通 史 昭和44年(1969) 日薬−県薬−市薬
九州薬事新報 昭和44年(1969) 7月10日号

 福岡県薬 支部連絡協議会

 福岡県薬剤師会は六月二十五日十一時から県薬会館で理事会を、午後支部連絡協議会を開いて、中央情勢報告並に当面する種々の問題について協議した。

 ▽中央情勢報告
四島会長から抜本改正問題、臨時特例法問題を中心とする政界、厚生省、三師会、健保連の動向について詳細な報告があり、日薬分業同盟の状況について説明、日薬に合同委員会設置、会長に太田哲郎、副会長に吉矢佑の両氏を決定、薬局、社保、薬事制度、薬学教育の四常置委員会委員中より委員を委嘱することになり分業同盟内に分業推進審議会を設置して部内部外の専門家の意見を徴する予定である。厚生省は保険薬剤師研修費を予算化するよう努力中であり、吾々としては分業は抜本改正以前にすすめるものと考えを改める必要がある。

 ▽メーカー、卸の分業阻害行為について
最近門司、柳川大川、大牟田地区等で事件発生、県薬としては関係卸、メーカーに対し厳重に抗議を行っているが、これらを未然に防ぐため各地区とも@平素歯科医師会と密接な連絡を保持するA安定協等を通じメーカー、卸に対し注意することなどが望ましい。

 ▽シンナー遊び阻止に協力
最近添田、山口県、佐賀県等で少年の死亡事故が発生、本県警及び衛生部からそれぞれ注意を喚起するよう要望があったので各支部に於ても協力すること

 ▽第37回九州山口薬学大会について
本県薬の表彰候補者として高倉等(福岡市)氏をすいせんすることに決定、大会提出議案は種々検討の結果、一部修正して五項目の提案事項を決定した。

 ▽社会保険業務について
@PRについて=標識掲示の徹底をはかる、標識マークの周知をはかる、大衆PR用包装紙の作成、分業PR標語の募集、分業PR薬袋の活用など
A月平均三百枚以上の処方せんを取扱う薬局=福岡市三、八幡一、田川一、
B健保法諸手続きの励行=支部長は会員を指導し、開設者死亡等の場合は特に懇切指導するよう要望。
C厚生省の指導監査=九州では福岡、九月の予定その他分業同盟負担金の月々早期完納要望、全国薬剤師会事務長会報告などがあった。

 なお「薬局等の配置の基準を定める条例(適配条例)施行細則第三条に規定する距離の確認について」本県においては、県当局に協力して支部長(部会長)が、新規開設の場合申請者が申請書に添付するために必要な、申請者との距離が一番近いと思われる既設店舗を確認することになっているが、応々にして行過ぎた行為が見られる事例もあったので改めて茲に注意を喚起した。

 当日の支部連絡協議会での注意すべき意見を摘記すれば次の通り。
▽標識はPRがともなわなければ意義がうすい。
▽分業によってすべて解決するとの考えは危険、日本の場合は販売業と半々でなければ成立たないだろう、或は販売と医療機関と分れるだろう、薬剤師は足りなくなり、調剤助手が必要になろう。
▽備蓄センターは設置する必要がある、社団法人の名において出来るよう行政面で考慮して貰いたい。
▽要指示薬は含有量によって取扱いを変えるよう要望したい。
▽備蓄センターを地区単位で設置するのに補助金を要求したら如何(そこで試験、研究、DIも含め行う)

 同盟情報部速報 第7号 昭和44年6月30日(全文転載)

 日本医薬分業実施推進同盟情報部 第1回分業審議会開かれる

 去る六月二日開催されました、日薬全体理事会並びに同盟常任執行委員会の決定に基づき、日薬薬局委員会、薬学教育委員会、薬制調査委員会及び社会保険委員会の合同委員会(速報第3号にて既報)は、分業推進の現況に鑑み、同盟の分業審議会とすることとなり六月二十三日午前十一時〜四時半、交詢社において、第1回の会合が開かれました。

 出席者は、武田同盟会長、太田分業審議会長をはじめ三十三名でありました。会議は、正副会長挨拶、委員の自己紹介にはじまり、武田同盟会長の分業の進展状況について説明があり、質疑応答の後、薬局部会、薬制部会、社会保険部会及び薬学教育、調剤技術部会の四部会に分れて、午後一時から三時まで、次の担当事項について、審議が行われました。

 @各部会共通‐国民医療対策大綱の実施策の検討、調査、組織活動
 A薬局部会‐薬局整備関係
 B薬制部会‐薬制関係
 C社会保険部会‐技術料関係、薬価関係
 D薬学教育、調剤技術部会‐教育、研修、講習関係

 午後三時から再び合同会議が開かれ、各部長から審議事項を取まとめ報告がなされました。内容は次のとおりでありますが、これは審議事項であり、決定事項ではありませんので念のため申し添えます。

 (1)薬局部会
A薬局の構造設備‐調剤室待合室は販売部門と明確な区分をする。調剤室を貯蔵に使用しない。
B指定薬局制度‐地区の意向を尊重して進める。店頭整理、共通標示をすすめる。
C調剤センター‐公営の調剤・備蓄・研修所を設置する。ただし、設置は三年を限度とする。
D希用薬品備蓄‐全国的、基準となるべきものを示すのは無理である。地区で共同して整備する。
Eモデル調剤室‐設置展示することが望ましい。
F融資改善‐医療金融公庫利用例を周知する。融資範囲の拡大をはかる。
G税務対策‐薬局を医療法人化することが望ましい。
Hその他‐調剤センターの呼称は避ける。調剤手数料は調剤技術料とする。

 (2)薬制部会
A薬事法の改正事項を検討する。
B適配条例と薬局‐薬局のない地区では、距離に関係なく、薬事審議会の意見を聞いて許可されるように努める。
C病院薬局の法制化‐熱意をもって努力する。
D薬局と一般販売業‐一般販売業はつとめて薬局に転換するようにはかろう。
E薬局法人‐薬局は商法による法人でなく医療法人的な薬局法人とすべきであるが、分業の進展をみながら検討する。

