通 史 昭和40年(1965) 日薬−県薬−市薬
九州薬事新報 昭和40年(1965) 11月10日号

 武田薬品再販実施発表 年内に「タケダ会発足」

 大手メーカーは既に茲一、二年再販売方式の実施に踏切っている。然しこれに対して静観的態度をとつていた武田薬品の今後の動行が薬業界の注目をひいていたが、愈々この程アリナミンA、強力パンビタンなど主要マスコミ品一六品目二八容量の再販売方式の実施と同時に「タケダ会」を発足させることを発表した。

 今回武田薬品が実施する再販売契約は、タケダ‐特約店‐小売店で、夫々再販売価格維持契約を結び、その三者でタケダ会を構成することになる。販売経路は特に従来の取引を尊重し、問屋機能を充分に生かす見地から、特約店を通して「タケダ会製品」を販売し、受注、納品、回収などの他累進報奨支払に至るまで一貫して推進することになっている。

 特約店と小売店の取引は一社一店とし、特約店は各地区とも武田が指定する薬専主要特約店で、会員小売店は正会員(毎月額一万円以上)の制度をとり、正会員には累進報奨が出されることになっている。マスコミ品など極めて巾広い商品の価格を安定し、夫々適正な利潤を確保して相互の繁栄を期し、医薬品の信頼度を高め、国民の保健衛生に寄与することを目的としている。尚今回発表した再販品目は左記の通りであるが、今後も優良医薬品を逐次追加してゆくことになっている。

 ●再販品目

 ▽アリナミンA5(新製品)五〇錠二〇〇円、一二〇錠四二〇円、二五〇錠八四〇円、四五〇錠一、四五〇円▽アリナミンA25(新製品)二五錠四三〇円六〇錠九八〇円、一二〇錠一、九〇〇円、二二〇錠三、三五〇円▽アリナミンA50(新製品)二五錠八三〇円、六〇錠一、八五〇円、一二〇錠三、六〇〇円▽強力パンビタンA(新製品)三〇錠一六〇円一二〇錠五四〇円、二五〇錠九八〇円、▽強力パンビタンゴールド三〇カプセル八〇〇円、▽パンビタンペレ―チヨコレート六〇錠二二〇円、▽パンビタンA液(新製品)15ml×2三四〇円、▽強力フローミン三〇カプセル一、五〇〇円▽タケダ胃腸薬三層錠(新製品)四五錠一四〇円一二〇錠三〇〇円、▽タケダ胃腸薬顆粒(新製品)一二包一四〇円、三二包三〇〇円、▽ハイグレラン錠(新製品)一二錠二七〇円、▽マイティア一五ml二〇〇円、▽強力ボラギノール軟膏一五g三〇〇円

 なお、前期発表のタケダ会の構想が直販方式を採らず在来の取引法を特に尊重ししかも特約も巾広く選定し小売店の累進報奨支払も亦特約店を通じて行い、受注配達などについて、特約店のみでなく一般卸業界に好感が持たれ、薬業界の一部に問屋無用論などが一時流布されたこともあるので一層その感を深くしている様である。

 福岡県薬商組理事支部長会 薬業安定促進特別委員会設置決定

 福岡県医薬品小売商業組合理事、支部長会10月定例会議は10月28日1時より県薬会館において開催された。白木理事長あいさつ後、25日の県安定協において報告された久留米のツジ薬局のチラシ問題については商組で対処する事になっていたので、地元川島商組理事長より経過報告を聴取した後本人の出席を求めて話合った結果、大体の諒解がついたため、細部については尚地元で談合することになった。

 次に白木理事長より中央安定協及び薬商組九州ブロツク協議会の名を以って、兵庫県で結成された大量販売店(スーパーなど)を結集した「模範薬業界」に対するメーカーの考え、又今後製企会として姿勢を正せるかどうかなど製企会側にただすよう要望があつた。

 それより各地区の情況報告では、小倉において原口薬局の一、二品目をのぞきオール半額セールについて報告があったが、商組としては早急に是正すべきであり、速かに対処することになった。又、特殊指定については県薬の特別委で現在研究を続けているも、商組としては今後「薬業安定促進特別委員会」を設置し、各支部より委員をすいせんした上、従来の県薬特別委員会の委員をも含め、薬業安定促進のため(特殊指定問題も含め)種々検討することに決定した。

