通 史 昭和39年(1964) 日薬−県薬−市薬
九州薬事新報 昭和39年(1964) 1月1日号 第553号

未来への歴史の創造 参議院議員 日薬会長 高野一夫

 昨年はあわただしく過ぎていった。ます薬事法改正で半年がつぶれ、あとは条例の制定で地方がせわしくなり、その上総選挙となった。適正配置を主とする改正案の作成には、一昨年の十二月から手がけたが、憲法解釈を異にしていた参議院法制局との話合いをつけるのに三ヵ月半もひっかかり、漸く案ができて、自民党の承認を得るための社会部会、政調役員会、総務会国会対策委員会の審議を経て、どうやら国会提出が認められ、参議院自民党全員の賛成署名をもらって、参議院に提出できたのが、三月二六日であつた。

 社労委員会二回の審議のあと、三月二八日本会議を通過したが、地方選挙による自然休会緊急失対法改正をめぐっての国会混乱のあおりを喰って、一時は廃案を覚悟しなければならない事態までに陥つたが、最後に危機一髪という所で喰いとめ、遂に衆議院の社労委員会、同日直ちに本会議に緊急上提して成立、という真にあぶない綱渡りであつた。

 私共が適正配置論を持ち出して、違憲と叩かれながらも終始その合憲論で押してきて、実に九年目に陽の目を見ることができた次第である。各地方の条例制定については、各地の自治的やり方に大体まかせることにして、一応の準則だけ作つて参考に供したが、各地で相違は合っても、次から次へと制定を見たことは、各県薬、薬政会の活動の結果にほかならない。それらの条例も、単に既存業者の保護というだけでなく、将来において開局したい希望者に対し、絶望感を与えてはならないということも、十分考慮されたことは嬉しい。

 製企会の経済安定策も話がまとまってきた。生産、卸、小売の三者の話合いが、数年がかりで実を結んだものである。小売その他の利巾がどうという問題よりも、まず大事なことは、小売価格がどこでも一定して、店ごとに異なる混乱をどうして防ぎ、その安定を計れるかという点にある。安定したならば、将来また改訂する機会は得られるであろう。

 病院等の勤務者の立場も次第に改善されてきた。更に他との不均衡の是正、都道府県ごとに異なる地方公務員の待遇改善も、次第に手をつけることができるようになるであろう。

 三師会も、どうやら強化されつつある。共通の問題について共同の対策を講ずると共に、分業の推進に更に一段と両医師会の協力を求めてゆかなければならない。四月金沢での第一次、十月東京での第二次の薬学大会も、極めて盛況のうちに済ませることができたことは、学業の一体化が、その本筋を踏んでゆく証左と見て差支えない。

 かくして昭和38年は過ぎ去った。そして39年の元旦を迎えた剤界も学界も、製薬界も、それぞれの目標に向かって一層横の連携を計りながら、未来への歴史を創造する努力が続けられるよう祈ってやまない。

 ふたたび信頼について 武田薬品福岡支店長 国松藤夫

 昭和三十九年の栄ある新春を迎えるにあたり、薬業界各位のご繁栄を衷心よりお慶び申上げます。

 昨年は私共の薬業界にとりまして実に多難な年でありましたし、また更に引続き未解決の多くの問題をかゝえて越年した訳でありますが、ここに私が平素考えていることの一端を述べさせて頂きたいと思います。

 昨年も私は信頼というテーマのもとに、そもそも人間がその内面的にもつ心というものがいかに、もろくも弱いものであるかということを例をあげて述べ、そのように弱くもろい人間を、企業という生産的な社会の中で訓練し、教育して今日の拡大した経営規模の中で如何にして人材の育成をはかつてゆくか、そして企業の安定、発展のためには真に信頼出来る従業員を養成することが重要なものであるかということから、経営者と、従業員の相互信頼の相関々係に言及し、同様に薬業界のきびしい競争場裡においても共存共栄のためにはメーカー、卸、小売の三者は縦横が有機的にその業体の社会的使命を自覚し、相互信頼のもとに過当競争に対処し、流通価格、流通経路について、医薬品の特殊性という観点から業界各位の認識と自覚とを特にお願いしたのであります。

 それはただ単に昨年の年頭の時にのみ私が感じたことではなくて、こゝ数年の間、私が常に考え続け、現下の業界の状況から今日特に相互の信頼ということが益々必要性をもつことを確信するものであり、再び信頼についてその所感を述べる気持になつたのであります。

 さて、昨年の経済の動向は、景気調整から回復への足どりをとつたとはいうものゝ、成長のテンポは極めてゆるやかであり、公共料金の値上がり卸売物価の大巾な上昇をみるなど、値上がりムードの中で景気は必ずしも回復への道を進んだとは思えませんでした。経済企画庁はこれらの推移から本年の経済の見通しは、国際収支は経常収支五・六億の赤字となり、このままでは総合収支で四億ドルの赤字は避けられないとし、その対策として経済運営も引き締めを基調とすべきであり、成長率は実質六%台に考えているとして、最近の国際収支、物価動向から基本構想をまとめ、設備投資の面でも安易な投資拡大を押える模様であります。

 更に本年から完全な貿易自由化となり、本格的な開放経済体制にはいり、国際競争が益々激化してゆくことが予想されます。 しかし乍ら一方昨年七月、今后の地域開発の実質的な中核となる新産業都市が指定され、当九州地域では「大分、鶴崎」「日向、延岡」「不知火、有明、大牟田」の三地区が該当し、ともすれば開発がおくれ経済も停滞勝ちとなっている九州地域にとつて、この三地点が九州開発の突破口となるであろうという希望的な意味合いからその意義は極めて大きいと思つてよいのではないでしようか。

 ところでわが業界にとつても一昨年の春、政府の強い要望によって、懸案の製企会の小売市場安定対策要綱が、昨年八月の薬業安定協議会発足とともに、関係者の間で根気強い話合いがすゝめられ、あわたゞしい準備期間を経て先づ福岡県において九月下旬より十月初旬にかけて実施の運びとなりましたことは、皆様と共に誠に慶びに堪えないところであります。

 御承知の如くこの要綱は小売向市場の安定を目的として流通秩序を確立し、適正な商習慣を確立、価格安定、市場流通量の積極的調整などをはかることを目的としております。この要綱に基づきメーカー、卸、小売の三者の話合いが薬業安定協議会を通じてなされることになった訳であります。そして中央薬業安定協議会のもと、全国各都道府県毎に地方薬業安定協議会が設置され、各地方で起こった混乱是正のためメーカー、卸、小売の三者がその解決へ努力することになつております。

 九州地区におきましては、幸いにして各県衛生部当局の熱心な御指導と御尽力により、全国にさきがけて全県すでに設置され着々とその骨組みが出来、肉もつけられつつありますことは御存知の通りであります。医薬品のもつ信頼性という観点からそれ?の立場で認識を新たにし、その認識の基盤に立って共存共栄への道を見出してゆくこと、即ち市場安定政策に関する最大公約数に向かって努力が集中されたことは、薬業界繁栄のため大きくステップをふみ出したことを意味するものと考えております。

 けれどもこれを実施してゆくに際しては、いろいろと困難な問題にゆき当ることが予想されますが、たとえどのような困難な事態に遭遇しようとも是が非でも私共は安定への努力を払ってゆかなくてはなりません。何と申しましても、代表的な乱売品として医薬品の名があげられるようなことでは消費者に「くすり」というものに対する不信感をいだかせることになり医薬品のもつ特殊性からそれは実にゆゆしき問題であります。その意味で折角話合いの場として出来上がった薬業安定協議会が時代の私生児とならないよう、また徒らに空廻りしないよう私共はルールを守り、お互いに強調し、場合によっては謙虚な気持で反省もし、それ?が姿勢を正して業界の安定目指して今后更に一歩?努力を積み重ねてゆくべきであると考えます。

 私共は長期的な業界の繁栄と安定のため、目先の好餌につられることなく消費者から常に信頼される優秀な品質をもつ医薬品の生産と適正な利潤を獲得する販売方策をもつて業者同志が縦横の連繋を保ちお互に信頼し合ってゆくことを一日も忘れてはならないと思います。このように昨年の業界を顧みてみますと私共が問題を解決するに当つては結局相互信頼ということこそ業界の混乱を避け、引いては業界繁栄への一番の近道であることを痛切に感じている次第であります。

 年頭所感 九州山口薬剤師会 会長 瓜生田 定

 年此処に改まり昭和三十九年の新春を迎えるに当り、謹しみて皇室の御繁栄と国家の隆昌及び業界の安泰、会員各位の御発展をお祈り申上げます

 思い出の多かつた昭和三十八年は我が薬業界にとつても尤も記念すべき年でもあつた。日本薬剤師会では業界の安泰は薬事法改正特別調査委員会を設けてこの問題と取組み、高野会長は議員立法に依る早期立法の決意を固め、参議院に薬事法一部改正の狼烟を挙げたものの、孤軍よくこの大事業をなし得るや否や一沫の不安を持つものであつたが、あらゆる難関を突破良く法案通過と云う大事業を達成し、業界に安泰の希望をそそぎ得た事は、洵に高野日薬会長の政治力の偉大なる結果によるもので其の偉大さを今更乍ら感嘆して止みません

 改正薬事法実施に当つての都道府県の条例の設定にともなう数々の問題や或は小売薬業組合を中心とした価格安定に関する対策等、我が九州山口薬剤師会に於てもこれ等諸問題と取組み、時に各衛生部長との懇談会を初め或は各県薬務行政指導面の意見調整をなすなど、官民一体となっての融和と信頼の実績をあげ、薬学大会又盛大に南国情緒豊かな神都宮崎の地に行ない、薬と健康の週間及び薬学講習会又予期以上の好成績をあげて終了した事は、誠に会員各位の御協力に対し心から感謝の意を表するものであります。

 今此処に新らしい年を迎えるに当り会員各位にお願い致したい事は、会員の皆様が政治に関心を持ち、団体として薬剤師が強い結束を持つ事であります。我々五万の組織力を持ち乍ら衆参両院に只一人の代表しか持ち得ない薬剤師会は医師会や歯科医師会に比して之れで良いのであろうか、今後数限りなき問題の法律による解決の外なき案件をかかえた業界岩下候補さえ当選の栄冠を勝取り得ず僅かに推薦候補の当選に満足する業界の今日のあわれさを見る時、実に薬剤師の前途きわめて多難を思うのである。

 参議院選も遠い事の様に思うて居つたが早や来年に迫った。高野日薬会長の再出発は当然すぎる程当然で是非御当選のよろこびを勝ち取らねばならぬ薬剤師としての至上命令である。しかし選挙はむつかしい一朝一夕にして出来るものではないが、今からでも遅くない六十万票の獲得が先決問題である。九州山口薬剤師会の手によってでも高野日薬会長を参議院に送ろう、そして薬事に関する法律問題は九州人の手に依つて解決を見よう牛丸薬務局長にも九州人としての協力をお願いをした、業界の前途はイバラの道であり又洋々たる希望の花ぞのでもある、九州山口の薬剤師会の諸君、此処に年頭の所感としてお願いする

 年頭のことば 福岡県技師・県女子薬剤師会副会長 田中美代

 平和な年であるようにと願った、兎の年であつたが、さまざまな血なまぐさい事件が、つぎからつぎに発生して、悲しみのうちに暮れて行つた昭和三十八年である。

 かぞえあげてみるときりがないが、その中でも大きな事件は、京浜線鶴見駅近くでの三重衝突、三池炭鉱の炭塵爆発、ケネディ大統領の暗殺という、すさまじいというほどに修羅の年であつたといえよう。防ぎ得べくして防ぎ得なかつた列車事故や、炭塵の爆発事故は、なんといつても人災であろう。なすべきことをなしておれば、防ぎ得た事故も、防ぎ得なかつたということは半面、利潤追求に追はれる資本主義社会において、今後も亦あり得ることであろうことと思えばまことにいたましい犠牲である。新仏をむかえた犠牲者の方々に、心から哀悼の意を表し、併せてなくなった人々の冥福を祈つて新春をむかえたことである。

 国民健康保険制度の充実に副い、医薬品の適正な販売機構を確立するという目的をもつて、薬事法が改正され、「薬局等の配置の基準」が法制化された。表面の理由は兎も角、さしあたっての目的が、医薬品の濫売を防止し、併せて薬価の安定をはかるという、意義の方が大きかつたのではあろうが。

 昨年の暮れから山口県下一円では、大衆医薬品を主とする販売合戦が始まり、混乱を生じたため薬価安定協議会に諮って、解決しようとのことであつたが、協定ができたとの話をきかないので、収拾がつかないまま年が明けたことになるわけである。きけばスーパー側が、県の「配置の基準条例制定に反対しての攻勢だとのことであるが、新春とともにどのような解決がなされることであろうか。

 ところで近頃の医薬品のコマーシャルを聞いていると、「大量摂取」ということがよくいわれる。我々の今日までの医薬品というものの概念では、凡そ割り切れない大衆医薬品が出回って来て、しかもこのような医薬品によって、業界が混乱し、経済的にもおびやかされていることは、業界のため哀しいことである。このような医薬品というもののあり方については、やんごとない方々によって、おそらく検討はなされていることとは思われるものの、「大量生産」「大量販売」の世の中において、末端の販売組織にだけ規制を加えるあり方が、果たして妥当かどうか、しかもこうしたことがこのような、紛争を惹起する所以のものであるという、巷間の噂をきくとき、一面又理由がないでもなさそうに思えてならないのであるが、果たして???