 (3)社会保険部会
A将来処方料よりは、処方せん量に重点をおき、充実させる方向に進める。
B調剤料の中身を、受付料基本調剤料、試験料、指導料の四本建として考える。
C公営薬局は無薬局町村対策として考える。
D処方せん料と調剤料は10割給付を確保する。
E薬価‐物に伴うオンコストは、銘柄別収載、包装単位、厳格な調査等について関係者とよく話し合いのうえ考慮することとし、つけるにしても最小限に止める(10%程度)

 (4)薬学教育、調剤技術部会
A研修計画‐二百個所の研修可能病院にて、年間一万人、二年間実施する。一人二週間、うち一週を見学、一週を実務とし、四時間(うち二時間医師による講義を含む)講義を組込む。
B薬学講習‐本年度の分業課目は、スライドによる処方せんに関する講義とする。
その他審議事項として、次のことが取り上げられ決定しました。
@小委員会を設置する。人選は審議会会長に一任する。
A七月五日までに、各委員は意見を提出する。
B七月十日頃小委員会を開く。
C大綱は九月末頃までに決定する。
D本審議会は同盟の設置年限三年と同調させる。

 出席者
▽会長 太田哲郎、副会長 吉矢佑
▽薬局部会 部長‐石井明 部員‐幸島英三、境野雅憲、山崎修、都築喜市、清水不二夫、窪田光彦
▽薬学教育、調剤技術部会 部長‐久保文苗、部員‐石川信雄、金指義晴、川田公平
▽薬制部会 部長‐久保長男、部員‐田渕清一、荒井論、小瀬洋喜、杉山昭平、森広吉
▽社会保険部会 部長‐加藤良一 部員‐尾木茂、高木平蔵、古川正、山田順三、竹内一、吉田藤一、板沢幸三
▽日薬会長 武田孝三郎 副会長 鈴木誠太郎、井手市蔵、桜井喜一
▽同盟広報部長 杉本秀義
▽同盟情報部長 竹内喜一

 ◆参議員本会議で分業について質疑応答

 六月十八日、参議院本会議に健保特例法が上提され自民党上原正吉氏、社会党大橋和孝氏、公明党上林繁次郎氏、民社党中沢伊登子氏が、それぞれ代表質問を行ない、政府側からは佐藤総理、斉藤厚相、福田大蔵、坂田文部、床次国務各大臣から答弁が行なわれましたが、上原正吉議員から薬剤の価格についての質疑に対し、斉藤厚生大臣から医薬分業推進の意向を盛った答弁がありました。その要約は次のとおりでありますので、お知らせいたします。

 質疑応答(要約)

 上原議員 薬剤の価格が健保診療の相当な部分を占めているので、その価格の低下をはかるため、健保に使用する医薬品は健康保健薬局方に収載(薬局方と二本建)する。購入は、化学構造(化学構造の不明なものは製法、成分)を指定し、競争入札により、公共団体が購入、健保診療機関に配給することとしてはどうか

 斉藤厚生大臣 今日の医薬品流通機構には改善すべき余地があるが、公共団体にやらせることが適当かどうか、よほど検討の余地がある。ただ、医薬分業はぜひ行なわなければならないと考えるので、その段階において、最も適当な、薬剤の流通機構を同時に考えあわせていきたい。

 ◆医療金融公庫の融資について

 医療金融公庫の薬局に対する融資が大巾に改善されましたが、この融資を受けようとしますと、貸付額が小額であるにも拘らず、抵当が第一担保にとられ、利用上非常に難点があるとこれまで考えられていました。

 これについて岩手県選出日薬代議員小田島専司氏が医療金融公庫に問合わせされましたところ、そのようなことはないとの返答がありました。

 日薬持田常務理事(医療公庫協議会委員)から同公庫について、この件の確認を求めましたところ、薬局への貸付は全店舗への融資ではないから貸付額三〇〇万円までは担保は不要と公庫規定ではなっている。但し代行店銀行側でこれに対する理解が不充分で担保を要求したものであろうとの回答でした。

 以上のとおりですから、公庫融資について、ご心配の点はないものと解されますので、適宜ご利用のほど願上げます。

 『分業に関する標語』 福岡県薬剤師会が募集 標語募集要領

 1.標語の内容
医薬分業を大衆に周知させるためのもの
2.応募の要領
1)官製はがきに3句以内
2)〆切 7月20日
3)送り先 (〒812)福岡市上呉服町3‐22 福岡県薬剤師会分業係
3.入選発表
九州薬事新報紙上に8月上旬発表し、入選者には薄謝を贈呈す。

九州薬事新報 昭和44年(1969) 7月20日号

 健保特例法廃案 健保法修正案衆院通過

 健康保険特例法延長案は、自民党で大幅修正が行なわれて今国会で紛糾を続け四日間に及ぶ本会議で異例の強行採決を行い、十四日衆議院を通過、直に参議院へ送られた。

 この修正案について野党側は、第一条の二年間の時限規定"特例"を削除して医療制度の抜本修正を怠るものだとし、さらに保険料率引上げを恒久化する改悪だとして反対、支払者側は薬代の患者一部負担を削ったのは日本医師会の意向に従ったものと攻撃して紛糾したものである。

 その内容@薬代の患者一部負担は九月一日以降はなくなり、A出産手当がこれまでの本人六千円から二万円、配偶者三千円から一万円にそれぞれ引上げられるB二年限りとされていた千分の五の保険料率引上げ(本法の千分の六十五と合せて千分の七十)が健康保険法に移されて恒久化される。C初診料二百円、入院時六十円(いずれも健保特例法で二倍になる)も恒久的に徴集されることになりベースアップなどによる保険料収入は年々ふえるので政府とすれば将来の保険料収入が非常に安定することになる。

 二年の時限をはずし医療制度の抜本改正の時期について法的な規制がなくなったことと合せ今後医薬分業を含め、抜本改正がどのように進展するか業界としては注目されるわけである。

