通 史 昭和42年(1967) 日薬−県薬−市薬
九州薬事新報 昭和42年(1967) 2月10日号

 公取の再販手直し構想について 薬商組九州ブロック代表者会議

 医薬品小売商業組合九州ブロック代表者会では、昨年十二月末より「公取の再販手直しの構想」をめぐり、日薬、全商連、製薬連内の「再販問題懇談会」など再販防衛に積極的に動き出したのを機に、情報の交換意見の統一、又これに対する対策などを協議するため、二月三日一時半より、福岡県薬剤師会館において、荒川全国商組連理事長をも招いて代表者会議を開催した。

 当日は全商連の荒川理事長白木副理事長、同隈監事の外、川内一男、古賀健次郎(佐賀県)堀正夫(長崎県)上野浩(熊本県)白男川政次郎(鹿児島県)鶴田、斉田、西森(福岡県)並に四島福岡県薬会長(日薬理事の立場で)出席、その他メーカーは武田、三共、塩野義、エーザイ、中外、田辺、第一、藤沢、大日本、小野、興和新薬、中滝、わかもと、久光の十四社、卸は大黒、川口屋、鶴原、九州薬品及び鹿児島より梁井薬品社長が出席した。

 会議は先ず地元の鶴田理事長があいさつ後、議長となり、荒川全商連理事長より再販をめぐる中央情勢並に再販についての公取見解に対する全国商組連の意見について説明、次のように述べた。再販問題も二月が山場で五月頃の国家に提出されるのではないかと考えられる、現状では公取は医薬品の特殊性は全々認めておらず、分類も雑貨の中に入れている。われわれとしては世論に従った妥当な再販になることを願って努力しているわけで、今後、中小企業庁や通産省とも話合って推進して行きたい。

 次に四島会長は日薬の立場から、その考え方を、日薬は従来経済問題にはタッチしない建前であったが、今回の公取の見解では、医薬品の持つ特殊性が全く無視され、メーカーが再販の意欲を無くする程のもので、折角再販のため或る程度保たれている業界の安定がくずれ去り、野放しになることは業界に取り重大な問題であるとして、内輪の個々の争いは当分棚上げとし、業界の英智を集め総力をあげて一丸となって協力に対処するとの表現であった。と述べ、

 大黒社長は卸の立場から「非常に重大な問題で卸業界としては(内部的には再販に無関係の業者もあるが)メーカー等の意見も聞き、卸の立場でまとめる努力をしている」と述べ又単に物価をおさえるだけが消費者のためでなく、亦単に物品ということだけで処理されても困るなど、別の観点から考え直すべきではないかとも述べ、それより引続き次のような質疑応答があった。(▽問、○答)

 ▽独禁法(一般法)の中に大体特殊なもの(医薬品)を折り込むことが可能であるかどうか?、それよりは単独立法などによるか根本的なことを考えられたい。
 ○再販の中にわれわれの要望(特殊性)を折り込むことが不可能であることになれば、始めて単独にということになろう、そのためにも色々と要請すべきではあるまいか。
 ▽物懇の答申の審議過程に出た小数意見を反映させるような対策を……。
 ○戦術の面では色々と具体的に検討している。
 ▽他業種との話合いはやっているか。
 ○話合はやるが、先ず内部の意見をまとめることが先決であると思う。
 ▽小売団体協議会が窓口であって、種々な少数意見は取り上げぬよう主張すべきではないか、完全な意見統一はむつかしいと思うが。
 ○受け身の方は少数意見でも利用しているのであって、やりにくい面はあるが大多数の意見を採るべきである。
 ▽地方の実践的運動については日薬や全商連から具体的に指示して貰いたい
 ○各議員などには薬業界の要望に応え、協力して頂きたいという運動は直にとりかかって貰いたい。
 などであったが、結局、公取の見解に対する全商連の意見の内容については、本会としては思想は統一されたものとして強力に推進して貰うこととし、他に意見要望などある場合は直接全商連へ提出することを決め全面的に全商連を支持することとなった。

 なお、再販についての公取見解に対する全国商組連合会の意見は、大体次のようなものである。

 (1)再販実施に当って、再販契約違反に対して規定があっても従来その規定が実施されない実状であるが、これを厳守するような規定を設けられたい。

 (2)特定種類の商品の再販契約に対する適用除外については@一切の表示を除去した時は薬事法違反でありAその商品の販売を止める場合も医薬品の場合は不適当である。B品質低下が明らかなものは医薬品の場合は薬事法で販売が禁止されている。C公の入札の場合も天災地変以外は再販契約の適用除外とすべきでないD金券等の添付についても射幸的販売は医薬品の不必要な乱用を助長することで適当でない。