 山口県でこのような不幸な紛争を、対岸の火災視することなく、条例の運用に当つては、審議会の方々の卓越した御手腕による、適切な施策を心から念願してやまないのである。強力な条例の制限規定にも、知事の裁量の余地が残されているとはいえ、この条例によって保護される(あえてこのことばを使うことをお宥し願つて)医薬品販売業者のしあわせもさることながら、その責任の重大であることを痛感して頂きたいと思ふ私である。

 何時ものことながら口を開けば、中小企業の救済策が叫ばれるのであるが、いざともなれば、これといつた施策もされないのが、政党の口約束であり、中小業者の生きて行く道は、結局のところ自からの手腕に頼るより方法がないのが、今日までのあり方であろう。「スタンプ」商法にしろ「ボランタリーチエン」にしろ、よいと思う組織や機構、方法等は、むしろ積極的にとりあげてみる必要があるのではなからうか。ひところ目の敵にされた、スーパーにしても、時代の要求として出現して来た業態である以上、もはや今日ではこれを阻止することはできないのである。こうした大資本の攻勢に対抗して行くためには、自らの手で道を開拓して行く以外にない。しかしながら如何に賢明であるとはいえ、凡そひとりの力で全きをなし得るものでもなからう。ここに私は薬剤師協会があり、そして私達のための福岡県女子薬剤師会があるのだと叫び、その団結を心から希うものである。

 販売業者の配置の基準という公権力に、依頼心をおこすこともよかろうよかろう、がこれのみによって商権が保護され、確保できるものでもない。医薬分業制度の発足当初に、全国に出廻る処方箋数は、凡そ七千余枚といわれたのに比べ、今日では二十倍といわれているようではあるが、それでも一薬局あたり、月僅かに十枚程度にすぎないという現状は、今日でも未だに名ばかりの医薬分業制度といわざるを得ないのである。

 乱売でもつて商権を守らうとし、安売りでもつて安売りに対抗しようとする愚かなことを、何時までも繰りかえしていたのでは、医薬分業制度の完全な実現はほど遠い夢物語りであり、しかも薬とは定価はあってもないものとして、国民の信用をなくすることは間違いのないことであろう。近頃「目玉商品」を陳列することによって、その店の特色を出し、商品の売上げを増やさうということが、考えられて来たようである。薬業界においてもとりあげてみられてはと思う。

 利潤が多いといわれた抗生物質も、一部が既に年末に、残りも三十九年の十月頃までには、自由化されると聞く。業界もいよいよ国際商品の出廻りにつれて、競争も亦国際化して行くとき、女ならでも緊褌一番を叫びたい。龍は、時を得て昇天するという。十二支にこびるわけではないが、その年頭に当たって業界のみなさんの、たゆみない研さんと、努力を期待して明日への繁栄をお祈り致したい。

 福岡県女子薬剤師会が、満十年の歳月をむかえ、ささやかながらも昨年、記念祝賀会を催した折り、大方のみなさん方から力強い御勢援と、御激励のことばを頂いたのも、昨日のような気がする。 一口に十年といっても、関係のない人には、感動も薄いことだらう。しかしながら当事者達にとつては、これまで辿って来た長い間の、かずかずの労苦とともに思い出も亦、ひとしほのものがあるのである。 わけても今日まで業界や薬剤師協会、そして又薬業界のみなさん達からいただいた、十年間のご援助に対して深い感謝の念を捧げるとともに、貴重なこの一ページをお借りして心からの御礼のことばを申し上げ、併せてひちりよがりの僭越な駄弁をお許し願うとともに、新年のごあいさつを申し上げます。

 社会保険調剤〔医薬分業〕に思ふこと 福岡県薬剤師会 社会保険担当理事 中村里実

 序めに。輝かしい昭和三十九年を迎えて・・・と年頭の祝詞を申し上げたい処でありますが、剤界苦難の余韻は本年も亦限りなく続く事でせう。勇を鼓して本年も亦斗い続けませう。社会保険調剤(医薬分業)につきましては本紙上やその他凡ゆる機会に茲数年来、喧々囂々の論陣を張って参りましたが、極く少数の有志及び同志の方々を除き多くの薬剤師の方々に反応が殆んど有りませんでした。

 何故だろう?種々考察致しました結果、甚だ遺憾乍ら一般の大衆と同様「ご利益(りやく)」利害損失から説き進めねば目的を達し得ないと漸く悟りました。そこで今回は、小正の本意に沿いませんし、同志の方々には甚だ御無礼ですが、右の線に沿つて申述べたいと存じます。

 (一) 保険薬局(保険薬剤師)のお利益について

 (イ) 経済的な面。保険処方箋を発行される医療機関が甲表、乙表は何れにしましても、薬価基準価格+調剤料からなる調剤報酬額を確保出来ます。その収益率及び、一日二十枚、月六百枚の保険処方箋を調剤した場合の設例で具体的に数字として示したいと存じますが、本紙上での公開は差控えたいと存じます。特に関心と熱意を有される方は小生迄御照会戴きますと具体的に御回答致します。尚日薬を中心とする努力により、近き将来、技術料たる基本調剤料新設の可能性があります。

 (ロ) 保険薬局(保険薬剤師)の信用を増大致します。医薬品販売部門において医薬品の特殊性を如何に技術性を大衆に認識せしめる事は容易ではなく、従つて販売部門において薬剤師への大衆の信頼を確保する事は至難であります。特にマスコミの発達した今日では然りであります。一方保険調剤(医薬分業)に於ては、大衆の健康と生命に関与する大切な医薬品が医師、薬剤師の二面的な管理に置かれる事により更にその安全性を増し、即ち処方箋調剤をする事により、薬剤師は単なる医薬品販売業者ではなく医療担当者であり、医薬品及び保険指導の専門家であるとの信頼を受け、信用を確保することが出来ます。そして処方箋を介して相談客〜固定客を得る事になり、必要に応じて処方箋発行医師に患者を紹介して共存共栄を計る事が出来ます。

 (ハ) 乱売対策について

 乱売については凡ゆる観点から安定への努力がなされなければならない事は申すまでもありませんが、資本主義、自由経済社会においては安売り傾向は必要性を有する事も申すまでもない事です。然も一方医療保険制度及び医療保障制度は拡大充実されてゆく事も亦時代の趨勢であります。現状のまま推移しますならば、薬剤師は医療の部門においても、販売部門においても疎外されて参ります事は戦後の剤界薬界の歴史を顧みれば瞭であります。薬学を学び、社会に貢献せんと意図する薬剤師にとつては寔に遺憾な事であります。斯かる窮状を打開するには薬剤師本来の姿であります保険調剤を担当し、医療部門に参画する事の必要性が大とまって参ります。そして保険調剤には乱売も無く、その活用によって乱売に十分対抗してゆける事は前述した通りです。然も日夜価格問題に心を痛める事もなく、薬剤師としての品位と自信を以て大衆の福祉に貢献出来て、日々を快適に平和に過す事が出来ます。

 (ニ) 病院勤務薬剤師と保険調剤(医薬分業)について

 保険調剤(医薬分業)の進行につれ地区的に保険薬局の不足を来し、医療機関たる保険薬局の適正配置(増設を意味する)問題が提起されつゝあります。然も病院勤務薬剤師の方々は調剤に関する多年の経験と親しい医師との緊密なコネクションによって保険薬局(保険薬剤師)として有利な地位を確保する事が出来ます。病院薬剤師と医薬分業に関連しては尚私見を有していますが、本文は開局薬剤師に主体を置いていますので何れ機会をみまして論じたいと存じます。

 結び

 教養高き薬剤師諸兄姉の皆さんに甚だ失礼な事を申上げました。薬剤師の社会的、経済的地位を確立するため、分業の早期実現を期するべく皆さんの関心を喚起したかつたからです。御容赦ください。開局薬剤*の多くには今日尚「あきんど意識」が底流として抜き難いものが有り、それが今日の薬剤師の悲運をもたらしている重要な因子ですが、それも明治初年以来の日本に於ける薬事制度、医薬制度(主として医薬分業制)が完成されていなかつた事に起因しています。が対外的には弁明の余地なく、私共は「あきんど意識」を克服し、抹殺しない限り、輝かしい将来を期待することは出来ません。

 社会保険調剤(医薬分業)の理論及び小生の信念については、福岡県薬剤師会報第百号記念号に詳細論論述していますので御被見、御批判ください。

 目出度い新年早々不礼の言辞を弄し恐縮です。特に県内外の同志諸兄姉には申訳なく存じます。最後に、本年の我が愛する剤界が幸せであります事を念願しつつ筆を終ります。

 麻薬中毒 福岡県薬務課麻薬係長 技師 佐藤 勉

 「麻薬中毒」−耳新しい言葉ではないが、これ位人間にとつて、いやな病気はない。一種のごうのようなものであろう。生まれて始めて何かのために注射した第一回の麻薬−それも吐き気がして、地底に引き込まれるような不快感・・・・・・−これがその人の一生を支配するとは、どうして考え及ばないが、二回三回とくり返しているうちに注射時の刺激感が、忘れられないものとなって麻薬に対する心身の依存度は、加速度的に増加し、禁断現象は、急速に絶え間なく襲つてくる。麻薬への欲求は、食欲や性欲すら忘れさせ、遂に暗い人生を送ることとなる

 人は麻薬中毒だけでは死なない、中毒になったために、食欲がなくなり栄養失調になつたり、結核にかかつたり、不慮の災害にあつたりして消えて行くのである。数千年の昔から「けし」や「大麻」や「コカ」は病傷の痛みどめとして、使用され多くの人々に感謝された反面、悪魔の薬として国を亡ぼし、人を毒して今なお、人種や、主義や、社会や貧富の区別なく、すきあらばたおしてやろうと身構えている。

 多数の学者が之の代用薬の発見には心血をしぼつてきたことと思われるが、まだ残念ながら、成果はあがっていない。たまたま発見しても、新しい麻薬をふやす位のものである。最近麻薬取締法等の一部が改正され、麻薬取締の強化、罰則の強化、麻薬中毒者についての措置入院の規定等ができたが、これだけでは、麻薬禍の諸問題は解決されない。

 要は、麻薬と同程度以上の鎮痛作用のある非中毒性医薬品と、中毒の即時脱慣剤等の発見を今後の研究に待つ外はない。これは化学者に科せられた大きな使命の一つであり、人類の悲願ではないかと思われる。

 随想片々【16】 潜行千四百億円 礒田秀雄

 「潜行三千浬」と題した一文を読んだことがあるが本文は「潜行千四百億円」と云ふ変なみだしである。読者のみなさんのご玩読を願いたい。

 厚生省の発表によると卅八年の医薬品製産高は二千六百五十六億円余円である。このうち四十%が医療機関で使われるとすれば一般消費はその六十%の一千五百九十三億となる、これは生産者価格であるから小売価格に換算すると割引濫売の昨今であるから〇、八で割ると約二千億円になるがそれだけの医薬品が年間に九千万の同胞によって消費されていることになるから二千億円を九千万で割ると国民一人当りの消費は二千二百二十二円となる。

 一方、薬局薬種商を含めて四万の小売薬業者の一日の売上高平均額については明細な数字を有しないが先年福岡県薬務課の談によると一日売上平均額は七千円といふ数字がでていたが、その後国保の普及と医療給付率の引上げの影響で薬店の売上げは減少しているので、今日では日商六千円と見るのが妥当かもしれないが、ここでは七千円とみて計算することとしそのうち関連商品の売上げを四十%とみると七千円のうちの六十%即ち四千二百円が医薬品の売上げとなる。

 これを三百六十倍すると約百五十万円が一年間に於ける医薬品の販売高となり、これに小売薬業者数四万を乗ずると全国の医薬品小売業者の医薬品販売高は六百億円と云ふ数字がでてくるが、総生産高から割出した医薬品の一年間の消費額二千億に比し千四百億円の相違があることとなる。

 生産者−卸業者−小売業者、この正規の流通機構に沿って流通している医薬品は二千億円のうちの三分の一にも充たぬ六百億円に過ぎず生産者から直接消費者へ、卸売業者から直接消費者へといふ正規の流通機構に乗らないで消費される医薬品は全消費額の三分の二を超す千四百億円でこんなべら棒な話はない。