 問題あり 福岡市薬部会長会

 福岡市薬剤師会(波多江会長)は六月二十七日一時半から県薬会館で部会長会を開き、県薬支部連絡協議会報告その他分業推進等について協議した。

 先ず波多江会長から支部連絡協議会の報告が行われ、分業をめぐる諸情勢については四島県薬会長から詳細な報告があった。

 なお県薬会長から某部会長が、薬局等新規開設者が申請するために必要な、新規開設場所と最短距離にある既設薬局薬店を認定(距離または立退き等一切関係なく)する押印を行う「薬局等の配置の基準を定める条例施行細則第三条に規定する距離の確認」悪用の疑があるので(部会長に確認の押印を貰いに来た新規開設者に対し、その場所は許可にならない可能性があるとさとし押印しなかった。その間に、その近くに自己の姉名義によりプレハブ建築で許可をとり現在まで約半年休業中といわれているもの)市薬としてのこれに対する態度が県薬会長から質問されたため、市薬では直に実情を調査することとなった。

 その他藤田副会長からは、同氏が市内那珂町において内科小児科医院の要望により調剤受入のため開設した支店の経過についても詳細な報告があった。

 福大薬学部長松村久吉薬博 世界研修団参加

 福岡大学薬学部長松村久吉氏は大学協会主催の世界研修団に参加して外遊される。七月二十三日私大協会会館で結団式後、一同会館に一泊二十四日朝九時羽田からエア、フランスで出発、バンコック、カイロ、ローマを経てスイス、ソ連、デンマーク、西ドイツ、オランダ、フランス、イギリス次いでアメリカへ渡り、東部及び西部の有名都市を廻りハワイ経由で八月三十一日羽田に帰着の予定で、各部市の有名大学、日本公館訪門等盛り沢山のスケジュールである。

九州薬事新報 昭和44年(1969) 6月30日号

 福岡県薬 支部連絡協議会

 福岡県薬剤師会は七月二十三日県薬会館で、午前中に理事会を、午後一時から支部連絡協議会を開会、医薬分業に関する世論調査の結果報告、薬剤師研修実施の大綱決定など重要議題につき協議した。

 支部連絡協議会は工藤専務理事が司会し、四島会長のあいさつ後直ちに議事に入った。会長からの健保特例法延長案などの中央情勢報告に次いで

 (1)医薬分業に関する世論調査結果について
工藤専務から集計表について説明報告、この統計結果の活用については更に社会保険委員会で検討することに決定した。(詳細別掲)

 (2)薬剤師研修について
この研修会は例年の薬学講習会とは別個に、特に実地研修に重点を置くもので、各支部長は会員の参加をしようようするとともに申込者を確認したうえ、担当病院とよく打合せを行うよう支部長に要望した。
この催しについて、会長は▽今後も毎年引続き実施したい(薬剤師の再教育の意味で)▽調剤の面から遠ざかっている薬剤師に現状を認識してもらうのが重点▽対外的なPR▽日薬主催の薬学講習会との関連については今後検討を要する▽回を追うて必要な問題、高度なものも逐次取り入れるなどの説明があり、支部長の協力を求めた。

 (3)水害見舞について
山田薬局、久保薬局、柴田薬局、江上薬局支店、古賀薬局、矢野薬局、奥村薬局、中川薬局(筑後地区)の八薬局に対し、県薬並に日薬から被害の状況に応じて見舞することに決定した。

 (4)社会保険について
中村理事から▽六月分調剤請求調査表によれば処方せん発行医師数が減少している。実情がわかれば報告されたい▽保険薬局標識はPRの時期が来たので取付けを急がれたい▽各都市の広報機関「市政だより」等へ吾々の職能PRを積極的に掲載するよう努力されたい▽歯薬合同研修会開催は低調で残念であるが、今後企画する場合は連絡願いたい。

 (5)その他
@日薬分業推進同盟会長に要望している義務教育(教科書)を通じ薬剤師、薬局のPR、地図上の薬局標識の制定の件については、日薬理事会で検討、将来調査、善処することに決定した旨の回答があったことが報告された。

 A臨床薬理学講座について佐々木理事から今年度の講座は前講座の反復であるが、各講座とも二年経過すると、その後新製品の発売、副作用の発現など、大分内容が変っているので、前回の受講者も聴講することがのぞましい、北九州ではコンスタントに八十名位受講しており、非常に有益であることが認識されつつある。

 B東京地方に偽造処方せんによるハイミナール詐取事件が多発しているので注意するよう要望。その他、去る十八日行われた県下十二保険薬局の県保険課による個別指導結果については、いずれ県から文書が出されるが、中村理事から次のような報告があった。

 @発行医側の間違い、不備が多い、吾々が保険課に注意を受けるため、発行医を指導されたいA二枚でも三枚でも毎月請求することB一薬局に薬剤師が何人いても全員保険薬剤師の登録をすることC患者の医薬品乱用をふせぐため、例えば薬品名など印刷した処方せん用紙を使用する場合、必要ない個所は斜線で消すことD個人から法人へ、または法人から個人へなど薬局の形態が変更した場合、それぞれ所定の手続きを怠たらぬこと、後で困った事態が発生することが多い等であった。

 次に支払基金からは月遅れの提出が多く、一年に一回とか二回、甚だしいのは二年まとめて提出するのもあるので、特に注意があった六ヶ月以上遅れて出す場合はその理由書を添付するよう指導されたい。

画像  自ら尖兵となって分業を実施した 医師と薬剤師

 福岡市薬剤師会は三師会活動も活発で、市医師会報に医薬分業の啓蒙記事を掲載するなど劃期的なことを実施しているが、最近、市内に開業している医薬分業について進歩的な考えを持った医師の要請により、その近くに保険調剤を受入れるため、市内西新で開局している藤田胖氏(市薬副会長、県薬社会保険委員長)が支店を開設、自ら尖兵となって医薬分業と取り組んでいる。同氏が全面的に同医院の調剤を受入れてから二ヶ月を経過、順調にすすんでいるが、時局柄参考にされる向きも多いことと思われるので、支店を開設するに至った経緯並に種々その具体的問題について情況を伺った結果、次のようなことを話して頂いた。