九州薬事新報 昭和40年(1965) 11月20日号

 日薬の都道府県薬剤師会への通報

 厚生省の薬事法改正検討に武田日薬会長反対態度表明

 鈴木厚相は11月1日薬事法一部改正について坂元薬務局長に指示すると共に、これを翌二日の閣議に諮った後、記者会見に於て発表したが、四日薬務局長も亦記者会見に於て、その指示に従って進む方針である旨を語った。当時の日刊新聞は次の通り報道している。

 ▽朝日新聞(11月2日付) ルーズな売買にクギ、厚相、薬事法手直しを指示

 鈴木厚相は二日の閣議後の記者会見で「医者の指示 処方で使ういわゆる要指示薬の取扱いを厳重にするため、薬事法の再検討にはいるよう、一日事務局に指示した」と述べた。鈴木厚相は二日の閣議でもこの問題にふれ「本来医師の指示でしか使用できないことになっている薬が、非常にルーズにあつかわれている面があるため、これが一部で"睡眠薬遊び"をうみだす原因になっている」と発言、薬事法改正への方向を明らかにして閣議の了承を得た。

 現行の薬事法によると、薬局等は医師、歯科医師などから処方せんの公布、指示を受けた者以外に対して厚生大臣の指定する医薬品を販売したり授与してはならないと規定されており、その要指示薬品(ペニシリンなど)はそのむねを表示することになっている。

 鈴木厚相によると、現在この規定は完全に守られているとはいえず、一部の悪質薬局はこれを完全に無視して、自由にだれにでも販売しているのが現状だという。従って薬品に関する安全基準をいくら厳格に定めたとしても販売面でこのようなしり抜けがあれば、薬に関する国民の不安はいつまでも抜けないわけで、厚相としては薬品の販売、使用がルーズに流れないよう、特に薬事法の検討を指示したものである。

 鈴木厚相の意向では、まず現行法を厳重に守らせ、医薬品販売に厳しい監視の目を向けるのは当然だがさらに
 @「要指示薬」を「要処方薬」と「指示薬」の二つにきり分け、危険度の大きい要処方薬については、一層厳しい監視を行なうよう法を改正する。

 A要処方薬は、現在毒薬、劇薬の取扱いでやっているように、直接の容器などにはつきり要処方薬であることを明示しひと目見ただけでだれにでもわかるようにする。などを考えているようである。

 しかし、この問題は医薬分業とも関連しており、現在のように医師が薬を患者に直接売るという形式をとつている以上、医師は処方せんを書いて患者に渡すより、薬を直接患者に渡すほうを選ぶことになりやすいのは当然で、薬品販売業界の動きが注目される。

 この要指示問題をこの儘放置する時は又々厚生省当局からの不当な圧迫を受けることになるので、武田日薬会長はその翌五日記者会見を行ない、これに対する見解として次の様な談話を発表した。(要旨)

 ▽武田会長談

 両三日前、日刊紙上に鈴木厚相の薬事法手直しを指示した旨の談話が出たが、昨日(四日)の薬務局長の記者会見で語った処では「これは大臣の指示だから、この線に沿って薬事法を改正し、医薬品の販売に対して、より一層厳重な取締りを加える様にしたい」と語り、又「これは医薬分業とも関係があるが、それは三師会に任せる」ということを述べている。

 薬務局長ともあろう者が、何と情ない発言であろうか。これこそ一方的な発言であり、又かぜ薬や特殊指定問題と同様官僚的な安易な考え方で、業界を混乱に陥れ様としているのである。大臣の指示だからどんな素人論でもそれに従うのだとか、医薬分業について、これが既に社保審議会に於て、厚生省は至急検討に着手し、近く実施の結論を出す様にとの強い線が出されているにも拘わらず、これを三師会云々とは、とんでもない事で、これこそまさしく旧い型の官僚的な一種の狡いすりかえを行なおうとしているものである。

 医薬品の販売授与については、薬事法に明記されている処であって、法制定当時のことは、私自身が委員として関与していたので、能く知っている。医薬分業法が空文に等しい当時の状態に於て、医薬品販売授与に行き過ぎた制限を加えることは、医薬界に大混乱を来すということで、慎重検討の結果出来上ったものである。

 この事については現時点に於ても言えることである。このことは、正常な指導行政をしておればよいのであって、法を犯す極めて少数の者のために、大多数の無この者を厳重に取締るついう態度は誠に遺憾である。この意味に於て手直し的薬事法改正には絶対反対である。