 更らに小売薬業者の取扱高六百億円を国民一人当り消費高二千二百二十円で割ると二千七百二万七千二十七と云ふ数字が算出されるが、九千万国民のうち小売薬店から医薬品を購入しているものは僅か二千七百余万人で、六千三百万人は小売薬店からは医薬品を求めていないと云ふ数字がでてくるが斯んな現状では薬業界の混乱と破綻が生起してくることは当然といわねばなるまい。

 本稿の標題「潜行千四百億円」と掲げた理由は千四百億円の医薬品は流通機構に乗らずに潜行しているとの意、読者各位の御批判御研究を乞いたい。

 往きし歳の想いで 学校薬剤師会九州連合会長 早川正雄

 輝しい新春を迎え心から皆様の御多幸をお祈り申し上げます。昔から光陰矢の如しと云いますが昨年は特に重要な諸件並びに諸事業に追はれて一段と早く過ぎ去ったような気がする。今それ等の中から特に気付いたものにポイントをおいて筆を走らせて見よう。

 △第十七回日本薬学大会から三日間金沢で開かれたが相憎の雨にたたられて困った。併しそれが却て出席者の足を釘付けして途中退場者も少く各分科会共非常な盛り上がりを見せ、学校薬剤師部会では珍しく「学校便所」に対する「シンポジウム」が注目を引いた。併し何と云つても本大会を圧巻したのは開局部会において「スーパーには理論的武器があると……」獅々くした読売新聞渥美俊一氏の特別講演だったろう。全く名実共に立錐の余地なき迄の大盛況振り。そのユーモアにして真剣な講演振りが如何に現業界人の心を捕えたか今でも強く印象に残る。

 △九州各県学校薬剤師代表者会から。八月廿四日から三日間に亘って鹿児島で開かれた第十四回九州地区学校保健研究協議会の前日、恒例の九州各県学校薬剤師代表者会が満州館で開催され、今回は全国的に問題になっている環境衛生測定用器具の整備方を主体として研究協議した。去る七月各県一斉に調査した報告書の集計に依ると、福岡県を除いては各県共未だ見劣りがあり中には殆ど整備されていない所も飛び出して意外な注目を引いた。勿論その原因が地方財政に起因する事は論を待たないが之に対する今後の対策としては現在の整備資金が各県共殆ど学校薬剤師会(薬剤師会を含む)教育委員会、学校保健会から出ているのに鑑み、之を一応参考にして努力するよう申合せた。既に学校保健法においては各学校に備え付けるよう五品目があげられているが、之も殆ど名のみと云った状態で政府の補助がある迄は止むを得ないと云った見方が強かつた。併し此処数年に亘る学校保健会での要望もあって、本年度から向う三ヶ年に亘って文部省と都道府県折半負担で一セツト八品目約二十万円が公立小中高二五校一組として整備されることになつたので福岡県では既に五一セツト整備の計画が立てられており之が実現すれば近く完成する環境衛生手引書と共に、愈々学業活動の将来性が著しく充実して行くものと思はれる。 併しそれ迄にお互の実力倍増が一層必要である事は云う迄もない。

 △九州山口ブロツク宮崎大会に想う。開催地巡環式とは云え特に会員の少い宮崎県の過去一ヶ年に亘る準備の労苦に対しては心から感謝したい。只将来を考えて云える事は、本会場を部会場に当てたのは広さと出席者のアンバランスに於いて拙かったと思う。つまり部会場は一つの研究協議の場所であって会員を其の中に引込んで行く上にも又全体の盛り上りを作る上にも雰囲気において大きな影響を与える場合が多いのでやはり会場の調整については将来一つの要点として考えて貰い度い。併し文部省の本山事務官の学校保健に対する特別講演に県下の学校保健関係者を聴講させたのは実に上出来だったと思う。 △全国学校薬剤師大会から。今年の熊本に於ける全国学校薬剤師大会は、従来の方式を一変して全国学校保健大会の第一日目終了後午後五時半から太陽デパート特別室に於いて盛大に開催されたが、其の時印象に残ったのが熊本市学校薬剤師会の日本学校薬剤師会賞の受賞と余興の一こまだつた。 熊本の代表的民謡として全国的に有名なオテモヤンの実演は流石に魅力溢れて拍手喝采の連発……特にオテモヤンと司会者との対決のひと時には、オテモヤン特有の恋愛感情がむき出しにでて一同を無精に喜ばせた。先づは地元の成功と云えよう。

 △御婦人団の見学旅行に
 大牟田市学校薬剤師会では十月廿八日、かねて留守居がちな奥様をその他の御婦人連を招待して、白秋の詩情豊な水郷柳河下りを行った。所が燈台もと暗しで殆ど初めての人ばかり。皆心から喜んで之からの学薬の活動に一層のファイトを与えてくれたことは幸甚の至り。是非各地でも一度やつてもらい度い奥様慰安の催であると思う。

 回顧 野口秀夫

 昨秋、例年の通り「薬と健康の週間」に因んで色々な行事が催されましたが、その一環として薬事功労者の表彰が行われました。式は知事室において、五郎丸県薬会長及び県衛生部関係のオエラ方の侍立の上、極めて厳粛にとりおこなわれましたが、感激は又ひとしおで県知事の感謝状と記念品とを頂戴しました。全く望外の栄誉と申すべきで、大変有難く思っている次第です。

 顧みて私自身果してこの栄誉に値するか?甚だ疑問としなければなりませんが、仮りに強いて言えるとするならば、それは丁度程よい齢頃になったこと、現在の私の境遇のセイとでも言いましようか。ともあれ御推挙いただいた県薬の幹部諸公の御芳志と友情とに対して、心からの謝意を申述べたいと思います。

 これを機会に私なりの薬界薬四十年の歩みを、ズツト昔の古いことなどを追憶して見たいと思います。大正十三年の春長崎医大の薬学部を卒業して、今年の秋頃までにはスクラツプ炭鉱として姿を消し去らねばならない悲しい運命になって居ります三井田川鉱病院に奉職しました。当時の炭鉱病院の在り方は、院長が病院を開業している形式になっていて、医師や薬剤師は院長の雇用人として夫々の業務に従事するという形態になっていました――つまり官公庁などに提出する各種の書類は、一切院長名で警察経由をもつてなされました(保険所は昭和になってから初めて出来た)――ので私共の資格免許証は、別段必要としなかったし何等の不便も不都合も感じませんでした。

 このような訳で私の初任給三十五円に対して薬剤師登録のための印紙代の金十二円也は余りに過重でしたので、どうでもいいものは、どうでもいいではないかと申請を怠っていたのです。処が近く薬剤師会が出来ることになっているからというので、やむを得ず前記の大金を薬局長殿から拝借に及んで、手続きしたことを思い出します。従って私の薬剤師登録年月日は大正十五年三月二十七日になっていますので、金十二円也のために丁度二ヶ年程を悩まされた勘定になるのです。

 さて、その後間もなく発足を見た福岡県薬剤師会は、第一支部から第七支部までしかありませんでしたが、筑豊一円(鞍手、田川、嘉穂の三郡――其の後逐次市制がしかれて三市三郡の範囲となった――)をもつて第七支部が結束されました。そして支部長には直方の田丸伴太郎氏が選任された関係で、支部の総会や役員会などは、もっぱらその地元で開催されたのですが多賀神社の石段の下あたりにあつた、うどん屋風の呑み屋で確か「白木屋」といつたのが、主として会合場所として使われていました。其の後支部の会計を命ぜられて、未納会費の徴収などのために二瀬方面や直方地方などへも出向いて行ったことを思い出します。

 それから私が初めに田川支部長になりましたのは、三井病院時代でその頃の県薬はチヤンとした事務所を持っていなかつたようで、支部長会などの会合は、渡辺通り三丁目の岡本薬局の二階でやっていました。同様に乗物の便が極めて悪く、田川からは飯塚〜原田経由か、直方〜折尾廻りの汽車しかなかったので、通常社用を兼ねて出福し一泊して支部長会に出席していました。その後田川商工会議所が、田川〜福岡間の連絡機関として一日一往復だけ「銀バス」を運行するようになりました。これが後に西鉄バスに肩代りして、今日では途中無停車の特急便も含めて毎日三十往復を越す盛況を見るようになった端緒となりました。

 再度の支部長の期間を合算しますと八、九年にもなりますが、特に二度目の時は相当の年齢にも達していましたので、会員各位が万事に多めに見過ごして戴いていたようですから、御蔭もつて至極平穏無事な支部であつたと思っています。然しこれは他面からは結局何にもしなかった支部長のそしりを甘受しなければならないと思っています。 今日のトゲトゲしい薬業界の現状、災禍絶えないまでに発達した交通機関、先づは申分のない会館の実状、二十有余に及ぶ支部の盛況振り等々、昔をしのんで感慨も亦あらたなものがございます。

 寸感 九州化工株式会社勤務 前国立福岡病院薬剤科長 山本秀一

 近年薬業関係の新聞等の印刷物特に日薬紙上には、勤務薬剤師の待遇改善地位向上という問題が取りあげられ成果も年と共に逐次向上していることは心強く感ずることであるが、発足当初の日薬は主として開局者によって創立せられ、また開局者によって育成されたと言つても過言ではあるまい、従って運営の中心が開局者であり話題もまたよかれあしかれ開局者向であることも当然である。

 特に色々と議論されたり、色々と用語はかわつても、乱売防止につながりのあることにかわりはなく、常に開局者の健全運営に向つての話題に集約されていることは当然のこととは言え、その努力には心から敬意を表するものである。

 しかしながら一般大衆から言えば同一のメーカー品である限り、一円でも安い方が望ましいことにかわりはないのに、経済安定政策についてあれこれと善処方法につき協議の中を平然と、しかも堂々と日刊新聞の中に折込広告等により町内中に散布したり、店内は特価品割引赤札がすだれの如くさがり相当の成果をあげている店もある事実は、営業政策など論ずるさたでなく一日も早く協定を破った者が勝ちであるらしく、一体どうしたルートを通って仕入されるか、メーカーか、卸業者かそれとも、第三者とでもいうのか、いずれにしても仕入先の現認出来ないのは不思議の一つである。

 ともかく開局業界の苦境にあかるい光明のさす日を一日も早かれと祈るほかはない。また一方勤務薬剤師の退職後の傾向を思うに、昔は大部分と言つてよい程、それぞれの地を求めて、一応開局者の一人としておちつくのが無難とされていたが、有能の士は別として近年は開局薬剤師の業務は学問的にもきわめて複雑化され、加えて特に経済事情からしても左程手軽には開局出来かねるのが現状である。

であったが、第一議案の「薬局等の許可については」は薬局等の配置の基準を定める県条

 また一方では定年制が論議されても辞めたくないのが人情であるが、さりとて長い勤務になって退職の機を失し老朽化してから世間の荒波に飛び込むにはあまりにも不安定と知りつつも他に良策も見当らず、さりとて果報は寝て待てという程、社会は甘くもなく、例外なく多くは開局をめざす折柄、近年憲法違反論も明確に解説されて距離制限が法的に決定された今日、今迄のように手軽に免状一枚を宝として自由勝手に開局も出来かねることになった一面、また乱立とも言いたい程の薬科大学の増加によって毎年相当数の薬剤師が社会におくり出されて増加の道をたどるわけで、これらの新人はもちろん老朽組の落つく先もいづれは好むと好まざるとにかかわらず問題になる日も左程遠くはあるまいと思う。

 申す迄もなく近年著しく発達した病院薬剤師会においても大きな課題の一つとして今から十分御検討を祈るものであると共に、その他の勤務薬剤師もまた心すべきだと痛感するものである。新年に当り感ずるまま一言申した次第である。失言多謝。

 夢・三題 福岡赤十字病院薬剤部長 竹内克巳

 (一)
 昨年は新薬事法の公布や経済安定要綱の発足等で、薬業界に一つの新しい時代を作つたと言つてもよい年であつた。この様な安定ムード造りによって、業界が、より豊かなものとなる事は喜ばしい事だが、私にはなんとなく納得のゆかない点も多分にある。それは薬業界にビジヨンと称し得るものがあるだろうかという疑問である。薬業界の混乱の原因の一つに、余りにも現象のみを重視して、その現象に引きずり廻され、永遠へのビジヨンの完成に対する努力に欠けていたことも事実だと思う。自由経済の中の離れ島、統制経済グループが薬業界である様なナンセンスなものにならない様に、クスリ屋が全部チエーンストアになってしまつたらもう言う事はない、そして又医薬品は特殊品であるという自慰意識で産業界の孤児にならない様に、今年こそ新しいビジヨンを作りたい。

