通 史 昭和34年(1959) 日薬−県薬−市薬
九州薬事新報 昭和34年(1959) 11月10日号

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 福岡市国民健康保険実施に対する医療担当者団の陳情

 福岡市では来年一月一日から国民健康保険が実施されるが、その運営の如何によっては保険者、被保険者及び医療担当者間に種々問題を惹起する虞れもあり又これ迄生じた事例も多々ある様である。因て医療担当者である市医師会、同歯科医師会、同薬剤師協会の三団体では、福岡市に於てはこれ等の面白からざる問題の生ずることを予め防止するため左記十四項目の陳情をなし、当局者の考慮を促がし市民の負担軽減、施療の完全、早期治療を期して共々に市民の健康増進に努力せんとしているのである。

 現在でも医療担当者の診療現状は殆んど保険患者であるのに、市国保診療の加わることは、一層附属事務に忙殺されることになり、これがため止むなく被保険者に不満を与える虞れもあり又医療の完全さえ期し難くはないかと杞憂するものである。保険者としては医療担当者の意の在る処を理解し、陳情事項につき慎重考慮することを医療担当者としては切望している。

 ▽陳情事項

 一、給付は本人七割、家族五割にすること
 二、給付期間は三年と限定せず、転帰迄とすること
 三、希望診療を認めること
 四、被保険者の保険料を平均一、〇〇〇円迄とすること
 五、保険者、被保険者、医療担当者、三者合同の国保運営協議会を設置すると共に、別に保険者と医療担当者同数による国保連絡協議会をも設置すること
 六、苦情処理機関を設けること
 七、未徴収金支払の最終責任は保険者にすること
 八、診療報酬金の単価は社会保険甲地区単価とすること(横須賀市の様に)
 九、国保運営に当り剰余金を生じたときは、給付内容の向上及び環境衛生等に使用すること
 十、診療報酬金支払遅延の場合には延滞利息として日歩四銭をつけること
 十一、医学研究費、指事費等を担当額考慮せられたきこと(川崎、横須賀、下関、高知、門司の各市等の様に)
 十二、国保に使用する諸用紙(請求書、明細書及び処方箋)等は無償で配布すること
 十三、医療施設及び調剤施設並に薬局に対する固定資産税、消却資産税を免除せられた去こと(仙台、川崎市の様に)
 十四、助産費を三、000円とし、助産婦の請求によって支払うこと

 以上先に医療担当団(三師会)から陳情したが、その後陳情十一〜十四項による事務費、協力費、研究費及び施設改善費、その他に就て数学的内容により種々要望していたが、去る十月卅日福岡市議会厚生委員会ではこれ等陳情についての市当局側の意見をも聴取の上陳情内容について慎重討議した。

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 福岡県校剤師 理事 評議員 協議会 神谷氏表彰報告

 福岡県学校薬剤師会では理事、評議員合同協議会を十月卅日牛後五時から薬剤師会館で開催、早川、友納正副会長外理事、評議員、顧問その他十七名出席、左記事項につき協議決定した。

 早川会長起って挨拶、なお当日午前福岡市御供所小学校で開かれた福岡県保健大会で八幡市学校薬剤師神谷武信氏が学校保健功労者として表彰された次第につき報告があった。同氏は長崎薬専卒の青年開局薬剤師であり今日迄校剤師としての業績顕著なるものがあり、今後一層の努力が期待されている人である。

 従来ややもすると老齢功なった人々が表彰の対象となりがちであったが、今回は所謂形破りで将来ある青年が表彰されたことは意義深きものがあり校剤界にとっても喜こばしきことであった。

 (1)九州地区学校保健大会出席報告
 去る八月長崎市に於て開会された標記大会には福岡県校剤から早川、友納、矢野、河野の四氏出席したが、当日矢野理事から大会内容について報告があり 早川会長から学校薬剤師の研究発表は本大会のみならず各種保健会に於て真面目な研究として信用のもとに聴取されていることを補足説明があった。

 (2)講習会開催について
 本年四月開催予定が会場の都合で一応取止めとなっているが、その後県薬協会長からも開催方要望があっているので、協会と共催とし左記校剤師未設置地区で設置促進の意味を含め、開催することを決定した。
 福岡地区=筑紫野町、前原町▽筑後地区=柳川大川市、甘木市、筑後市、八女市、吉井町▽筑豊地区=飯塚市、直方市、山田市▽北九州地区=行橋市

 (3)次年度研究発表について
 本年度発表以外の特に久留米、若松、戸畑、門司、遠賀、田川の各地区よりの発表が希望された。

 (4)学校薬剤師設置促進対策
 明後卅六年四月から校剤必置制度実施となるので未設置地区に早急設置方促進のため関係者え陳情書を発送することを決定した。
 右終了後神谷理事の表彰祝賀会を兼ね懇親会を開催した。午後七時終了。

 石田薬系技官新発見 指紋検出試薬

 去二十四日佐賀市本願寺会館で開かれた第四回九州鑑識科学懇話会に各地の県警捜査課長、鑑識技術員が集まって開かれ、佐賀県警本部技官石田知三郎氏は困難とされている血痕下の潜在指紋の発見新法を発表した。

 ペンチジン含有ゼラチン紙でゼラチングリセリンベンチジン試薬の割合とオキシフル使用に関しての研究で犯罪化学上軽便に利用され其の功績は大きい。氏は京城薬専出の薬剤師で戦後佐賀に引揚げ、二十四年に県警入りをした人である。

 薬界短信

 ◆雇傭薬剤師斡旋=福岡市薬剤師協会では従来薬剤師の就職についてお世話して来たが、今後も引続き薬剤師の必要な業者、雇われたい薬剤師などについて業界平和のため斡旋したいと思っているので、両者共ご希望の方は「福岡市御供所町二九福岡県薬剤師協会事務所」に申込まれたい。

 ◆福岡県医薬品小売商業組合調整規程案起草委員会=理事互選により決定した委員七名(白木、瀬尾、工藤、宗定、藤田、形井、樋口)の表記第一回委員会を十月廿日の午後二時から薬剤師会館で開会、規定案協議作成して直に県商工課え提出した。

 植物閑話=栄御老  「キビ」

 平坦地方には極稀に見るが、肥後の五家荘、飛弾の白川、越中の利賀の如き、山深き農村にては、主穀食の一つにキビがある。畑一面に累々として列ぶ穂の状景。亦この刈穂を小束として軒下に掛け連ねたるは、実に裕福感を覚ゆるものである。