 (3)再販指定等の公聴会についてはむしろ再販審議会の如きもので審査をすべきである。

 4)再販の登録の必要事項の内、商品の最高価格の明示義務については、過去の医薬品に対する不信と乱用の結果を招いたことを考え設けるべきでない。

 (5)十四団体に対する特例@A項共絶対に反対すべきである。

 (6)おとり販売に対する対抗措置について、再販業者が購入価格以下で販売している時とあるのは再販売価格以下で販売している時と改めるべきである。

 日本薬学会九州支部 第51回例会 第12回総会

 日本薬学会九州支部第51回例会並に第12回総会が、42年2月18日(土)午後1時半から九州大学薬学部で開会される。演題次の通り。

 (1)液状有機化合物の放射線化学(第8報)、γ線フィールド内における電気伝導機構(熊大薬)○北原一太。
 (2)デヒドロ酢酸の反応の速度論的研究、2,6‐bis(phenethylamino)‐2,5‐eptadiene‐4‐oneの4‐Lutidoneへの変化(九大薬)後藤茂○河野彬、井口定男。
 (3)チオバルビッレート類の水溶液中における分解に関する研究(第2報)=(九大麻酔科)○後藤英子、古川哲二。
 (4)アルキルアリルエーテルの代謝(第6報)=(九大薬)○辻宏、後藤信子、吉村英敏、塚元久雄。
 (5)ヒト唾液蛋白質の生化学的研究(第4報)=ゲル漏過法によるSaliva‐parotin‐Aの分面(熊大薬)久保田幸穂、植木寛、○平川博道、厨素子、御供田玲子、崎山紘子、田部和子、中山和子、宮田京子。
 (6)牽牛子樹脂配糖体ファルビチンの研究T、"ファルビチン酸"について=(九大薬)川崎敏男○岡部光。 (7)2‐Methylthioalkyl
S‐methylxanthateのdithiolcarbonateへの熱転(九大薬)田口胤三、○森昌斗、田畑耕一。  (8)芳香族N‐オキシドのアシル附加体とオキシインドール類との反応(九大薬)浜名政和、○熊懐稜丸。
 ▽特別講演=「農学と薬学」=九大教授福島栄二氏なお、九州支部第52回例会は5月開催予定、後日通知。

 管理薬剤師会 運営懇談会

 福岡市管理薬剤師会では昨年十一月、会長を改選し、その後活発に活動しているが、去月十四日正午より市内店屋町の文六で懇親会を開催、約二十名出席して、意見の交換、今後の会運営に対する希望などを話し合い、県当局の立場から田中美代氏、県薬の立場から竹内担当理事からそれぞれ今後の問題について種々有益な話があった。

 なお、県薬としても薬剤師の地位向上の一環として、同会の事業を援助するため、この程左記(要旨)のような文書を関係当局並びに薬大などに送付した。

 ◆管理薬剤師会に 協力方お願い

 管理薬剤師会は昭和39年各位のご後援により、薬局・薬店に勤務する薬剤師が自主的に設立したものでありますが、漸く最近に至って会の組織も確立し、その運営も一応軌道にのり、専門事項の研修に、地位の確立と向上に徐々ではあるが、みるべき成果を期待しうる状況に進んで参りました。薬局・薬店に勤務する薬剤師並に勤務を希望する薬剤師のために管理薬剤師会が存在することを認識していただき、研修に、身上相談に、転職に、就職のご相談にご活用いただくよう関係者に周知方お願いいたします。

画像  憂慮される公取の再販手直し構想 再販問題シリーズ 隈治人

 ややしばらくの間一服の状態にあった再販の問題が昨年の暮れ、それもだいぶ年も押しつまった頃から、再び俄かに動き出して来た。私の知るところでは、旧臘、それも下旬になって公取が再販手直しの構想について整理の作業にとりかかり、そういう情報をとらえた全商連の理事長荒川慶次郎氏が上京、十二月二十六日に坂元薬務局長と会って状況打診に手をつけたのに始まり、翌十二月二十七日には製企会、直販協、家庭薬協会の三団体から関係三十数社が出て再販懇談会をひらき、その席上で幹事十六社の選出を終っている。

 翌二十八日には製企会某大手メーカーの本社で、全商連荒川理事長、沖勘六副理事長、立木専務理事の三役が同メーカーの担当役員S氏らと会談した。年明けて一月五日には、早々に全国小売薬業懇話会(日薬全商連、各協組連、薬種商協会を包括)の正副議長会がひらかれ、ついで十二日メーカー側の前記再販懇談会幹事十六社が公取、取引部の長谷川課長と会って「再販のゆくえ」について話を聞いている。

 一月十七日には武田薬品の白石、三共の阿部、大正製薬の小野各氏が公取の状勢についてさらに事情聴取に赴き、一月二十日には全商連の緊急理事会が召集された。以上のほかすでに業界紙も報道しているとおり、日薬理事会が旧臘再販対策委員を選出して、問題の研究と対策づくりに積極的な姿勢を示し全国卸連でも真剣にこの問題に対処することを申し合わせるなど、再販を守る態勢と動きはなかなかに意欲的且活?であると判断される。

 以上の動きのなかで特に注目されることの一つは、製薬団体のなかで一昨年の特指以来こと毎に相対立し相反目しあって来た武田、三共中心の製企会と大正、SS中心の直販協とが家庭薬協会を加えて一堂に会しここに始めての共同態勢の目標をしっかりと把握し且つ確認しあったことであろう。私の知る限り、このような連合提携は全く新しい局面であり、これのみによっても再販防衛の問題が関係会社にとって如何に重要且つ切実であるかの証左ともなろう。

