通 史 昭和43年(1968) 日薬−県薬−市薬
九州薬事新報 昭和44年(1969) 8月10日号

 中医協再開 四ケ月ぶりに

 中央社会保険医療協議会(東畑精一会長)は、薬価調査をめぐり日本医師会と支払い側の対立で審議が中断していたが、一日の全員懇談会で両者の対立が解け薬価調査を十一月に実施することが決り、懸案の医療費緊急是正問題も四ケ月ぶりにようやく審議が軌道に乗ることになった。

 この日の懇談会では▽厚生省は中医協で「薬価調査の集計方法を関係団体に説明しなかったことは遺憾である」旨陳謝する▽会長が厚生省に「製薬会社を指導して、小包装を中心にするよう」要望することで医師会の主張を入れ、支払側の主張する▽薬価調査は従来通りの方法で行う▽調査は十月を対象月とし十一月に実施する。薬の損粍や保管に要する間接費についての調査は今回は行わない。ことで話合いがまとまったが、今後、審議を進めるとしても医療費の引上げ問題をめぐって支払い側、診療側の意見対立は必至であろうとの見方も強く今後の成行きが注目される。

 保険薬局の 個別指導 二回目実施

 福岡県民生部保険課による福岡県内保険薬局十二件の個別指導が去る十八日行われたが近く第二回目指導が行われる予定であるため福岡県薬剤師会では次の事項を十分留意、万全を期すよう保険薬局を指導している。

 (1)指導の重点は
 @保険薬局の指定、保険薬剤師の登録関係
 A請求関係文書を中心に、関連する処方せん、医(歯科医)師から提出されたレセプトと比較対照し点検されるので、それら一連の文書関係を十分検討のこと

 (2)処方せん中発行医の不馴れのため記載不完全のものについて訂正、修正がなされたものは、発行医の訂正、修正印を求めていくこと(処方せんは、第三者が理解しうるものでなければならない)

 (3)調剤済後、薬局で記入すべき事項(薬事法、健保法による)は洩れのないよう記入のこと

 (4)分割調剤のため、処方せんを患者に返えしたときは必ず調剤録に記入すること

 (5)指導は社保分国保分についても行われる

 (6)指導対象分は、昭和44年2月分から6月分までの間のものと推定される

 (7)準備書類
 @請求関係文書控
 A請求明細書に対応する処方せん
 B調剤録

 (8)出席すべき人、保険薬局開設者、保険薬剤師、請求事務担当者(一人三役のときは一人、それぞれ異なるときは三人)

 (9)日薬編「保険調剤」(薬学講習会テキスト)を研究しおくこと

 (10)細部については、県民生部長から正式に通知されるので、その指示によること。

 全商連 公競規約設定か

 医薬全商連(荒川慶次郎理事長)は、八月二十一日二十二の両日滋賀県大津市の琵琶湖ホテルで夏季ゼミナールを開くが、当日は全商連が積極的に研究を重ねてきた「公正競争規約」についても方向づけを明らかにする模様である。

 とくに全商連が規約設定の方向で主力を注いでいるのは不当表示問題で、中でも二重価格の規制取り締まりの方向である。

 『分業標語』 入選作決まる

 福岡県薬剤師会はさきに今後の大衆啓蒙のための一資料に、広く薬事関係者から「医薬分業推進標語」を募集、七月二十日締切ったが、応募標語は各地区から集り、応募総数一三〇余句であった。

 県薬では早速専門家によって厳正に審査選出、左記十句が入選した、入選者にはこの程、それぞれ商品が贈呈された。

 ▼入選作品と作者氏名

 ▽正しい医療は 医薬分業 (鹿児島 東迪利、福岡 福井正樹)
 ▽医師の処方を 薬局(おみせ)で調剤(あわせ) ルールを守って 明るい生活(くらし) (福岡 田中美代)
 ▽医薬分業は 明るい医療の みちしるべ (大川 岡野辛一郎)
 ▽あなたの健康は 医師と薬剤師の協力で (大牟田 中村里実)
 ▽医薬分業で みんな明るい 健康家庭 (福岡 工藤益夫)
 ▽往きは病院 かえりは薬局 まっすぐに (遠賀 竹中重教、大川 岡野辛一郎)
 ▽処方せんは 正しい薬の使いみち (大川 岡野辛一郎)
 ▽処方せん もらって 医療の正常化 (福岡 四島久)
 ▽医と薬 分けて スッキリ 治療でき (佐賀 坂井清二)
 ▽処方せん 手にして行こう 薬局へ (遠賀 竹中重教)