 黎は東印度原産と言い伝へられる一年草で、支都では元祖の初め己に豊作であったと云い、我邦でも神代より、稲に優る食糧であったと想像されている。

 我邦では桃太郎が鬼ヵ島の鬼退治にキビ団子を携えているので有名であるが、支那では王飯と称して、最上の貴食としてゐるといふ。これに就いて面白い実話があります。

 私が大阪在住の頃に、知人に宣川祥次郎、加佐子といふ夫婦があった。支那淅江省の奥深き山渓に生れた者で、日清戦争の後、勇敢にして親愛なる日本に瞳れて好いた同士が所謂駆落して来て、遂に帰化永住して居る張宣祥と張慶佐の二人で、夫は袋物の行商をし、妻は辻占の易者であった。

 常にキビを貯え居て王飯と呼び、慶祝のあるときは勿論のこと、毎月末の日(旧)には必ず何粒のキビを米麦に混炊して祝意を表はして喜んでゐたが、或時薄ツ平な縦八寸横巾六寸位で、中心が斜向している小判形の変手古なキビ餅を一重ね持って来て慶祝進上とあった。

 その由来に日く。張が今日四十八才の誕生日(八方神を六回)を迎へた慶祝の王飯で、大人等三人を選んでの進上とあって、些か恐縮したことであった。兎に角支那絶途の山奥に残る。最も古く尊い故事緑習であることを察し、是れを受けた三人が申合せて、一夜の盛杯を捧げたのであった。

 太古には物資を計るに量衡の制なくして、只管郷族の伝説に依って、枹、束、弧に依ったもので、それが郷に従い族に習って一定しなかったことは勿論で、その混乱したることは想像されるのである。

 世の開発進歩に伴れて、計量の重要性に迫り、遂に計器を造り取引の基を創めたが、その評準として唐の高祖が、開元通宝を鋳造して通貨としたものであるが、その根本的基礎としたものがキビである。

 キビは祖来の主食にして、而かも穀粒は重重も形蹟も共に均しくして、異変なきを撰ばれたものであるといふ。

 この計器を衡と称して二様に呼び、即ち木材、鉱鉄、衣食料等の如く粗大なるものを大禰とし、宝石、薬品の如き貴重品は小禰とて単位としたもので、即ちキビ十粒を以って小禰の一朱としたもので、大中はその十倍の百粒、之れを両と呼んたのであるといふ。 漢方医の呼ぶ衡の単位は、小禰を以てするのであるといふ。

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 第一回乱研対策委員会 委員十八名決定

 先に福岡地区薬業協同組合の懇談会で要望のあった「乱売研究対策委員会」は次の通り委員の決定を見たので、十一月四日午後一時から薬剤師会館で初の委員会を開催し、本会運営の大網について討議検討した。

 ▽乱研対策委員(十八名)
 伊田保二−名香、佐々木正喜−箱崎、篠崎九蔵−馬出、藤野嘉七郎−干代吉塚、石井五百代−浜、吉村善吉−岡、白水保美−住吉、小野信方−春吉A、工藤敏夫−春吉B、中野佐−大名警固、緒方勇−当仁、佐野肇−簀子、南里幸生−草ヵ江、富永昇蔵−西新、田添茂丸−姪浜、白水静次−平尾、吉田吉郎−高宮、福田恵−南

 白木薬協組理事長の挨拶があり引続き出席委員の意見開陳があったが、当日は第一回でもあり出席者も少なかったので第二回委員会を来る十二日に開会することを決定して散会した。

 当日の検討概要は次の様なものであった。
 本委員会の仕事は小売業者として問題である訪問販売、事業所廻り等について検討し、対策を講じて実行に移すことである。これは薬協組の仕事であるが、現在の状態では薬協組執行部で手が廻らないので、別に本委員会が新設されることになったわけである。今申請中の商業組合が認可になり、又調整規程が発動する運びになる迄には相当の期間があり、発動の暁には亦これを執行すべき人が必要であることを考慮に入れて乱研対策に努力したい。

 本委員会の委員長は仕事の性質上協組の統制部長が兼任することが妥当だとの意見もあったが、委員会の性格から見て別に委員の中から互選することが適当と思われるも、この場合委員長の考えが薬協組に反映し難いとの懸念があれば勿論薬協組の理事に兼任する様の手段を採りたい。

 要は委員長並に委員が働き安い様の仕組にして一途努力邁進することが望ましい。二時半終了、散会した。

 佐賀県 野中、江口両氏表彰さる

 佐賀県では十一月三日文化の日に県政功労者として十六名を知事が表彰したが、薬系からは左記二氏が表彰された。

▽野中万太郎氏=佐賀市材木町(ウサイ円本舗、元商工会議所会頭、元県薬副会長長崎薬専卒)家伝薬を改良普及すると共に県医薬品生産会社、県防疫薬品協会の新設に尽した。

▽江口虎三郎氏=神崎郡三田川村(県薬剤師協会長、元長崎薬専部長教授、東大薬学科卒)県薬業界の発展に努め保健向上に貢献した。

 女子薬美容講座 福岡県女子薬衛生教室 十一月十八日

 福岡県女子薬剤師会主催の本年度「女子薬衛生教室」は十一月十八日正午から福岡市渡辺通り電気ホールで約五時間の予定で左記講演並に映画を催すことになっている。今回は特に女性の皆様方が、いつ迄も美しくみづみづしく健康であっていただきたいとの念願から左記の様な講演としたと世話役では言っている。

 ▽演題と講師
 @美と健康を増すための薬の使い方=NHKラジオドクター 古屋英樹氏
 A最近の化粧法とヘアスタイル=山野高等美容学校校長、山野愛子女史
 ▽映画=たくましき母親達

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 福岡薬協組部会長 SM対策委員 合同会議

 福岡地区薬業協同組合では、部会長、SM対策委員の合同会議を十一月四日午後三時半から薬剤師会館で開催、当仁、高宮、平尾、浜の四部欠席、藤田氏開会の挨拶後左記事項につき協議又は報告があった。

 ▽SM経過報告
 @高宮主婦の店(代表前田幸作)は接衡の結果向う三ヵ年は薬品販売せぬ書類で約束ができた。
 A同中央店は薬品部設置時期を現在の処十二月迄延期して貰っているが、既に薬剤師を雇い仕入実習のため大阪え派遣している模様である。
 B唐人町、大橋、蓑島の主婦の店は今の処薬品の販売はしていない。現在市内に十五店が開業しているが全部薬品の販売はしていない。京都ではチラシに価格を、店に価格票を表示することを禁止しているので余り客を吸収していない様であると、以上白木氏から報告。
 C西新丸栄マーケットは淵上百貨店の縁故者(娘婿)が社長である旨藤田氏から報告があった。

 ▽九州各県薬業(協同)組合代表議会出席報告
 白木氏は乱売下に於ける薬局経済、薬事法改正等について詳細報告
 ▽福岡県医薬品小売商業組合経過報告
 十一月中旬頃認可の予定と伝えられており、調整規程案は既に当局え提出しているが、案中二、三ヵ条は不許可となる公算が強い様である旨白木氏から報告

