通 史 昭和46年(1971) 日薬−県薬−市薬
九州薬事新報 昭和46年(1971) 2月10日号

 同盟情報部速報 第66号 昭和46年1月28日 日本医薬分業実施推進同盟情報部

 医薬品問題小委員会 自民党社会部会に設置

 自民党社会部会に、医薬品問題小委員会が設置され一月二七日、第一回会合が開かれた。医薬品に関する重要な諸問題を党として検討するために設置されたもので、これについて、斉藤小委員長は次の様な談話を発表した。

 斉藤邦吉小委員長談話

 医薬品は国民にとって重要であるにもかかわらず多くの問題を今日かかえている。たとえば医療面の薬効、安全性の問題の保険の面から診療報酬体系における医薬品の位置づけの問題、また最も利益を得ているのはだれであるかという事、保険財政の赤字、生産競争、添付問題、流通の問題、製造許可に関する問題、大衆薬等々である。

 これら行政ベースでまかせてきたが、党としてこれら国民の不安を取り除くために、国民の立場に基づき(消費者サイド、メーカーサイド、薬剤師の立場‐すべての立場からの意)正統な薬務行政を描き、位置づけるため研究していくという主旨で小委員会を設置した。この小委員会は党の正式機関として、医薬品に関することはすべて一本化してここで検討する。今後は国会開期中週一回のペースで行なう。

 本日は薬務局、保険局の主脳も出席し薬務局から検討項目が提出された。そして当面の検討事項として@添付廃止後の措置A資本自由化問題B再販問題をとりあげることとした。なお他の検討事項として@製造許可の地方委譲A診療報酬体系における医薬品の位置づけの問題B医薬分業なども含まれている。 しかし、問題がたくさんあるので、さしあたって具体的な個々の問題に結論をだし、その性質によって厚生省あるいは業界へ要望するという方法をとり問題点を整理し、さらにより根本的な問題を合わせて検討しながら堀下げていきたい。なお実質審議は次回の二月五日から行なう。

 小委員名
小委員長=斉藤邦吉(福島)衆議院議員
委員=小沢辰男(新潟)亀山孝一(岡山)砂田重民(兵庫)蔵内修治(福岡)田中正己(北海道)増岡博之(広島)谷垣専一(京都)箕輪登(北海道)佐々木義武(秋田)以上衆議院議員、上原正吉(埼玉)高田浩運(熊本)鹿島俊雄(全国)丸茂重貞(群馬)以上参議院議員

 日薬基本方針協議会 会員委員会審議進む

 一月一二日発足した日薬会長の諮問機関基本方針協議会は、その後一月二〇日に第二回会合を開き、参考人として、全国医薬品小売商業組合連合会の荒川慶治郎会長、東京都薬業協同組合連合会三浦謙副会長、日本病院薬剤師会上野高正副会長、日本医薬品卸業連合会渡辺徹太郎会長から意見を聴取し、次いで一月二六日第三回会合を開き、同じく参考人として、全国一般薬協議会津村重孝販売委員長、日本学校薬剤師会永山芳男会長、日本医薬分業実施推進同盟鈴木誠太郎常任執行委員長から意見を聴取し協議をすすめた。なお第二回会合で幹事五名の追加が決定され、平瀬、芹沢、水野、芳賀、菅沼の五氏が指名された。

 協議会は、一月三〇、三一日の両日、神奈川県大磯町において一泊の上、協議を重ね、答申原案の取まとめを行なうことになっている。答申が決定されるのは二月八日の最終会合となる予定である。会員委員会拡大大委員会は一二月一九日発足以後、一月一四日第二回全体委員会一月二一日第三回、二六日第四回を開き、引続き二九日起草委員会、二月一日第五回全体委員会を開き答申することとなっている。

 この委員会では、会長の諮問に応じ、全薬剤師を会員とするため、どのような方策をとるべきか、入会促進のため、与えるメリットをどのように考えるべきか会員は会を維持発展させるために、どのような会費負担をすべきか等について審議が進められている。