 同盟情報部速報 第9号 昭和44年8月6日 (全文転載)
 日本医薬分業実施推進同盟情報部

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一、「健保法」修正案成立と抜本改正

 「健保法」の修正案は八月二日参議院本会議で可決され、成立しました。健保特例法の延長が断念され、健保法の修正が強行されたため、抜本改正の実施時期が延びるのではないかとの憶測が、一部でなされておりますが、この点について関係者の発言をご紹介いたします。

 (1)参議院社労委における斉藤厚生大臣の答弁(7月26、27日)
▽今回の修正で抜本改正の免罪符を与えられたのではないかという意見があるが、二年以内に実施することに変りない。
▽(抜本改正について)今国会の会期中に、大筋についてでも要綱をまとめ関係審議会に諮問する考えに変りはない。
▽(政府が検討中の抜本改正の大まかな内容の一つとして)現在の診療報酬体系、医薬分業問題については、新らしい形に変えていく必要がある。来年の通常国会に抜本改正についての法案を提出したい。

 (2)参議院本会議における佐藤総理の答弁(7月30日)
▽医療制度の抜本改正が遅れているが、非常に困難な問題をはらみ、影響も大きいだけに各界の意見を十分聞き、国民が納得するよう努力する。改正を二年以内に実現することについては最善をつくす。

 (3)参議院本会議における斉藤厚生大臣の答弁(7月31日)
▽医薬分業については、日本医師会もその必要性を認める方向になっており五年以内に実施するよう年次計画をたてているところである。

 (4)健保連総会における斉藤厚生大臣の発言(7月25日)
▽(医療費の緊急是正は近く実施となるであろうが)緊急是正については、将来の医薬分業実施も念頭におき、また濫診濫療のないような診療報酬にしていかなければならないであろう。
▽医薬分業を行なえば薬を多く使うこともなくなろう。とにかく医師が良心的な治療を行なうような制度にすることが肝要であるが、これは技術料を尊重し診療報酬を適正にすることである。

 (5)自民党根本政調会長の発言(7月24日記者会見)
▽医療保険の抜本改正問題は、一挙に解決することはできないが、本格的に社会保障制度を含めて引き続き検討しなければならない。少くとも二年以内にはまとめたい。

 (6)健保連総会「健保法」修正に対し決議(7月25日第67回総会)

 「決議要旨」

 健保特例法の延長は、抜本改革の行なわれていない現在、やむを得ざる措置であった。薬剤の一部負担制度は薬品の濫用防止、よい医療の無駄のない提供に効果をあげ、保険財政の安定に寄与してきたにかかわらず、これを削除したことは、誠に遺憾である。

 自民党執行部並びに厚生大臣に反省を求めるとともに修正案決定に際し自民党総務会が付帯決議した濫診濫療防止の措置については政府、自民党の責任において絶対に実行すべきである

 (7)斉藤厚生大臣「抜本改正」につき佐藤総理と要談の後発言(8月2日)
▽医療保険制度の抜本改正は、社会保険審議会などに会期内に諮問したい、答申には二年という期限をつけ、できるものからなるべく早く答申を受けるように望みたい。

 二、抜本改正に関し 二審議会に諮問

 八月五日斉藤厚生大臣は社会保障制度審議会並びに社会保険審議会に対し、抜本改正について、次のような諮問を行ないました。

 抜本改正の政府案は具体的に示されていませんが、八月十四日開催の社会保険審議会の総会の席上で厚生大臣から説明するとのことであります。抜本改正案を、「今国会会期中に諮問する」という厚生大臣の公約が果されたわけであります。

 「諮問書」 「社会保障制度審議会に対する厚生大臣の諮問」

 わが国の医療保険制度は昭和三六年度にいわゆる国民皆保険の体制を確立し、医療保障諸施策の中核として、国民の健康確保のために、重要な役割を果たしてきたが、近年における人口、疾病、社会経済構造の変化は著しく、これら諸条件の変化に対応して現在の制度を根本的に改める必要がある。よって、現行医療保険制度を、下記の方針のもとに再編成することについて、社会保障制度審議会設置法(昭和二三年法律第二六六号)第二条の規定に基づき会の意見を求める。