 ▽本協同組合役員補充
 三家、南田の両氏を理事に選任、商組部員を委嘱
 ▽その他=@SM対策拠金状況を大隈理事説明、協力を要望したA糸島生協対策費補助の件は円満解決の報告ありB乱研対策委員会  (別掲)出席報告

 次に市薬協から「季節の手帳」は十二月頃増頁の予定
 なお対外的関係もあるので、読者名簿作成その他に一層の協力が要望された。午後五時半終了散会。

      句三味   筑前 徳 島 山 花

         乳鉢のころりかたりと夜の寒き
         たいて居る猫のぬくもり夜の寒き
         俳句手帳伏せて新酒をふるまはれ
         新酒酌む俳句手帳をふところに
         通草とる人声のして山晴るる

      句日記より 山鹿 清 水 鹿 山

         亡びゆく思ひ出秋と惜みけり
         大掃除の疲れ葡萄をむさぼりぬ
         烏瓜染まりて夕日くづれけり
         旅に居る末子二人に夜の長き
         蓑虫は己が天地をたのしめり

博多ぷり 二○加  痔 の 薬

 「痔の悪うして、困っとりますが、よか薬ばやってつかあさい」
 「はい 良い薬ばあげますが、痔の悪いとは通じが順調にある様されるとが一番大事ですばい」
 「ははあ、それがヒケツ(秘結−秘訣)ですばいなあ」
     スハラ

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 薬界随談

 ▲厚生省発表の三十三年末の現在薬剤師は五六、五一八名其の二二%が東京、一一%が大阪に住んでいる。薬剤師の都市集中が著しい愛知三位、兵庫四位、福岡五位で一都一府三県で四九%即ち、半数に達している。薬剤師の適正配置は本格的対策を樹てなければおつっかない。

 ▲本年男二回の薬剤師国家試験学課試験の合格率は四五.六%半分以下が次回廻し、でも昨年秋の四〇.五%よりは稍良い方だ 切角薬大を出ても薬剤師として通用しない浪人は困ったものだ。薬育基準で学習を受けた範囲の出題、薬大系の学校と違い教授のプリントや代筆で事が済まされるものではない。必ず実験が供ふ学問である一日=一時間と云えども学生はサボッては相済むものでない。

 ▲筆者県外の九州大会に久方振りに出席す。原爆投下後十四年平和復興にめざましい。戦前を凌ぐ人口の長崎、詩と夢の港街、西洋文化と云ふよりも南蛮、唐船の文化の関門とし蘭学発祥の地であり、吾々薬学のゆかりも古い。今日の長大薬学部も幕末前後西洋医学の胎動に答え幾多の変遷を経て、現在堂々の薬学の最高学府となる。この意義ある薬学の集い筆者は三回と記憶する。牟田顧問の血気旺んな時に一回いた。会後全員車を列ねて示威行進しながら唐寺、御諏訪さん其他の観光をやった。

 懇親会は当時のカルルスの大広間でとても収容し切れない大盛況で正面の舞台の幕が異国風の唐噺で静かにあくと絢爛たる中国服姑娘一行の胡弓が交った賑やかな音楽と優しい踊りの妙手に魅せられた。当時の牟田会長、この一行は本大会の為め本日着船で上海からわざわざ招聘した!!一同大金がかかるだろう?何んと一ぱい喰された。この連中名有る長崎芸者の御家芸だとばれて愉しむ一駒は昔の想い出となる。長崎大会で秋十月諏訪神社祭りで名物供日の出し物を桟敷で見物した事もあった。

 ▲草津委員長他役員の並々ならぬ努力で大成功裡に終った事は護に喜ばしい。旅人の夜として昔の色街ゆかりの地の丸山一帯の旅館が来会者の宿舎で静かな室で幕末当時の各藩の留学生や志士達もエトランゼとして長崎で盛んに遊んだ人情の細かい処、坂の多い道、高台より市内、港の景は特に夜が良い。

 ▲長崎と云えば昨今SM旋風が波乱を起した。たまたま夜の散歩で夜間営業中のSMに大牟田の筒井君と入って見た。薬品部には何んと其の責任者のアポが筆者の知る人で驚いた。向ふは気づかなかったのは幸いで筆者は声もかけなかった。仝君おそらく大会も気にしていない様だった。

 ▲之亦夜の長崎の出来事!!
 繁栄街中心のSMウインドにマスコミ薬品特価一覧表が一ぱいに帳って有ったが、店内には薬品のかけらもない。何んとなく見たら某SMの広告?らしい。同行の某薬業紙特派記者、安売りビラをパチンとカメラにおさめたら、一−二の若い店員?が無断撮影に何に事かとつめよって来た。まるで何々組のチンピラのやる行動、夫れだけSMも頭を使っているらしい。

 ▲戦後佐賀の薬剤師で文化の日に知事より表彰を受けられた方はトップに県地方自治功労者として武田、次が、社会事業功労者としてサロンパス中富社長、次が鑑識化学功労者として堤技官、次が今回の薬事功労者として野中、江口の両氏で計五氏となる。

 ▲玉名市で開局の上田久蔵氏逝去の報を長崎で戸田君(熊本)より聴く、御互に若い頃九大薬局で御世話になった全君熊薬出身で温和しいまじめな人であった。

 ▲九州大会場で名誉会見に推薦された熊本の木岡君より事前に長崎に行くから君も是非来い、久し振り会いたいとの手紙、元気な熊本弁丸出しの良い男!!良い爺だ。未だ未だ使える男。推薦を受けて子供の卒業式の証書を受け取った時の喜びを顔に表はした良い男だ。切に自重を祈る。(GT生)


九州薬事新報 昭和34年(1959) 11月20日号

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 薬事制度調査特別部会 =許可制、距離制限、病院薬局=

 薬事審議会の薬事制度調査特別部会は大体順調に進んでいるが、仲々困難な点が多いので遅々としているのも止むを得ない。これから最も難かしいと思われる販売業についての審議に這入ることになるが、今年中には部会もあと十一月廿四日と十二月二日の二回となっている。これで一応読会を終え、明年早々から事務当局で問題の集約にかかり、これによって改正案の骨子を綻める段取となる模様であるが、兎も角特別部会の答申が出ないことには事務当局としても問題とならないのである。

 部会審議に於て幾ら論議を尽くしても結論に達しないような事項があるとすれば部会としても意見が大きく分れる場合が無いとは言えないが、この場合厚生省としても改正法案を作成するのが困雑となり所期の予定や目的が達せられるか、憂慮されているような状態である。

 去る二日の第五回特別部会は薬事法第四章(薬局及び調剤)と第五章(医薬品用具及び化粧品)の一部に関する意見が次の通り(要旨)交換された。

 (1)薬局の登録更新=年一回の登録更新は煩雑だから、数年に一回又は届出制にしたいとの日薬委員側の強い意見が出たが、現行法は薬局薬剤師の実態把握の目的もあるのでとの反対意見もあり、改めて協議することになった。