 現医療制度下において医薬分業を実施するには、種々問題をかかえており、いろいろ考えさせられる面もあるが、当事者である薬剤師、医師の考え方を覗いてみることにした。

 福岡市那珂川町に医院を開業している桑原廉靖氏は数年前から医薬分業についていろいろと関心が深く、研究もされていたが、昭和四十二年五月、福岡市内科医会報八号に『医薬分業‐K医院の場合』と題して、若し自分の医院が分業形態をとったならどのようなことになるかと、その感想を発表、その後七月にはこれを少し詳細にしたもの『医薬分業はマイナスか‐R内科医院の場合‐』を福岡市医師会江南部の会報に掲載、また『医薬分業について』を南海堂ドラッグジャーナルに、『医薬分業について‐開業医としての私の考え‐』を四十三年に九大医報に(この論文は日本薬剤師雑誌20巻6号に"他山の石"として転載された)発表された。

 たまたまこの論文を読んだ県薬社会保険担当理事中村里実氏は、福岡市にこのような医薬分業に理解ある医師がいることを知り、桑原氏を訪問、種々意見の交換をするとともに一部分業資料などを提供、その後約一年数ヶ月の間種々の情報交換、処方せん発行上の疑義等についても文書の交換が続けられた。

 福岡市薬剤師会社会保険担当の職責にあった藤田氏はこの中村氏の要望もあって四十二年十一月、初めて桑原氏をたずね、同氏の卓越した分業理論並に分業への意欲に感激、薬剤師としては是非ともその要望に応ずる必要を痛感し、その後は市薬剤師会の受入態勢の状況報告や、四十二年十一月自ら調査した長野県上田市の医薬分業実情調査結果の報告などを行い、医薬分業をめぐっての親交が続けられた。

 その後四十三年四月頃、桑原氏から、どうしても自分としては医薬分業を実施したいが近くに受入れ薬局がないので(最も近い薬局との距離二キロ)適当な薬剤師に、近くに開局のあっせんを頼まれた。

 藤田氏は種々奔走したが、医院の周辺は殆んど田畑、工場等であり、商店は全くなく、医薬品の販売面の期待は全く持てない場所であるため、開局の希望者がなく藤田氏の尽力も全く水泡に帰した。

 その後四十三年度の九州山口薬学大会の社会保険部会で「医薬分業の経済性について」何か発表しないかとの県薬の要望により、藤田氏は桑原氏が実際に自分の医院で出したデーターを同氏の了解を得たうえ、これを保険薬局が処方せんの形で受入れた場合の調剤手数料を算出、その結果を発表した。その内容は販売面での収益を考えなくても薬剤師本人が開局した場合は経営が成り立つ結果が出たが、やはり販売面の期待出来ない場所での開局にふみ切る適当な人は見つからなかった。

 その後、年も改まり本年三月その後の桑原氏の気持の推移を知るため同氏を尋ねた藤田氏は、同氏がますます医薬分業に意欲を燃していることを知り、またその理由が一つは自分で実践すること、一つは医師会等で常々発表される同氏の分業理論について医師間に賛否両論があり、その内容については次第に賛成者が増加しつつあるが、理論だけでは納得しない面が出てきているので、自分が実践して理論の正しさを証明したいということであった。

 藤田氏は薬剤師としてこれに応えなければならない責任を痛感、桑原医院の診療内容を検討した上で態度を決めたいと申しいで、三月分の報酬内容を四月五日桑原氏とともに分析、その結果は、昨年藤田氏が九州山口薬学大会で数字を以って発表した内容(若し桑原医院が医薬分業を実施、それを薬局が受入れればこうなるというデーター)と殆んど合致し、前にも述べたように調剤手数料のみで大体経営が成立ち、薬局を維持出来るとの結論に達した。

 その内容は大体処方せんの枚数にして千二百枚〜千三百枚、投薬の剤数にして六千剤〜七千剤で、金額にすれば六千剤で十二万円となる。藤田氏は西新で薬局経営をしているので生活はその方で考えることとし、調剤薬局の方はマイナスにならねばよいとの考え方から同医院の要望に応え、桑原氏の医薬分業理論の実践に手を貸し、薬剤師側としても調剤薬局の資料ともし、会内部の受入態勢の参考に供する含みもあって実施することに両氏間で話がまとまった。幸いに同医院の隣家が空家であったので桑原氏のあっせんによりこれを確保、約一ヵ月を費してこれを保険薬局に改造申請して許可を取り、五月十六日から桑原医院の処方せんを受付けることになった。薬局等の適配条例については、既設薬局へ二キロ、一般販売業は板付ベース前に一店で、距離は五五〇米で全く問題はなかった。

 最初の第一日目に受付けた処方せんが四五枚、その後次第にふえ、五月後半の十四日間は、一日平均五四枚であった。

 以上が大体藤田薬局が那珂支店を開設した経緯であるが、同氏今回の薬局開設の目的の一つである、薬剤師側の受入態勢の参考に供したいとの考え方から、次のようなことをつけ加えて語られた、要旨は次のとおり。

 ▽分業の受入れ問題で保険薬局が一番頭を痛める薬品の備蓄の問題は、医師と薬剤師が具体的に話合う以外にないと思う、私の場合は緊急用の薬品以外は殆んど全部医院のものを引取り、新しい薬品を使用する場合は直ちに通知して貰い、すぐ取揃えることにしている。患者に薬品が無いからと不便を感じさせることを避けるためには医院とよく話合っている。

 ▽那珂支店の人手の問題は住居と一緒であるため、夫婦者に住って貰い(主人は勤め人)夫人の方に店をあづけ、販売面を受持って貰い、調剤のためには調剤専門の管理薬剤師一名を雇傭、藤崎支店の管理薬剤師と私の三名が常時必ず一名は調剤のために待機する態勢をとっている。また私は一日に一回は必ず出勤、調剤や薬品の準備等をする形にしている。