 @国民の健康管理体制に密着した医療保険制度を確立する。
 A社会保険方式を今後とも医療保障諸施策の中核とする。
 B保険料負担の均衡を図る。
 C給付の漸進的合理的改善とその格差是正を図る。
 D財政の長期的安定を図るなお、医療給付の適正化を図る措置を講ずる。
なお、医療保険制度の改革は、複雑多岐であることにかんがみ、混乱のないよう慎重かつ段階的に推進することが必要であるので、二年以内に着手すべき事項について、できるだけ速かにご意見を賜わりたい。なお、社会保険審議会に対しても、同趣旨の諮問書が出されました。

 本諮問書は抽象的な表現をとっておりますが、審議がはじまると、斉藤厚相は医療制度抜本改正の中心は医薬分業推進にあるとの確い信念を持しており、分業に関する発言があることと考えています。

 「解説」

 抜本改正に関係する審議会について

 厚生大臣の抜本改正に関する諮問が、社会保障制度審議会と社会保険審議会に出されました。この二審議会について、簡単に解説いたします。

 健康保険制度について直接審議するのは「社会保険審議会」であります。これより広い立場から審議するのは「社会保障制度審議会」であります。

 @社会保険審議会(略称社保審)は、厚生省に設置されており、政府管掌の健康保険、日雇健保、船員保険及び厚生年金保険の運営につき厚生大臣、社会保険庁長官の諮問に応じ審議答申することとなっています。委員は被保険者代表九人事業主関係九人学識経験者(医療関係者を含む)九人の三者構成であります。現在会長は有泉亨氏であります。

 A社会保障制度審議会(略称制度審)は、総理府に設置され、社会保障制度全体について総理大臣ほか関係大臣の諮問に応じ、審議答申いたします。委員は総数四〇人で、国会議員、関係官吏、学識経験者、社会保険事業関係者の四者で構成されます。現在の会長は大内兵衛氏であります。

 B抜本改正案諮問には直接関係がありませんが、医療費の改正等でなじみの深い中医協について、あわせてご紹介いたします。

 中医協は、中央社会保険医療協議会の略称であり、厚生省に設置され、健康保険法、船員保険の適正な診療報酬と療養担当規則について、厚生大臣の諮問に応じ、審議答申いたします。委員は保険者被保険者事業主等の代表八人、医師歯科医師薬剤師代表八人、公益代表四人の三者構成となっております。現在の会長は東畑精一氏であります。

 特定の団体による あっせん販売は薬事法違反か?

 最近各地区で、地区衛生連合法、婦人会などによる殺虫剤、栄養剤などの斡旋販売の事例が見受けられ、問題となっている。薬業者間にはこの問題について、特定された団体等が行う場合特例に属することと見過す場合が多いが、個々の実情により違反となることが多いため、福岡県薬務課の見解を聞いてみることにした。それによると大体次のような場合は薬事法違反の疑いがあると思われるので注意したいものである。

 ▽医薬品の流通は、末端消費者に至るまで薬事法による登録を受けた販売業者によって適正に行わるべきである。従って伝染病予防法、寄生虫病予防法等別個の法令に基いて市町村等が殺虫剤、殺そ剤、駆虫剤等を配布する場合においてはその特殊事情を勘案すべきではあるが「販売業に該当する」場合は違反と見做される(販売業とは不特定多数人に対して反覆継続の意志をもって医薬品の販売を行うことをいう)その行為自体は一回限りとみられるものであっても相当多数の対象に対して販売行為が行われる場合には個々の販売行為が反覆継続するものとして販売業に該当するものと解せられる。また授与の名目であっても実質上対価を得ているものとして販売に該当する場合もあると解せられる

 ▽特定された団体に属する者であっても構成員が相当多数であり、特定かつ少数の個人的関係に極限されていない場合も同様である。

 ▽特定の法律に基いて行う行いであっても医薬品の保管交付等については薬剤師その他医薬品販売業の登録をうけている者等その取扱の資格を有する者の管理の下に行わしめること。等で、薬務課としては「要するに薬剤師は常々地区組織の中に入って指導的立場にたつよう心がけて貰えばこのような問題も防げると同時に、薬剤師の職能のPRにも役立つと考える」と語っている。

九州薬事新報 昭和44年(1969) 08月20日号

 九州山口各県 商組理事長会 福岡市で開催

 九州山口ブロックの医薬品小売商業組合は九月一日午後二時から福岡県薬剤師会館において各県商組理事長会を開催する。

 従来から小売商組が、メーカーに対する交渉の窓口としていた製企会は発展的解消、日本製薬工業協会流通委員会が発足して公正競争規約、薬価のオンコスト、景品付販売等の問題を採り上げている。

