式がいいかこれは多分に論議が必要ですね

 A…開局薬剤師としてメーカーに考えていただきたいことは最近、店頭で販売する百錠位の包装をやめ、千錠包装の医家向けだけにするという傾向がありますね。これは好ましい傾向とは云えません。また卸、メーカーの医家向プロパーには今後、医師と保険薬局との橋渡しをするよう具体的に教育して欲しいと思います。今まではこの逆の面がありましたからね……

 それからもう一つ卸の今後の考えの中にメーカーと卸の間にはたしかに系列があるけれども保険薬局が調剤用の薬剤を購入する場合、系列にこだわらず買いたいという考えがあるわけですから今後分業の研究をしていただくと同時に分業の進展に伴った経営を研究されることが大切ではないかと感じます。

 B…お説のとおりです。日本卸に加入している卸とデポを合せ約二千が、次第に備蓄・ストックセンターの役割を果すようになるのではないかという気がする。医師会や薬剤師会営のセンターよりもむしろ現在卸は機動力とかメーカーの繋がりとかGMPとかの機能を備えている点からも一番適当ではないかと思います。またDI活動は当然メーカーだけでなく卸もやらねばならないと同時に医師会、各医師へのアプローチと同じウェートで薬剤師会、保険薬局へ行なわねばならないと思います。上田氏でも実例があるがむしろ薬剤師会へのアプローチを先に行ない月二回位は会でDTの説明会を行う。医師と薬理的にも対等に話合いができるまでレベルアップすることが基本的に大切ではないか、これが薬剤師の信用を高め、医師と対等に対話できるための最も必要なことではないかと思います。

 F…調剤薬局の物品販売との関係については如何でしょうか。
 C…長野県の医師会が分業推進の条件の一つに受入薬局は雑貨などの販売をやめるべきだと要望しているということをよく質問されるそうですが、これは全くあやまり伝えられているとのことで、むしろ医師会と薬剤師会の話合いの時、処方調剤が忙しくなれば物品販売面を圧迫するのではないかと心配されたほどでその事実は全くないとのことでした。
 A…物品販売をしながら調剤をやっていただくことができるかという危惧の念であったのだと思いますね。

 C…上田地区でもやはり調剤を沢山やっている店が販売量も多いという現象があるそうで決して心配はないとのことですがこれはやはり信用の現われだと思います。
 A…それは処方せんを持ってくる人が販売面でも顧客になるからで、私も経験しています。

 B…上田では安売り華やかな頃でも定価を割って販売したことはなく、また分業のおかげで各薬局も経済的にきわめて豊かだそうですそれから現在三〇%分業を目標にしているわけですが三〇%まで位は販売と調剤と両方兼業でも大きな支障はないだろうということでした。

 E…二月の医療費改正から処方発行が急激に増えたが一般のOTCも全く減っていないそうである。ただそのために非常に忙しくなり一薬局二薬剤師乃至三薬剤師が必要でしかも助手がいるということ、病院の近くの薬局では入院患者が使用するものがよく売れるし、販売量が減る心配は全くないがオーバーワークになることだけは確かなようです。そこで請求業務の簡素化についての運動がもっとも必要なことだと感じます。それから分業が進んだ時点で一般販売業的商行為(分割販売とか漢方の自由調剤とか)は縮少されるのではないかという心配をよく耳にしますが、これは地区により差が生じると思う。上田の場合もメーカーの「何々会」などの売上げ面にはたしかに影響が出るということですがこの点は薬種商が受持っていただけばいいと思います。それから上田では非常に効率よく備蓄され在庫が少く、大体七〇万から八〇万円位で年八回転位だそうです。

 A…私の経験でも大体出る薬剤は解ります。一・五ケ月位あればいいので年間八回転位で同じ数字ですね。
 C…分業が進んだ時点で卸メーカーの売上げが落ちるのではないかとの危惧については、落ちるのは直販メーカーのもので一般の卸もメーカーも減らないということでした。