 日本医学協会 分業の完全実施をあげる

 日本医学協会(吉田富三会長)は、このほど「医療保険制度の根本的改革に関する提案」をまとめ発表した。このなかで医療体系整備の一項目に医薬分業をあげ、次のようにのべ、完全実施に努力しなければならないと強調した。

 医薬分業
医師及び薬剤師はそれぞれその責務を守るべきであって、当局は法律の定めるところにより、医薬分業の完全実施に努力しなければならない。

 薬剤師の折角の調剤権をあれどもなきが如きものとしている現状は、患者に対する便宜もさることながら、医業の収益が潜在技術料と称せられる薬剤のマージンに依存するところが多いために、医薬兼業が固執されるという強い傾向によって保たれている。

 医薬分業には、まず診療費における技術料の重視が必要であって、ほかに薬剤センターの設置、国民医薬品集の廃止なども条件となるが、この改革案が実現されれば、おのずから促進されるものと考えられる。

 厚生大臣・薬務局 長分業推進で指示

 一月二一日、厚生省で開催された全国衛生主管部局長会議で、厚生大臣、薬務局長は医薬分業の推進について発言し決意を述べた。内田厚生大臣は、あいさつのなかで医療保険制度薬務関係事項について次のように述べている。
内田厚生大臣あいさつ抜粋

 第三は、かねて懸案の医療保険制度の抜本改正への方向に着手することとしたことであります。当面明年度から被用者保険における七〇歳以上の被扶養者に対する給付率を五割から七割に引き上げ、新たに長期勤続の退職者がひきつづき一定期間従前の保険制度に加入できる制度を創設するなど主として老令者医療の充実に資するとともに、政府管掌健康保険の長期的な財政安定を行なうことを目途に、すでに関係審議会の審議を煩わしているところであります。

 私どもとしては、今回の改正は是非とも実現し、これを第一歩として、抜本改正に向ってさらに改善を加え、真に国民の健康を保持し増進するための制度をつくりあげてまいりたいと考えております。

 第四は、食品、医薬品の安全対策を充実強化することであります。最近、食品や医薬品の安全性に対する国民の懸念と関心が高まっておりますが、このような懸念を解消するため明年度においては、食品、添加物の総点検や残留農薬の規制の拡大強化を強力に推し進めるほか、医薬品の効能、効果の再検討を行なうとともに、監視検査体制の一層の整備を行なうこととしましたので、都道府県におきましてもこれに対応した強力な体制を整備し、十分これが実効をあげうるよう御配慮をお願いする次第であります。
なお、懸案となっておりました医薬分業については、明年度さらに歩を進め、その受入体制の整備を図ってまいる所存であります。

 次いで、武藤薬務局長は薬務行政の現状について次のように述べ、とくに分業推進の熱意を示し、各都道府県当局が協力することを指示した。

 武藤薬務局長発言要旨

 (1)医薬分業問題
医薬分業問題については従来から推進体制をとってきた。とくに昨年は薬局の実態調査を実施した予算関係としては、46年度に一、〇〇〇万円を取り、医薬品調剤検査および情報センター設置費とし、各都道府県薬剤師会において、調剤に関する安全性の検査にあてる。この補助金と実態調査の二点を基礎として、本年度も薬局の受入体制の整備並びに国民への分業の啓蒙をはかっていく方針であるので各都道府県においても協力をお願いする。

 (2)安全対策の問題
副作用の早期発見と承認時における副作用のチェックにつとめる。43年に抗生物質、44年にサルファ剤についての使用上の注意事項を決めたが、引続き本年は局所麻酔剤及び向精神薬の規格化をはかる。

 (3)添付問題
12月14日の中医協の決定により、添付について措置することとした。現在監視体制を含めて事務的に検討しているので協力をお願いする。この問題については関係方面と協議をしており、来週には製薬各社からのヒヤリングを行なうことを予定している。