 従来の安定協議会も質の転換と共に薬業全般の諸問題を協議することになり、福岡県では薬業協議会と名称を変えて新たに発足することになっており、また八月二十一日には全商連役員会も大津市で開催されるのでこれらの報告なども含め、左記議題により開催することになった。

 ▽議題
@全商連役員会等中央情勢報告
A九州山口薬学大会における商組部会の持ち方
B薬業協議会(安定協議会)の持ち方
C各県情況報告
Dその他

 同盟情報部速報 第10号 昭和44年八月七日 (全文転載)
 日本医薬分業実施推進同盟情報部


一、中医協審議軌道に乗る

 薬価調査問題で、審議が中断していた中医協は、八月一日全員懇談会の席上薬価調査問題の話し合いがつき、四月以来四ヶ月ぶりに審議が軌道にのることになりました。

 薬価調査は、従来通りの方法に従って、本年十一月に実施されることとなりました。これによって、八月五日から医療費値上げの審議が再開され、日薬の要求している調剤料二〇円を四〇円にする緊急是正も審議されることとなります。

 基準包装に関して

 なお、今回の薬価調査に関連して、医薬品の基準包装について、八月四日下記のとおりの日薬連会長あて薬務局長通知が出され、日薬会長あてに薬務局長から別途協力方依頼がありましたので、お知らせいたします。

 医薬品の包装等について

 医薬品の包装は患者数や一回当りの投与量など、もっぱらこれを使用する医療機関の便宜を考慮して定めらるべきものであることは当然のことであります。

 ところが、最近、医療の実態からかけ離れた大包装の医薬品が広く出廻っておりこの結果、医療機関において必要とする包装の医薬品が入手できず、不必要に大量の医薬品の購入を余儀なくされている事例が少からず見受けられ、また、小包装の医薬品のなかには薬価基準では購入できないようなものもあるやに聞き及んでおります。このことは医薬品が果すべき社会的公共的責任を考えるとき、まことに遺憾であり、早急に改善しなければならない問題であると考えます。

 ついては、この際医療機関で使用される医薬品の包装のあり方について早急に検討を加えるとともに包装の大小による価格差、医薬品の販売条件など改善し国民医療に支障を生ずることのないよう貴会会員に対する指導を強くお願いします。

 なお、このことは、先般の中央社会保険医療協議会における審議の結果、同協議会会長より当局に対し、事態の改善のため強力な行政指導を行なうよう強く要望された問題でもありますので念のため申し添えます

 「資料一」

 「医学のすすめ」(川上武、松田道雄両氏編)より医薬分業論紹介

 医薬分業

 医師が診断、治療(主として注射)のみ行ない、薬は処方せんを出して患者がそれを持っていって薬局から受け取る形式(医薬分業)は、医療技術の進歩にともなう必然的な分子です。とくに化学医薬品工業の確立によって、医薬品の内容が複雑になり、種類が多くなると、技術的にも両者は分離したほうが好ましいのはいうまでもありません。

 日本でも、すでにわが国の最初の医薬法である医制(明治七年)では、医薬分業が原則でした。これは、医薬分業を実施する地盤が準備されていないところに先進諸国のあり方を形式的に導入したものなので、現実にそれが実現されなかったのは当然のことです。

 病院も診療所も、江戸時代の薬師の慣習にしたがって、自分のところで直接に投薬し、技術料を含む医療費を薬代として受取っていたのが普通であり、その方式がこんにちに至るまで踏襲されているのです。この間に、日本の医薬品工業の自立にともなって、戦前(明治二四年)と敗戦後に、おのおの大きな医薬分業運動が薬剤師側から起こされ医業界の大事件となったこともあります。そんなこともあって、いまでこそ形式的、法律的には(昭和三一年実施)医薬分業になってきましたが、その実質においてはいちじるしい変革は見られません。

 国家も製薬メーカーも、完全な医薬分業を実施するための努力をしてきたとは思えません。むしろ押さえてきたという面があるのを見逃せません。一般には患者は医者の薬局の窓口で薬を受け取るのが普通だと思っています。このような医療技術としては不合理な形態が百年近くも残されてきたのは、旧来の習慣というよりは医療費全体を低く押えていこうとする国の政策の具体化の一つともいえます。

 医師と薬剤師の技術料を正当に評価すれば、医療費が上昇するのは当然であり、これが患者にふりかかり、医療費が圧力となれば患者(労働者農民、市民、)の賃金収入が低すぎるからだということがはっきりしてくるからです。この点をあいまいにするために、医師は医薬品の売買の利潤をあてにしなければならないようにし、二次的に薬剤師を化粧品店、雑貨店の主人的役割に追い込んできたのです。