 (2)開局権=現在病院診療所の開設の場合医師以外の者の開設は許可制となっているが、薬局もこの制度にすべきだとの意見が出た。然し許可基準に問題ありとして再検討することになった。

 (3)管理薬剤師=名儀貸的のものを無くしようとの意見が強かったが、薬剤師インターン制度とも関係して来るので再協議することになった。

 (4)薬局の距離制限=公益上必要であると日薬委員側から意見が述べられたが、距離制限は人口又は距離を基準とするか等難かしく且つ憲法抵触問題とも関連するので改めて論議することになった。

 (5)病院調剤所=薬事法に基づく基準の適用を薬局と同様にすべきであるとの意見が出た。

 (6)薬局名称=薬局という名称の独占並に頬似の名称を禁止するよう薬事法に規定すべきである。

 (7)委託製造=責任の所在を明確にして委託製造を認むべきだとの意見が出た。

 (8)生物学的製剤製造所の管理者=医師をおくことになっているが、全べての医薬品製造所に管理薬剤師を置くべきで、特に必要な場合にのみ医師もおくようにすべきである。

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 国保直営病院条件つき支持

 日本薬剤師協会では去る四日国保対策特別委員会を開き国保直営病院の設立の支持、社会保険には完全分業を貫く。国保運営協議会には薬剤師代表の参加推進などの方針をきめた模様である。

 卅六年度からの全国皆保険を控え国保は最近愈々普及されて来たが、一方これに伴い各町村単位に「国保直営病院」の設立気運が高まっている。これに対し医師会側からは開業医を圧迫するものであるとの理由で反対の声が強い。然しこれ等病院が院外処方箋を発行する見透しがつけば薬局にとってプラスの存在となるので、薬剤師会としてはこれを歓迎すべきであり、その設立には条件つきで協力促進すべきであるとの結論を得た。従って今後各地に国保直営病院設立の動きがあった場合は処方箋発行の方向に原地薬剤師は当局者に折衝する様又日薬としても積極的後援を期する様同委員会では日薬執行部に勧告することになった模様である

 佐賀県学校保健大会 校剤部会研究発表

 佐賀県学校保健大会は十一月二十日午前九時半から小城町桜岡小学校で開催、開会式を終って六分科会に分れ研究発表と協議が行はれるが、学校薬剤師部会では
 (一)飲料水用水の検査と消毒について
 (二)教室の環境衛生検査について
 (三)保健室の薬品管理について
 が発表される。なお一時より各分科会の報告、ついで質疑応答があり、左の特別講演がある。
 ▽精神衛生について
  九大教授 関計夫氏

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 盛大に行われた福岡勤務部会百回記念式典

 福岡市薬協勤務部会一〇〇回記念式典を十月十四日原鶴温泉で催し、外に一〇〇回記念誌を編纂して会員並に関係方面に配布して祝意を表した。

 十四日午後二時参集者六十五名が乗車した西鉄バスは福岡を出発、秋深き櫨紅葉を眺めながら国県道とはいえ担々たる田舎道を約八里甘木市、恵蘇の宿、木丸殿跡を左に拝して平和の境、原鶴温泉、筑後川々畔、眺望佳なる小野屋旅館に到着。

 少憩の後当日の特別講演「明治以来の漢方の歩みについて」と題した九大教授塚本博士の興味ある話しを聴講し、それより記念式典に移った。福井氏司会し、松尾氏の開会の辞、竹内準備委員長、次いで松村会長の挨拶があって鹿川幹事の庶務、会計報告。異議なくこれを承認。

 当日は来賓として県当局から尾崎技師外四名、筑紫廿日会メンバー各福岡支店長若しくは代理者、県市薬協代表者外が参列、薬務課長代理として尾崎技術補佐、廿日会代表として奥沢大日本製薬所長、薬協会代表として鶴原支店長、順次祝辞を述べられ、次いで松村会長並に山本幹事両氏を本会の功労者として表彰、記念品を贈呈し、山本氏代表して謝辞が述べられた。これにて記念式を終え山田氏の閉会の辞により六時半一応休憩、それより開宴となった。

 紅君の三味による会員坂井氏の長唄老松を皮切りとして、酒杯の環りと共に和気漸く濃く、各自ご自慢の余興は松村局長、宇野支店長、奥沢所長その他次々と現はれて一同は時の過ぐるを知らず、翌朝川風の冷々とした眺めに漸く温泉に身を温めて帰路につき途中太宰府の観世音寺に下車、国宝を拝観して福岡にかへり散会、和気揚々而して盛大な記念行事の幕を閉じた。

      句三味  筑前 徳 島 山 花

         新海苔となりし浦々晴れわたり
         蛸壷の山あり新海音干してあり
         新しき兎の糞や粟拾ひ
         ぼた山の木の間に見えて粟拾ふ
         すねて居て時雨れ戸に立つ女あり

 植物閑話=栄御老 「ソ  バ」

 蕎麦は神代よりあったとも云うが、一説には古く中央亜細亜から移入されたともいう、文献に依れば続日本後記に「承和四年七月令畿内国司勤種蕎麦」此時迄諸国に多くは種ざりし事と見ゆとある。

 中古より糧食として汎く栽培されているが、素より五穀七菜の花終って、実を収むる頃に種を下して秋の半ばに収穫すべき、実に短期栽培に依る優良なる糧食である。

 古くは蕎麦(ソバムギ)と呼びしは、春の麦に秋の蕎とを、米の脇副へとしての意にて一呼とせしが、後にこれを両別して各別に唱ふるに至ったものである。ソバ常食は勿論、昔は一種の療薬として食滞、冷腰症等に用いたもので、現在でも腰冷えする婦人は良くソバ食をしていることを見受けます。

 昔待はソバカキといって、ソバ粉を椀に盛り、白湯を適度に注ぎ、箸にて掻き交ぜながら練って、団子の如くにしたものであった。その頃甲州天目山へ参詣者多かりければ、民人、ソバを練って来詣者に売ると共に旅籠とせしが、後にこのソバの練ったものを、押し拡げて薄く長く切って醤汁に浸して食するを上品としたので、之れがソバきりの始めなりという。

 その後江戸よりテウチソバが始まり、気前の良い江戸ツ子に大歓迎されたものである、といってもその手打は白刃を奮って敵を討つの意ではない。ソバを固く練って、頃合の棒で叩き伸ばして細く刻み、味汁をかけて食べるのである。その手打の意味は、故事一切を白紙に返して、アツサリと元の気持に還る。即ち喧嘩口諭は素より損益、恨み憎みを一切解消する意味である。遂にこれが一般に喜ばれて大晦日の年越ソバとなったのであるという。即ち古い一切合切白紙にしてヨイヨイヨイヤサーと手を打って、古年を送って新年を迎えるの、習慣行事となったのである。