 (4)薬価調査
本年は二月分を三月調査実施で、販売、購入の両サイドから行なう。協力を願う。

 福岡県病薬主催特別講演会 2月20日朝日ビル八階で

 福岡県病院薬剤師会主催の本年度特別講演会は、二月二〇日(土)午後二時から博多駅前朝日ビル八階ホテルステーションプラザにおいて左記により開催されることになった。
▽日時=昭和46年2月20日(土)午後2時
▽場所=福岡市博多駅前朝日ビル8階ホテルステーションプラザ
▽講演
(1)薬価基準制度について=塩野義製薬株式会社業務部長(日薬連保険薬価研究会副委員長武田公一氏)
(2)薬業界の現状と問題点=薬業経済研究所常松己一氏
▽懇親会=講演終了後引続き同所で行なう

 日刊紙分業を 大きく報道

 (1)読売新聞は一月一八日の朝刊に「医薬分業を確立、量より質≠フ報酬へ厚生省方針」と三段ぬきの見出しをつけ、厚生省保険局内にプロジェクトチームがつくられ、乱診乱療につながる診療報酬制度の本格的な洗い直しが行なわれることを報道した。このチームで検討されたものが中央社会保険医療協議会の審議資料とされ、@医師の技術の尊重A甲表、乙表の整理B医薬分業の確立などの実現をめざすことが主題となることを左記のように記載している。

 健康保険が医師に報酬を支払ういまの診療報酬制度は、乱診乱療につながり、不当な収入をあげやすいと批判が高まっているが、厚生省は近く保険局内にプロジェクトチームをつくってこの問題にメス≠入れ、本格的に制度を洗い直す方針を決めた。すでに「制度の合理化」に着手した中央社会保険協議会(厚相の諮問機関、会長円城寺次郎氏)に審議し利用を提供するのがねらい。

 診療報酬制度の合理化は
@医師の技術を尊重する
A甲表、乙表と複雑に分けられている制度のたて方を整理する。
B治療と投薬を別立てにした「医薬分業」を確立させるなどの実現をめざすことになろう。

 (2)東京新聞は、一月一六日の夕刊に「医薬分業をスタートへ」「調剤、情報センターを設置」「厚生省が方針、質の向上へ助成も」と六段ぬきの大見出しで、昭和四六年度予算による調剤検査、情報センター設置の方針を大々的に報道した。同紙はこの設置が五年計画で全国に及ぼされ、薬剤師や地域薬局の調剤能力の向上をめざしていること並びに、この計画の生れた経緯について左記のように詳細に記述するとともに、「医師側の出方に問題」があるとして、医師側の今後の動きに注目している。

 調剤、情報センターは
@医薬品の品質を検査する機械を備え、薬品の質が低下しないよう監視する。
A調剤に関する資料を備えるとともに病院薬剤師や薬剤師相互の情報交換を強化、調剤能力の向上を図る。
Bまれにしか使わない薬品をセンターに備蓄し、薬局から依頼があればすぐに届けられるようにする。などを行なうもので、かねて医薬分業の実施上の問題点とされていた薬剤師の質のバラつきや薬剤の備蓄量の不足解消をねらっている。

 従って同センターが全国的に設けられれば、少なくとも医薬分業の薬剤師側の受入体制は整うわけで、わが国の医薬分業が一歩前進することになる。医薬分業は、現在医師が行なっている診察、治療と投薬を分離し、投薬部門を薬局側に全国的に移そうというもの。欧米諸国では常識であり、我が国でも戦前からその必要性が指摘されてきた。そこでさる三一年、俗にいう医薬分業ができ「医師は処方せんを発行し、薬剤師が調剤を行なう」ことが決まり、制度上は医薬分業が発足した。しかし同時に医師側の圧力で「患者が希望したときは医師が調剤できる」との条項が設けられたため現実に同法は空文化し、今日でも医師の調剤が投薬の中心となっている。そこで日本薬剤師会は、かねて調剤センターの設置など薬剤師側の受入体制を整え、その後、段階的に薬剤師による処方せんの発行、医師の調剤の禁止などを実施することを要求していた。