 またもう一つは高野一夫博士退陣後、薬業経済問題について何か怖いものにでも触れるかのようなグズついた生煮えの状況にあった日薬が、すっきりした態度で再販対策の実行の態勢を逸早く打ち出して来たことである。このことは全く当然すぎるほど当然のことではあるが、いままでの武田孝三郎の日薬は「アツモノに懲りてナマスを吹く」にも似たモタツキぶりを見せていて、私をしていわしめれば経済問題に関する限り、日薬ではなくて「二階からの」(目薬)のような感じさえあったから、今回の踏み切りはすこぶる新鮮な感じを以って迎えられた筈と思われる。

 さて問題である公取の「再販手直し構想」なるものであるが、このことは昨年末公取が再販については独立立法によるとの相談をしたという情報からはじまっている。その内容についてくわしく知る人は現在のところ非常に少数のようであるが、それでももう噂はだいぶ流されつつあるものと思う。その流されつつあると思われる情報内容については著しく業界に手きびしく、そのために大勢が悲観論に傾むきすぎるのではないかという心配が私には大いにある。むろん現時点の情報内容は確かにキビしい内容のものであることに間違いはない。しかし、そのことにかかわらず、先ず次の公取委、取引部の長谷川課長の談話(メーカーの再販懇談会に対して行なわれたと伝えられる)をじっくりとかみしめていただく必要があるように思う。長谷川課長は次のようにいっている。

 (1)独禁法のなかで再販の改正をするか、或いは再販法として単独立法のなかで所要の改正を行うのか、まだ具体的に固まったというわけではない。
 (2)医薬品という独自の問題については、いまだにそれほど深く掘りさげているわけではない。
 (3)二月国会への提出はムリである。
 (4)四月までに原案をつくり五月国会の審議にかけたいと考えている。

 以上の長谷川発言の骨子をよく頭に入れていただいた上で、以下私の知る限りにおいて(巷間取沙汰されている)「再販手直しの公取構想」なるものについて要点を述べたいと思う。念を押しておくが「手直し構想」はいまの処非公開のものであり、公取の粗案のそのまた粗案といったものと考えてもらえば好都合であり、誤りもすくないと考えられる。これを項目的に大別すると次のようになる。

 1)再販売価格維持の定義、
 (2)禁止行為(再販原則禁止)の規定。
 (3)おとり廉売に対する対抗措置の規定。
 (4)特定種類の商品の再販契約に対する適用除外の規定((2)の原則禁止に対する適用除外の意であるが、さらにこの項のなかにも「再販を守らなくてもよい」という五項目の規定が加えられている)
 (5)再販商品の種類指定とその取消に関する要件方法などの規定。
 (6)再販商品の登録に関する規定(内容の公開をふくむ)
 (7)再販類似行為の届出の義務と登録に関する規定。
 (8)いわゆる十四団体に対する特例の規定。

 まず(1)の再販の定義では、再販を販売業者に対する「不当」な拘束としてでなく再販による実質的な競争制限が消費者に対する影響に着目して定義すると伝えられる。このことは一見平板であり、また当然でもあるかのようであるが、再販の価格拘束を弱める趣意をつらぬこうとするものであって、根本的には再販法の具体的内容の全般に決定的な意味をもつものであることに注目すべきであると私は考える。

 (2)の禁止行為の項では「再販の原則禁止」を明記する考えと伝えられる。これはダイエーなどのスーパーグループ、日本生活協同組合連合会及東京の浜田、秋葉薬業サロン(これも零細業という仮面をかぶったスーパーグループの一味)ら再販破壊主義勢力が昨年来繰り返し主張し且つ陳情しつづけて来た所論の実現と見なされるが、そのほかに「卸や小売はメーカーの意に反して再販をしてはいけない。」「メーカーなどの再販を維持することを卸や小売が協定してはならない。この場合協同組合などの適用除外も認めない。」「卸や小売がメーカー等に再販実施を要求してはならない。また再販の実施に関与してはならない。」などの禁止規定が加えられるといわれる。これは「共同行為」の禁止であるが、このことは安定協の基盤をますます危うくし、またMSCなどの組織に一つの障害を設定する方向であると見られる。この場合業界の自主規制に大きなヒビを入れる官僚統制のイヤな臭いもする。薬業界としては公取の行き過ぎを厳に戒しめる方向に動く必要があると私は思うのであるが、業界の首脳はどう動くか。

 (3)のおとり廉売に対する対抗措置の規定については題目だけを見るなら唯一の救いのように考える人もあるかも知れないが、よろこぶのは大いに早すぎる。それは再販メーカーが違法でなくて商品の供給を制限または拒絶し得る場合として次の各項を規定するわけであるが、@その商品が著作物または商標品であること、A顧客を誘引するため仕入れ価格以下で販売していると思われる十分な理由があること、B当該商品の販売が前記、(2)の禁止行為の該当していないこと‐の三項目となっている。これが実力行使の強行廉売に対していかほどの効果を発揮するかは大いに疑問とせねばならないし、一説には「仕入れ価格プラス必要経費」以下と訂正すべしという考え方もすでに出て来ているらしい。しかし私の考えるところでは、むしろこれは再販価格も原価までは下げられ、破り得るという思想を確立するもので、益よりも害の方が大きいのではないかとさえ思う。このような規定をつくるくらいならさらに一歩を進めて再販事業者が「再販価格」より安くでうった場合にはその商品の出荷を拒否または制限するという規定にしてほしいし、そうすべきだと考えるのである。「プラス必要経費」などは少々手ぬるすぎるのではないかとも思う所以である。