 (二)
 保険調剤の延びは関係者の努力の結果と真に喜ばしい事であるが、薬剤師の業権の拡張にもう少し積極性を期待したい、薬局に試験室が出来た、これをもつと活用する事を考へたらと思う。的確な診療には検査が大切な部門である事は明白であるが、日常繁忙な開業医は大いに喜んでくれると思う、医師の指示書によってする薬局の臨床検査を保険点数として認めてもらうわけである、医療両輪、医療は大いに前進するし薬剤師の信用の向上に大いに役立つ筈である。誰にも割り込む事の出来ないグラウンドの開発こそ我々の夢でなければならない。

 (三) 私の病院に「血液銀行」が出来た。厚生省の指示によって献血一本やりで血液問題ととり組もうというわけなのである。献血だろうと売血だろうと、とに角人間の尊い血液だから、出来る事なら採血をやめた方が好ましいに違いない。私は血液銀行問題に関係してみて、酸素を運搬し得る物質の開発こそ、薬局の夢でなければならないと確信するに至った。我々の体の中に酸素を導入する事が出来れば、人間の命は飛躍的に延長出来るのではないだろうか、例へば活性ヘモグロビンと言へる様なものは出来ないものか、チトクロームの開発はこれに一歩近づいたとも思えるし程遠い様な気もする。石油から味の素は作れるし、合成食品時代も余り先の事でもない様な時代だから私の夢の実現もその気でやってもらったら或はそれ程困難な事でもない様に思える。私は血を見る度に、酸素を運んでいる「赤い結晶」を夢見る。薬学研究者に対する私の夢である。

 昭和三十九年を迎えて 福岡県薬務課長 尾崎松夫

 明けましてお目出度ございます。いよいよ昭和三十九年を迎えたわけであります本年こそ吾が薬業界にも何んとかよい年であるよう願いたいものです。

 昨年は薬事法の一部を改正する法律が公布施行され即ち今日の原因となった過当競争御防止の薬局等の設置の適正配置に関する県条例も施行され、此後における薬局等の配置の適正が期せられるわけであるが、今日以上の事態の発生は防止出来るわけであり、次第に当然無理な事態は落付いて来ることを期待するものであります。

 吾々行政に当るものとしては法の示す方針に従い、県条例の規定するところによってやるわけでありますので、その期待するところは大きいわけであります。しかしまだ、この薬事法の一部を改正する法律のうち、薬局等における薬剤師の定員制の点もいよいよ一月十二日より施行されることになるわけで、薬局等の管理が充分に行われ県民大衆の消費者は、本当に従来以上薬局等における医薬品の購入において又調剤においても常に薬剤師に相談を充分にする態勢が出来たわけでありますので、より以上信頼して薬局等において健康の相談なり疾病の相談が出来るわけであり、従って此後においては薬局等も企業を安定化して消費大衆の期待に答えなければならないわけであります。

 それにはこの薬事法の一部改正と併行して、製企会二十社を中心として検討されていた薬業経済安定要綱が愈々実施の段階となり、本県においてもいち早く福岡県経済安定協議会をつくり九月十九日第一回会合を開いたわけであります。これはあくまでメーカー、卸、小売三者一体となり価格安定のため努力をしている次第で、吾等も蔭ながら出来る範囲において協力をおしまない積りでおる次第であります。

 若しこの度これが失敗するようなことがあれば、益々医薬品の価格の面において現在以上格差がひどくなると、本当に一般大衆はどれが信頼出来る薬品か同じようでありこんなに価格が違うことは中味が違うのではないかと疑うようになり、益々医薬品に対する不信感が強くなる結果を生じ、更に薬業界は混乱を生じ企業としての安定を欠くことになるわけでありますので、是が非でもこの度の価格安定方針は成功せねばならないわけであります。

 その点本県においての現在までの状況では順調に進み次第に、決定した事項については実施されつつあることは喜びにたえない次第であります。以上のような要素のもとに昭和三十九年の本県薬業界は未だ残る問題はありますが、安定された状況に進むことを望むものであります。

 従って薬業界も本当の県民の健康維持のため又自己の発展のため、より以上自粛し本当に消費者の期待にこたえてもらわなければならない次第であります。 吾々薬務行政に当るものといたしましても益々薬事監視の強化を計り、県民の期待に答えなければならないと、覚悟を新にしているもので、薬業界の皆様とともに大いにこの昭和三十九年は発展を期待している次第であります。何卒宜敷業界全般のご協力をお願いいたす次第でございます。新春にあたり本年への期待の一端を述べ皆さんとともに新春を喜びたいと思う次第でございます。

 安定への努力 九州医薬品卸連合会長 福岡 大黒清太郎

 一年を回顧して時間の経過が自分の年令に反比例して順次速度を早めて行く事を痛感するが、わけて昨年の一年は内外ともに慌しい年であつたと思う。市場安定対策要綱は出発に於て業界の自発的な発意ではない。いろいろな政治的配慮もあって、当初厚生省から安定の方向づけを指示されたことに初まるが、永い期間をかけて陽のめをみたのは、二月二六日製企会から卸小売代表に発表せられた時からである。

 以来公式に会議を重ねる事中央安定協議会だけでも、旧臘一九日東京の会合を以て第八回に及んでいる。其の他に卸も小売も又メーカーも夫々の立場での会議を計算に入れれば実に莫大な時間を要した事になる。

 この問題について、その経過の途中夫々異なった角度から様々な希望や意見が出されたが、一貫して感じた事は目前の厳然たる事実に殊更眼をおおい、的確たる認識に欠け正確にその実態を把握して真剣なる努力への反省に欠ける処がなかつたであろうかと云う事である。これはメーカー卸小売全者を通じての問題であつたと思う。併せて又感銘に堪へないのは厚生省薬務局長の熱意と網野課長の執念にも等しい指導的努力の様である。

 自由主義経済の下で経済行為に役所が深入りする事の是非について、又生産調整のない流通安定の矛盾、大量生産体制に入ったメーカー品への末端価格の規正、不良卸、不良小売に対して不良メーカーへの制裁の方法、卸業者存在の必要性、小売業者の適正マージンと其の限界、医薬品の特殊性と現実との相克等、その中どれ一つをとつても議論につくせない多くの問題があるが、兎も角も一貫した新年に基いて安定要綱の実施に迄漕ぎつけた功績に対し一業界人として茲に深甚の感謝を表したい。

 メーカー卸、小売何れにも偏せず極めて公平な立場で問題を処理せられる立派な人柄と真に業界の現状を憂ふる至情の至す処と思われるのである。全国的にこの問題も未だ完全実施に迄行っていない。尚今後に残された幾多の問題をはらんでいる。

 曰く実勢価格と指導価格 新価格体系への完全移行の時 薬専業者対異業兼業者との調整 製企会対チエーンメーカー 事業所販売対策等々あって遽かに完全実施を期し難いとは思うが、現下のきびしい経済革命下にあって繊維、食品、化粧品雑貨物業界等の如く頼るべき処もなく右往左往しながらも、完全自力で立ち上る以外に方法のない業界の方々から見る時、未だ薬業界の現状はその特異性の業種なるが故の恩顧を篆つて居る事に感謝し又その特異性なるものが吾々業人にあるのではなく、国民の保険問題に根ざすものである事を反省し、広く業界の総力を結集し真に国民大衆の信頼に応へるべきであると思う。

 昨年十一月十九日大阪で開催された中央安定協の席上、全国各県の安定協の発足並びに実施状況と報告を持ち寄って当局に報告したが、既に九州各県は完全実施に入って居り、その実施手段等については他ブロツクの今後の参考に供される処大であつたと思われる。これは要するに現地のメーカー、卸、小売、三者一体努力の賜と思われるが、同時に各県薬務課当局の絶大な指導援助のお蔭と思い深甚の敬意を表したい。

 九州ブロックは特に福岡県は全国のトツプを切って要綱の実施に踏み切つたが、どうか崩れることも又早かったと定義づけられない様業界ぐるみの総力精神を続けたいと願って己みません。

 薬剤師よ誇りを持て!! 若松薬剤師会長 県薬理事 古賀哲弥

 薬剤師としてすすむべきか、商人として生きるべきか、と云ふ事が巷間よく論議される。扨て、私達が薬大(薬専)に於て学ぶ課目は無機化学、薬化学、裁判化学等々殆んど化学に関連した事ばかりであるのに反して、学校を卒業し開業へと進んだ薬剤師は之等が殆んど役に立っていない。開業して現実に必要なのは商学であり経済学であり簿記計算であるのに、之についてはほんのちょっぴりしか学んでいない。なんの為に高い授業料を払って薬大を出たのか、実にもつたいない気がする。

 同じ大学に学ぶにしても一方の医師は開業数年にして大金を獲得し、小さな借家の診療所も忽ちにして堂々たる洋館の医院に改築する。それなのに一方の薬剤師は大部分のものが、開局すれば廉売の渦に巻込まれてあえぎあえぎ毎日を暮し、勤務者として病院や官庁に勤めればその待遇に医師との差がつけられる。全く悲惨の極みである。「薬局業は一代で沢山である」「自分の子供は絶対に薬剤師にはしない」などと云う声が薬業剤界の流行語のようになっているのもむべなるかなである。

 でも、我々の道は段々と開けつつある。希望を大きく持とう。我々自らの手でその地位を勝ち取ろう。ローマは一日にして成らなかつた。我々薬剤師も目標を遠くに掲げこの目標に一日も早く近づくように、同志手を携え団結の力でがんばろう。餓死してはおしまいである。それが為に先づ経済基盤も築かねばならない。然し我々の本来の姿は医療担当者であり科学者であると云ふ事を、寸時も忘却すべきでないと思ふ。社会保険分業を促進しよう。保険薬剤師として一枚でも多くの処方箋を獲得するよう努力しよう。亦凡ゆる受入態勢を完備して一枚の処方箋もことわらないように努めよう。だからと云って、処方箋獲得の為医師や歯科医師にへつらうような言動はつつしもう。正々堂々と対等な立場に於て事を進めて行こう。かくして始めて医療担当者としての道が正しく開けてくるものと思ふ。

 学校薬剤師として商売気を抜きにして学校保健に奉仕しよう。毎月半日の余裕があれば事足りる。薬剤師の化学者たる事を周知せしめるには学校は亦とない良き機会であり且つ良き場所である。学校に於ても薬剤師としての権威を持とう。臨校時の対象は養護教諭ではなく校長である。助言は校長室で校長相手にしよう。服務の帰りを校医が自動車で送られれば、薬剤師も自動車で送られる事を辞退する必要はない。すべて対等の接待に預るべきである。

 公衆衛生的行事には、会として個人として機会ある毎に努めて参加しよう。街中に進出して、薬の商売をするだけが薬剤師の仕事でないと云ふ事を大いにPRしよう。亦有意義な会や団体には余暇を見て進んで加はつて行こう。ロータリークラブやライオンズクラブの会員になるのも良い。PTAの役員になるのも良い。自治会や町内会の世話人になるのも亦良いと思ふ。とかく薬剤師は公の立場に於て人に接する事に尻込みをする嫌いがある。私自身もそうであつた。然し進んで要職にある人と接する事は、薬剤師のその何たるかを知らしめる意味に於て大変効果的である。外部の公の会合には進んで出席し大いに薬剤師の宣伝をすべきである。

 薬剤師会の定時総会にも予算の許す限り多数の高級来賓を招聘すべきである。案内状の数に対し来賓が何名欠席するかは、薬剤師会に対する、又薬剤師に対する第三者の認識のバロメーターと見ても良いのではないか。我々薬剤師の地位向上を期する為には以上の他にも色々となすべき事考えるべき事があると思ふ。薬剤師としての確固たる信念を持とう。社会的使命を自覚しよう。

 過日こんな事があつた。その対三師会懇談会の時である。開会早々に我が長野北九薬会長は発言を求め、市長助役局長以下当局一同の前で「配布された印刷物に薬剤士会と書いてあるが不見識も甚だしい。我が会は薬剤師会である。爾今かかる間違いを起こさぬよう厳に注意ありたい。」と堂々と一矢を報い、当局は陳謝の意を表した。この気概である。細かい事のようだが、こんな事が大事ではないかと私は思ふ。全く痛快な気持であつた。新しき辰年の新春に当り、私達は心を新たにして薬剤師としての誇りを持とう。そして我々の社会における地位を更に一段と高めて行こう。

 漢方ブームに思う 九州漢研 開局 戸田秀実

 一、漢方ブーム
 ここ数年来静かなるブームと呼ばれていた漢方は次第にその勢が盛んになり、マスコミに再々取り上げられ、婦人雑誌に枸杞が掲載されてより一躍枸杞ブームと巻起し、国内品では間に合ず、朝鮮や中共から輸入し、到る処で話題となっている。又出版社は各先生に依頼して、一般向や専門家向の漢方の解説書を次々に出版し、漢方に対する啓蒙と理解が深められている。一昨年は阪大の高橋助教授、昨年は名城大の長沢助教授、小太郎漢方の上田社長等相次で中共を訪問、学術的又実際面等について彼我の現状の交流も活溌となりつつある。