 しかし、現在の医療制度では投薬が医師の収入の大きな部分を占めているので医師側は「医薬分業より診療報酬の適正化が先決」と強く主張、こんごは医薬分業も政府が検討中の医療制度の抜本改正とからめ検討されていく見通しである。ただ、現在の医療費の急増は医師の投薬のしすぎが原因といわれるように、調剤の収入は医師側にとってうま味≠ェ大きい。従って医師側はこの権利確保のため各方面に強く働きかけることが予想され医薬分業実現への道はこれからこそ、波乱含みといえよう。」

 なお、日本経済新聞は一月一六日夕刊に、「添付の慣習断つー都道府県に監視委員会」の見出しで、医薬品に厚生省が監視体制の確立をはかることを大きく報道した。

 福岡県保険薬局会 薬剤師の意識調査 最初の事業として

 昨年八月結成、発足した福岡県保険薬局会(会長中村里実氏)は、結成以来同会の運営並びに事業等について検討、まず最初の事業としては、県下の保険薬剤師の医薬分業に対する意識調査をした上で具体策をたてるべきだとしてアンケートを実施することとして準備をすすめていたが、このほど社会保険委員会と合同委員会を開き左記のような設問により県下の全薬剤師の分業に対する意識調査を行なうこととなった。

 医薬分業に関するアンケート

 (1)医師および医師会について
@医師と分業について個人的に話し合いをしたことがありますか
A医師に分業について自分から働きかけるつもりがありますか
B地区の医師会に対し分業についての話合いを地区の薬剤師会がしていることを知っていますか
C処方せんを発行した医師が保険請求する場合の請求点数(処方料、処方せん料など)の内容を知っていますか
Dその他医師および医師会についてのご意見、ご希望を書いて下さい。

 (2)メーカーおよび問屋について
@メーカーは分業を希望していると思いますか
A問屋は分業を希望していると思いますか
B添付廃止後医家向け治療薬の販売について、メーカー、問屋はどのように云っていますか
B今後の販売方法について情報をきいたことがあれば書いて下さい
Cその他メーカーおよび問屋についてのご意見、ご希望を書いて下さい。

 (3)保険薬局および保険薬剤師について
@あなたは分業を期待しますか
Aあなたは分業の準備はできますか
▽設備について(待合せ用椅子など含む)
▽備蓄薬について(近くの一医師の分百種位)
▽技術、能力について(調剤技術、勤務時間など)
Bあなたは地区に備蓄センターの設置を希望しますか
C日薬制定の保険薬局標識を取付ける意志がありますか
Dその他のご意見、ご希望を書いて下さい。

 (4)一般社会、大衆について
@大衆は分業を知っていると思いますか
A大衆はあなたの薬局の調剤を信用すると思いますか
B分業に関するPRの必要がありますか
CPRするとすればその方法などを書いて下さい。

 (5)その他
@保険調剤の設備に医療金融公庫が利用できることを知っていますか
A分業を期待しない又は分業になると困るという方のご意見や理由をお聞かせ下さい

九州薬事新報 昭和46年(1971) 2月28日号

 石館日薬会長 就任初の代議員会開催

 与望と期待の石館新会長による日本薬剤師会第29回代議員会は二月二十四日、五の両日東京都薬業健保会館で開かれた。石館会長は、就任早々、会員の拡大とその基盤を強化するため会員拡大委員会を、医療制度、医薬品の管理並びに薬剤師職能のあり方についての日薬の基本理念とその方向を定めるため基本問題協議会を設置し、これに諮問した。両会ともいずれも年末年始の多忙な時期にもかかわらず、しかも極めて短期間に熱心に討議を重ね答申を会長に提出した。これから答申を細部にわたり検討し遂次会務運営に活用されることとなろうが、開会にあたり会長の示した主な施政方針は次のとおりである