 ▽桑原先生は薬品については全部私の方へまかせるから、品質のよい物、投薬時は患者によく説明、病院とは違った立場でていねいにして欲しいと、つまり薬剤師の職能を生かし、責任をもってやって貰いたいとの要望があった。勿論薬剤師としては調剤技術、患者への説明等は全責任があり当然のことである。

 ▽桑原先生は七、八年前は市医師会理事であったが現在は胃研の専務理事であり、医師会病院が出来る時はその検査室の設備の企画、整備等をされたいと聞いている。良心的な、研修心の高い熱心な先生であるから、医薬分業本来の理念に従ってやっておられるので、こちらも責任が重いわけです

 ▽現在先生と私が一番努力していることは、先生は医師会の中で医薬分業に理解ある医師に分業を啓蒙し、私は薬剤師の側で受入を真剣に考えて理解し努力して貰う人を一人でも多くしたいと考えています。
必ず近い将来、処方せんを出す医師がふえることを先生も私も期待しています。そんな事態が出た時、物心ともに期待に応じられる態勢を平素から考えていて貰いたいことです、現にそのような医師が二、三ないでもない。意思表示があった場合は近くの保険薬局に話合いをするよう斡旋する心がまえでいます。

 ▽医薬分業は現時点では診療所のすぐ近くにあることが一番望ましい。次に薬品については充分話合う心がまえを持ち、準備をととのえる意欲がないと出来ない。分業が全面的に進展することはまだ期待出来ないが、現時点では個々のケースから始めなければ発展しないと思う。

 ▽医師は分業を実施することは、自分が全く薬品を持たないことだという先入観がある。何かキッカケを作り話合えば可能性もあると思う、キッカケの材料に私は「処方せん発行による節税」を調べてみた(別掲)

 ▽那珂支店は七坪で三坪の調剤室、延べ一坪の待合所、三坪を販売面に使い、これの主力は乳製品、離乳食、衛生材料、殺虫剤類等。(これらを備蓄しているのは販売している店舗が近くにないため)で治療薬は殆んどない。

 若し近くの医院が処方せんを出す場合、保険薬局の整備は、吊りビラを除き、雑貨類をとりのぞき、患者五、六名がゆっくり待てる待合設備をするだけでいいと思う。月に一医院からの処方せんで十二万位の調剤収入があれば(安売りしてこれだけの利益をあげようとすれば、人件費等も考えれば、相当売上げねばならない)何割引きとか、何掛けでないと売れないとか、考える必要もなく、医療担当者として、自分が勉強した技術に対して報酬を貰うといった気持でやれるということです。

 ▽分業が進展してくれば大体自分の営業方針を決める必要があると思う、医療担当を主力にしたい人は医師との接触のための知識、資料等をととのえ、最近の繁用薬品位は知っておく必要がある。そのためにも本年度の県衛生部・県薬共催の保険薬剤師研修会等は時宜を得たものと思う

 ▽収入の面は私の場合十分成り立つと思っています。調剤の場合は薬価に関係なく調剤手数料だけでまかなう信念でなければなりません。薬価で利益があれば医師の方も離しませんし、基本は調剤料で、薬価で儲けがあれば儲けものだ位に考えて置くべきです。(薬価基準は下る傾向にあるわけですから)

 ▽備蓄薬品については大病院の医局と薬局でも話合って新しい薬品なども揃えるわけですから、話合わな分業など現時点ではあり得ないとさえ思っています。しかも非常に具体的な話合いより外にないということです。薬品の数も私の所では百種位は置いています。一人の医師と一人の薬剤師との話合いですから三百も五百も使いませんよ、かりに三ヶ所の医院のものを受入れるにしても百五十か二百もあればいいと思います。只その場合、薬剤師は一人では無理でしょう、大体薬剤師一人でせいぜい一日処方せんは五十〜六十枚位が能力です、患者をそんなに長時間は待たせせんから。

 ▽理論家は私の今回の那珂支店のような受入れについて「医師にれい属したもの」だと批判しますが……理論だけでは医薬分業は仲々すすみません。れい属と片付けてしまっては保険薬剤師の存在の意義はない。出発点は兎も角、その後の在り方がれい属的でなければいいわけで、私の所では薬品については種々の調査とか相談を受けています。それに対しこちらも責任をもち、勉強もしないと応じられません。そしてお互に向上すれば本来の目的が達しられると私は思います。私達の場合はお互に信頼し合った本当の協業だと思っています

 次の文書は桑原医院が医薬分業にふみきった当時患者待合室に掲示したもの

 『お知らせ』

 ▽五月十五日(分業開始にあたり)
当院では一部の薬を除き医薬分業を実施することに致しました。こちらで発行する処方せんによって外の薬局から薬をもらっていただくわけです。保険薬局であればどこでもよいわけですが、幸に隣に立派な調剤専門の薬局ができましたのでご利用下さい。ご不審のところはどうぞ遠慮なく従業員におたずね下さい。

 ▽六月十日(一月の経験をもとに)患者さんへ!! なぜ「医薬分業」をするのか!!
※「薬の仕入や管理」には非常に苦労いたします。期限が切れて捨てられる薬も少くありません。そうした無駄と精力の労費をなくして、それを診療の方に役立てることが出来ればと思いました。

 ※ご承知のように「看護婦の不足」はひどいものです。幸に私のところは恵まれていますが、いつ手不足になるかわかりません。分業にしておけば皆様にそう不自由をかけずにすむと思います。医院の合理化にならなければなにも無理をして分業にすることはなかったのです、薬を出しませんので実のところかなりの減収になります、しかしどうしても分業にせねばならぬと思い決めましたのは次のような理由にもよります

 処方せんをお渡ししますので「薬の内容は公開」となります。桑原医院はこういう薬を処方しているー誰に見られても顔を赤くしないですむ薬―を書かねばなりません。それが私の勉強にもなります