 (4)前記したとおり禁止行為の再販を「特例的」にみとめる規定であるが、その窮屈な再販においてすら「再販を守らなくともよい」という規定をさらに附加する考えであると伝えられる。すなわち@その商品のメーカー名などを示す一切の表示を除いて販売する場合、Aその商品の販売をやめる善意の目的で在庫品を一掃する場合(但しメーカーなどにそのことを通知し買入れ価格で買い戻す機会を与えねばならぬ)、B品質の低下した商品をその旨を明らかにして販売する場合(この場合もAの買戻しの機会を与えねばならぬ)、C再販売業者が販売する商品の大多数のものに一率の金券などをつける場合‐このようなときには再販価格を破ってもよいというのだから全くのムチャだと評するより外はない。このうち@とBは明瞭に薬事法にテイショクするから、すくなくとも医薬品に関する限り規定除外となるであろうことは疑う余地はなかろう。またAは医薬品の乱用を助長し、その適正な使用を誤まらせる恐れが多分にあり、薬業界は挙って総反対の立場をとるべきが当然だ。さらにCの金券については「金券絶対反対」を主張すべきことは論をまつまでもなかろう。

 (5)の指定及取消については、まず指定の要件として@商標品であること、A日常使用されるもので、顧客を誘引する目的で著しく低い価格で販売される恐れのあるもの、B当該商品について自由な競争が行なわれていること‐と規定する考えらしい。そして商品種類の指定は公聴会をひらいて利害関係者の意見をきいて告示によって指定するという。この公聴会については業界では「不必要を主張すべし」という意見がすでに出ていると聞く。その理由は消費者サイドでは個々の商品についての正しい見解が得られず、かえって公聴会の混乱を予想されること、また商品について市場の実態が正しく把握されないままブチコワシの論議になるおそれがあることなどが挙げられているらしい。

 次に商品種類の指定取消しについては@指定の前記三要件を欠くに到ったとき、Aその商品について消費者が再販以外の商品を購入することが出来なくなったときの二つの場合と想定するというものらしい。@は当然であろうが、Aは具体的にはアリナミンAをアリナミンF、ビオタミンゴールドとビオタミン、ハイベストンとベストンなどの関係を指すものと私は推察している。これもまたスーパーや生協や零細の仮面をかぶった零細追い落しの大型店薬業サロンたちの共同陰謀の所産と見られぬこともない。指定取消もまた公聴会をひらいて行なうことになるらしい。

 (6)の個々の商品の登録に関する規定では公取の規則の定める所により予めその旨を届け出る。公取は必要事項を記載した登録簿をつくり、これを一般公開に供するとの考えらしい。また右の必要事項のなかには最高再販価格と最低再販価格の併記、つまり二重価格制一物二価はすくなくともクスリに関しては消費者の疑惑と不信を招くという理由で反対すべきだと私は考える。これもまた再販破壊主義者らが主張して来た「幅のある再販」の実現に合意しようとするものと見られる。そしてさらに再販事業者の利幅を明記する義務も負うことになる。その登録された利幅より実際の利幅が多いときは(裏まし、リベトその他の如何なる方正でも)登鉱を取消すというのだから小売にはいよいよツライ規定であると考えられるのである。

 (7)の再販類似行為の届出に関する義務については、当該メーカーに対し公取が「必要な届出」を「命令」する権限を与えられる規定となるらしい。公取は小売物資の年間全国購買額を十兆円と見込み、そのうち類額を二兆五千億と推計しているらしい。さらにそのうち正式再販は約一〇%の二千五百億円で残り九〇%の二兆二千五百億は「類似再販」だといっておると聞くそれ故に公取は狙いは類似再販の調査と摘発だともいうておるらしい。果してそうならばいままで解説して来たような「再販なしくずし」の規定よりも「類似再販撲滅」を主眼とした法の制定にもっと力を入れたらよさそうなものだが、どうもその辺がハッキリしない。従って公取の真意も理解しがたいような気がするのである。

 (8)の十四団体に対する特例の項目は二つあって@十四団体であることを理由に取引拒否をすることは認められない、A十四団体がそれぞれの基本法(例、生協法など)によって行なう利益配分相当の値引を再販価格によって妨げることは出来ない。‐ということを法に明記するという考え方のようである。つまり十四団体は再販であろうがなかろうが安うりご随意であって員外者にも利益配分をするという、まことに無法な特権をもみとめるというのだから叶わない。取引拒否の自由をメーカーは確保しておくべきだし、員外者にビラをまいて商売繁昌につとめる生協などの行きすぎは是非正さねばならないだろう。(つづく)

