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博多区・東区薬剤師会研修会

10月18日金曜日 博多区・東区薬剤師研修会

 

薬理・薬物動態に焦点をあてる

(4回シリーズ)

第4回【向精神薬の薬物動態の基礎】

講師:九州大学大学院 薬学研究院

   臨床育薬学分野・臨床薬学教育センター

    小林 大介 先生

本日の内容

1.向精神薬の概要

2.向精神薬の体内動態(吸収・分布・代謝・排泄)

3.向精神薬の薬物相互作⽤

 

 

1.向精神薬の概要

⚫️向精神薬の分類

・抗うつ薬

・抗精神病薬

・気分安定薬

・抗不安薬

・睡眠薬

・精神刺激薬 など

 

⚫️向精神薬の薬物療法における問題点

・精神疾患患者では、基本的な精神科薬物療法に加え、⾝体的併存症に対する薬物療法により多剤併⽤に陥りやすいため、薬物相互作⽤に注意が必要である

・抗不安薬や睡眠薬などは 精神科以外の⼀般診療科でも頻繁に使⽤される

・向精神薬の多くはシトクロムP450(CYP)の基質であり、CYPの阻害作⽤や酵素誘導作⽤を有する薬物も存在する

・⾷事の影響を受ける薬剤がある

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向精神薬の薬物動態について理解しておくことが重要

 

2.向精神薬の体内動態(吸収・分布・代謝・排泄)

⚫️向精神薬の体内動態(経口投与の薬剤)

① 経⼝から摂取された薬物は、通常、胃内で 崩壊・溶解する

② ⼤部分が⼗⼆指腸や⼩腸で吸収される (腸管壁で代謝を受ける薬物もあり)

③ 肝臓で代謝(初回通過効果)されて、 体循環⾎中へ移⾏する

④ ⾎液中の薬物は⾎液脳関⾨を通過して 脳に移⾏する

  ▶︎投与する薬物の特性や患者の個体差により多様に変化する

 

⚫️吸収に影響を与える因⼦

消化管運動の低下

 抗コリン作⽤を有する薬物は、副交感神経を抑制し、胃の蠕動運動を低下させる。

 イミプラミンなどの三環系抗うつ薬は、胃から⼩腸への胃内容排出速度(GER: gastric emptying rate)が低下し、併⽤薬の吸収が遅延する。

腸壁での代謝

 薬物の脂溶性の程度や、腸管からの吸収の機序の違いによる

⾷事の影響

 腸壁に分布しているCYP3A4やP-糖タンパクとの関連が問題と なる

 

⚫️脳への分布

・薬物が中枢神経系で効果を発現するためには、遊離型薬物が⾎液脳関⾨を通過して脳内に達する必要がある。

・脂溶性が⾼い薬物ほど脳への移⾏性も増加するが、脂溶性の低い薬物は⾎液脳関⾨を通過しにくい。

・脂溶性が⾼すぎる薬物は⾎液中にほとんど溶解せず⾎清アルブミンと結合するため脳への移⾏性は低下する。

 

⚫️代謝

 向精神薬は脂溶性が⾼い薬物が多いため、向精神薬の代謝は⽔溶性を⾼めて、尿や胆汁中に排泄するためのプロセス

 向精神薬の代謝は主として肝臓で⾏われ、第I相反応と第II相反応に⼤別される。

第I相反応

 CYPを主とした薬物代謝酵素によって、脂溶性の⾼い薬物を酸化還元、加⽔分解などの反応により、
 ⽔酸基や第⼀級・⼆級アミン基を付加して極性を⾼めることで⽔溶性を増加させる。

第II相反応

 グルクロン酸基や硫酸基を付加することで、さらに⽔溶性を増加させ、代謝物は尿や胆汁中に排泄される。

 

⚫️第I相反応に関わるCYP

CYPは、分⼦量45,000〜60,000の第I相薬物代謝酵素
肝臓以外にも、腎臓、肺、消化管などほとんどの臓器に発現する。
CYPは肝臓において薬物などの代謝を⾏うほか、ステロイドホルモンの⽣合成や 脂肪酸の代謝などの役割を担っている。

●薬物代謝に関わるCYPの主な分⼦種
 CYP3A4、CYP2D6、CYP2C9、CYP2C19、CYP1A2
  ※CYPが関わる薬物代謝の約80%を占める。

 CYP3A4は様々な薬物の約50%の代謝に関与
  肝臓CYPの30%、⼩腸CYPの70%を占めている。
  ・遺伝⼦多型
   CYP3A4には*1〜*34(*1は野⽣型)の変異アレルが存在
   ⽇本⼈では、*1Gの変異アレルを有する頻度が29.7%と⽩⼈の8%と⽐較して⾼く、
   CYP3A4酵素活性が上昇する。