 ※薬店に行きますと話を聞いただけで簡単に薬を売ってくれます。胃がんかも知れないのにニンニクの薬を、狭心症かもしれないのに神経痛の薬を買わされることがあります。売薬をのんで命を落としたり、片わの児を生んだりしています。「病気の診断は医師が、薬の調剤は薬剤師が受持つ!」これが医療の本当の姿です

 ※前に述べたように薬店は医師の免許なしに診断をし、治療をしているわけで、その結果がどうなるかは想像できましょう。処方せんという糸によって正しく薬剤師と医師が手を結ぶーそのことによって皆様の健康が守られるー「医薬分業の大きな利点」だと思うのです。

 ※分業になったために中には全体の治療費が少し高くなる場合もありましょう。(中には安い時もあります)医院と薬局と二度の手間が要ります。しかし、つまりは医薬分業は「患者さんのためでもある」と信じて私のところでは実行してみました。

 ◆次は分業を実施した桑原氏が福岡市医師会江南部の会報六月号に掲載したもの

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 わたくしの医薬分業 桑原廉靖

 五月十六日から医薬分業をはじめた。この日に発行した処方せんは四十五枚でその数はしだいに増している。かねてから、薬局が近くにあるのなら分業をしたいと考えていたところ、Fという薬剤師さんが来て、隣に薬局をひらいてくれたので早速、実施にふみきったのである。

 薬局が完備するまでちょうど一ヶ月かかったがその間、思いなやむことがあった。分業することによって患者に不安や不満を抱かせるのではないかという危惧であった。

 いまのところ、あからさまに処方せんを拒む人はいない。薬局がほんの隣にあるからでもあろう。夜間、深夜は当分、医院備えつけの薬を与えてもいるから。

 結核と、てんかんには処方せんを出さないことにしている。分業をはじめる前、何人かの患者に質問したが返ってくる答えのほとんど全てが、先生の処方どうりの薬を果して薬局は渡してくれるだろうかということであった。薬局不信感が以外に根強いのにおどろいた。私は待合室に次のような掲示をして、その不安をすこしでも除こうと努めた。

 "医薬分業を実施することと致しました。当院で発行する処方せんによって、外の薬局から薬をもらっていただくわけです。保険薬局であればどこでもよいのですが、幸にとなりに立派な薬局ができましたのでご利用下さい。なおご不審のところは遠慮なく従業員におたずね願います。

 はじめの日、いつも先生のところに払っている金より高かったという苦情が来た。しらべてみたら計算のミスとわかった。ついでにその薬をみていた看護婦が色が違っていますという。薬局に問い正したところ、錠とカプセルとのちがいで内容そのものは同一であり値段もいっしょであった。しかし、患者に不審をいだかせては困るので、商品名をはっきり書いて、その通りに渡してもらうようにした。

 ついでに患者の負担(社保の家族や国保など)は分業にしても増減はあまりないようである。薬局では、薬価基準によって、使用薬品の価格を計算する。請求は五円刻みになっている。たとえば、四一円の薬ならば四五円で基金乃至患者に請求する。これに一剤二〇円あての調剤手数料が加わるのである。(頓服の場合は調剤手数料がちがう。)

 市中の薬局のなかには感心できないものがあるらしい。要指示薬はザル法で野放しの状態だし、危険なステロイド類を遠慮なく売り渡しているところさえある。ひところペニシリンの注射がはやったのは周知のとおりであるが、近ごろも注射の噂をきいた。

 さる日、久留米の商店街の薬局でみかけたところであるが、店中にヘチマの棚のごとく、たくさんの広告ビラが垂れさがっている一枚に"胃弱の方はご相談下さい"とあった。おそらくシロンか、キャベジンかを売りつけるのであろうが、素人のいわゆる胃弱の中には、潰瘍があるかもしれぬ胃癌のはじめかも知れない。医師でも診断を誤るというのを、薬剤師は、はて、いかようにして判断を下し、薬を与えるというのであろうか。この店頭のビラ(俗にふんどしビラと言うのだそうな。そう言えば越中褌そっくり)に、この国の寒々とした医療のすがた、行政指導の怠慢をまざまざと見る思いがした。

 F薬局は、私の医薬分業論に共鳴して一大決心のもとに借家までして隣家に薬局をひらいたのである。
ふんどしビラをはじめとして広告らしいものは何もない。だが、棚の一隅に胃腸薬や風邪薬などの売薬類が陳列されていた。乳製品、離乳食品、衛生綿や家庭用駆虫剤などの商品販売はよいとして、そしてまた近所にそのようなものを売る店がない当地では、一般に歓迎されるものと思うのだが売薬の陳列は私には気に入らぬのである。理想を申せばF薬局は、大学病院の薬局の姿であってもらいたいのである。

 薬を売ってもうけるという"薬剤師まがいの医者"をやめようと一大決心をした私だ。病状を聞いて薬を渡すという"医者まがいの薬剤師"をやめてもらわねば、私の医薬分業論は泣くのである。"それぞれのプロフェッションに徹する"ことこそが、医薬分業の理念ではないのか。分業は、薬剤師救済のためでもない医院合理化のエゴイズムでもない。ましてや、保険経済の赤字解消策でもないのである。それは病める医療社会を浄化するためのもの。従って医者らしからざる医者、薬剤師らしからざる薬剤師によって毒されている患者を救済することに目標をおかずして何の医薬分業であろうか。

 さすがにF薬剤師は薬剤師会の最高幹部であった。直ちに売薬のたぐいは店頭から姿を消したのである。
"薬はわたしたちの恋人だったのに"がらんとなった調剤室での看護婦のなげきである。婦長はいう。保険本人の薬価負担の未収がなくなりますね。それはよいが"先生がお友達や親せきの方から薬代を貰らいなさらぬ。それも出来なくなりますね"とついでに妙なことを言う。

 どうやら、みんな私の横紙破りに同調してきたようである。患者がへることを桑原医院の評判がわるくなることをおそれて、分業に反対しつづけた家妻も、亭主関白の強情には、さじをなげてしまって、今はもう何も言わぬが、月々の銀行入金の激減には目をまわすだろう。なにしろ、半分にへるのだから。(本年三月の投薬収入の割合は53%)しかし、それも二ヶ月先のことだ。今更わめいても、はじまるまい。(実収入が半減する意味ではない。念のため。)