 一、会員の基盤の強化策としては、開局薬剤師を中心に日病薬、診療所薬剤師、公務員薬剤師などは勿論、更に企業体に勤務する者、教育機関にある教職員も今後は広く日薬会員とし、また各職域の会員は各々自主的活動ができるよう運営されるよう推進する。

 二、今後は早急な合理的会費の設定と同時に会員に対する反対給付を十分考慮し、日薬ニュースの発行等交流と情報活動も早急に計るよう計画する

 三、日薬としての施策の最重点は、何といっても医療体系に対する抜本改正への前進のための積極的活動である。そのためには医薬分業体制はもとより医薬品の管理の確立と衛生薬学に対する前進が大切である。

 四、これらに対する薬剤師の権利と義務の確立は、薬剤師の自己擁護のためのものでなく、あくまで国民、社会のためであるという大義をかざして進むべきである。

 五、事業推進にあたっては関係団体と協調し、話し合いに努力することは勿論であるが、基本理念の推進には毅然として正道を歩み、徒らなる追従の政策は排して行く。

 六、時々刻々流動する諸問題に対し応急に対処しうるよう執行部の体制を整備する。

 七、中央と地方との連繁を強化するため、定款改正のための特別委員会を設け、代議員の職能と構成を検討し昭和四十七年度から新体制で進みたい。

 会議は二十四日、執行部から四十五年度会務並びに事業報告、四十四年度歳入歳出決算、監事報告、同剰余金処分、の報告事項四件と四十六年度事業計画、歳入歳出予算、日薬事務所長井記念館移転に伴う定款の一部改正並びに必要費用支出のための積立金処分、四十七年度日薬総会および第五回学術大会開催地(大阪)決定、役員一部改選(四月実施)の承認、定款改正特別委員会設置六件の報告、提案理由の説明が行なわれ、ついで各ブロック代表の総括質問が行なわれた。(九州ブロック代表は木元金次郎(佐賀)代議員) 報告、議案は決算、予算委員会に審議を付託した。
二十五日各委員会は早朝より活発な質疑応答がくりかえされ、かってない熱がはいった討議が続いた。
本会議において各委員長から審議の経過および結果について報告、満場一致、報告事項、議事事項のすべてを執行部提案のとおり承認、可決決定された。

 ついで東京都より薬事法一部改正に関する動機(薬局の許可更新制度の廃止、広告に関する規定の新設、業務日誌の廃止)が提出され賛成多数で採択された。
二日間の審議を通じ、全国の代議員が剤界の現状を打破するため、いかに石館新会長に期待しているかはっきり判った。石館新会長も代議員をはじめ全国の会員の与望に応えるよう真剣、率直な答弁がくりかえされ出席者に深く感銘が与えられた。

 日薬懇親パーテー

 新会長の就任を祝し、また昨年、勲二等旭日章に叙勲された元会長高野一夫顧問の祝賀をかねた懇親パーテーを二月二十四日午後六時、ホテルニュージャパンで開催、次の多数の来賓を迎え盛況であった。
内田厚生大臣
橋本厚生次官
山口シズエ代議士
迫水久常参議
武藤薬務局長
豊田参事官
野上薬学会々頭
松野日医副会長
奥野日歯副会長
高野一夫元日薬会長

 九州卸連臨時総会 TUC反対を決議

 九州医薬品卸連合会(渡辺荒次郎会長)は二月二十二日午後一時から福岡市明治生命ビルに、傘下組合員である卸百社を集め、当面の問題のひとつである「T会とTFCとの合体化構想」を中心に最近の薬業情勢に関する安藤俊市氏(ドラッグマガジン社長)の講演を聞く会を開いた。会するもの、メーカー各社、九州山口各県医薬品商組代表者らもふくめ計一五三名にのぼる盛況となった。