 A…結論めいたことになりますが私の五年の経験からみても分業になれば卸、メーカーの売上げは過度期的には一期間あるいは下ることもあろうが次第に上昇しいわゆるゾロゾロメーカー品がダウンの一途を辿ることになり、優劣の差がハッキリ現われ、まして今後はGMPとか研究開発の進んだメーカーのものが卸を通して吾々の処に来る時代になるわけで卸、メーカーは分業になっても決して先行き不安はないと思います。

 B…有名一流薬品類については増加するだろうし反面今迄コストだけで売っていたようなゾロゾロ品目は減ずるであろう。だからプールすると絶対量は減らないという意見が強いようですそして薬価基準の銘柄別収載が必須条件になる、これは厚生省も考えているようで実現もそう遠くはないと思います。この間も薬務局長が公式の席上で「薬価基準は決して原価プラスアルファーではない、過去及び将来の開発に要す費用まで折込まねばそのコストとは云えない」とハッキリ云っています。

 C…メーカーが営々として開発したものを輸入ということでバサッと取られることはかないません。今迄も何回となく経験していますからね。国内だけの問題ではなく。銘柄別収載はメーカーの開発及び営業政策を左右するテーマで、一般名収載との差を関係者にハッキリ認識させたいですね。

 F…病院薬剤師の立場からのお考えをお願いしたいのですが。
 D…医薬分業について病院薬剤師会としての結論ではないが、大方の意見や私見としてはまず
@法改正を行なわず実施するにはマンツーマン分業でもグループ分業でも地域分業でも今は手段方法を論議する時でなく多くの分業実績を集積して既定事実を作り、社会に認識させ、法改正の方向を政治に反映させること。
A病院診療所における院外処方発行については、薬剤師のいない病院診療所を原則とし、薬剤師のいる病院については業務範囲を超えるような場合ということでないと薬剤師の定員削減等につながるから当事者間の検討が必要である。
B適配条例は原則的には廃止をのぞむが、存続するならば分業を主体としたものに改めること。
C分業実施に備え、開局者の再教育が必要であるが、その方法は再検討の必要があろうし、また今後医療従事者となる薬学生の教育についても同様である。
D物と技術の分離による甲表、乙表の調剤報酬の一本化も早く実現させなければならない。

 それから保険薬剤師の研修は福岡県では全国にさきがけて県衛生部、県薬、県病薬共済の形で四四年に第一回を、以来五回実施されたがこの間の参加者は一、一六九名に達している。このため三〇余の病院の薬剤師が無報酬で協力したが今後分業推進五ケ年計画に併せ新構想で実施すべきだと考えています。また福岡市で現在実施している休日診療に薬剤師会からも参加していますが、ここでも病薬の指導によって開局者の研修の場に大いに利用すべきであると考えて人選を行なっています。

 E…昨日亡なられた沖さんが昨年二月の医療費改正時に医療協の場で八〇円の基本料を認めさせたことは大したことだったと思う。これは今後次第にあがり、必ず医薬品の安全性に対する薬剤師の責務につながり、医師に対するDT、患者に対する追跡調査、薬歴等の問題になってくると思う。だから単に医師の処方通り調剤するだけでなく、新たな薬剤師の生甲斐というものがでてくるはずで、医薬品についてやかましくなればなるほど医師に代り、これを担当する者が必要になり、それは薬剤師をおいて他にはないと思う。一部で技術料が余り急激にあがると経済ベースで医師と組織体の結びつきが起りはしないかとの危惧の声を聞きますが……

 A…それは心配ないと思います、そのようなケースは数的にそう沢山はできない医師会も以前、郵便局位調剤センターを置きたいと云ったことがあるが、それでもいいわけです。患者は薬局が処方せん通り正しく調剤してくれると認識したら自分の近くの薬局を通り過ぎて何百メートルも先の調剤センターには行きません。行くのは非常にまれになりますから……それよりも現時点ではいかに多くの医師に処方せんを出させる形をとるかが先決と思います。