 面白いのは京の都のヨタカソバである、若い侶坊や禁裏の若侍が、丸山の茶屋に憩えば、何処に待って居たのやら、昼は手枕高鼾で寝ていた娼婦が、夜に入るのを待って鷹の如くに飛び来って好き獲物をつつくのであった。それはソバを召し上りながらの快詰淫談するので、ヨタカソバとて当時の大流行であった。

 古い歌に「大名けんとんヨタカソバ二本道具の汁辛味、又しのぶヨタカの薮入や、二階へ二膳の志のぶ山」。

 九大薬局益進倶楽部 和やかに総会終了 九大薬局出身者のつどい

 第十回益進倶楽部総会が十一月八日(日)午後二時から福岡市麹屋町福寿飯店三階ホールで開会された。老若男女四十五名出席、先づ鹿川幹事の開会の挨拶に引続き庶務並に会計の報告があり満場異議なくこれを承認、次に松村会長の挨拶があり、なお本県が明年十月の九州薬学大会の主催県に決定しているので、十一月開会恒例の本益進クラブ総会を明年は薬学大会を機会に一ヵ月早く大会と同時に開催することを一同に諮ったが満場同意、左様決定することになった。

 次いで鹿川幹事再びたち、今春大阪に開催された第十二回日本薬学大会に於て薬事功労者として日本薬剤師協会賞が授与且つ表彰された松村会長、この程これ又薬事功労者として福岡県知事から表彰された石橋廷三氏(旧姓早船)に、先に医学博士の学位をとられた吉積省三、高坂義一郎の両氏、これ等喜ぶべき栄誉の吾会員四氏の祝賀をも兼ねて本倶楽部は茲に小宴を催した旨を述べ、一同はこれを頷き、和かに開宴、祝杯の廻るにつれ談笑しきり、昔語りに時の過ぐを知らず四時半漸く閉会となった。

 福岡県薬業懇談会 十一月例会

 福岡県薬業懇談会十一月例会は十六日午後一時半から、薬剤師会館で開会
 出席者
 メーカー側=三共、第一、藤沢、大日本、万有の各支店長
 卸業者側=江口、坂本、佐治、若狭、鶴原(代)
 小売業側=片井、古賀、須原、工藤、藤田
 県庁側=尾形課長、佐々木補佐、尾崎技師

 先づ課長開会の挨拶、当日は特に懇談の対象となる問題も提出がなく約三時間に亘り業界種々相について意見の開陳、相互質疑応答に終始したが、小売側のメーカー、卸側に対する????希望、医薬品は既にSMや類似廉売店の囮商品の域を越え利潤向上商品として取扱われるに至ったとの論議、小売組合の既存業者に対する過剰保獲による卸屋の迷惑、小売業者の共同仕入の得失、正常ルート以外よりの仕入の可否、マスコミ商品定価の値引の可否についてのメーカーの意見、など殆んど各層の立場からの常識的談話、雑話、引いては談笑にも及び洵に真面目な、時に無邪気な、和気に満ちた会合であった。

 然し斯る会談の中に泌々頷けるいい知れぬ穿った機徴を感得することがあり有益な会合であることを思わせる。特別の問屋はなくとも旦し各人が時間の許す限り継続すべき懇談会である。

 最後に薬側を代表して現在の対SM関係の報告が藤田氏から述べられ組合の乱売問題に対処する万全の策についてメーカー、卸側の意見を要請した。四時半閉会。

 福岡県薬商組研究懇談会開催

 福岡県医薬品小売商業組合では本月十七日熊本市本庄町熊本県薬協事務所で乱売対策、法規研究会が開催されるので、その準備を兼ね、十一月十一日午前十一時から薬剤師会館で研究懇談会を開催して左記事項につき検討した。

 @商業組合の調整規定について
 A商業組合の今後の活動について
 B乱売対策について
 C法規の研究について
 D福岡市に設立企画中の薬学二校の反対運動に就て

 佐賀市郡薬業組合SM対策委員会

 佐賀市郡薬業組合ではSM対策委員会を十一月四日午後二時から県薬事務所で開催、川内組合長から経過報告があって対策費の協力、地区会の強化等を申合せた。尚同席には伴薬務予防課長、船倉薬務主任も特に出席して組合員の意見を傍聴した。

 ロート製薬 新社屋に移転

 ロ−ト製薬では兼て新築中であった社屋、工場がこの程竣工したので十一月十一日から左記新社屋で業務を執っている。これに伴い電話番号も同時に左記の通り変更になった。
 ▽新所在地=大阪市生野区巽西足代町五〇〇番地
 ▽電話(代表)大阪(74)六一六一番、六六六六番

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 福岡懸薬協 最近の受付処方箋数

 福岡県薬剤師協会の発表によれば県下薬局の社会保険調剤受付処方箋数は月と共に概ね順調な伸長を示している様であるが、薬局に於る医薬品販売高の漸威している今日、薬局経済安定上是非とも保険調剤の急速な増加を図らねばならぬ事情にある。同協会発表の最近の全県下に於ける受付処方箋及び請求金額は次の通りである。

 五月分 一、三一八枚    四四七、八五九円
 六月分 一、一七三枚    三九九、二四八円
 七月分 一、四七三枚    四九一、八五四円
 八月分 一、五五八枚    五九八、六七二円
 九月分 一、三五七枚    四五七、六六八円
 十月分 一、五六一枚    五六三、二九八円

 なお十月分各支部別受付処方箋数は次の通り
 八幡 八三四  飯塚 三〇
 福岡 一五二  粕屋 二七
 若松  九八  田川 一九
 戸畑  九二  浮羽 一六
 大牟田 八〇  宗像 一三
 久留米 七〇  直方  九
 小倉  六二  八女  一
 遠賀  五五  柳川大川一

 福岡の薬祖神祭 十一月二十二日

 福岡業界の薬祖神祭は恒例により筑紫廿日会主催で十一月廿二日(日)午前十時から住吉神社境内少彦名神社で催されることになっており、祭典終了後住吉向島の婦人会館で十一時から懇親会が開かれる。業界人は当日一人でも多く同社にご参詣あらんことを関係者は切に希望している。

 中外製薬福岡支店 電話番号変更

 中外製薬福岡支店では十一月十六日から左記の通りに電話番号が変更になった。
 ▽電話代表福岡B五四六一−四番

      句日記より 山鹿 清 水 鹿 山

         かちわたる水すみにけり草紅葉
         鳩の淵さか水なして落葉ふゆ
         薬なき病いたはり冬籠
         茶の花の白さこぼるる日影かな
         落ち合って冬川寒き瀬音かな

      句帖より    合 屋 杉 峰

         秋晴の中津街道英彦山遥か
         汽車のひま駅員障子洗いをり
         ケーブルの景展けゆく鳥瓜
         ゆくりなく菊人形の前に逢ふ
         馬車曳いて励む男や馬肥ゆる