 二、薬禍の問題
 先にサリドマイド事件の如き奇型児問題、続いてエノビツドによる凝血性静脈炎発生論が飛び出し、まだその熱がさめないうちに今度はテトラサイクリンの服用で奇型児惹起の疑い濃厚という説が出る始末で、何れも海外での話であるが、薬理面からする理論的な根拠は明らかにされていない。又我国では岡大の谷奥教授は薬の作った病気について、次の十項目をあげていられる。

 1、アレルギーに関して作られた疾患
 2、抗生物質の作った病気
 3、輸血により作られた疾患
 4、副腎皮質ホルモンにより作られた疾患
 5、酸素吸入により作られた疾患
 6、乳児栄養障害に対する治療によって作られた疾患
 7、ビタミン過剰投与に作られた疾患
 8、予防接種によって作られた疾患
 9、レントゲンを初め各種の放射性物質照射によって作られた疾患
 10、黄体ホルモンによって作られた疾患

 結論として、このように生体は有形、無形の害を受けながら生活を続けているが、進歩という名の下に数々の治療法が工夫され、これが病める生体に加えられるとき、ここに一つの害作用が加わる場合もあるわけだ。以上の「医療の作った疾患」は主に経験のある医師が患者を自領したときに起こったものであるが、決して医師ばかりではなく、看護婦、薬剤師などにも責任の一端を負う場合がないとはいえない。このように専門家でも薬禍という事態を招くのに、もし素人が一知半解知識によって薬剤を使用したときの薬禍は更に恐るべきものがあろうと信ずると結んである。一般大衆が華やかなマスコミを通じて宣伝される新薬に飛びつくと共に、一方では数千年の人体実験を経た漢方薬に向かってくるのもうなずける。

 三、今後の問題点
このように漢方に対する認識は次第に深まっているが、我国の現状はこの課題即ち漢方の特長をいかして、それを更に科学的に探究して人類の健康に役立たせる為めの基本的の問題は一つも解決の方向に向つてはいないのである。 漢方の講座を大学に設けるとか、総合研究所が必要であるとか色々の意見はあるが何一つ実現はしていないのである。

 一九六〇年に出来た日中医薬協議会や、医薬界、又既存の日本東洋医学会などが手を携えて、一日も早くお隣の中共の医薬界との交流を推し進めるならば、中医(漢方医)と西医の共同研究になる貴重な臨床データは、大きな影響を与えるであろうし、資源の交易はもとより漢方の解明に積極的に努力して、国民の保健の向上に尽くして頂きたいものである。


九州薬事新報 昭和39年(1964) 1月10日号 第554号

 第二回佐賀県薬業安定協議会

 佐賀県薬業安定協議会は第二回例会を旧臘拾六日午后一時から県図書館会議室に於て開催した。メーカー、卸、小売代表三拾名が参集し
 @指導価格実施後の情況
 県下全般に互り大体好調に実施されている。スーパー、生協も協力しており、試売の結果も違反は殆んど無かつた。一部の地区では指導価格を上廻った協定価格で円滑に実施している。
 A価格の表示について
 指導価格品目に限定し、価格表示の方法として折込ビラやふんどしポスターは自粛し、新聞半頁大の黒板によるPOP広告一個だけを認める、なるべく商品毎にハガキ半分大以下のプライスカードを出す。  B指導価格の追加変更
 C委員の登録の変更
 D各県の情況報告
 特に藤井薬務課長より先月始めに長崎県との薬務行政に関する連絡会議を開き長崎県業者より本県内にばら撒かれる廉売広告について自粛させるよう要望した旨の報告があつた。
 E指導価格調査の調整
 指導価格実施情況調査のために行なわれる試売の方法については一社のみの単独調査のみでなく数社の共同調査も行なうように申し合せた。
 F九州各県との価格調整
 全九州ブロツクの薬業安定協議会を作って各県指導価格の調整をはかる必要が痛感されるので善処すること。
 以上のような議題に従って熱心に審議し、六時閉会となった。

 対症薬学=竹内克己

 (11)肝臓とビタミン

 肝臓はビタミンの貯蔵所であり、これを活性化する所でもある、ビタミンB1がおもに肝臓で付燐されて活性のあるピロ燐酸エステル即ちコ、カルボキシラーゼとなり、始めてビタミンとしての作用を発揮される事は周知の事である、従って肝臓が悪くなると往々にしてビタミンB1の欠乏を思わせる脚気様症状が現れる。

 この様な場合にB1を投与しても症状の改善に寄与する事が少ないのは当然の事である、これは肝実質に障害があってB1の活性化が阻害されているためと考えられる、この様な場合胆汁酸はB1、B2、Cなどの腸管からの吸収増大、肝内蓄積活性化の促進等も明かにされている、従って肝疾患のある患者に利胆剤とビタミン剤との併用をすすめる事は有意義な事である。

 肝疾患に際してB1負荷時の尿中B1排出量が増加するのは、肝内コ、カルボキシラーゼ生感が障害されて、投与されたB1が利用されずに出て来るためと考えられる、この様な時に利胆剤によってコ、カルボキシラーゼ合成を促進し、遊離B1の尿中排出を防ぎ、B1代謝を経済的ならしめるのも大変よい事である。

 生体内諸臓器に分布するB1を遊離型と結合型とに分けて考えると、その大部分は遊離型である、結合型の大部分はコ、カルボキシラーゼと考えられる、そこでコ、カルボキシラーゼ自体や活性ビタミン剤の抑与は肝疾患に対して有意義に働くわけであるが更に利胆剤との併用によって更に効果を促進し得る場合が考えられる。 そして又肝疾患のみならず、高血圧症、神経性疾患等に対しても試みてよい方法であるに違いない。

 ケネディの死と我等 開局薬剤師 今村武志

 ケネディが暗殺された。犯人はオズワルドと云う青年らしいが、この男も二日後に、いかにもいわくありげな中年男に射殺されてしまった。これが、文明の最先端をゆくとされるアメリカでの出来事だから、世界中の誰でもがびっくりしてしまったのは云うまでもない。

 さて、ショックから覚めて、人々は一体、この事件から何を考えただろうか。ケネディという魅力ある現職の米国大統領の突然の死がうみだす今後の国際政治、経済の微妙な動向、複雑な国内国外の力関係の変化についてだったろうか。それともケネディが殺されたという事実の解明、即ち、容疑者の思想、生いたち、動機、容疑者を育てたアメリカ社会の思潮、伝統と因習、人間関係。それに、アメリカが国是とする資本主義が個人の生活にどのような功罪をもたらしてきたかということだろうか。前者は将来の見通しについて東を悩ませ、後者は現在から過去へさかのぼって事件の真相を知ろうとする。

 歴史が教える尤大な公式を縦横に駆使して一寸先は暗闇の未来を推しはかろうとする前者の立場は、大量の学問を詰め込んだその道のエキスパートや利害関係の変動に敏感な政治経済のリーグ一達のする芸当であって、大部分の大衆、いわゆる庶民には不得手なことだ。賢明な庶民は前者の立場は専門家の意見を聞くことにして、自分たちは後者の立場をとる。なかんづく我々は日本人だから、この事件は他処事の気楽さも手伝って、ミステリーでも解くような興味もそそられる。関係者には申し訳けないがこれが人情というものだ。

 ころで、平凡な庶民である。それならば、ここでちょっと脇道へ入るが、今後また、第二、第三の要人暗殺が起り得るか、と設問してみると、これは大いにあり得るらしい。なぜなら、事件後、アメリカでは政府要人の警備が史上最大に厳重になったということでもわかる。これは何も、暗殺者の動機を政治や恩憩背景に求めずとも、軍なら精神異常の場合としても、そんな危険きわまりない人物が放置されているということを意味するからである。

 もっとも、識者に言わせると、精神異常者でなくても、嘗通の人間が暗殺者に早変りする可能性はあり過ぎるほどあるのだそうだ。資本主義社会では、俗に言う「カネのある奴が勝ち」で、負けた連中やもともと金のない者は、生活の面でも社会的地位でも貧しくみじめだ。カネの世の中であってみれば、カネのある奴は王侯貴族あつかいで、ない万はルンペン並みだ。その格差はひらく一方だから、ない方の気持ちはルンペン以下にひがんですさむ。

 この落伍感、ザセツ感が突然と襲いかかりそうと識者は云う。日本でも、集団での暴力は予めマークできるが、一人右翼みたいな気狂いはどうしようもないと当事者はなげいている。

 さて、容疑者もいない、裁判もないとなると、我々庶民の思考も興味もゆきづまってしまう。しかし、ここでへこたれないのが庶民のよさだ。その豊かな空想力は、真犯人が見つけだされ、裁判が行なわれたと仮定するから素晴らしい。各人各様の夷犯人のイメージが創造され、それぞれの裁判結果が呈出される。それがどのように千差万別であったとしても、現代アメリカ社会の呪わるべき癌細胞の一片であることには変りはないことに気がつくのだ。

 「オレはネ、ケネディが殺されたと聞いてネ、考えたなア……」「アタシ、恐いわ。こんなことつてあるかしら…」 等々にはじまる世間のなんでもない人たちの会話が、こんなにして興味本位にそれからそれへと糸をたぐって行くうちに、事件の本質をいつの間にかチャンと衝いて、無意識ながら自分の人生の智恵袋にたくわえる。これがいわゆる庶民の智恵ではないか。

 ジャーナリストがマスコミを通じて事件を追うのも大体この筋書だが、ながい年月をかけて庶民大衆から教えられた。これはマスコミ側の智恵だろう。中国でも下放運動と称して中央の幹部や文化人か、一定期間大衆と一緒に生活して真面目に大衆からその智恵を学ぼうとしている。

 私の云いたい点は、ケネデイの死というひとつの事件にみせた、庶民の素朴な感情とありきたりな興味ですら、このようにものの本質を衝くものだということである。恐しいほどのこの正確さは、適者生存の進化論どおり、こうでなくては人類はとっくの昔に滅んでいたかも知れないと思うほど本能的にそなわっている。いささか、我田引水的で説明不足の上に話は飛躍するが、以上のことから、我々開局者は何を考えねばならぬだろうか。

 所得倍増を旗じるしに押しすすめられる高度生長の奔流にもまれて、我々はついうかうかとその流れに乗せられてしまつてはいないか。時勢には逆らえないとして、もつと大きな人間本来の大流があるのに気がつかないでいるのではないか。大資本のメーカーがわれ勝ちに大量生産する商品を大量に安くさえ売ればそれで事足れりとしてはいないか。薬学のエキスパートたる我々開局者は、需要者に代わって品質は優良であるか、疾病に適当か、価格は正当か、副作用や禁忌はないか等々を良心的に処置しなければならぬ。

 ただ、売れればいい。売れるから良いものだろうでは済むまい。マスコミを利用した過大な宣伝で無駄な消費を強要する歪んだムードには断呼として立ち向かう気がまえこそ、現在の開局者に最も必要なものではないか。一例を今日の流行児であるアンプル剤にとつてみよう。日本以外には殆どみられないこの剤型は、もうけ主義のアイデアが生んだ最も愚劣な代物でまさに国辱ものである。あの程度の薬品は世界中どこへ行つても日本での価格の一割で売っている。アンプル型式をとつていないからである。我々も調剤でやってみれば当然その程度でできる。風邪薬や保健剤の一服に百円も百五拾円も出す馬鹿はいない。が、アンプルなら出す馬鹿がゴマンといる。この馬鹿と、もうかってもうかって腹の中でゲラゲラ笑っているメーカーとの間にたってマゴマゴしている我々も、そろそろ一言あってしかるべきではないか。

 もちろん、我々の使命である国民保健の向上、疾病の治癒の大目的のために、当然この馬鹿どもの擁護に立ち上るべきである。一部の企業家のために働けとは、薬剤師憲章にも書いてないし学校でも教わらなかつた。ここで我々が、人間としての正義感に燃え、開局者としての国民生活に寄与するために動かなければ、この馬鹿どもが馬鹿でなくなったとき、我々はどうなるか。前半を費やして述べた「庶民の智恵」は実にこのことである。

 あくせくと生活に追われる一般庶民は、薬のことは専門家たる我々にゆだねていた。だが生産が増大すると価格の点で、部外者が経営するスーパーへ逃げだした。医学の進歩と健康保険の普及で適格な治療をと医者へ走る。はかばかしくないといっては民間治療や漢方にひきずられる。これが庶民の智恵だ。馬鹿のようにみえて決してそこにとどまってはいない。自分のためになるホンモノは何かということを本能的にかぎつける偉大な能力を庶民大衆はちゃんと持っているのだ。ボヤボヤしてはいられない。大衆においてけぼりを喰らった開局者は存在することすらゆるされぬ。