 しかし、こんな不合理なことが、これ以上長くつづくわけはありません。これを内部からつきくずす条件が新たに生まれています。大病院はいうまでもなく、個人開業医のところでも人的不足がひどくなる一方なので、みずから調剤することより診察料を主体として処方せん料で稼いでいかなくては、という気運が生まれてきています。

 患者不在のところで医療機関の利害のみによって判断が決められそうです。医薬分業もたんに西欧に追従するというのでなく、医師、薬剤師、患者の三者が納得する新らしい形式をつくりだすべきときです。そのためには、回り道でも、その技術的意味から考えなおさねばならぬときにきていると思います。

 「資料二」

 「医薬分業の願い」 (健保ニュース7月25日号から転載)

 健康保険法の改正で、約二年つづいた「薬代の一部負担」が九月から無くなりそうです。この一部負担廃止には医師会の強い反対があったためといわれますが一方、薬の値段の問題は、医師の報酬を定める中央社会保険医療協議会(中医協)でもやかましく論議されています。どうして医師がそんなに「薬の値段」にこだわるのか、ちょっと聞くと大変不思議と思われるでしょう。

 しかし、これには実質的に「医薬分業」でない日本の特殊事情があるのです。私たちの医療で外国とハッキリ違うのは、医師から薬をもらう慣習、つまり医薬分業が行なわれていないことですが、その原因は医療費のなかに「薬剤費」も入っていて、調剤料と思われる分も医師の収入になるからです。

 もちろん法律的に「医薬分業」ができていないわけではありません。昭和二九年の法律改正で正式に決まり、三一年四月から実施に入っています。ここでいう法律とは、医師法、歯科医師法、薬事法の三つで、その一部改正により、まず医師法、歯科医師法で、医師は患者に対し処方せんを発行しなければならない。と規定し、薬事法にも「薬剤師でない者が、販売や授与の目的で調剤してはならない。ただし医師や獣医師が自分の処方せんで調剤することはこの限りでない」としています。

 ところがこの薬事法や医師法では「患者が処方せんの交付を希望しない時」のほか、@処方せんで薬を明らかにすると暗示的効果がなくなるときAそれが患者に不安を持たせ治療を困難にするときB病状が短時間に変化してすぐ薬を与えねばならぬときC診断や治療法が決定していないときD応急措置として投薬するときE患者が安静を要するのに患者以外に薬剤交付を受ける人がいないときF覚醒剤を授与するときG薬剤師がいない船舶の中で薬を与えるとき、などは処方せんを交付しなくてもよい、となっているのです。(歯科医師の場合も同じ)

 これらのなかにも抜け道がかなりあるようですが、一番問題なのは、患者自身が処方せんの交付を希望することで、これには薬屋に行くのが面倒だということのほかに、永い習慣で薬は医師からもらうものだと決めてしまっている日本人の意識です。そして、それが医療費のなかの薬剤費が四〇%を越える(先進国の二倍)という、ゆがんだ医療の形を続けさせているわけです

 医薬分業は、明治初年、日本の近代国家への発足当時、近代的医療制度が出来た時からの理想です。それだけに分業への運動も長かったのですが、ようやく戦後になりアメリカ薬剤師会の勧告もあって法律的には実現したものです。しかし今日、実態はほとんど明治維新と変らないのは何としても残念です。

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 同盟情報部速報 第11号 昭和44年8月15日
 日本医薬分業実施推進同盟情報部


一、厚生省幹部異動発令

 八月一二日付をもって厚生省は幹部の異動を行ないました。薬務、保険関係のものをお知らせします。
(かっこ内は旧職)
▽事務次官 熊崎正夫(社会保険庁長官)
▽社会保険庁長官 今村穣(社会局長)
▽社会保険庁医療保険部長 高木玄(官房審議官)
▽官房審議官「保険局担当」 首尾木一(官房企画室長)
▽薬務局長 加藤威二(保険庁医療保険部長)
▽薬務局企業課長 木暮保成(保険局保険課長)
▽薬務局薬事課長 山高章夫(医務局営理課長)
なお坂元薬務局長は児童家庭局長に、信沢企業課長は医務局総務課長に、野海薬事課長は転出して、環境衛生金庫業務部長に就任されました。

 二、新薬務局長分業について姿勢を示す

 加藤新薬務局長は就任にあたり、次のように記者会見で発表しました。

 分業について(要旨)