 福岡県安定協 一月例会

 福岡県安定協議会一月例会は二十五日一時半より福岡県薬会館において、メーカー九社、家庭薬メーカー三社、卸三社、小売九名出席のもとに製企会側議長となり開会された。当日は去る二十日開会された全国商組連合会理事会に出席した同会監事隈治人氏(長崎県)より今問題の公取の「再販に対する手直し要綱」に対する詳細な説明があった。「今回の手直しは、再販が極めて出来にくくした上、何時でもこれを破り易いような規定を作っているとしか思えない程の全く骨抜きで、西ドイツの再販と全日教連の考えを合せたものであるといわれている。日薬、全商連なども防衛の方法を考えてはいるが、この際相反することもあるかと思うも、薬業界は三者が一致団結して当る必要がある。」と述べ、引続き各委員より意見が出されたが、中央よりは迅速に情報を流して貰い、この際特に各団体は一本にまとまり、これに全力を集中することに各階とも賛意を表した。

 次に各地区の情況報告があったが、来月は二十五日の定例日一時半より開会することを決め散会した。(当日の隈氏の報告は別掲の同氏の論文を参照されたい。)

九州薬事新報 昭和42年(1967) 2月20日号

 今秋開会の薬学大会打合せ 九州・山口県会長会議 期日10月四・五・六日

 九州・山口県薬剤師会では、二月十五日三時より長崎市西山「阿加世」において各県会長会を開催し、今年度の薬学大会開会日程などについて検討した。当日は宮崎県のみが欠席で、瓜生田大分県、四島福岡県、戸田熊本県、武田佐賀県山村鹿児島県の各会長、渡辺山口県及び地元長崎県では会長(委員長)外副委員長(六名)が出席した。

 会議は先ず地元藤村県薬会長あいさつ後、今秋長崎において開会される薬学大会副委員長(各部会担当の菊野、横田、深堀、吉海、西脇、野川)の紹介があり、次いで大会についての各県薬の協力を求めた。次に瓜生田九州山口薬剤師会長は「昨年佐賀での大会において、次回は長崎と決定した時、心よく引受けられ感謝していたが、年を追い大会準備にも困難を来すようになったが、最大の努力で効果を上げたい」とあいさつし、それより大会について具体的な検討を行った。

 @日程については長崎の「おくんち」を考慮に入れて、十月四日、五日、六日を地元で予定していたが、異議なくこれを了承、決定した。
 A会場は公会堂を確保してはいるが、分科会等を考慮して目下長崎大学の使用を交渉中であるので、これは地元に一任することに決定した。
 B分科会については、深堀副委員長より「分科会の整理が必要でないか、又大会時に各メーカーのプロパーが薬剤師でありながら大会より疎外されている現状をどう考えられるか、ご指導願いたい」と発言、種々意見が出されたが、既に考えねばならない時期には来ているが、又新設するにしてもその分科会の在り方‐?プロパーを主体とするか?大会出席の他の薬剤師と混然一体とするか?小売、卸、メーカーと共に薬業部会の如きものに含めるかなど種々考えられるが、各所属会社の意向もあろうし、非会員という問題もあり、会員外にも窓口を拡げると云う前進的意味はあるにせよ、新設については慎重を要すると云うことになった。その他の分科会については、長崎県の実情により検討することになった。
 C大会誌の成作は大学の希望により従来の印刷でなく、校正を必要としない新しい方法が採用されることになった。
 D参加費については昨年まで五百円であったが、今年度は七百円に決定。
E各団体の寄付については新薬会、卸業会に対する額だけを決定。

 その他は地元に一任することになった。それより、日薬代議員会に対しての意見統一など行い、会議を終了、引続き同所において懇親の小宴を開き七時散会した。

 福岡県衛生部通達について 県下卸・小売メーカー合同会議

 福岡県小売薬業界では最近特に福岡市内中心部において、新聞折込み、店頭の吊下げビラ等、販売態度に乱売競争を誘発するおそれあるものが見受けられるに至ったため、二月七日付を以って左記のような通達が県当局より衛生部長名により各薬業団体に発送された

 福岡県医薬品小売商組では直ちに、メーカー、卸と小売側は商組、薬剤師会、薬事協会の代表者などを招集し、県当局より大庭課長補佐の出席をも得て、本通達の周知徹底を図るため、二月十日十時より県薬会館において会議検討を行ったが、当日の出席者はメーカー六社、卸五社、小売側は鶴田県商理事長、斉田同副理事長、四島県薬会長、深田県薬事協会会長、吉松同副会長であった。

 先ず大場課長補佐は最近の薬業界の販売態度について酷しく批判し、且つ今回薬業界全体に通達したことであるから、三ランク共それぞれ医薬品業者としての見苦しい所を直に是正されたいと強く要望した。それより種々談合した結果、卸は卸の立場で善処することとし、小売側は薬剤師会、薬事協会及び薬商組の三団体で小売業者の指導をなすこととなり、左記の文書を衛生部長通達の写しと同封で洩れなく配布することとしたが、然し地区毎に実状も異るので、具体的自粛の方法については各地区安定協において充分検討した上決定して指導することを決めた。又メーカーとしてはこれ等小売、卸の自粛に協力することを申合せた。

 県下各薬業者宛配布の文書は次の通り(全文)
 左記衛生部長通達にあります通り、近来特に医薬品の販売にあたり、その姿勢、態度、広告宣伝等の行き過ぎにより、一般消費者に対し医薬品の正常な使用を誤まらせその乱用を助長し且つ又医薬品の品位を損い医薬品並びに薬業者に対する不信を増大せしむるが如き方向に向いつつありますことは誠に遺憾なことであります。