 博多ふり 二○加 招 待

 「この頃時候のよかもんじやけん、メーカーやら卸屋から、相撲見やら、旅行招待やらの多かが、由断なでけんばい」
 「そうたい ショウタイ(招待−正体)はあやしか」
    スハラ

 薬界短信

◆全国社保担彗役員会議=日薬の主催で歯科標準処方集の作成その他社保問題討議のため十二月七、八日東部ブロックは静岡県伊東で西部ブロックは広島で各府県薬協の社保担当役員会議を開催することになった。

◆厚生省薬務局薬事課長補佐佐藤晋一郎氏来福=福岡県保険調剤の情況調査のため十三日来福、県薬務課佐々木補佐、日中技師及び福薬保工藤理事同伴で市内藤田、上田、三根、三氏の薬局を訪問の上、調剤状況などを聴取した。

◆森下仁丹福岡出張所開設=本月一日から福岡市奈良屋町一二(電話B〇二七八)に新設した。初代所長三宅繁之氏が就任。

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 薬界随談

 ▲水虫内服薬十月二十六日より一斉に四社から売り出す。武田が「ポンシル」塩野義が「フルピスタチン錠」三共が「グリソピン錠」「三共」藤沢が「グリソピン錠」「フジサワ」三十錠が三千円一九二九年ペニシリングリセオフルピンの培養液から得た抗生物質で経口投与で皮膚糸状薗に有効との事である。だが価が高く末だ庶民的の薬剤ではない気がする。

 ▲日刊紙で薬剤師招聘や募集の広告で失業薬剤師がおしかける。相手は殆んどがSM、色々の条件を持ち出すらしい。薬品部の売上げの予定額を示し夫れ以上に努力せよ、或は薬剤師会に入会するな、届でるな、資本家らしい一定線を劃している。次から次へと薬剤師を集める手段を講ずるのが横のつながりが堅いSMとの事である。

 日本の薬局をこわし日本の薬剤師を無気力にするのがSMであり、阿片の様な害毒をもたらすものがSMである。厚生省は医薬の業者を定め国家は医師、薬剤師の制度を定めているなら根本的に破かいするの業をなす一群が発生するなら速にこれを廃除、防御する気風と感念が有ってもいいだろう。薬剤師に医療の主体制を持たせる事は保健の向上に大いに役立つ事であろう。

 ▲SM旋風で長崎市内の薬価大いに乱れる。薬業者は仙人でも有るまい。空気と水のみで生活出来るものではない。何んとか打つ手はないものか。

 ▲鳥栖市の薬剤師市議の西依君、青年経済活動の場として仝地の青年会議所の発足を計画されている。成功を祈る。

 ▲九州大会来年は山口県主催の肚だったが、仝県は四国中国が合併して加盟を懇請されているので当てつけに出来ない。主催はせぬが今迄の友誼は必ず将来も物心両面で続けると苦衷を訴へ、福岡県に落ちついたとの事らしい。地形的には九州が近い。総てが北九州地区と関連性が強い。

 ▲厚生省大臣官房で昨年十月一ケ月間に於ける国民健康調査で治療費の半分が買薬で其の内二五%強が薬局薬店からの買薬、配置薬が一六%強、其の他の業態からが三五%となっているとの事である。だが民間の噂では国産医薬品の製造高は月産百十億で七十億が医師並薬業家で使用或は販売され、残り四十億が何処で消化されているか全く不明であるともいわれている。この四十億がSM或は購売会や事業所に直接流れているらしい噂がある。

 ▲戦後に強くなったものは靴下と女性である。女性の意見に全く感心するものが中々多い。長崎大会女薬部での研究発表=熊本の田中由起子さんの試験紙を用いての陽イオン確認反応=実に堂々たるもので、試験紙の試作に工夫をこらし簡明なる操作の確認であり論者は更に研究を続ける努力に敬伏した。各県代表の発表、これに関する議論実に真剣で、女子薬剤師の勤務と給与、低給で供給の根絶と雑用の排除を決諭づけた事は実に偉い。(GT生)


九州薬事新報 昭和34年(1959) 11月30日号

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 福岡市三師会総決起大会開催 会員約四百名参集

 福岡市では明年一月一日から国民健康保険実施を決めているが、医療担当者よりなる三師会としては、その主旨には賛成であるも、その運営機構について異議ありとなし、先に十四項目に亘り市当局に対し陳情且つ要望している、次いで再び大いに気勢を揚げるため廿一日午后二時から会員約四百名が参集して「三師会合同決起大会」を医師会館講堂で開催、次のスローガンを揚げて左記演説に移った

 ▽本人七割家族五割給付を実施せよ
 ▽給付期日を転帰迄とせよ
 ▽保険料は干円以下とせよ
 ▽完全なる国民保険を実施せよ
 ∇演 説
 ▽国保と医療担当者の立場=矢野耕次、医
 ▽十四項目を死守せよ=稲井鉄鳴、歯
 ▽総決起大会にのぞみて=鮎川兼祐、医
 ▽福岡市国民健康保険と薬剤師の立場=四島久、薬
 ▽完全なる国保を実施せよ=福田昌子、医
 引続き左記決まをなした

 決 議

 一 新国民健康保険法成立時の衆、参両院の附帯決議が解決せられてから実施計画をたてるべきである。
 一 福岡市当局は、もし、右附帯決議が解決しない前において実施計画をたてる場合にはそれに見合う措置をとるべきである
 一 福岡市国民健康保険実施に対して三師会が主張する条件と要望事項は、一、〇八〇名会員の断じて譲歩出来ない要求である。もしこれらを無視して実施を強行するならば我々療養担当者は福岡市に於ける国民健康保険には協力出来ない。
 一 我々療養担当者は、市民の正しい医療を守るためあくまで三師会の方針並に態度を支持し一致結束して要求貫徹に邁進する。
 右決議する。
 昭和卅四年十一月廿一日
     福岡市三師会
 それより直に三師会代表一行は決議文を携えて市当局を訪ねこれを交手した。

 松村薬局長学位論文通過

 九大教授、九大薬局長松村久吉氏は兼て学位請求論文を東大薬学部に提出中であったが、去十一日の教授会でその論文「アルミニユムステアート類の流動学的性質について」が通過したので近く文部省から薬学博士の学位が授与されることになっている。

 同氏性恬淡で従来一向学位など意にかいせず今日迄只管薬局業務に又その職務に専心尽されて来たが、都合により今回論文を提出された模様である。益進クラブ同人は一様に喜びを表している。

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 九州各県連合乱売対策懇談 熊本県薬剤師会館で

 各県とも相次ぐマーケットの出現と乱売 訪問販売と益々薬業界を不安に墜れんとする現状に鑑み、十一月十七日午後二時から熊本市本庄町の県薬剤師会館に於いて九州各県の業界代表者が集って対策懇談会を開催した。