 医薬分業は当然やらなければならない事柄である。外国では全部できている。日本でできないのは、医師の技術料を適正に評価していないからである。このことから、薬の乱用が発生している。

 日本の医療制度は、現行の社会保険によってゆがめられている。これを正すためには、金がかかるが、正しい医療制度は金ではかえられない価値がある。

 分業になると、患者にある程度の不便をかける面もあると思うが、すじを通してスッキリさせるためには是非とも分業にしなければならない。一挙に行かない点もあるが、モデル地区などを設定年次計画をつくって進めたい。点数表についても、分業を考えて改正すべきである。社保審への諮問には出ていないが、分業には審議の過程でふれられるであろうと考える。

 三、社会保険審議会 大臣諮問を受け審議開始―斉藤厚生大臣医薬分業に言及

 社会保障制度審議会は八月五日の厚生大臣諮問を受けて、八月一四日、全国町村会館で審議を開始しました。

 厚生大臣から五項目の諮問事項について別添のとおり説明があり、保険局長からは、その対策試案の説明がありました。

 このあと、委員と大臣との総括質疑において、香林委員(海員組合)は抜本改正を審議していく以上、医薬分業にふれざるを得ないが諮問事項に出ていないのはどうゆう訳かと質問したのに対し斉藤厚生大臣は

 ▽医薬分業については、すでに制度審から答申をいただいている関係もあり是非実現したいと考えている。おおむね五ヶ年を目標に実施を考えていきたい。と答弁しました。

 また原田委員(川崎製鉄)から、医薬分業は診療報酬体系と関係が深い。中医協に対し諮問する意図があるかとの質問に対し斉藤厚生大臣は

 ▽医薬分業ができるような診療報酬体系について中医協に別個に諮問する。と答弁しました。
なお同時に大臣の諮問の発せられました社会保障制度審議会は八月二六日に審議が開始されることがきまりました。

 四、同盟分業推進審議会小委員会開催

 八月一一日、分業推進審議会小委員会が開催され、社保審、制度審諮問に関する諸情勢について話し合ったのち、小委員会として、分業推進策について会長に答申するに当り、九月になお小委員会を開き、九月中に答申案のとりまとめを行ないたい方針をきめました。

九州薬事新報 昭和44年(1969) 8月30日号

 社会保険審議会に於ける厚生大臣説明(要旨)

 医療保険制度の抜本改正につきましては、去る六月五日に自由民主党から示されました「国民医療対策大綱」の考え方を基本として具体案を作成するという方針のもとにこれに附記された五項目の問題点を中心にこれまで検討を加えて参りました。

 この間、ご承知のとおりの国会審議が続きました関係もございまして、この度ようやく皆様にお諮り申し上げる運びになったわけであります。今回ご諮問申し上げ、ご意見を頂戴したいとしておりますものは、将来にわたっての基本構想とさしあたり実施しなければならない事項の二つについてであります。

 このような形をとりましたのは、医療保険制度の改革は国民医療の将来を左右する重大な問題であると同時に、その内容は、複雑多岐にわたり、これを直ちに実施することにいたしますと、組織機構の改廃をはじめ、財源問題その他極めて困難な要素が数多く介在いたしますので、問題の緊要性と実現可能性を勘案しつつ、混乱のないよう慎重かつ段階的に実施してゆくことが必要であると考えたからであります。

 さて、医療保険制度の改革にあたっての厚生省の基本的方針は諮問書にありますとおりの五点にほかならないのでありますが、以下これを施行して具体的な考え方を申しあげたいと存じます。

 国民の健康を確保するためには、生活環境に即応した健康管理体制の確立が重要でありますが、医療保障諸施策の中核である医療保険制度は、この健康管理体制と有機的連けいのもとに再編成する必要があると存じます。このような観点から、現在分立しております医療保険各制度を、地域住民のための国民保険制度と勤労者のための勤労者保険制度の二本建に再編成するとともに、将来の人口構造の推移等に対処するため老齢者医療を確保するための制度を創設したいと考えたのであります。

 この際、勤労者の家族については、その日常の生活が地域社会で営まれている実態に着目し、国民保険で給付を行なうべきと考えておりますが、この点は、多くの異論の存するところでもありますので、充分ご審議いただきたいと考えております。