 宣伝物(折込チラシ、吊下ビラ等)に安売価格を表示することはおとり販売、不当廉売の素因ともなり、尚更に乱売競争を誘発するものであり、遂には不公正な取引の混乱状勢を来し公正な競争を阻害するおそれを生ずること必定であります。

 斯かる状勢になることは医薬品の特殊性にかんがみ決して消費者の利益を守ることとは云えず、却って不信不安を与えることに相成りますので今後各位自粛自戒せられ、医薬品の販売態度を正し、経済秩序を正常なる状態にもどしこれを維持することが一般大衆の信頼にこたえるものであることを自覚せられ、いやしくも衛生部長通達の趣旨に反するが如きのないようお願いします。

 なお、県衛生部長名の通達は次の通り。

 医薬品等による保健衛生上の危害を防止するため、医薬品の販売態度、広告等については、その適正を期するため従来たびたび指導取締りを行ってきましたが最近医薬品の品位を損い一般消費者にその使用を誤らせ、もしくは乱用を助長させるような医薬品の特殊性を無視した売販態度及び乱売競争を誘発するおそれのある広告宣伝などが見受けられることは誠に残念に思います。

 ついては一般消費者側からも批判の声を聞くところであり、かくては医薬品及び薬業者に対する不信を増大させるものであるので、医薬品の国民保健に対する真の意義を自覚し、これを損うような販売態度並びに広告等医薬品及び薬業者に対する不信を招来するような行為は厳に慎しむよう薬業関係者に洩れなく伝達しご指導方をお願いします。

 その後福岡地区では十四日一時より県薬会館に於て文書配布に関し緊急部会長会を開会して協議の結果、文書は部会長より各業者に配布することとし、特に問題となっている一部行儀の悪いといわれている薬局・薬店には特に幹部が文書を持参交付することを決めた。

 シロップかぜ薬 販売に注意

 小児用のシロップ剤かぜ薬は小児用薬剤の特殊性から特に基準を定めて取扱われているが、最近業者の一部にかぜ薬のシロップ剤が恰かも成人用感冒内服液であるかのような広告、表示され、販売されている事例があるので、この程その弊害除去のため厚生省薬務局から「シロップ剤かぜ薬の取扱いについて注意するよう」各都道府県並に製薬連、日薬などへ通達した。

 福岡県薬務課では早速県薬剤師会宛二月三日付でシロップ剤かぜ薬の取扱いについて左記の通達(添付参考資料略)があった。

 シロップ剤かぜ薬の取扱いについて
 標記の薬剤については、小児用薬剤の特殊性にかんがみ、特に基準が定められ取扱われているところでありますが、最近一部にこの種薬剤があたかも成人用感冒内服液であるがごとき誤解を与えるおそれのある広告、表示を行ないまた販売方法をとる事例が見受けられる旨、厚生省薬務局監視課長から通知があったので、当該かぜ薬が成人用感冒内服液として誤解されるような販売方法は行なわないよう貴会員中関係業者に周知方お願いします。

 武見日医会長急変 日医所属総委員の辞表撤回

 武見日医会長は二月十五日厚生省に牛丸事務次官をたずね、昨年末の医療関係各種審議会からの同医師会所属委員の総引揚げについて厚生省の考えを誤解していた≠ニの理由で全委員の辞表を撤回する旨申入れた又任期切れになっている中医協の委員の後任は来週中にも推薦することを申添えた。

 この武見会長の態度の変化により、中医協の審議も早ければ二月中にも再開される見通しとなった。一方、医師会では、去月中医協委員である加賀日医副会長、川合、太田両常任理事が中医協委員を辞任する意志のないことを表明したため、日医の内輪もめが、表面化していたが、今回の辞表撤回により一応解決したかのように見えて来た。しかし消息通の見る処によれば、中医協審議の今後の進み具合によっては日医の内紛は再燃するものと予想されている。

 福岡県薬主催 第三回臨床 薬理学講座

 福岡県薬剤師会主催の「第三回臨床薬理学講座」を左記により開催する。

 ▽日時=42年3月4日(土)午後一〜五時。
 ▽会場=福岡市中呉服町三ノ十五田辺製薬福岡支店五階会議室。
 ▽課目=第五講座「続、心臓疾患と強心薬の正しい使い方」(一〜三時)、九大循環器内科、医博荒川規矩男助教授▽内容「第四講座の後半、@疾患者の診断と治療、A強心薬の正しい使い方▽第六講座「肝臓疾患と治療薬の正しい使い方」(三〜五時)九大第三内科医博平山千里助教授▽内容「@肝臓の構造と機能、A肝臓疾患の分類と特徴、B肝臓疾患の診断と治療C肝疾患治療薬の正しい使い方。」
 なお出席者に「肝臓疾患治療薬比較対照一覧表」「ビタミン剤比較対照一覧表」を差し上げます。
 ▽受講資格=会員は勿論会員外の方でも受講できる
 ▽受講料=五〇〇円(当日受付で納入のこと)