 我々はいま、値段の面では、長い間の苦労がみのってようやくスーパーに追いつきつつある。これに続いて専門知識の面でも医者と同格になる必要がある。保険制度もほんとうに自分のものにしなければならない。姑息な因習にみちた民間療法は排して、価値ある療法をとりあげ、指導し発展させねばならぬのだ。我々の能力を高め、前向きの姿勢の庶民と一緒に歩こう。気狂いめいてきている商業主義にまどわされることなく、庶民の求めるものにこたえ、庶民の欲するものを学ぼう。そうすることが我々の使命であり、我々を生かす唯一つの道なのだ。ケネディの死から庶民の智恵を見出し、また、そこから我々の明るい前途をみつけた。この私の論法は、無理なコジツケに過ぎるだろうか。

 随想片々【17】 礒田秀雄

 国保にみるみじめな調剤報酬

 国保にみるみじめな調剤報酬 昭和三十五年から発足した福岡市の国民健康保険は給付の改善向上によって利用者が著増しているが、その反面市内の薬局薬種商では店頭で医薬品を購求する顧客を奪われて営業は不振に陥って果ては濫売競争を生起するなどで薬業不振に加速度を加えている。医師、歯科医師はそのむかしよく散見した医療費不払者がなくなりどこの医師も増築改築を行ない往診のない医師歯科医師までもがみんな自家用車を購入し日曜休診毎に車を駆ってピクニツクに赴くなど我が世の春を謳歌している。

 昭和三十七年度に於ける国保の医療給付の状況を見るに福岡市に於ける病院六〇、診療所六〇〇で医療給付の総額は保険者より徴収した分も加えて実に拾六億壱千九百九拾万円に達しこれを六六〇の病院診療所数で割ると平均二百四十五万四千円となっているが社会保険による収入がその二倍程あるので平均収入は恐らく六百万に達するであろう。将して然らば月収は五十万に達するわけである。

 次に歯科医師の医療給付額は患者より徴収の分を含めて二億七千百九十二万八千余円でこれを歯科診療所数二八六で割ると平均九十五万八百円で社会保険収入をその二倍とみると二百八十五万二千余円となり月収は約二十三万円と推算される。

 国保加入者率は福岡市の場合三〇、五%であるから国民皆保険の現在約七〇%は社会保険に属するので社会保険収入は市民数からみて国保収入の二倍と推算される。そして医師にしても歯科医師にしても殆んどが技術料収入であるのに所得税は特例によって収入額の二八%所得と見做しこれに課税するわけであるから懐具合は極めて豊かである。

 福岡市では鍼灸師によって治療をうけることを認めているがその報酬額として百二十人の鍼灸師は八百万円を市から受け取っている。

 最後に薬剤師の場合であるが二百五十一人を数える保険薬局で調剤報酬として収入している額は患者より徴収した分も合せて二百十八万一千六百八十五円、これを二五一の薬局数で割ると八千七百円、月収七百二十五円もその調剤報酬額の大部分は薬品代で調剤料という技術料は百五十円位にしか過ぎまい。
 鍼灸師ですら平均六万六千六百余円月平均五千五百五十余円をうけているのに薬科大学を出て国家試験に合格し莫大な資金をかけて開設した薬局が国保や社会保険で顧客は奪われ医療担当者の一人でありながらのこの態たらくは悲憤慷慨せざるを得んではないか。 みなさん、この数字をよく玩味して下さい。

 九州大学医学部薬学科 薬学部に昇格決定

 熊本大学薬学部に大学院薬学研究科の新設が決定

 文部省では旧臘廿九日、大学教育整備のため三十九年度から国立大学の大学院、学部、学科、研究所等の新増設計画を決め発表した。九州地区の薬系では熊本大学大学院に薬学研究科が新設され、又九州大学医学部の薬学科が独立して薬学部となり、薬学科と製薬科学科が設けられることに決定した。次の通り。

 ▼薬系大学院の新設=薬学研究科(熊本大学、定員十八名)▽千葉大学、定員十八名▽金沢大学、定員十八名
 ▼薬系学部の新設=九州大学薬学部(薬学科、定員四十名)(製薬科学科、定員四十名)以上は新年度四月から発足することになり、九大薬学科では塚元主任教授を始めその準備に多忙を極め殆んど休暇もなき有様である。

 新春放談 『正直者万歳』 福岡赤十字病院 竹内克己

 本紙旧臘十日号に、三共の鈴木支店長さんの「正直者が馬鹿をみないよう」という一文を拝読して、製企会要綱実施に対する、氏の確固たる信念に基く御発言に深い感銘と大きな期待を感じ、何回も読み返し、私の切抜帖にはりつけました。

 業界に永遠のビジヨンがほしいと考えている私の夢、鈴木さんの様な信念の方が、業界を指導していただく事は、心強くも喜ばしい事だと感じました。どの業界も同じ事だろうと思いますが、最終需要家である人達の集団は、常に圧力団体であり得るという事であります。従ってわが業界においても、小売者団体は常に大きな影響力をもつている、我々病院勤務者の発言も亦決してその例外ではないと思います。

 この事がメーカーさん達の低姿勢を誘発し、病院勤務者の思い上りの原因を作ることとなり、私の様な中味のない、うすっぺらな人間になる遠因を作つている様な気がするのであります(責任転嫁も甚しいと重々承知して居ります)。私はクスリを廉く買う事のみが我々の任務だとは考えて居りません、業界の正しいあり方に協力する事は我々の大切な業務だと思って居ります。然しこの点についても全然問題がないわけではありません。 問題点は、メーカーさんも、問屋さんも、我々も、共に同等の立場に立って、そのお互の自主性が尊重されねばならないと言うことであります。

 B価仕切りのB価販売、あとはリベートまかせ、この様な形で、はたして、人間性が認められているでしようか、めかくしされたロバが石臼を引く姿を思いうかべます。インテリの集団である我々の業界にも少し自主性の尊重という感覚が合ってもよいのではないでしようか。製企会要綱は圧力団体に対する気がねムードが多少共潜在した中で出来上つたのではないか、という様な感じをうけて居ります。

 業界がほんとうによくなるためには、只乱売さえなくなればよいという様な考え方でなくて、もつと根本的な問題についても解明してゆかねばならないと思います。業界に流れる通念―払い越しになる様な商売はしない―という考え方は少くとも近代経営ではない、売込みに対しても責任をもつ事こそ近代経営でなければならない。売れない時は返品だという購買態度、おし込む事が販売だと考える考え方、売れても売れなくても一定の金額を払ってもらうノルマ方式、そして売った方も買った方も、債権債務という責任感覚がなさすぎる業界の現状に満足して居られるのではないと思います。

 支払期日に関係なく価格は一定、大量購入の方が少量購入よりも高く買わねばならないとあっては、一寸頭が変になります。「正直者が馬鹿をみない薬業界」の建設に更に一歩を進めていただきたいと三十九年の初夢として「正直者万歳」を叫びたい気持で一杯です。妄言多謝

 福岡県薬商組第七回臨時総代会 山積した重要議案を審議決定

 福岡県医薬品小売商業組合では種々の問題をかかえ其解決のため旧臘十六日午後一時から福岡市上浜口町、田辺製薬福岡支店五階会議室で臨時総代会を開催した藤野専務理事司会して開会工藤益夫氏を議長に推し議事に移った。
 議長着席し、総代数一三〇、出席三九、委任状四二、よって総代会は成立した旨を宣し直に左記議事に入った。

 ▽議案
 報告第一号 飯塚橋薬局に関する調整規程違反に関する件
 当人は規程を充分に知っており、組合を脱退して四回に亘って周囲を攪乱したが、己れの非を絶対に認めない、話合いに努力したが決裂した、一同承認
 報告第二号 県安定協議会に関する件
 価格表示及び試売委員による試売の結果につき報告一同これを了承
 議案第一号 事業執行規約に関する件
 規約中過怠金再審査委員等不備の点があるので県商工課並に弁護士について多角的に研究の結果第六条だけを改正する、一同承認
 議案第二号 過怠金再審査委員会規約の件
 別刷(過怠金再審査委員会規約)について説明、二三質疑応答があって承認
 議案第三号 過怠金再審査委員選出の件
 福岡、筑後、北九州、筑豊の四地区毎に選出し、全域は地区選出者によって再選出することになり別室に於て選考の結果次の通り決定した。 福岡二人=高倉、塚田▽筑後二人=岡野(守)中村(英)▽北九州二人=角田、原田▽筑豊二人=高橋、安村▽全域三人=四島、長野、深田
 議案第四号 全域総代選出に関する件
 全域総代は二三人であるのであと一六名の欠員を規約により総代にて選出されたい、福岡五、筑後三、北九州五、筑豊三を選出の結果次の通り決定した。
 福岡=戸田、安武、古川、庄野、中野▽筑後=岡野、関屋、花田▽北九州=坂巻、吉田、荒木、浜野、松原▽筑豊=本松、久原、大沢
 議案第五号 昭和卅八年度予算更生の件
 第九項の予備費より負担金(安定協議会)に当てる一同異議なくこれを決定
 以上にて審議を終え懇談会に移り午後五時総代会を終了。

 第六回 福岡県薬業安定協議会

 第六回福岡県薬業安定協議会は予定通り旧廿三日午後一時から福岡市、福岡ビル九階会議室で開会、三者並に県薬務課から全委員出席の上次の事項につき協議決定した。

 ▽三者各分野に於ける兼ねての要望は未だ不徹底の点がある様だから今後一層これを滲透させる様各会が努力することを再確認した。
 ▽武田薬品の「ハイシー」一五錠、一〇〇錠が指導価格指定品に追加された。
 ▽兼ねての県薬商組で作成中であつた「指導価格表」ができたので近く各営業者配布することで決めた。
 ▽中外の「グロンサンバーモンド」を一〇〇円に値下した旨報告があり、一同了承
 ▽第七回本協議会を一月廿五日本会場で開催することとし、事業所問題はその際検討することを決定した。以上にて協議、報告を終え三十八年度に於ける最終協議会を終了した。

 大賀栄一氏死去

 同氏(福岡市、株式会社大賀薬局社長)は兼て病気療養中であつたが、一月七日死去された。行年五十一才葬儀は十一日午后一時から上普賢堂町西教寺に於て執行される。

 安定ムードのために 中外製薬 秋山茂尚

 昨年より具体化されつつある価格問題については、各地に於て説明会が開催され九月二十日より市場安定要綱(小売向編)が実施され、その後も波乱多き薬事法改正による適正配置等と、種々の面より安定への風潮は小売と卸とメーカー間にて流通段階における安定へのきざしとして、本年も明るい方向へと進む事を期待したい。

 なかでも市場安定要綱の実施に伴い、昨年十二月までには九州全県に亘り指導価格が設けれら、すでに発足している事は周知の通りである。この具体的な方法については省略したいが、そもそも要綱の検討には厚生省当局の蔭ながらの尽力も有って出来上つたもので、内容からは抽象的な精神以外は汲み取れない。現段階に於ての状況より推測される範囲では漸次安定ムードがかもしだしているものと確認したいものだが一部ではビラ問題等の物議を起しているやに聞いている事は全く遺憾の極みである。

 この事件については従来の医薬品業界の永年に亘る商慣習からして惹起する問題であるとはいえ早急に改善されるべきであるが、これは三者の間にて充分話合った上での指導価格の設定で有り、これはマスコミ品の現実の実勢価格に近い線を最低線として価格の下落を阻止していく考へ方で有り、新製品については新価格体系により価格維持する販売政策にもつて行き更に手直し策として、実勢価がどうしても定価に近づき難いもの、つまりこの差が非常に激しいものに関しては、価格体系を一部改訂して実勢価がなるべく定価に近似な値にある様努力をして小売、卸の営業政策にそう様つとめており、経済問題の新しい分野に向かって価格安定による成長政策を計りたいと考えて居ります。

 要するに三者の自覚と責任に於て指導価品目を守る事こそ要綱完遂に移せる第一歩であって、唯一人の落伍者のあることも許されない事であり、もし現在の薬業界の事実をわきまえずに一貫した思慮も持たず単に売買するためには手段を選ばないと云う考え方が、いまだにあつたとした場合、当然この行為に対しての対抗策を講ずる行為が更に取られたと予測してその結果を考えた場合、従来より話し合って来た安定対策理念も水泡にきす恐れがあると危惧するものである。

 少くとも各地区三者共々要綱実施に向かって、そのユートピアを求めて邁進してゆき、この最後とも云うべきチヤンスを逃すことなくお互に切磋琢磨して努力しようではないか。本年は薬業界によって大いなる試練に打ち勝たねばならぬ茨の道であるが、又躍進の年でもあることを希望して皆様と共に努力したい所存です。