 C…実績を積みあげたら会でリードすることになると思います、上田でもそのように云っておられました。
 A…上田では最初から分業の受入れは経済ベースでは取り組んでおりませんね、いかに処方せんを正しく消化するかに努力している。これが一番大切なことです。

 F…大変有意義なお話しをいろいろありがとうございました。県薬剤師会としては多くの会員を擁して、その指導についてご努力のことと思いますが最後の締めくくりのようなことでお願いいたします。

 E…薬剤師会の立場から会員の指導については、さきほどの報告のように保険薬剤師研修も福岡県は既に五回、毎年行っているが今後はさらに積極的に実施すべきと思います。分業推進を具体的にどうするかについては「分業対策特別委員会」をつくりその人選を終えた段階である。何分今は選挙の真最中なのですみ次第活動に入りたいと思っています。

 委員会の結論はいずれ出ると思うが私個人の考えとしてはあくまで分業は上田方式が理想であるが、これは自然発生的な要素によりできたもので各地区ではむつかしい面もあると思うが医師サイドでもなく、メーカーサイドでもなく、既存の薬局がマンツーマンでやって欲しいと思います。現在会員の大多数が分業に対する意識が非常に低いのでこれを高揚することが第一の仕事であろうと考えている。そのため厚生省、日薬の実施を待たず先般、保険薬局の実態調査を実施した結果意外であったのは受入資金のあっせんの希望者が九〇%近くあったこと、また処方せんの受付実績は「毎月処方請求する」が以外に少く「時々する」はさらに少く「殆んどしない」が非常に多い。開局者で保険薬局でないものも含めると調剤実務に経験のない会員が大多数と云えると思う。そこでやはり知識の吸収(研修)が急務である。それには段階をつけて教育すべきであろうと考えている。

 また請求業務の繁雑さについては会として精力的に接渉する必要があろうと考えている。その他今後の対医師会問題、会内の具体的対策については理事会、委員会等の結論に沿って推進したいと考えます。

 A…保険請求の問題は徹底的に教育することが急務です。いつも支払基金からなってないと叱られています請求業務は保険薬剤師自身がマスターして事務員を指導しなければ駄目ですね。

 B…資金のことですが日薬あっせんが近い将来あるそうですが、もっと手近には商工会議所の中に無担保、無保証というのもあるし、また市の商工課の中に相談所があっていろいろな借入の方法を教えてくれます。二、三百万円位は心配なく借りられますよ。
 E…問題は借金してもやろうという意欲をかき立てるのに苦労するわけです(一同笑い)
分業は一応五年計画で進められているが業界にとっては早いほど有利だとみています。医療費の改正も次々に行なわれると思われますから……
 F…ともかく早く分業に頭を切り替えることが業界の各階に必要なことと云えるようです。今日は長時間ありがとうございました。

 当選にあたり 森下、石館両氏語る

 三重県下の豪雨のため繰延べ投票で二、一四六票を上積み、五三位から五一位に繰り上り当選した森下泰氏は十五日九時過ぎ大阪の選挙事務所に日焼けした顔を見せたが、思いのほか苦戦した選挙であったためか終始きびしい表情で次のように所信を述べた。

 「今回の選挙では私の見通しの甘えから関係者に大きな迷惑をかけた。これは私の不徳のいたすところで、深く反省している。私自身はまだまだこのようなことではいけないと改めて思いなおしている。しかし昨年の補欠選挙以来、先輩、友人、薬業界の方々、青年会議所、モラロジーの方々などから筆舌に尽しがたい支援をたまわり何んと感謝の言葉を表わしてよいかわからない状態であり、ただただ頭を下げる思いである、森下は今回の選挙の教訓を肝に銘じ、がんばっていくことをここにお誓い申上げたい」

 なお、石館連盟会長は、「今回の参院選はとくに自民党が苦戦を強いられる環境におかれていたことで非常に心配していた。結果的には当選したが内容については連盟会長として責任を感じている。この機会に薬剤師の政治意識を再度反省してみる必要があると思う」と語った。