 福岡地区安定協 一月例会

 福岡地区安定協議会は一月休会、二月十日の定例日に今年初の例会を午後二時より県薬会館で開会した。 当日は午前十時より同所において開催された県衛生部長通達の周知徹底についての話し合いに出席した大庭課長補佐も臨席し、午前の会議に引続き「最近の薬業界の販売態度は、医薬品業界の持つ特殊任務の放棄であって、われわれが注意する以前において業者同志で自制すべきである。要は医薬品を、もう少し権威あるものとして取扱うべきであるということである。今回の公取の酷しさも業界の販売態度から発生しているもの」との苦言が述べられた。

 それより同地区安定協議会では、午前の会議において決定された販売態度の是正についての具体的な検討は来る十四日一時半より同所で開会される小委員会において行なうことを決めた。

九州薬事新報 昭和42年(1967) 2月28日号

 福岡県薬理事会 県薬代議員会準備打合せ

 福岡県薬剤師会では第一三七回理事会を二月十八日十一時より県薬会館で開会主として三月二十七日開会予定の代議員会並に左記議題につき協議検討した。

 (1)中央情勢報告
 日薬理事会の議題を中心に四島会長から報告、@日薬代議員会A医薬分業実施対策=受入態勢の機運も盛上りつつあるが、基本線に沿い実践することが大切B医師会の内紛=日医内部で武見会長反対意志が台頭、今後又新らしい事件の発生の惧れも考えられるC薬価基準改正と薬価調査=日薬では卸、メーカーの立場も考慮しこれに対処するD保健薬の取扱い=社会的にも政治的にも分業実施せよとの機運が打出されているE歯科医師会との協定処方の再検討と拡充F再販に対する公取委及び厚生省の見解と小売業者の対策=日薬としては国会提出前に公取の考方を是正し、医薬品の特殊性を生かしてわれわれ業者に有利になるよう対処する必要がありと考えている。場合によっては化粧品業界とも共同態勢をとる。

 (2)九州山口会長会議 (本紙前号記事参照)

 (3)社会保険業務について
 厚生省の保険薬局指導が二月二十四日、福岡市医師会館において、大賀、白十字、山陽、梶原、病院前、日の出の六薬局が指名され指導を受けることになっており、翌二十五日は十時より午前中二時間、会代表に対する集団指導が行なわれるので、開局、県薬理事並に社保委員、支部社保担当役員約四十名が出席する予定である。又健康保険組合の記号については去る一月一日より実施された県内の健保組合の符号表及び四月分調剤報酬請求書(五月提出分)よりの改正については全保険薬局に文書を送付することとなる。

 (4)医薬品の取扱いについて県衛生部長より、シロップ剤かぜ薬及び医薬品の広告規制などについて指示があった(本紙前号参照)

 (5)県薬第22回代議員会について
 @三月二十七日午前九時半からミタカホールで開会毎年時間切れとなるので開会を30分早め時間を厳守することにしたA仮議長(最年長者)及び正副議長選挙B40年度決算、41年度事業報告、42年度事業計画並に予算等につき検討C年一回の代議員会に欠席の代議員なき様支部につき再確認すべきことなど決めた。

 (6)時局対策について
 3月2日開会の支部連絡協議会において検討する。

 (7)日薬病診部会講習会報告福井理事より詳細報告があった(本紙別掲参照)

 (8)グループ保険について
 死亡者に対する給付について東邦生命より報告があった、将来に対する改正案は検討中である。

 (9)日薬代議員会打合せ事項について
 長野副会長主宰して打合せを行なった。

 (10)その他=@地方選挙立候補予定者(会員中)は現在判明している分は古賀治古賀常吉、庄野道徳、服部嘉夫、早麻清造、加藤藤次郎深田徳治郎の諸氏であるが他に予定者があれば通知されたいと要望
 A薬剤師連盟と公務員について長野副会長より、左記報告があった。
 ▽公職選挙法第一三六条第二項、国家公務員法第一〇二条、地方公務員法第三六条、人事院規則を参照に
 ▼加入はさしつかえない。
 ▼会費を負担することはさしつかえない。
 ▼会に出席して発言することはさしつかえない。
 ▼連盟の役員になることはいけない。
 ▼特定の立候補者の選挙運動をしてはいけない。
 以上にて理事会を終了した。

 中医協委員 任期切れ 委員新任

 昨年末、中央社会保険医療協議会他各種審議会の日医推薦委員総辞任を申入れていた武見日本医師会長は去る十五日厚生省に牛丸事務次官を訪ね、辞任を撤回する旨申入れたため中医協の開会も漸く見通しがついたわけである。厚生省では昨年十二月二十四日付けで任期切れとなっていた中医協委員中の十委員、内医師会関係の三名を除き七委員を二月七日任命した(残りの三名は近く医師会から推薦されることになっている)二月七日現在の中医協委員は次の通り。