 来会者は長崎の隈治人、堀正夫、一瀬正夫、福岡の白木太四郎、古賀治、波多江嘉一郎、形井洋、佐賀の江口虎三郎、山口不二海、鹿児島の山村実治、宮崎の矢田部政雄、大分の安西孝、堀部進、熊本は戸田県薬会長、椿県連合会長、石原熊本市小売組合長外市部支部代表十数名が列席し左の項目にて協議に入った。

 ▽対策の具体的方法

 (一)商工組合の結成
 (二)再販の契約
 (三)価格の協定
 (四)組合員の乱売、廉売対策
 (五)B級卸業者のデスク廻り
 (六)メーカーの価格体策の再確認
 (七)共同事業、共同購入、薬業共済組合等
 に就て先づ協議したが、商工組合の結成も公正取引から発言があって運営面に困難を来たした旨を長崎、宮崎代表から注意があったが、一応結成をなすこととなり、各地の乱売状況の報告を求め、各地共マーケットの設置は極力阻止運動はやって居るが、完全には行かない。

 乱売は熊本の二割〜三割の外他県は一割位、マーケットが二割位で協調されてるとの報告であり其他の問題は薬務行政面で積極的に応援を求めること、薬事法の改正には猛運動を起し政治的解決で協力一致の態勢をつくることを決定した。尚先般日薬より発表した滝川案に対しては各県共未だ比判的態度を見せていた様であり、最後に福岡市に設置が計画されている薬科大学二校の問題に就て賛否両論があったが、一校位にする条伴付賛意を表しては如何と云ふ程度に落付いたようであった。

 第一製薬 ガンマロン アリメジン 二種新薬発売

 第一製薬では従来薬物治療が殆んど絶望視されていた精神発育遅滞(精神薄弱)に対して相当な治療効果が期待される新薬剤ガンマロンを十一月十日から新発売した、なお止痒、鎮咳効果のすぐれた強力抗ヒスタミン剤アリメジンも去る五日から発売している。

 ガンマロン  (略称ギャバ)
 ▽成分=γ−アミノ酪酸
 ▽性状=無色又は白色の結晶で僅かに苦味、水に易溶、熱アルコールにごく僅かに溶けその他の有機溶媒には殆んど溶けない。 融点二〇二〜二〇四C
 ▽作用=@脳の切片を本品の溶液に入れると、大野のγ−アミノ酪酸が速かに吸収され脳及び神経系に於て特有の生理作用を起していることが想定されるA本成分は生体内ではα−ケトグルタルと反応してグルタミン酸となり又逆にグルタミン酸の脱炭酸によってγ−アミノ酪酸となる、これらの反応は脳組織の中で最も活発に行われるB又脳の活性エネルギー源は殆んどブドウ糖に依存しているが、γ−アミノ酪酸はブドウ糖の分解酵素へキソナーゼを活性化するため脳の活動は盛んとなるC脳内でアセチルコリンの生成を促進し、一方アセチルコリンを分解する酵素コリンエステラーゼの活性を促進しないD延髄の血管運動神経の中枢の一つであるDpressor Pointに働いて血圧を降下させるELD50は5g/kgで安全な薬剤である。
 ▽適応=@精神発育遅滞(脳性小児麻痺、分娩時の障害その他による) への効果A脳血管障害(脳出血、脳軟化、脳動脈硬化などによる)に基く片麻痺、記憶障害 言語障害などの回復B本能牲血圧症の血圧降下及びこれに伴う自覚掻状(頭痛、肩こり めまい 不眠など)の改善C昏睡(眠剤中毒、尿毒症、一酸化炭素などによる)よりの覚醒及び肝性昏睡の覚醒。
 ▽用法=通常成人一回一包(四錠)を一日三回服用する、症状により適宜増減してもよい。昏睡の覚醒には通常成人一五〜二〇c.c.(ガンマロン〇 七〜一g)を約三〇〇〜五〇〇tの注射用蒸留水へ加え、二〜三時間にわたり点滴静注を行う。
 ▽包装価格(カツコ内卸価格)=錠(一錠中二五〇mg)百錠四百五十円(三五〇円)五百錠千二百円(九五〇円)千錠三千円(二四五〇円)◆液(二〇%)百t四百五十円(三五〇円)五百cc千七百円(一三五〇円)◆注(五%)二十ccx五=四百五十円(三五〇円)

 アリメジン散
 ▽成分=本品は一瓦中DL−10−(3-dimethylamino-2-methylpropyl)-phenothrazireの中性酒石酸塩10mgを含有する百倍散である。
 ▽性状=本品の主成分は溶解点一六二〜一六三C、水、メタノールに易溶、クロロホルム、エタノールに僅かに溶ける、エーテル べンゼンに不溶、殆んど無臭、白色の粉末。
 ▽作用=@フェノチアジン誘導体の研究により発見された強力抗ヒスタミン剤で、その抗ヒスタミン作用は同系統薬剤中最も強力であるA勝れた抗痙れん、鎮痛と独得の強い止痒及び鎮咳作用があるB自律神経系に対しては交感神経及び副交感神経の両者に均斉のとれた抑制作用を示し、起立性低血圧などの副作用はみられないC中枢神経系に対しては適度の抑制作用をもち鎮静作用がある。
▽適応症=掻痒性皮膚症炎、感冒、百日咳、喘息による咳嗽、これらによる不眠、アレルギー性疾患、婦人科に於る疼痛、麻酔、????
 ▽用法=通常成人一回散〇二五g(一錠) 日量一g、就寝時の屯用には〇 五g(二錠)
 ▽包装価格(カツコ内は卸価格)=散(百倍散)二五g二百円(一六〇円)百g七百円(五七〇円)五百g二千八百円(二二五〇円)外に一錠中アリメジン二 五mg含有の錠剤もある。

 福岡の薬祖神祭 小春日の約五十名

 薬祖神の日十一月廿二日福岡では筑紫廿日会主催の薬祖神祭が午前十時から住吉神社境内で晩秋の森に薬祖神少彦名神社に於て厳かに祭典が執行された。約五十名の薬系参詣者は社前に起立低頭、ちらちらと二、三葉の落葉と共に宮司の祝詞は静かに流れ、神楽の響きは森樹の間に漲って静寂を破り、雅楽の音律は泌々と一同に古代を偲ばせた。

 軈て国松武田支店長主催者を代表し、次いで来賓の県衛生部長、松村九大薬局長外各薬系団体代表者は次々に玉串奉納を終え、一同参拝、晩秋とはいえ小春日の森の神前に神酒神菓に業界の繁栄を祈って祭典を終え、それより楼門前に記念撮影をなし程近き会場那珂河畔の婦人会館に向った。