 安藤講師は、いまや医療及び薬事両制度の根本的改革の日は近まり、すでにそれらの基本的構想は固まった段階であり、こんご医療も薬業もその基本構想の線に沿って進むであろうとの予測を語り、具体的には次のように指摘した。

 医薬品生産部門の根本的問題は「有効」というテーマである。「有効」はそのまま「安全性」につながりこの二つは絶対に切り離すことはできぬ。「安全でかつ有効」な薬剤を得るためには、何よりも医薬品の創造と開発が急務である。

 しかも「開発」はとりも直さず、日本経済の自立に直結する。米国その他の製薬資本に多額のロイヤリティを支払っている現状は決して好ましいものではない。しかも自由化の波濤はもう目に見える所まで迫っている。自由化は現在のわが国製薬資本の在りようからいって、大きな危機を迎えるにひとしい。このような国際化の環境のきびしさに堪えるためには、わが国製薬資本の経済的自立と開発創造への意欲振起とに待たねばならない。

 次に流通については、まづ医療用医薬品については「添付廃止」の大原則がうち出された。「添付廃止」は「薬価基準」の問題に有効に影響することはまちがいなく、「薬価基準」がさがれば「医薬分業」の道が必ず展けてくる。その時期は大体五年後であろう。但し医薬分業の道が展けるとはいっても、それが直ちに現在の日薬が考えているような開局者本意の医薬分業になるかどうかはわからない。

 医薬分業のビジョンはまた別の課題となろう。一般用医薬品の流通については、再販と適配と広告の三つの問題が公式の場でいま論議されている。再販は制度としては残るが、マージン、リベートの規制(圧縮)が行なわれることは避けられまい。適配については、医薬分業の進展がいまはっきりと予測されているという情勢判断から、これを直ちにいじっても無意味であろうという見解が大勢を占めている。であるから格別な変化は起り得ないであろう。

 広告については当然規制の方向が検討されているが、これを急激に廃止の方向にもっていくことには問題があろう。何故なら現在の小売薬業界は多くのモラル喪失者が盛業を得ておる状況で、広告が一気に廃止されれば、消費者には正しい情報がますます欠除し、業界と消費者との離反疎隔が増大する憂いがある。それは消費者の利益を損う。広告の規制や廃止は急激にではなく、業界の客観的情勢と対照させながら徐々に行なっていく必要があろう。

 また安藤講師は昨年のチクロ、キノホルム禁(中)止の問題にもふれ、チクロは全く怪奇な屯死を遂げた、実験動物体重一キロに対し毎日各五〇〇、一〇〇〇、二五〇〇ミリグラムのチクロをたべさせて、二年ののち、二、五〇〇ミリグラム与えた動物のみがボーコーガンにかかった。これがチクロ禁止の根拠であり、五〇〇、一〇〇〇各ミリグラムを食べている動物はなお健在であったというから、人間にして体重六〇キロなら、ボーコーガンにかかるためには毎日一五〇グラムのチクロを食べさせねばならない。むかしのチクロ入りリポビタンDならば毎日千本以上をのまねばならぬから、これは全く奇想天外な禁止発想であるといわねばならない。このような怪談がこれからも続々と起る可能性があるから、業界はもっとしっかりした防衛体制をつくる必要がある。

 また一般用医薬品の有効期限表示については、高名なドリンク剤メーカー社長である国会議員がこれに反対したため、全大衆医薬品に期限表示をうけるという成行にまで発展してきた。右の国会議員が反対した理由は「ドリンク剤の期限表示」は「弱い者いじめ」であるという訴えだったが、その人が「わが社より強い製薬会社はない」と豪語して小売支配拘束の政策を強行している図はまことにおかしな感じである。