 この際私が敢て言いたいのは、厚生当局殊に薬務局は、いつも弱い者いじめばかりしている様な感じを抱かせられる事で、それが成功すれば自分の功名とし、失敗すれば煙幕を張って責任を負うとしないことである。例えば医薬品の特殊指定の問題にしても、商売のことを何も知らない薬務官僚が、何を血迷ったか、恰かも戦時中の統制経済の様なことを考え、薬業経済安定を図るためと称して、市場安定対策要綱を指導し、それが行き詰ったと見るや今度は特殊指定の問題に振り変え、これ亦暗礁に乗り上げるや、メーカー間の仲介をとる形を以て其場を糊塗しているが、現業界の混乱を捲き起し、日薬としては甚だ迷惑しているのが今日の実情である。

 かぜ薬、ドリンク剤についても亦然りで、これが国会の問題となるや、一部議員の質問に満足な答弁もせず、業者の所為なりとして責任を転嫁し、当時その原因を学術的に確かめもせずに愴惶として根拠のない緊急措置をとった事は甚だ遺憾であつた。

 この厚生当局のとった緊急措置のために、メーカー及び小売業者をはじめ、薬業界全体の蒙った迷惑は非常なものであり、又それがために医薬品の信用を傷つけ、その影響は測り知れないものがある。それは薬学の専門家でもない而もズブの素人が、一面薬学出身の技官を冷遇しつつ自らの保身に終始している処に、問題の渕源がある。従って薬系技官が薬務局長になれない筈がないのに、それがなれないというのは、抑々どういうわけであるか。

 曽って私が日本薬政会の会長当時、廣松薬務局長(薬博)時代に厚生省幹部との話合いで、薬務局長は薬系と法科系とが交互に就任する。又薬系技官の次長制を置くことになっていたのが、その後一回も実現を見なかつたのである。而も薬系技官が相変らず薄遇を受けている現状である。

 先般、社会保険の薬価が総医療費四・五%の引下げが行われ、この内三%が技術料に振り向けられ、殆んどが医師の方へ行って、調剤技術料としては僅かに12円が17円になったに過ぎず現在の貨幣価値を無視したものである。厚生当局は医薬分業の実施に当って経済的擁護が絶対に不可欠であることは万承知の筈である。この点も今後充分監視したい。日本薬剤師会は薬剤の治療に対する正しい位置づけとして一日も速かに調剤技術料を適正なものたらしめるよう、誠意ある厚生省当局の出方を強く要望して止まないものである。

 右武田会長の談話は前期の鈴木厚相並に坂元薬務局長の談話に対し、又これを機会に記者会見に於て発表されたもので相当強い見解である。この声明にも拘わらず厚生当局が何等かの圧力的手段を具体的にとる様なことがあれば、遺憾ながら一戦を交えるほかないとの断乎たる態度に出る考えである様である。その場合は日薬会員全員の力を結集して斗う必要があるとの事であり、以上が今回日薬より全国都道府県薬会長宛の速報の概要である。日薬会員は新日薬会長の見解を熟読玩味することは絶対必要であろう。

 友納英一氏 文部大臣表彰

 全国学校保健大会が本月十三〜五日伊勢市に於て開催されたが、同会に於て福岡県学校薬剤師会長友納英一氏は文部大臣より表彰された。

九州薬事新報 昭和40年(1965) 11月30日号

 アンプル入り解熱鎮痛剤 薬務局が製造中止を通達 販売は三月まで条件付で

 解熱鎮痛剤を有効成分とするアンプル入内服液については最近これを「かぜ薬」として販売使用される傾向が見られ、当該品の薬理作用、毒性等がアンプル入りかぜ薬に類似することに鑑み、このものについて今回厚生省薬務局では次の様な取扱いをすることになり各都道府県に通達した。

 【当局の方針】
 一、アンプル入り解熱鎮痛剤の製造をただちに中止し当該品目の廃止届(変更届)を提出する。
 二、現在市販されているアンプル入り解熱鎮痛剤については、昭和四十一年三月末日までの間に限って販売時に下記の使用上の注意書を必ず添付させることとし、その販売を認める。
 三、昭和四十一年三月末日まで販売できなかつたアンプル入り解熱鎮痛剤については、すみやかに回収の措置をとる。
 四、本措置に基づく代替品目の申請の処理については優先的な取扱いをすることになったから、当該申請書の進達にあたってはその旨を記載する。