 一雨は既に準備された席に着き、先づ国松主催者代表の挨拶に次いで来賓代表県衛生部長の謝辞があって一同杯を掲げて乾杯、それより薫高き日本酒に杯は環り環って心は温まり、談笑しきり時のたつのを覚えず和やかな雰囲気の裡に二時宴を終えて散会、恒例により神虎の笹を担いで三々伍々、暖かき小春日に顔をそめながら静かに一同は帰路についた。年一回の目出度き祭りの一日を茲に過した。

 薬界短信

 ◆田川薬剤肺会開局部会=去十九日午後二時から田川市東区橘通公民館で開会左記講演が行われた。

 @社保処方箋獲得対策=特別講師八幡市学校薬剤師神谷武信氏
 A剤界諸問題=県薬剤師協会四島副会長
 B校剤増設対策=野口田川薬協会長、側島同会庶務理事(田川通信)

 ◆佐賀薬業従業員表彰式=勤労感謝の日、十一月二十三日佐賀県厚生部と県薬業協同組合、県製薬協会、県卸薬業八日会共催の永年勤続従業員七十五名の表彰式は県正庁で挙行され、武藤厚生部次長より表彰状と記念品の授与があり受彰者代表上野辰次郎氏(製薬)より答辞があった。

 最新設備を誇るロート製薬本社工場落成

 ロート目薬、胃腸薬シロンの発売元、ロート製薬株式会社では、予てから大阪市生野区巽西足代町に一万坪の敷地、延建坪五千六百余坪の鉄骨鉄筋コンクリートの本社々屋及び工場を建築中であったが、此程竣工したので、去十六日同社ロート会館に在阪名士並に全国の有力取引先一千名を招いて盛大な落成式を挙行した。

 山田社長の挨拶に続いて来賓として渡辺厚生大臣(代理)左藤大阪府知事、中井大阪市長、武田薬品工業武田社長等の祝辞があって、式後一同は工場を参観、清潔な無菌調剤室やドイツから輸入の自動目薬充填機、シロンの自動分包機等最新設備、機械やコンベアーシステムによる流れ作業に目を見張り、更に従業員のために設けられた二百坪の体育館、一千人収容の大食堂、五十米水泳プールとクラブハウス、明るい医務室等全く完催した厚生施設の数々に一同は深い感銘を受けた様である。

      句三味  筑前 徳島 山花

         四囲の海荒れ狂ひつつ神の留守
         狛犬の欠けたるままに神の留守
         あばかれし古墳のあたり冬萠えて
         こぼれ温泉の湯気ひろがりて冬萠ゆる
         薬局のにほひ追はれぬ焼芋に

      句日記より 山鹿 清水 鹿山

         生きてゐるだけの寒さとなりにけり
         文合ずなりし古足袋探しけり
         林檎する妻の手胼と皸と
         小春日や娘もまぢり柿をむく
         庭小春上手も下手も柿をむく

      句帖より    合屋 杉峰

         草の実のこぼるるもあり泥鱒掘る
         泥鱒掘頬に着きたる泥乾く
         泥鱒掘首さし伸べて掻かせおり
         泥鱒掘野草に泥を拭ひおり
         兄よりも多く掘りたる泥鱒かな

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 薬界隨談

 ▲十一日の東大教授会で九大教授薬局長の松村久吉先生の博士論文「アルミニウムステアレート類の流動学的性質」が通過された事は誠に喜ばしい。先生は大正十五年東大薬学科の薬工教室を出、朝鮮の薬局長、教授、江口前局長の後任として九大入りをして璽来薬剤学の権威者として亦剤界や病剤会の指導者として貢献されている功績は実に大きい。

 ▲毎年の事ながら文部省では来春開校をめざす大学や短大の新設や学部、学科の増或は新設の申請を審査する大学設置審議会や私立大学審議会は大多忙。殊に私大の申請が多い、剤界関係では福岡の二薬大競願、東京方面では東京理大の薬学部の設更申請、薬学では近時女子の志望者が増加している理大は数年前からの希望である。

 ▲薬大新卒予定男子は殆んど満員と聴くが、女子は少々狭き門らしい。これらの女剤がSM等傍系薬品専任者として流れ込む事を警戒すると共に流れない機構の薬学系列を考へねばならぬ。

 ▲十七日熊本で全九州の小売薬協代表者が集まって濫売対策法規研究懇談会を開き、日薬私案の薬事法改正案手ぬるしとして各県で研究更に九州一致の良法を練る。其の意気壮とする流通機構、資本家や素人の辣腕家や囮としての薬品営業や開局が絶対出来ない法規加えて薬品販売は薬剤師に限る二号業者の断種をやらなければいけない。二号業者の殆んどは薬剤師になるか薬大在学の子弟を持っている者が多い。

 ▲全国的問題として悩むSM問題、東北地方の或る処では県薬幹部が従来の所信を一鄭してSMの管理責任者となる。一体どうした根胆かしらん。

 ▲二十三日行はれた「薬と健康の週間」の一環事業として行はれた永年勤続の従業員で表彰を受けた中で県薬協より内申した。有田の田代薬局の従業員古賀隆次さんは大正元年より実に四十九年間人生の殆んどを主家に尽している功績を高く評価せねばならんこの人こそ国家表彰に価する。(GT生)

 喫煙室

◇ 校剤師増設えのデモ!!
 去る十九日午前十時より福岡県田川市伊田小学校で特別講師として八幡市校剤師神谷武信氏を招き教室の「空気検査」を実施して市教育長、課長、係長、市会議員、西日本新聞記者など郷土のお歴々に対して至急校剤師増設の意義をブッかけたそうだ、素人にはこんなことでも「ナール程、ナール程」
 ききめがあったらしい。(田川校剤会通信)

 ◇映画招待で乱売対策とは
 熊本薬業小売協組ではこの程一つの試案としてノーシン、シロン サロンパスなどの様なマーケットでは三割−四割引きの薬品を百円定価で買って貰って映画館の招待券(窓口売り百二十円)を一枚宛進呈することに執行部では決定し、全市小売店の協力を求めて実施に入ったが、業者も「案外成績は良い様です」との語し、ヤレヤレ組合幹部は第二、第三の妙案を研究しているかどうか?(熊本通言)

 ◇台湾に引き抜かれた女子ノンプロ野球選手
 日本の女子ノンプロ野球チームの主将が台湾に引き抜かれたと云うと、一寸ストーブ リーグの特権めくがこれは引さ抜かれた女性が結額にホームインしたお目出たい話である。
 去る十二日に台湾台北市で挙行した田沢早苗さん(二五)が話題の主で、元サロノパス女子野球チームの主将であり新郎は台湾銀行本店勤務の陳超さつ氏(三二)だそうだ。今年初め同チームが台湾遠征をした時に二人は初めてあったが僅か十日間の滞在中に二人の間は相思相愛、婚約迄したスピードぶり、十二日夜の披露宴には台北市長、台湾省野球協会長等約五百人が招待を受けてご両人の多幸の門出を祝ったそうだ。(産経十一月十八日掲載)