 ▼支払い側(八名)
 加藤威二(新)‐社会保険庁医療保険部長▽桜井由蔵‐健康保険組合連合会常務理事▽安恒良一‐日本労働組合総評議会政治局長▽古沢明(新)‐全日本労働総同盟福祉対策部長▽松本栄一‐日本石炭鉱業経営者協議会副会長▽小笠原文三‐全日本海員組合厚生部長▽米田富士雄(新)‐日本船主協会理事長▽塚本秀郎(新)‐国民健康保険中央会。
 ▼診療側(八名、三名欠)
加賀呉一‐岡山県医師会会長▽川合弘一‐日本医師会常任理事▽子上俊一‐日本歯科医師会常務理事▽山崎数男(新)‐日本歯科医師会常務理事▽沖勘六‐日本薬剤師会常務理事  ▼公益側(四名)
東畑精一‐アジア経済研究所々長▽鈴木武雄(新)‐武蔵大学教授▽円城寺次郎(新)‐日本経済新聞社専務取締役主幹▽美濃部亮吉‐東京教育大学教授

 =豆知識(十八) 馬場正守

 ▼寒冒について
 感冒の季節が再び到来し福岡市内の一部の学校では集団カゼで学級閉鎖を行なっている。感冒には御承知の如くインフルエンザ(流行性感冒)と身体が寒さに冒かされて患う寒冒とがあるが、ここでは寒冒について少し学問的に研究して見よう。先ず自覚症状として次のようなものがある。くさめ、鼻づまり、鼻声、鼻汁(水ばな)頭痛、発熱(時には悪感)倦怠感、食欲減退、のどの刺戟感、発声困難、せき、関節痛、腰痛背痛、肩こり等、実に多岐多様である。その他に他覚症状として、上気道(鼻腔から気管にわたる間)粘膜の充血、腫張、分泌過多、気管、気管支の痙攣等がある。

 1、はなの症状 鼻腔は一種の除塵装置兼温度、湿度の調節器官の役目をもっており、鼻腔の粘膜面には多数の毛細血管が分布している。感冒にかかると先ず鼻腔粘膜が刺戟されてくさめが出る。次いで鼻腔粘膜が充血し鼻の頭が熱くなって来るそして充血のため腫張を来たし、空気の通過が困難になって鼻づまりが起る。鼻がつまると、鼻腔内で音の共鳴が妨げられるので鼻声になる。鼻汁の流出は鼻粘膜の分泌過多である。

 2、のどの症状 一方鼻づまりのために鼻呼吸が困難となり、不快のために睡眠を妨げられたり、乳児では哺乳困難となる。口で呼吸するため、のどを刺激し喉頭の炎症を起すと発声困難を来たし、声がかれる。また感冒そのものによって気管支筋が痙攣を起しやすくなっているところへ、気管および気管支粘膜の炎症刺戟と分泌過多(たん)のために、気管支筋が痙攣を起し、たんを出すためにもせきが出るようになる。

 3、頭痛と発熱 更に頭痛・発熱・倦怠感(不快感)・食欲減退・節の痛みなどは一応病原体または、病原体によって産出された刺戟と考えられるが「はな」や「のど」の粘膜にカタル性炎症が起ると、炎症は必然的に局所の組織蛋白の分解を伴うので、それら蛋白の分解産物は血流に乗って中枢(脳)に達しこれがまた頭痛(痛覚中枢刺戟)や発熱(体温調節中枢刺戟)の原因となる。従って「はな」や「のど」のカタル性炎症を早く消退しなければ、悪循環をくりかえして、感冒を一層悪化させることになる。これらの症状からして寒冒には次のような説があげられている。ヒスタミン説、アレルギー性

 アセチルコリン説 アレルギー性疾患の代表的症状として

 @血管運動神経障碍(末梢血管の拡張充血)
 A分泌機能の亢進(細胞の透過性の亢進(細胞の透過性の亢進‐漿液の分泌)
 B滑平筋の痙攣、収縮
 の三つの症状が挙げられるが、感冒の諸症状も悉くこの三つの症状にあてはまる。即ち
 @鼻が敏感になってくさめを連発し、鼻の頭があつくなり、鼻づまり、鼻声となり、のどの刺戟が起り、のどが赤く腫れるのは「末梢血管の拡張‐充血」である。
 A鼻汁が流出し、たんが出るのは、それぞれ鼻粘膜および気管粘膜の「分泌機能の亢進‐漿液の分泌」である。
 Bせきが出るのは、気管支における「滑平筋の痙攣・収縮」である。
 このように感冒時には一種のアレルギー状態になるが一般にアレルギー疾患において、それらの症状が現われるのはヒスタミンあるいはアセチルコリンが細胞から遊離することによると説明される。

 ヒスタミン説 抗ヒスタミン剤が感冒薬として用いられる理由は以上の事で判ると思うが、しかし実際の臨床において、抗ヒスタミン剤が常にその抗ヒスタミン効果の強さに比例して臨床効果を現わさず、アレルギー性疾患の抗ヒスタミン剤療法には一沫の疑念がいだかれる。

 アセチルコリン説 実際にアレルギー性疾患の臨床において、抗ヒスタミン剤を使用するより、エフエドリンやアドレナリンを用いる方が有効な場合がある。アレルギー性喘息などがその好適例で、アレルギーのアセチルコリン説を最も雄弁に支持している。

 そこでアレルギーのアセチルコリン説を主張する人々は、抗ヒスタミン剤の効果は、その抗ヒスタミン効果が主役を演ずるのではなく、抗ヒスタミン剤がもっている幾分の抗アセチルコリン作用(副交感神経抑制作用)と中枢性麻痺作用によるとしている。