 佐賀県薬事審議会

 佐賀県薬事審議会は本年度最後の会合を去る拾弐月九日葉隠荘に於て開催した。  提厚生部長が委員長として司会し、
 @薬局等の適正配置の県条例交付に伴い、今後の薬務行政上の具体策について審議し、今後新規許可に関しては特別に問題のないものについては一々薬事審議会にはからなくても知事の専決事項として決済できることとした。  A農薬の危害防止については、最近有機燐剤の使用は大巾に減少し、新農薬に代りつつあるが、共同防除よらず個人防除や防除後の取扱並に空瓶の後始末に遺憾の点が多い。 等の件について審議し、本会を最後として、薬事法の改正に伴い新年度に於ては委員が全面的に改められることになった。

 公衆衛生活動について学薬師幹部と公衛委員合同協議会開催

 福岡県薬剤師会では昨年(三十八年度)初めて公衆衛生委員会を作って活動に乗り出したが、仕事の性質上学校薬剤師の業務を公衆化したものでもあり、実質上学薬師の活動に待たねばならないので、公衆衛生活動について学校薬剤師幹部と公衆衛生委員との合同協議会開催の必要があり、又県薬として新年度(三十九年度)の事業計画の件もあるので県薬は予て協議会開会について考えていたが、今回、二月十七日午后二時から県薬会館で開会することになったのである。
 当日は県学薬師幹部、公衆衛生委員、県薬より四島、工藤、須原の三氏、県教育庁から山下技師が参集して種々公衛活動について協議した。

 先づ古賀(哲)公衛委担当理事から昨年来三回委員会を開会した件について報告があり、結論としては公衆衛生の向上を図るのは勿論のことであるが、翻って吾々自身即ち薬剤師と云うものを大衆の中に強く印象づける事は尤も大切であると云う事であると述べ、学校薬剤師側からは今日迄学薬師として活動して来たことは学校を中心とし、生徒を対象とした仕事であり、一般大衆に対して縁遠く思われていたであろうが、然しこれを公衆衛生面に施行実施すれば良いのであり、今後はその点に特に留意すべきであると述べられた。

 県に「県公衆衛生協会」なるものが存在しているが、これについて須原県薬専務理事から説明があつた。」この協会は保健所を単位として行動しているが、年一回の全国並に県大会、研究発表がなされ頭部だけの弱体活動があり、県薬剤師会も38年度は二万円、39年度は三万円の負担金を余儀なくされている様な関係にあるが、今後は実際活動に尤も適している薬剤師が学薬、公衛面から大いに活発な行動をとるべきあるとの意見の一致を見た。

 日薬の公衆衛生活動としては公害を大きく採り上げているが、福岡県薬としての三十九年度の公衛活動方針を如何にするかを今考えねばならぬ、当日の出席者からは種々の意見が続出され、聴くべき多数の意見が述べられたが結局次の二点が有力なものと認められた。

 @学校保健衛生活動をその家庭迄延長することに努力する
 A衛生組合には吾々薬剤師は積極的に飛び込んで行くべきである。吾々は重点的に一歩一歩而も実践的に邁進すべきである。偖、当日の協議の結果は三十九年度の公衆衛生事業計画としては次の様な稍々具体的な結論を出すに至った。
 ▽福岡地区(福岡市)=騒音調査、学校より家庭へ環境衛生調査の拡大(推進者−友納英一氏)
 ▽北九州地区(八幡区)=中小企業等、職場に於ける環境衛生検査(推進者−神谷武信氏)
 ▽筑豊地区(田川市)=映画館の環境衛生調査(推進者−側島希允氏)
 ▽筑後地区(大牟田市)=騒音調査、理容・美容室の環境衛生検査(推進者−早川政雄氏)

 福岡県薬理事会 日病薬会員の動向

 福岡県薬剤師会では第96回理事会を二月廿日午前十一時県薬会館で開会、工藤常務司会して協議した 県薬の代議員会並に総会は三月廿六日町村会館に於て開会することに決定しているので、これに対処するため38年度事業及び歳入出決算見込報告、39年度事業計画及び歳入出予算案、其他給与、旅費規程の一部改正などについて協議し、37年度決算については友納監事から監査報告があつた。尚、今回の名誉会員には磯田秀雄氏を推薦することをも決定した。

 次に古賀理事から公衆衛生委員会の活動、学薬との協議会などにつき、中村理事から社保委員会の活動状況につき、四島副会長から薬事審議会並に薬業安定協議会の運営状態について詳細な説明があつた。

 次いで中村理事から日病薬の法人化問題に関連して惹起された。大牟田に於ける病院薬剤師の薬剤師会脱退意向の表明などについての報告があつたが、竹内理事は日病薬では理事会並に代議員会で法人化を決定している事実を述べ、これは全国の問題であるので近く開催の日薬代議員会でそれぞれの立場に於て全薬剤師のために善処すべきであると、当日出席していた県薬の日薬代議員諸氏に対し要望する処があつた。

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九州薬事新報 昭和39年(1964) 1月20日号 第554号

 薬業安定協議会の背景
 佐賀県薬業共同組合 佐賀県医薬品小売商業組合 川内一男

 市場安定対策要綱にもとずく九州各県の薬業安定協議会も昨年拾壱月漸くくつわを並べて発足し、要綱の実施に伴う各社の指導価格の実施もメーカーと卸と小売りの段階に於てそれぞれの立場から自覚と責任を以て行われることになった。メーカーの裏サービス或は過剰サービス競争の抑制、実施価格による原価の激滅、合理化により医薬品に対する国民の不信感を是正しようとする厚生省の斡旋で未曽有の薬業安定への努力が始まった。

 薬業安定という今日の切実な経済問題をはらんだ事業をおいそれと直ちに軌道に乗せて万全を期待することはできないであろうが、少くとも業界安定に対するムードは確かに滲透してきたようである。われわれはこのムードを単なる上澄みのムードだけでなく、その底流の残渣を濾過して、このムードの中から真実の業界安定のビジョンを引き出さなければならないと思う。

 安定協議会の性格はメーカーと卸と小売りの業界安定のための協議機関である。協議機関であって、執行機薬業関ではない。執行はそれぞれの段階に於て行なう事になっている。指導価格も各県の事情に従って多少の差異はあるが、メーカーの強い要望によって大体九州各県は大同小異のようである。ということは九州の需要者が、どこの県でも同一価格で医薬品が入手されるように努力されていることである。

 然し市場安定対策要綱の包蔵しているメーカーの真意は複雑である。 薬価の維持、販売促進という相容れないような意識の下に業界は好むと好まざるとにかかわらず追い立てられていく。薬局の経営の規模が企業であろうと生業であろうと、経営者は経済の成長と並行した売上げの増進が要求される。市場安定対策要綱が小売店の犠牲に於てメーカーの自衛的営業発展策だと不平を鳴らして見ても始まらない。

 「薬局等の適正配置」が各県に県条例として公布され一応薬局等の新規開業は著しく抑制されることになった。薬局等は適正数と実在数の上に多少の開きの有無にかかわらず新規競争者出現の恐怖から一応解放された。現在数の中の一員である薬局等はそれぞれの努力と工夫によって、この地位を死守し最後まで生き伸びて行くために斗わなければならない。売上げの横ばいは退歩である。進歩がなければ落伍するおそれがある。 安定協議会はこうした努力と努力に激しい競争が果して正しいルールで行なわれているかどうかを審判する機関でもある中小企業の育成強化には「中小企業基本法」も公布されて、政府も大きな政治目標の一つとなっている。

 然し貿易の自由化と消費物価の値上りという最近の経済事業は中小企業にも新しいメスが入れられ、その姿にも大きな変貌を来している。 零細な小売薬局等には近代化合理化のために企業の合同、共同化へと新しい施策を打ち出している。佐賀市の六甲商事、佐世保市のトーアチエーン、サンドラツクチエーン等は一応近代化のサンプルであろう個人企業であっても小売店がそれぞれに体質改善により体質を強化し、血液の質も流れも健全化して大衆に親しまれる薬局へとまい進することが痛感される。

 然し他を抹殺しても自分だけが生き残ろうとする考え方はもう過去のものとなった。 薬業協同組合は見る人によっては小売店の自由奔放な営業政策に規制を加え、営業の発展を阻害するものであるかも知れない。然し九〇%の組合員が要望した与論に従って共存共栄のために過当競争をできるだけ抑え、一人の組合員でも脱落しないように努力しているつもりである。

 業界を非常無頼な戦国時代へと追い込まないように微力をつくしているつもりである。経済の大きな時流を氾濫させないようダムを作っているようなものだ。薬価安定と販売促進にささえられた「薬業安定協議会」の真の精神を捉えてこれからの薬局は組合のルールに従って発展しなければならない。ともすればスーパーや生協等は価格維持に協力的であり、極く一部の一%そこそこのコソ泥的分子によって折角の官民一体となって未曽有の決意を以て取り組んでいる市場安定対策が失販に終らないよう業界挙げての団結による然るべく対処して行きたいものである。

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九州薬事新報 昭和39年(1964) 1月30日号

 第七回 福岡県安定協議会 二月下旬九州ブロック安定協議会を

 第七回福岡県薬業安定協議会が福岡ビル九階会議室で一月廿五日午后一時から開会、尾崎県薬務課長の挨拶があって直ちに議事に移った。

 ▽家庭薬メーカーに関する件

 中央を始めとして、安定協議会が家庭薬メーカー緊密な連絡をとることは業界安定のため最も効果的であり又家庭薬メーカーも左様希望している向もあるので本日茲にサロンパス、ロート、大学、ノーシンの四社が見えられている。勿論オブザーバーとして傍聴され、指導価格等具体的の事については協議会終了後小売、卸側のみと共に分科会みたいの会合を催すことになった。

 ▽事業所納入に関する指導価格問題の件

 小売側から色々な意見、要望などが述べられた。

 ▽監視委員会に関する件

安定要綱実施について監視は必要なことであり、試売も監視の一部であるので監視機関の設置が亦必要であることは当然である、依って監視委員会を作るための準備委員を各団体から選出した。

 ▽九州ブロック安定協議会連絡会議の設置に就て

 前回の協議会で希望が出たが、各県小売代表一名、卸代表一名、メーカー代表二、三社、開催地元だけは卸、小売各二名宛とし、次回各県の安定協議会が終わった後に先づ、第一回を福岡県に於て二月廿四日午后二時から当会場で開催することを決定した、尚旅費、宿泊費等は自弁のこことした。なお次回協議会は二月二十五日午后一時から当会場に於ての開会を決めた、メーカー担当である以上にて協議会を終え、引続き家庭メーカー(当日出席の)と卸小売との指導価格についての懇談会が開かれた。

 昭和四十年福岡市で開会の日本薬学会第一回準備会

 日本薬学会昭和四十年度の薬学大会(第一部)は福岡市に於て開催の予定であるので、地元九州大学薬学科を中心に第一回準備打合会が一月十八日午后一時から九大薬学科会議室で開催された。出席者は九大より塚元、井口の両教授、堀岡薬剤部長、外五名、メーカーから大日本製薬の滝尻氏(筑紫二十日会当番)薬剤師から須原専務、工藤常務の両理事、計十一名であつた先づ塚元教授から開会の挨拶があり、次いで井口、堀岡両氏から今迄の調査並に計画素案について説明があり、これについて種々意見の開陳、要望がなされたが、次の議案により更に次回準備会に於て検討することになった。

 ▽議案

 (1)会期=昭和四十年四月四日(日)〜六日(火)の三日間
 (2)会場=市民会館、農業会館、明治生命ビルの三個所で行なう
 (3)会場費=三会場の借上料四日分で約四〇万円と予定する
 (4)総会=薬学会総会、薬剤師大会
 (5)部会区分=@薬学会関係―病院薬剤師部会、病院薬局管理部会・薬剤学・製剤学部会、衛生協議会、公衆衛生部会、A薬剤師会関係―学校薬剤師部会、保健所部会、開局薬剤師部会、女子薬部会、B関連部会―鉄道病院部会、逓信病院部会
 (6)懇親会=天神ビル或は三鷹ホール
 (7)委員=薬剤師会関係の準備委員としての依嘱=九州山口薬剤師会長並に各県会長、福岡県薬剤師会副会長、福岡市薬剤師会長、古賀県議、加藤福岡市議
 (8)業務区分=庶務、会計、編集、懇親会、見学・観光・宿舎、接待(連絡)、展示
 (9)講演申込=昭和三十九年十二月二十日まで

 ▽決定事項

 (1)次回は二月二十二日開くこと
 (2)準備業務分担表(案)を作成送付し、検討の上適任者を推薦すること
 (3)部会及び関連部会の人員及び会場について研究しておくこと
 (4)昭和四十年度の九州山口薬学大会は中止を要請すること
 (5)本年三月中に計画の骨子案を作成し、四月開会の日本薬学会理事会の承認を求めること
 以上五項目を決定し、次回準備会のために試案十項目を提供し当日の打合会を終了した。