 業務上外の傷病の取扱いにつきましては、これらを一体的に取り扱うべきであるという有力な考え方もございますが現行の労災保険と業務外の医療保険とを単に組み合わせるような改革では事務をいたずらに煩雑するばかりでなく、本来その目的とするところの実効も期せられないと考えられます。厚生省としましては業務上外の認定をめぐって患者の蒙むる不便等があるとすれば、むしろ行政運営のうえで、これを適確に解決してゆきたいと考えております。

 勤労者保険の経営につきましては、特殊法人により弾力的な管理運営を行なえる体制を確立せよというご意見もありましたが、強制保険としての性格にもかんがみ、また、厚生年金保険の経営主体との関連等を考えまして、現在の社会保険庁の機能を強化拡充することにより今後とも運営してゆきたいと考えております

 将来の人口構造の推移や老齢者をとりまく社会的諸条件の変化を考えますと、厚生省としては、老齢者医療の問題は今後の重要課題のうちでも最大のものであると存じます。具体的な方法につきましては、社会保険の方式によるか、公費負担の方式によるか、或いは両者を組み合わせて行なうか、いろいろと議論のあるところでございましょうがこれを保険方式で行なう場合には、勤労者本人を除く七〇才以上の国民を対象とし、国民保険及び勤労者保険からの拠出金と一定の国庫負担とを財源として、必要な給付を行なうような制度にしてはどうかと考えております。

 つぎに保険料負担の均衡と給付の改善については全制度の統合によって解決するのが理想でありましょうが、既存各制度の歴史と沿革を尊重し、財政調整方式を活用することにより保険料負担の均衡を図るのが適当であると考えます。また給付面についても、先ず給付割合の格差是正を図り、その割合は、国民の負担能力に応じて漸次改善してゆくという考えのもとに、勤労者本人については一〇割給付を維持したうえで、家族については当面七割給付の線で格差を是正したいと考えております。

 最後に、医療保険制度の健全な発展を図るためにはその財政的基盤を長期的に安定させる必要があることは申すまでもありません。この目的を達成するためには、短期保険における収支均衡の原則を維持して、保険料が医療費の増減に即応して決まってゆくような制度にしていく必要があると考えます。もちろんその場合、保険料の増減は被保険者、事業主に重大な影響を与えるものでありますからその方式自体につきましては、国会において法定していただき決して恣意にわたるようなことがあってはならないと考えております。

 このほか、医療費の無駄を排除し、医療給付の適正化を図るための措置を是非とも講じてゆく必要があると考えますが、これらの問題につきましては、中央社会保険医療協議会で審議中の診療報酬体系の適正化とあいまって解決して参る所存であります。

 以上、医療保険制度を改革するにあたっての基本的な考え方について申しあげましたが、国民皆保険という現状からいたしますと、給付面、保険料負担面の格差は、何を措いても解決いたさなければなりません。したがって、勤労者家族の給付率の引上げ並びに保険負担の均衡を図るための財政調整については、一刻も早く実施したいと考えております。また、老齢者医療の確保も緊要度の高い問題として、早急な解決が要請されております。

 医療保険制度の抜本的な改革は、極めて複雑かつ広汎多岐にわたり、ご多忙な各位に詳細なご審議を願うことはまことに恐縮に存じますが、なにとぞ諮問の趣旨をご諒察のうえよろしくご協力の程を切にお願い申しあげる次第でございますとくにさしあたり実施すべき事項につきましては、私といたしましては、これを二年以内に着手いたしたいと考えておりますので、できるだけ速かにご意見を賜わりますようお願いいたしたいと存じます。

 なお別途お手元に配布してあります資料によりまして保険局長から厚生省試案について説明をいたさせます。(医療保険制度改革要綱試案は略します、なお速報第12号は福岡県の分業活動の報告で本紙七月三十日号掲載すみのものでありますので略します)

 福岡地区薬業者 総決起大会 めぐみ薬局問題で

 福岡市小売薬業界は一月以来、国道二〇二号線の拡張工事による土地収用のため「有限会社めぐみ薬局(宮原美代子)」が適配条例第二条第七号の規定(強制立退きの恩典)によって「フクオカダイエー」内に移転の申請を出したことから、非常な関心を示し、その後地元組合並に申請者はそれぞれ県知事宛陳情書を提出、薬事審議会では慎重を期して継続審議中であったが、八月七日開かれた審議会(同問題について四回目)において一応審議会としての結論が出された。