 しかし小売業者のなかには後者の言を信用して、ウカウカとその口車に乗る人がすくなくない。ドリンク剤の有効期限表示に反対した国会議員はまた「パッション」というマムシドリンクの許可をとるために国会内を右往左往して、それが新聞記者の目にとまりマムシ議員の「尊称」を奉られたのは有名な話だが(「パッション」はついに認可されなかった)こういうことが薬業界に対するジャーナリズムの信用を失墜し反感を買う有力な素因になっていることは注目すべきである。

 この社長を戴く会社は医薬品の開発能力がきわめて弱く、配薬の大メーカーと呼ばれているが、最初に話したようにこんごは開発能力のない製薬会社は発展の可能性がないし、それに医家むきにはほとんど手が出せない状況であるから、将来性は全く暗いといわねばならない。

 そこで小売薬業界に進出し、小売を「直営」することによっていまある財産を保金しようという苦肉の策に全って発想されたのがTFCである。東京都内池袋駅前に「他人名儀、自己直営」の薬店を強硬に出店しようとして、小売業界の総反対と真正面から対決していることは、その会社の基本的姿勢を象徴している著名な事実だ。TFCも結局は自分が経営するつもりでやっておるものと思わねばならないが、さすがにノンキな小売薬業者もTFCのワナには本能的に警戒して近づかず、そのためにTFCは全国でも三〇〇程度しかできなかった。これは小売薬業界の良識をはかるモノサシになるだろう。そこでこんどはTUC構想がでた。この構想もせんじつめればTFCへズルズルと引きずりこもうとする遠謀深慮以外の何ものでもない。このような意図は医療および薬業の将来へのとうとうたる流れにさからってムリに逆流しようとするものであり、そこに発想の根本的誤診と自己過信があるが、結局は失敗してしまうだろう。

 しかし失敗は必至であるとしても、一持的な混乱は起るだろう。この混乱は無用有害のものであるが、その混乱を助長しようとしている一部の小売薬業者がいることは、業界全体にとっては大きな不幸であるというべきだ。このような混乱をなるべく防ぐのが小売および卸薬業界のひとつの重要な課題であると思うと、安藤講師は結んだ。

 このあと九州山口商組代表者会議を代表して隈治人、益田学の両氏がTUC問題について、当面の様相と将来の展望につきそれぞれ報告し、それが終って安藤氏ら三講師に対する卸業界からの質疑応答が行われ、その途中で佐賀県の辻氏から緊急動議が出され「本会を九州卸連の臨時総会にきりかえ、こんごの一般用医薬品問題について卸連の基本的態度をきめることにしてはどうか」との提案がなされ、満場の賛成で辻氏の動議が成立し、会はそこで九州卸連臨時総会にきりかえられた。

 臨時総会は各種の討議を経て要旨次のような決議を採択した。
(1)九州卸連は去る一月二十一日東京都豊島区公会堂で開催された全国小売薬業者総決起大会の決議に全面的に賛同する
(2)九州卸連は再販防衛のための集団安全保障体制の整備に万全を期する。
(3)TUCに対してはできるだけ取引先の薬局薬店がそれに同調しないように要請の努力をつづける。
(4)TUC参加への態勢がくつがえらない場合でもその設立ができるだけ延期されるように働きかける。
(5)従来のTFC店との取引については現在の姿勢をとりつづける。TUC参加店に対しては特に取引の態度をかえる必要はないが、新規のTUC店との取引はこれを断る。流通攪乱や価格破壊の動きに対しては、それぞれ責任をもって対処する。

 以上は満場の割れるような拍手によって可決され、会は盛況裡に午後五時解散した。なお当日九州山口商組代表者会議は九州卸連に対し、TUC問題について「業界にとって好ましくない。よって組合員ができるだけTUCに参加しないように阻止の努力をする」という申し合わせを行ったことを報告すると共に、その理由を併記しかつ卸連に対しTUC問題に関し緊密に提携協力するようにとの要望書を提出した。