 【使用上の注意】
 一、本剤はかぜの時の解熱鎮痛に用いない。
 二、本剤は劇薬に該当する成分が含まれているので定められた用法用量を厳守する。特に本剤劇薬に該当する成分が含まれているので定められた用法用量を厳守する。特に本剤の服用は空腹時をさけて食後に服用すること。また、用法が一日一〜二回と記載されているものでも、できるだけ一日一回服用するのが望ましいこと。
 三、医師により治療を受けているとき、または解熱鎮痛剤、かぜ薬などを使用しているときは、重複使用しない。
 四、次の人は服用時医師に相談してその指示を受ける‐@本人または血族にじんましん、かぶれ、気管支ぜんそく、アレルギー性鼻炎、へん頭痛、食物アレルギーなどのある人、A過去に薬によるアレルギー症(発熱、発疹、関節痛、ぜんそく、かゆみなど)経験した人、B持病のある人、体の弱っている人または高熱のある人。
 五、数回服用しても症状の改善がみられない場合は服用を中止し、医師、薬剤師に相談してその指示を受ける。
 なお、解熱鎮痛剤を有効成分とするアンプル剤は、現在薬務局で確認しているところでは二十一社二十六品である。

 歯薬協定処方に関して 福岡県歯・薬両会協議

 日薬では去る六月より全国実施を目標に、歯薬協定処方を成作したが、福岡県薬剤師会はその後種々の事情により延び延びになっていた協定処方に関する協議会を十一月四日県歯科医師会館において午後六時より開催した。左記議題について終始なごやかな協議が行われたが、医薬分業推進のため歯薬協定処方集の活用を申し合せた。

 ▽議題
 (1)処方集の処方内容について
 (2)記号による処方について
 (3)医薬分業推進について
 (4)社保支払基金の審査員について
 (5)県下における社保の状況について
 であつたが福岡県薬ではこの協議会の結果に基き、次のようなことを会員に要望している。

 1、地区における協定について、各地区で、歯科医師会と協力し、処方集中の処方及び従前より協定した処方を中心に新協定処方を協議すること。処方数は良い処方を厳選少数処方とした方が発行者にとつても受入側としても有利である。

 2、記号処方について
 処方を記号で発行することは、歯科医師法、薬剤師法、その他の法規に反する惧があるので用いないこと。もし、記号により処方された場合は、受入薬局において処方内容を処方せんに記入しおくこと。

 3、処方せん用紙について処方せん用紙について処方せん用紙はメーカー個々のものを用いると混乱するから、できる限り薬剤師会で作成し、個々の歯科診療所及び歯科医師会に無償で送付すること。

 4、歯科医師会の指示について
 県歯科医師会より各市郡の歯科医師会に対し、協定処方の推進について近く指示されるので、各支部では連絡を密にし成果を十分発揚できるよう努めること。

 5、処方せんの疑義に就て受付処方せん中に疑義(医薬品名、用量、単位等)があるものは、自己判断で即断することなく発行医に照会し訂正を受けること。

 尚議題(4)の社保支払基金の審査員に薬剤師を入れることについては、現在福岡県支払手数料基金において月々約七千件の調剤報酬請求審査をしているが、審査員中に薬剤師がいないため審査に不自由を感じている現状であると聞くが、現在の審査委員定数では医師、歯科医師関係でも人員の不足を訴えている現況で、現定員中に薬剤師を入れることは困難と思われるので、支払基金本部と接衝し、薬剤師審査員設置のために審査員の定数を増加するよう日薬へあっせん方を県薬より要望している。

 薬剤師は 「薬剤士」でない

 福岡市の小学校で使っている国語の教科書に「薬ざい師」を「薬ざい士」と誤って記載されていることがこの程発見された。「師」を使うべきことは法律で瞭きり決っていることであり、教科書でウソを教えるなど洵にけしからぬ事である。教科書ともあろうものがかようなと杜撰な編集では驚くべきことで、この書は山本有三、石井庄司編集、日本書籍株式会社発行の「小学国語」四ノ一であつた。

 福岡県薬剤師会では全国的な問題であるとして「文部省を通じ至急善処する様」日本薬剤師会へ11月19日付で連絡要請した。