 それによると「土地収用等の場合の恩典を与えない物的証拠がないため、法的には認めざるを得ない。宮原氏個人については種々問題もあるので、立法の精神に沿い行政の面で充分に指導するように」ということであるが、地元組合としては、▽めぐみ薬局はダイエーに買収されたと思われる▽現営業所から二百米位の所に現在有限会社の一員である姉名儀による「福陵薬局」を申請、許可を得た後半年以上休業している▽この福陵薬局申請についても好ましくない事情があったなどの理由から、適配条例除外の恩典を利用してスーパー内に開設し、後日地元(現営業校区)に確保している「福陵薬局」で営業するものと推定されるところから、第二条第七号の恩典の悪用であるとして、十一日には組合幹部によって県薬務課に陳情、二十五日は市薬剤師会並に地区協同組合によって福岡地区薬業者総決起大会を田辺製薬会議室において開催した。

 当日はこれまでになく小売薬業者二百名以上が出席、山手氏の司会により、波多江市薬会長並に須原地区組合理事長のあいさつに次いで白木県商組理事長から同問題について今日までの経過報告があった。
それより当日特に臨席の古賀治、江口利雄、林武彦の三県議会議員から激励のあいさつがあり、会員数氏による意見発表の後大会決議文を朗読、これを満場一致で採択して気勢をあげた。それより直ちに約三十名の陳情団を編成して県知事、県衛生部長、同薬務課長に決議文を提出してそれぞれ陳情を行った。
なお当日会場に掲示された大会スローガン並に決議文は左記のとおり

 スローガン
一、スーパーへの薬局薬店の「身売り」を防げ
一、分業受入れまで全業者一致団結推進しよう
一、自己の利益のみで。薬剤師のモラルを低下させるな
一、県薬務課の強く正しい行政指導を望む
一、薬業経済を泥沼のベトナム戦争にするな
一、適配条例第二条第七号(強制疎開による移転の恩典)を由解されぬため、その是正を進めよう
一、スーパーの医薬品のおとり販売を根絶せよ

 決議
薬業の健全なる発展のために制定された「薬局等の配置の基準を定める条例」の恩典事項である第二条第七号の適用については、法の精神にもとるスーパーマーケット内等に移転するが如き無制限な適用には絶対反対する。

 福岡地区 薬業協議会 安定協改組

 福岡地区安定協議会八月例会は九日一時半から県薬会館で開会、県安定協議会の機構改革に伴い委員の変更等を行った。

 当日はレギュラーの新薬メーカー代表のほか、わかもと製薬、参天製薬、荒川ノーシン、大塚製薬の他ミルクメーカー二社も出席した。まず山手委員から県安定協議会の組織の改革の報告があり、奥村メーカー代表からはメーカーの機構変更後のメーカー側の考え方などが報告された。それより本会の編成について協議した結果、次のとおり決定した。

 ▽名称=福岡地区薬業協議会

 ▽構成メンバー
メーカー=従来の代表武田、三共、塩野義、田辺、第一、中外のほか乳業一社(当番社)家庭薬は久光ほか一社計九社

 ▽卸=従来のとおり川口屋、大黒、九宏、鶴原、若狭、高瀬の六社

 ▽小売=須原、斉田、藤野、山手、西森、戸田、大隈、塚田(以上福岡市)波多江(薬剤師会)庄野(宗像)建井(粕屋)木村、島田(筑紫)鳥海(糸島)のほか白木県商組理事長並に四島県薬会長は顧問として出席願う。定例日=十日(従来通り)その他各地区情況報告並に薬事審議会報告などがあった。

 福岡地区薬業者に 医薬品の宣伝 の自粛を要望

 福岡市において最近医薬品に関する宣伝の行過ぎが増大しているので、福岡市薬剤師会並に商組支部では八月四日小売幹部並に卸代表と問題の多い量販店等と前向きに話合い、了解がついた事項につき他の一般会員組合員全員に左記文書を福岡市薬剤師会長並に商組支部長名で送って自粛をうながした。

 医薬品に関する宣伝行為の自粛について

 最近とみに医薬品に関する宣伝の行過ぎが増大し(二重価格、不当景品、不正表示等)医薬品としての特殊性を棄損するおそれあることを薬務当局より指摘されました。ここにおいて去る八月四日小売代表、卸代表と量販大型店と前向きに話し合い、公正な経済活動の機会を確保し、医薬品に対する安全性と特殊性等を考慮して下記のような合意点を見出し確約しました。会員各位におかれても、その意のあるところを熟考の上、その宣伝行為に行過ぎのないようお願いいたします。

 記
@薬品に関しては一切宣伝しない。
A指導価格品目についても指示価格以下の行過ぎはしない。