 CYP2D6
  CYP2D6は様々な薬物の25%の代謝に関与している。
  ・酵素誘導する薬物
   CYP2D6は、CYPの中で唯⼀、酵素誘導は受けないといわれている。
  ・遺伝⼦多型
   CYP2D6は*1〜*139(*1は野⽣型)の変異アレルが存在し、
   ⽇本⼈では*10のアレル頻度が⾼い
  ・CYP2D6遺伝⼦多型と薬物曝露の関係
   パロキセチン︓CYP2D6*10/*10(IM)ではAUCが3.4倍

 CYP2C19
  CYP2C19は様々な薬物の約10%の代謝に関与している。
  肝臓、⼗⼆指腸で発現するが、そのほかの臓器にはほとんど発現しない。
  ・遺伝⼦多型
   ⽇本⼈には*1、*2、*3の3種類のアレルが確認されており、
   遺伝⼦型 (*2/*2、*2/*3、*3/*3)によるPMの頻度は約20%

 CYP1A2
  CYP1A2はCYP全体の13%を占め、様々な薬物の約9%の代謝に関与している。
  CYP1A2は主に肝臓に発現している。
  喫煙や発がん性物質(2,3,7,8-四塩化ダイオキシン)により誘導される。
  ・遺伝⼦多型
   CYP1A2には*1〜*21(*1は野⽣型)の変異アレルが存在する。
 ⚫️喫煙による薬物治療への影響
  ・喫煙習慣に伴うCYP1A2の発現誘導によって薬効が減弱する薬剤
   オランザピン、クロザピン、フルボキサミン など
  ・オランザピン
   統合失調症、双極性障害、躁病等に⽤いられる⾮定型抗精神病薬で、 約60%がCYP1A2により代謝される。
   喫煙者は⾮喫煙者に⽐較して、オランザピンのクリアランスが58〜92%増加した。
  ・クロザピン
   主に難治性の統合失調症患者に⽤いられる⾮定型抗精神病薬で、CYP1A2および CYP3A4により代謝される。
   クロザピン服⽤中の喫煙者が禁煙することで、クロザピンの⾎中濃度が上昇し、
   幻聴、幻覚、意識消失、てんかん等の副作⽤を発現した。

⚫️酵素活性阻害の形式
可逆的阻害
 薬物代謝型の CYP は基質特異性が低いため、併⽤された薬物が同じCYP分⼦で代謝される場合、
 代謝反応の競合が起こりそれぞれの反応速度が低下する。
 阻害薬が⾎中に存在している時に起こり、阻害薬の⾎中濃度が低下すれば消失する。

不可逆的阻害
 不安定な代謝物(反応性中間体)が薬物代謝酵素の活性中⼼近傍に不可逆的に共有結合することで酵素を失活させる。
 阻害薬が⾎中から消失した後も阻害効果が持続する。

 

⚫️第II相反応に関わる代謝酵素
第II相反応に関わる代謝酵素
 UDP-グルクロン酸転移酵素、硫酸転移酵素、グルタチオン S-転移酵素、
 N-アセチル転移酵素、グリシン抱合酵素、メチル化酵素、グルコース転移酵素など
・UDP-グルクロン酸転移酵素(UGT )
 UGT1A1は主に肝臓に発現し、様々な薬物やビリルビンなどのグルクロン酸抱合を になっている
・代表的な基質
 イリノテカン
・UGT1A1の遺伝⼦多型
 *1 〜*113 (*1は野⽣型)が存在する。
 UGT1A1発現量が低下する*6 、*28が重要

 

⚫️排泄
 多くの向精神薬は、未変化体が肝臓で代謝され、⽔溶性を増した代謝物として腎臓から尿中に排泄される。
 腎臓から尿中への排泄は、⽷球体ろ過を経て⾏われ、⽷球体ろ過量、尿細管分 泌能、尿細管再吸収能により規定される。
 ・⾼齢者の場合 65歳以上の⾼齢者では、⽷球体ろ過量や尿細管への分泌能が20〜30歳代と⽐較 して30%ほど低下する。
  腎排泄性の⾼い、リチウム、ミルナシプラン、スルピリドなどの向精神薬を⾼齢者や腎機能低下のある患者に投与する際には、
  排泄が遅延するため注意が 必要である。

 

まとめ

・投与された薬物は消化管から吸収され、体内に分布し、肝臓で代謝され、腎臓 から排泄されることで体内から消失する。
・⾎液や組織中の薬物濃度は、吸収、分布、代謝、排泄の過程に伴い変化する。
・併⽤薬物との薬物相互作⽤により作⽤の増強や減弱がみられる。
 ※薬物動態学的な相互作⽤に加え、薬⼒学的な相互作⽤もある。
・向精神薬の適正使⽤においては、依存や乱⽤にも注意が必要である

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