 保険請求の事務をはじめる月末が待ち遠い。もはや備考欄にところせましと処方内容を書く必要はないのだから。ほかの医師諸公が、ここのところに憂身をやつす姿を想像すると、お気の毒さまと申しあげたいほどだ。請求明細書には処方せん料という項目がない。ただいま、ゴム印を注文していることろである。


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 ◇真面目な放談 来たるべき開局薬剤師の姿◇

 福岡県薬剤師会DI委員会が開会され、協議が終了してから残った一部の委員で雑談に花が咲き、時局柄「コンピューターと薬剤師」「医薬分業」「その後の県病薬のDI活動」などが話題となった。現在第一線で活躍している働き盛りの中堅薬剤師の方達であるので、ここに採りあげてみることにした。

 発言者はつぎのとおり
柴田伊津郎氏(開局、DI委員会委員長)
梅津剛吉氏(九大病院薬剤部)
清藤英一氏(飯塚病院薬局)
荒巻善之助氏(開局)

 ◆コンピューターと薬剤師

 ○最近大阪病薬が電算機導入促進の講習会を開いたようですが、導入する機運があるのですか。

U 薬品の管理とか、問題はあるが薬品の情報など現在考えられているが、もり込むことが多いので、例えばAという薬品も各国で名前が違うし、それだけ膨大な容量のものがあるかどうか…コラムの容量が問題でまだ初歩的段階です。
K コンピューターの発達と薬剤師の将来ということで、薬剤師は失われた職業と云われたが……。
A たしかに私は失われた職業だと思いますね(笑)。
U 薬剤師の職業が失われる前に失われる職業は沢山ありますよ。例えば銀行などいらなくなる。あれはデーターマシンがあればいいし、医師の職業なども非常に優れた医師がいればいいわけで、極端に云えばコンピューターですむ。
A ただサービス業は絶対人間が必要なわけで、例えば一本のコーラー飲むのなら街角で自動販売機で飲めるわけだ。それで満足しているかというと喫茶店で倍位高いにもかかわらず飲むこともある。これが酒の場合はもっとはなはだしく一本千円のビールでも平気で飲む。物さえ出てくればいいのかというとそうでない。その差は何かというとサービスに払っているわけで、薬剤師がそれだけのサービスが出来れば問題ないわけですが、医療機関の中での薬局を考えると医師のするサービスと薬剤師のするサービスは画然たる差があるということで、そこが問題だと思う。将来医薬品が先鋭化してサービス面が拡大されてくれば別の面でのサービスがふえてくると思う。
S 医者のサービスとは?。
A まずいろんな段階があるが、ホームドクターという制度も(日本でも出てくると思う)コンピューター一つ置いて、悪い所のボタンをおせば、何病だと回答が出ても、はたして満足するかどうか、人間的な手を差しのべるものが必要だと思う。或はむつかしい病気の時コンピューターで診断されて、こいつはどうせ助からぬから放っておけということで満足するかどうか。やはり直らぬ病気でも注射の一本も打ってくれる医者が必要なわけで、薬剤師も現状はそれに似たサービスをしているが、医療制度が確立された状態ではそういうサービスはおそらく残されないだろうと思う。
S ところが医師が近頃ではそんなサービスをしない。
A だから薬剤師がそれに似たことをして何とかやっている現状ですね。しかし建前からいけば医師が最終的にはやらねばいけないし、薬剤師は薬品の供給が仕事ですから本質的にサービスの意味が違うと思う。
S 薬の供給だけでなくやはりホームドクター的な面が相当あると思う。
A 現状はありますが、分業ということはそれをハッキリさせることではないかと思います。
S 分業になっても僕はあると思う。分業になってそれがないならいわゆるコンピューターでいいということになる。
U ホームドクターよりは尿をとり血液をとり心音をとり、それをアナライターにかけ、それを電子計算機とむすぶ方が余程正確なデーターが出る。
A 患者の方がそこまで医療について割り切った考えになればですね。
U なると思います、進歩するとすれば……。
A 患者は又別ですからね。頭で理解してもはたしてどうか、一寸問題がありますね。
K 要するにコンピューターにはさせることと、させてはいけないことがあると思います。人間が道具として使えば発展すると思います。