 薬界短信

 ◆参院選挙 業界より三氏当選
第一〇回参院通常選挙は七月七日に行われたが、業界関係では、地方区で埼玉県の上原正吉氏(自民・前)熊本県の高田浩運氏(自民・前)が、全国区では森下泰氏(自民・新)が当選した。

 ◆日薬分業特委 藤田胖氏重任
日本薬剤師会の分業対策特別委員会は六月二六日、新委員による初会合を開き委員長に水の睦郎氏(東京)、副委員長に丸谷芳司氏(東京)を選出した。
今後、同委員会は医薬分業五か年計画の具体策に着手すると同時に、必要に応じて社会保険委員会、薬局委員会、薬業経済調査委員会との合同部会で分業問題を検討することにしている。
委員一八名中、東京一三名、大阪三名、長野一名で福岡よりは藤田胖氏が再任され、今後の活躍が期待される。

 ◆日薬漢方特別委 久保川憲彦氏再任
日本薬剤師会の漢方薬問題特別委員会は六月二六日新委員による初会合を開き委員長に清水不二夫氏、副委員長に藤本肇、浅野正義の二氏を選出した。
当日の委員会では@本会はいよいよ実行の段階に入ったことA厚生省に積極的に働きかける姿勢となったことを確認し、諸計画を検討・推進することにしている。
委員一五名中、九州山口管内では福岡の久保川憲彦氏が再任され今後の活躍が期待されている。

 人物紹介

 株式会社大黒南海堂社長 大黒清治

 ▽商売≠ニいうものには商人道がなければならないと思います。商人道とは何か。‐商売は一つの仕事ですから、やはり最終的には利益を得ることが大きな目的であると思いますが、その利益をあげる方法にしてもそれはそれなりに適正な利潤でなければいけない。儲け過げてもいけないし、余りにも低い利益であってもいけない。このためには、何をするのが一番大事なことかと考えますと、やはりメーカーさんお得意さんから信用があるという評価を受けるような仕事をしていかねばならないと思います。これを云いかえると、嘘をついて騙して商売をすることは一番いけない。出来ることは出来る、出来ないことは出来ないとしこれを徹底してやらねばならないと思うのです。

 ▽企業努力をして一つの経営を行っていくうえで一番大きな問題は、ボリュームも必要であるけれどもいついかなる場合でも堅実な経営を必要とするものです。さらに堅実の中に積極性を求めていくことが必要であり、それには一番必要なものは人材であり、人材しかないと思うのです。従来から我社としては人材育成を重点施策としてやって参りましたが、今後は更に推進いたします。

 ▽このたび、前社長よりバトンタッチを受けましたがお互いに健康の中で行われたことが大変よかったと思うのです。社長になって新しい方針を打出すのでしょうと質問を受けますがそれだと今まで私は何をしたかと云うことになります。ですから、従来やっていたことを80%位、残り20%位のものを違った観点から物を見直し更に推進して行きたいと考えているわけです。

 ▽これまで会社として苦労したことも色々ありますが、私個人として一番苦労したのは川棚時代です。引揚げて来て、長崎県川棚町で殆んど零に近い資金で仕事を始め、漸く仕事が緒につきかけた時、23年9月の水害で又全くの無一物になって終いました。その時にメーカーさんが本当に暖かく私共の再建に援助してやろうとのお気持ちになって頂いて(朝鮮時代からの信用と云うものと、私が努力し、無いながらもメーカーさんに対して約束を守ったことが要因となって)立ちなおることが出来ました。この暖かいご理解がなかったとしたら現在の大黒南海堂はなかったとも云えると思います。

 ▽朝鮮釜山生れ、満61歳山口県立宇部中学卒。釜山の大黒南海堂勤務、終戦により引揚げ。昭和22年長崎県川棚町で開業、27年長崎市へ進出、33年大黒南海堂本社専務、49年6月同社社長に就任。趣味は麻雀、ゴルフはハンディ50がご自慢。四人のお子さん(男三、女一)があるが、家庭は現在夫人と二人暮し、長男は大黒南海堂本社福岡医専部長。