 保険調剤と自由調剤を混同する地方税務当局
 福岡県薬より日薬に要望

 保険調剤の利益率については一般に、その荒利益率は20〜30%と算定されているが、近来地方税務当局が調剤報酬の所得調査に当り保険調剤と自由調剤とを混同視し、国税庁が示している調剤の荒利益率54%(自由調剤)を保険調剤に適用する税務職員があり、其間に争いを起した事例もあるので、問題を全国的に解決するため福岡県薬剤師会では、左記の要望書を本月廿二日付で日薬発送した。本文内容次の通り。

 ◆保険調剤業務に関する荒利益率について

 保険調剤薬局より生ずる荒利益率は処方の内容により一定しないのでありますが、概ね20〜30%と算定されるのであります。近時、保険調剤業務の伸長に伴い、調剤報酬が所得調査に当り大きく取り上げられてきました。税務職員の中には自由調剤と保険調剤を混同し、国税庁が示している調剤の荒利益率54%を保険調剤にも適用しようとする場合が多々あるのであります。よって国税庁を通じ、全国の税務署に対し、@自由調剤と保険調剤の区別、A荒利益率の相違等を啓蒙賜りますよう願います。

 福岡県薬社保委員会並同社保推進協議会
 処方箋調剤・医薬分業推進について

 福岡県薬剤師会では第二回社保委員会(委員長小須賀正義氏)を一月廿日午后一時半から県薬会館で開催し引続き社保委員及び各支部の保険担当者との社保推進協議会を開き、社保関係重要四項目について協議した社保委員会に於ては社保担当の中村理事から昨年八月第一回社保委員会開会後の経過報告があり、それに引続き各委員より社保関係問題につき談話並に私見発表などがあつた。次の通り。

 中村氏=保険処方箋発行に伴う、病院、診療所経営改善方策の一試案を作成して開業医及び薬剤師の居ない病院、主として乙表病院薬一八〇個所に送付した。
 小須賀氏=医師は「医薬分業」と云う言葉に非常な抵抗を感じているので医師に対しては「処方箋調剤」と云う様な言葉を使用する様注意せねばならぬように思える。
 工藤氏=厚生省と三師会との意見相違のため診療報酬並に再診療問題も停屯することになり、之が為医師会では武見会長の主流派と反主流派の抗争を生じ、薬剤師会では五点の調剤基本料金問題もお預けとなった。然し吾々は処方箋発行の実を取る具体策を今後大いに考えねばならぬ。本月八日の三師会の席上、日医の阿部副会長から「昨年末の日薬理事会に於て武見会長から三師会として医療費問題を共斗して行く上に処方箋発行を増加して行く必要がある」旨の発言があり、就ては今後地域毎の三師会に於て調剤センター設置等の具体策について協議を進める様にして頂きたいとの提案があつたそうである。必ずしも調剤センター設置のみが処方箋発行増大の具体策とも思えないが、日医側の斯る提案は吾々としは歓迎すべき事柄であることはいなめない。来年四月の福岡での日本薬学会に於ける開局部会の中に於て保険調剤は大きなウエートを占めるものと思われるので今から心準備の必要があると思う。
 小須賀氏=委員は保険に関しては何を問われても答えができる様精通していることが第一の任務でそれは委員の使命でもある、従って色々の問題もここから現われて来ると思う。
 中村氏=所得税対策の一環として社保調剤の利益率の正しいものを作成して国税庁等に対し日薬などから働きかける様進言したい。メーカーとの懇談会は既に三回行なつているが、其後業界の情勢も違って来ているので年度内に又開催するかどうか?
 工藤氏=社保調剤報酬の荒利は25〜30%と思われるが、所得税に関しては荒利は少ない方が有利であり、事業税の方は荒利の多い方が有利であると思う。対国税庁運動や調剤利潤の事業税控除などについては早速行動を起し日薬に対しても早急に要望したいと思う。 前回提案があつた@保健薬を処方箋によって販売すること、A衛生検査の現金化問題、何れも現在では合法的でないとの理由で保留となっている。理事会でも検討したが同理由で九州薬学大会にも提案しなかつた。Aの問題については現在下請の機関はあるらしい、然し正式に点数をとるシステムになると調剤センター(検査も含め)等の必要があるのではないか、前述の三師すべての話しもその様な意味をも含んでいるのではないかと思われる。メーカーとの懇談会は今年度内に開くことは無理と思われるので保留としたい。
 竹内氏=県病薬の方で医療研究所(既に予算も通過している)の職員に薬剤師を入れる様日病薬に提案することになっているが、県薬としても日薬等に提案されたいと思う。
 中村氏=大牟田では従来衛生技師免状を持つものは三名であつたが、今度一括して五十各位が取得した。
 竹内氏=日赤では衛生検査部長に薬剤師がなり得るや否やについて検討した結果なり得ることを決定した。
 小須賀氏=一般公衆が何かの衛生検査の希望が合っても現在では医師による外方法がないのは非常に不便不利である、この点開局薬剤師は能く考慮すべきであると思う。
 工藤氏=意慾があるかどうか…
 竹内氏=個々で必ずしもする必要はない。センターを作つてもよい筈だと思う。
 以上にて社保委員会を終え引続き社保委員会と県下各支部の保険担当者合同の「社会保険推進協議会」を開催した。

 先づ四島県薬副会長の挨拶に次いで次の四事項についての協議に移った。

 (一)社会保険の一般的動向と調剤基本料の問題について(工藤理事)
 昭和四十年一月から国保家族の七割給付を行なう様法規の改正が行なわれるが社会保険との相違が大きくなつて来る、将来は10割給付が当然であり保険界は次第にそれに向かって進んでいる、調剤基本料については既に三師会の共々によって推進しているも現在一時停屯しているが、近き将来必ず問題として社会性をおびることになると思う、吾々はそうしなければならぬと考える。

 (二)保険調剤の推移に就て(工藤理事)
 調剤基本料(処方箋一枚にかかる頭脳的報酬)は近く獲得せねばならぬ。普通調剤料並に付加調剤料は現在制度があるが、これを引上げねばならぬ。全医療費の30%が調剤投薬費であり九〇〇億円に当る一薬局にこれを割当ると年間四五〇万円である、全国統計では現在90%が内用薬であり処方箋一枚の平均日数は六日分となっている。調剤専門の薬局は充分成り立つものと云われている。今後三師強調して有利に善処すべきである。

 (三)保険処方箋発行と医療経済について(中村理事)
大牟田では些細なマツチや薬袋によってでも処方箋調剤(医薬分業)の弘報活動を活?にしている。只今差上げた別紙(保険処方箋発行と医業経済について)について詳細説明、此小冊子の利用方法については先づ医師会員中特に内容を理解しそうな人を選んで検討して貰い、完全に理解して貰わねば効果はない。この点能く考慮せねばならぬ。一般的には医師会の動向を能く考察して吾々個人で試みることにすべきである。薬剤師の居る病院などは特にその薬剤師の了解の元に慎重に働きかけるべきである。
 (四)調剤報酬と租税関係について(工藤理事)
 前記社保委員会に於て種々説明があったのでそれを能く検討されたい。
 以上にて協議会を終えたが当日支部の社保担当者の出席が少なかつたことは誠に遺憾であつたが吾々は今後処方箋増発に向つてあらゆる手段を講じ実質的医薬分業の実現に努力することを誓って閉会した。

 薬剤師の員数規定 告示遅れる

 薬事法の一部改正に伴う薬剤師の員数を定める省令の告示日は延びに延びて一月末になるのではないか、谷岡日薬専務は「薬剤師の員数を定める基準を作ることは結論的に非常に困難である。数学的な内容は告示迄発表できぬが、坪数や従業員数は仮止めになった、売上げは都道府県に申告することになる」と語っている。

 福岡県薬 調剤技術委員会

 福岡県薬剤師会調剤技術委員会(委員長堀岡正義氏)が一月十六日午后二時から九大病院薬剤部図書室で開会され左記の議案につき協議、報告があつた、尚北九州地区八幡製鉄病院の新城委員今回退職につき後任として同病院薬剤長瀬尾義彦氏が委員に決定した。

 ▽議案
 (1)日本薬学会薬剤部長会報告事項
 九州薬学会薬剤部長に於て決定され、日本薬学会薬剤部長に報告すべき事項で福岡県に関係ある分について審議した。  (2)前同会提案事項
 @薬品の分類法についてAラジオアイソトープの講習会開催の件Bドラツクインフオメーシヨンの実態調査C医薬品の含有量表示の件
 (3)厚生省病院管理研究所の研修会の件
 全国で約六〇名の定員であるので今回は次記五名の出席を要請する。
 日赤福岡=安藤▽九電病院=木村▽浜の町=白勢▽厚生年金=伊藤(鉄)▽飯塚病院=三宅
 (4)昭和四〇年福岡市に於ける日本薬学会開催について(本年の計画)

 福岡市薬業年賀会 玄海温泉センター

 福岡市薬、福岡協組では役員、部会長を始め約七〇名の業者が参集し、糸島郡福吉の玄海温泉センター大広間に於て三十九年の市小売薬業者新年会を開催した。今年は安定要綱実施についても本格的に努力推進せねばならぬ年であるので武田薬品の久富課長その他を招き要綱実施についての具体的な研究検討を加え、忌ツなき私見の開陳、自由な各自の要望など盛沢山の事項が心おきなく述べられ、和やかな雰囲気の裡に新年早々誠に有意義な会合を見るに至った。

 第三回公衆衛生委員会 近く学薬委と合同協議会開催決定

 福岡県薬第三回公衆衛生委員会が(委員長清長美濃輔氏)が一月廿四日午后二時から県薬会館で開催され左記議案に就き協議、報告があつた。

 ▽議題
(1)薬と健康の週間行事の実施報告(北九州市、福岡市) 正副委員長止むなき事情による欠席のため竹内委員を議長に推して議事に入った北九州分について古賀理事から報告、先づ剤界宣伝のためチラシ及びポスター配布、各区薬の責任に於て一般市民の検便検尿の無料検査を実施したが結果は予想よりも良くなかつた。計温計検定を仁丹とタイアップして行なつたが計四〇本に過ぎなかつた。駆虫剤の無料配布は非常に成績が良好。パレードは23台の自動車により市内五区を約四時間に亘り廻った。西日本新聞主催(薬剤師会と提携して)の小倉に於ける座談会は(当時西日本新聞紙上に掲載)相当PRに役立つた様であつた。福岡市の分については大隈理事から報告、11月1日2日新天会館で画版展示、武田薬品の強化食品展示、栄養士による栄養相談、薬剤師による薬の相談、並に学術映画等、入場者は一、六〇〇名に及んだが、予想以上の好評を博した様である。

 (2)本委員会活動についての反省
年度の途中で発足したので本日が漸く三回目である委員会自体に実務機関がないので仲々やり悪い、途中での発足に拘わらず北九州で実施した事は大きな成果と云うべきであろう。四十年の福岡に於ける日本薬学大会では公衆衛生部会並に学薬部会もあることなので大いに自重すべきである。公衆衛生は世の中の進歩と共に当然進む筈であり、此点を考慮して薬剤師のPRのためにスモツクや催眠剤問題などについても行政機関が採り上げる以前に於て剤界でこれを採り上げ、又海水浴場の汚染など民衆の声を代弁して剤界がより早くこれを採り上げて汚染度等の調査、試験の実施が必要であると思われる、実際の技術的試験はそれぞれの剤界関係の専門機関に依托して結構であり薬剤師のPのために其名をとるべきである。公衆衛生委でアイデアを考え其結果を纏める様行動するべきであると思う、現に新博多駅、百道などの検査等は是非実施する必要があると思われる、実施に当つては公衛と学薬とが一緒となり協力し合って合同研究協議会と云うことになろう。勿論メンバーは学薬常任理事と公衆衛生委員、県薬担当理事の全部一丸となるべきである、それより協議の結果二月下旬に県薬が招集して合同研究協議会を開催することを決定した。

 (3)次年度委員会に対する要望について
公衆衛生委員は今後責任感の強い真面目な公衆衛生に熱意のある人を選任するべきである、これ等の点については二月下旬開催予定の合同研究協議会(仮称)に於て結論を出すことになった。以上にて当日の委員会を終了、学薬委との合同会議に期待をかけることになった。

 福岡市薬勤務部会新年初の一月例会

 福岡市薬勤務部会新年初の一月例会

 福岡市薬勤務部会(会長福井正樹氏)では新年初の例会第一三〇回を一月廿五日午后二時から市民会館会議室Aで開催した。出席者50余名、先づ中外製薬提供の学術映画「血液(止血とそのしくみ)」の映写があって、部会開会、会長挨拶に引続き「医薬品の安全性(新薬の研究開発と正しい適用のために)」と題して中外製薬学術部長赤塚謙一氏の特別講演があり一同聴講、それより同会館内「レストラン富士」に於て和やかな懇親会が催された。