 ◆医薬分業について

K 医薬分業に関連して「調剤センター」「備蓄センター」最近は大阪や長野県で「指定薬局」方式など検討されていますが、開局者は受入れ態勢をどう考えておられるのですかセンター方式にしないとどういう方法になりますか。
A 現状の薬局の分布も問題ですが、備蓄センターという恰好は経済ルールに乗っていないと思う。医療自体経済的なものでないから医療制度自体を経済的に合わせること自体に無理がある。一方薬品つまり物が動く現象自体は経済的な活動の中に含めて考えなければならない。そういう両面をもっているから備蓄センターという恰好で経済的な条件を全く無視したとはいわないまでも相当無理があることは事実です。薬品の配送、それに要する人件費など考えると……只センター的な窓口から小分けして貰うような形でなく、一つの経済単位で成り立つような恰好のものでないと将来的にはむつかしいと思います。だから分業がなされる過程では一軒か数軒の医院と提携して限定した薬品ですすめる方法と一般的に広く何でも受入れる方法と二つあると思う。実際問題としては薬品を全部揃えるのは不可能だし、九大で使用する医薬品は繁用ではなく一応揃えておく必要のあるものは?。
U 一応医薬品集に出ているのが千二百位です、繁用されるのは(一日に動くのは)二十が三十種位です。
A 九大でも実際は話し合ってから使い始めるわけでしょう。
U そうです。
K 医薬品が無限にあってそこから分業が始まるのは無理でないか。薬価基準に収載されている医薬品を整理、或る程度限定して始めるべきでしょうね。どこかの調査では一人の医師が処方せんに書く薬品の数は大体きまっていて八〇位、よく勉強する医師で一〇〇位だそうだから或程度は限定されると思うが……。
U 現在の開業医は小メーカーのものを使い馴れており、一方大病院は名前の通ったものを使うからやっぱり膨大になる。
K 現在は本当の医療だけでなく他の要素が入っているから医薬品に対する価値判断がなされず困乱しているが、処方が公開されれば本当の価値判断がされるでしょう。
S 将来はそうでも分業にとりつく時点が問題です。どういう方法で分業に入ったらいいかどう思いますか。
A いろいろ問題はあるが理想的なことを云ったら何も出来ない。問題を抱えた状態で出発しなければしようがない。そう考えたうえで一番可能性のある方法は藤田氏のケースで、分業の一つの方向を示唆していると思います。方法としては突破口というか、ウィークポイントであろうと思います。個人でやるのは冒険ですから(向うの意志次第ではどうひっくりかえるかわからない)会営でならいいが、一本だちは無理だと思う。
S ところが地区で共同出資で作った薬局をそのような恰好にしたらという話が出たが、自分がやるという人もいますからね。仲々むつかしい面がある。
A 今の分業は技術分業でなく経済分業だと思う。現況ですすめようとすれば経済ベースでなければならないと思う。技術的なベースの分業は世の中がも少し進歩するまで待たねばならないと思う。現実に薬品が先鋭化或は多様化して専門家でなければ危険だといった時点が必ず来ると思うが、その時に薬剤師は改めて脚光をあびると思います。現在の薬剤師には技能があってもそれを社会的に評価される機構がない。簡単にいえば間に合っているということです。
U 桑原医師は薬品の品質管理は自分の所では完全に出来ないと云っています。日本ではあまり例がないが外国では医薬品で事故を起した例が多い。その方面にも可能性があるし、も一つは病院の薬剤部がそうですが、分解が早いもの、非常に不安定な薬品が使われる場合病院の薬局か開局薬局かで造り患者に渡すより外はない場合がある。
A そういうものは現状ではふえていますか。
U ふえています。病院の薬局では特殊製剤といって製造して使っています、何時も規格品で間に合わせる不勉強な医師の場合は出ませんが、勉強する医師の場合吾々の方も相当の知識を吸収しておかねばなりません。
K 現在の保険制度ではそんな製剤の技術は認めていない。技能の発展をこばんでいる面もあるわけで、自分が勉強して考え出すような治療にしても剤形にしても儲からないように出来ています。だから今の医療制度は根本的に変えねばいかんと思います。
U 調剤とはやっぱり技術なのですが、アッピールしない。計量調剤が余りに普及した悪影響ですね。薬剤師自体がそれにだまされて調剤は数えるだけだと自分で云う人もある位です。
A その問題は大勢としてはやはり計数調剤が主流で治療機関と研究機関は別個に考えるべきで、例外的に報酬も別個につくるべきだと思います。
U それとも一つ開局薬局の専門技術というのは大衆薬の管理ですね。病薬で錠剤の崩壊度の試験をしたのですが名の通ったメーカーのものでも解けないやつがあります。分業とは別ですが大衆薬の管理とか監視とか開局薬局の重要な責務と思います。 A だが現在の開局薬剤師はもっと異質なことをしているのですよ。あなた方は特殊な存在でそれを一般のレベルと考えて貰っては困るわけです。特にDIなどやっていることは一種の研究機関とみるべきですよ。
K 分業になれば、ホームドクターのようにホーム薬剤師というものも生れると思います。いつも処方せんを持って行く薬局を決める。そこではその患者の生活まで知っていて酒のみとか、ピリン疹が出るとかチェックすることが出来る。
A そうなれば完全な医薬分業ですね。
K 根本はどうすれば処方せんが出るかでしょう。
S 処方せんが出てそれを完全にこなし得るかということです。
K 論議でなく医師会の圧力でしょう。反面分業が動き出したから一種のアガキでしょう。私は医療は営利としてでなく国家管理か、兎に角管理されるべきだと思います。
A 現在の社会情勢で国家管理は無理でしょうが、医療制度を変革してゆくエネルギーは消費者(保険団体等)から出ているし、その担い手が出来ればいづれ分業にはなります。
U 今の学生とか、卒業したばかりの医師はわりに進歩的な考えを持っています。また教育がアメリカ式でベッドサイドの教育が中心だから薬品の知識は今の医師程持っていない。将来多分自分ではやれなくなるでしょう。
K 分業になった場合一番困るのは薬品の数の問題だけですか、そのほかに差当って困る問題は?。
A 薬品が採算ベースに乗らないことと人件費で最終的には報酬の問題です。だから一応最低必要な枚数がありますね。だが一ぺんに医師が処方を出すことは考えられないから出発点は一本立ちがむつかしいから会営のボランタリー的な調剤薬局が必要と思います。医療とはパブリックな性質のものだから……藤田さんのようなケースを会でやればいいと思います。
K 現在医療体系が整備されていない。これが整備されると開業医はホームドクター式になると思います。
A それがどう落着くかで分業も決まってきますがそしてスッキリもしますが出発点はやはり藤田式ですね。それよりほかにない。しかし相当進んで来ればまた企業的なものが出てくるでしょうね。そうすると調剤料のディスカウントも考えられる。
K そうするとまた弊害が出る。だから医療を流通で考えてはいかんと思うのです。
S 何等かの規制は起って来ると思います。
U ここ十年は苦難の道ですね。

 ◆DI活動その後の展望

K 福岡県の病薬のDI活動は我田引水になりますが日本では嚆矢です。その意味でいろいろ他でやっていないことをやっています。現在は二つの方向があります。世界的な規模で推進しようとする方向(日病薬が世話をして世界的発展をするための組織拡大を図る計画)と、も一つは組織は末端まで出来ているが末端の診療所まで動員すること、つまり末端の地固めをしようという動きです。世界的拡大と末端をキメ細く動員する方向に進んでいます。そのため筑豊地区では病院勤務の若い層と開局の若い層が現在は別々に研鑚していますがいずれは合同の場にしたいと考えています。